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夏休み
謁見
しおりを挟む☆★カイト★☆
あの後、結局俺はチユキさんと一緒に行く事に決めた。
とは言っても横に並ばず、少し斜め後ろに下がって付いて行っている状態だけれども。
先行を歩んでいるガーランドさんが顔だけ振り向いた。
「カイト、王の間に着いたら俺の後ろに控えていくれ」
「・・・あっ・・・は、はひ、分かりました!」
さっきのクリアな状態から元に戻っていて、これから王と会うという緊張で舌が回ってなかった。
今こそあの状態になっていたいのに・・・。
危険地帯に飛び込むというのと板挟みになって、胃が痛くなってきた気がして腹をさする。
「大丈夫よ、カイト君。王様だからって気にせずに自然体にしていればいいのよ。むしろ頭なんて下げなくてもいいわ」
「いや、そこは下げてほしいのだが・・・」
ガーランドさんはやれやれと苦笑いする。
しかし次には神妙な顔に戻る。
「さぁ、着いたぞ」
「わぁ、ホンット無駄に豪華♪」
その通りあらゆる宝石などが埋め込まれた装飾の仰々しい扉だったので、チユキさんの皮肉には乾いた笑いで返すしかなかった。
ガーランドさんは溜息を吐きながらその扉をゆっくりと開ける。
その先にはまた煌びやかに彩られた大部屋があり、正面には厳格な顔付きをした男が王座に座り、横の壁側には臣下であろう人たちが数人立っていた。
ただ、この人たちが纏う雰囲気は決して歓迎のソレではなかった。
場の空気に飲まれそうになり生唾を飲むと、通り過ぎた後ろの扉が音を立てて閉まる。
「ーーッ!?」
予想外の大きな音に心臓が口から飛び出そうな感覚に襲われた。
なんで付いて来ちゃったんだろ、俺・・・。
心臓のドクンドクンという耳障りな音が嫌でも聞こえ、王の睨むような眼光を受けながらそんな事を思う。
正面の王が含みのある笑みを浮かべ立ち上がる。
「よく来たな、他国の勇者よ。今日は我らが騎士、ガーランドの命を救ってくれた礼をしよう。他の者を救えなかったのは少々口惜しいがな・・・まぁ、そこは唯一優秀だったガーランドを選んだ事でよしとしてやる」
ああ、手紙以上に上から目線の言い方だ・・・。
ーーピシッ!
王の言葉に呆れていると、近くから何かの割れる音が聞こえた。
近くというか、足元というか、チユキさんから。
チユキさんが周囲に白い冷気を纏い、目が据わっていた。
・・・めっちゃ寒い!
アレ、チユキさん怒っちゃってるんじゃないか?
あまりの寒さに体中がガタガタ震え始める。
横にいるガーランドさんも見ると、俺程じゃなくても僅かに震えていた。
そしてそれは周りの宰相たちも同じようだった。
(む?急に肌寒く・・・)
(何故この季節にこの寒さが・・・風邪か?)
(なんだ・・・皆が皆震えている?それにこれは寒さというより悪寒に近い・・・)
「では本題に入るとしよう」
しかし王だけは気にしている様子はなかった。
変わらず貫くような鋭い眼光で俺たちを・・・いや、師匠の姿をしたチユキさんを見据えていた。
「お前に褒美を授けよう。そこから五歩こちらに寄るが良い」
まるでチユキさんの五歩進んだ先に何かあるような分かり易い物言い。
チユキさんも分かっているのか、その場から動かない。
「・・・どうした?前に出よ」
「前に出て・・・何がある?」
怒りで冷気を漏らしながらも、未だ冷静に師匠らしく振る舞おうとしていた。
「・・・何が、とは?先に言った通り「ただの礼」だ」
「この召喚陣の上でか?」
「「ッ!?」」
「・・・貴様・・・見えているのか?」
「当たり前だ・・・こんなバレバレな小細工じゃあな」
そう言ってチユキさんが足元の絨毯を雑に蹴り上げると、その下から紋様が浮かび上がる。
アレが勇者を召喚する陣・・・。
「フンッ、なるほど・・・どうやら内通者がいるようだな」
責めるような冷めた目でガーランドさんを見る王。
最初から歓迎などしてるつもりはないだろうけど、更に露骨な態度を取っていた。
そんな人相手にチユキさんは挑発じみた返しをする。
「内通者以前の問題なんだよ。言っただろ、バレバレだって。本当に騙す気があるのか?」
「・・・チッ、冒険者風情が・・・勇者だからと図に乗るなよ。所詮貴様は一人の人間だという事を忘れるな」
「図に乗ってるのはどっち?王が神様気取り?たった一国を収めた程度の人間風情が」
マズい。段々とヒートアップして話し方が素に戻ってってる・・・このままじゃ本当にこの城自体が凍らせかねない!
