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夏休み

影武者

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 「・・・なんか迎えが来てるみたいだけど、いいのか?」


 居間でメアが俺におんぶされながら申し訳なさそうにそう言った。
 おんぶと言っても俺の首に手を回してぶら下がってるだけだが。普通の人間ならかなり苦しい状態だ。
 俺が風邪を引いた日以来からだった、メアが甘えん坊になったのは。
 あの時何があったのかは分からないし聞かないからと言って誰も自発的に教えようとしてくれないのだが、片時も俺から離れなれようとしなくなってしまっていた。
 側から見れば恋人がイチャついて見えるだろう。しかし俺からしたらそうではなく、どちらかと言えば寂しさで親を求める赤ん坊のように思える。
 俺が魔城から帰って来た時のメアの反応がまさにそれだった。
 とはいえ、修行の時はちゃんとしているし、問題がないと言えばないから特に言う事もないんだけれども。


 「こんな俺を離そうともしない状態で何言ってんだ・・・まぁ、あっちはを送ったから大丈夫だとは思うけど・・・」


 ・・・あれ、大丈夫か?
 「アイツ」くらいしか適任がいなかったから妥協しちゃったけど、結構な人選ミスなんじゃ・・・。
 ・・・ま、いっか!

 なんだか考えるのが面倒になり、何か起きたらその時はその時で対処すればいいかと思い、考えを放棄した。


 ーーーー


 ☆★チユキ★☆


 「~~~~♪」

 「・・・・・・」


 人間が操る馬車にカイト君と一緒に乗り、鼻歌を歌い足をプラプラとさせながら揺られる。
 姿
 そんな私の姿をカイト君は訝しげな