だけどもこの状況を打開する案など浮かぶ筈もなく、それどころかただひたすら体を激しく震わせているだけだった。
そう、城よりも先に俺が凍死しそうなのである。
ガチガチと歯を鳴らし震える肩を摩擦で寒さを紛らわせようとする。
「この冷気・・・まさか貴様か?」
「だとしたら?」
「・・・先程から目に余る発言が多いようだが・・・まさかラライナは我らと敵対関係を望むのか?」
その瞬間、冷気だけの寒気ではないものを感じる。
笑っている筈の王から重苦しい程の威圧か発せられる。
その眼光に睨まれただけで息が止まってしまいそうな。
でも大丈夫、これくらいなら師匠で慣れているから、少し息苦しい程度で済んでいる。
そしてだからこそ分かる。この人は・・・物凄く強い。
王でありながら他者を圧倒する存在感。ただ率いる強さだけではなく、個人としても強者であろう人物。
そんな人が殺意に近い敵意を俺たちに向けてくる。
「いいえ、「ラライナが」ではないわ。「私たちが」相手をしてあげるのよ」
完全に素の話し方に戻ったチユキさん。
ソレを聞いた王は訝しげな表情をする。
「貴様・・・誰だ?」
「ん?あー・・・バレちゃったか♪さぁ、誰だと思う?」
チユキさんの体から霧のようなものが霧散し、元の少女の体に戻ると先程とは違う服を着ていた。
白く純白なドレス。それはまるで女性が結婚式に着て行く花嫁衣装のような格好だった。
その姿に周囲がざわつき始める。
「幼い・・・少女、だと!?」
「バカな・・・まさかアレが冒険者アヤトの正体だとでも言うのか!?」
「待て、その前に・・・今のはなんだ?魔術か?スキルか?そんなもの見た事もないぞ!?ある程度別人に見せるスキルならあるが、もし今のが他人の姿を完璧に真似たものだとしたら・・・!」
どんどんと動揺が広がる中、チユキさんは俺の方をクルリと向いて微笑む。
「クフフ、どう?この服。「もし正体がバレた時のために」って言ってアヤト君が買ってくれたのよ。似合ってるかしら?」
「え?あ・・・す、凄く綺麗だと・・・思います」
「やった!クフフ♪」
チユキさんは踊るようにクルクルと回り、その美しさに魅了され見惚れる。
俺だけではない。横にいるガーランドさんや向こうで騒いでいた臣下たちもその姿に見惚れ、静かになっていた。
ただ一人、王を除いて。
「黙れ」
低く重い一声が全体に響き、焦っていた臣下たちも全員黙り込み部屋が静まり返る。
まるで命令されたかのように重くのし掛かるその声は、ピリピリと肌で感じ取れる程だった。
「クフフ・・・いいわねぇ、その「スキル」。格下の相手を威圧して体の自由を奪う力・・・貴方にぴったりね?」
「・・・これは驚いた。ガーランドのような反応はいくらかいたが、それほど涼しい顔で流されたのは初めてだ」
「ガーランドのような」という言葉を聞いて本人を見ると、冷や汗を掻いていた。
ちなみに俺は冷や汗どころか手と膝を突いて地面に伏してる状態だ。顔を上げる事すら難しい。
それをチユキさんは平然とした様子で・・・いや、少し眉は寄ってるが・・・とにかく、その威圧を気にしていなかった。
「それはそうよ。ソレをアヤト君が使うならまだしも、貴方が使ったところでそよ風を起こしてる程度だもの。ああでもこの服が傷まないかしら?」
「その言葉から察するに、やはり貴様とは別にアヤトという人物は存在するのだな」
「勿論♪そしてそれは貴方が予想しているよりも手に負えない人よ、彼は」
「ほう・・・ならばそれだけ魔力量が多いと期待して良さそうだな」
「はぁ・・・理解する知能の無い自分勝手な人間程呆れるものもないわね・・・」
溜息混じりにそう言って一歩踏み出すと、王は凶悪な笑みをその顔に浮かべた。
「そこは既に範囲内だ」
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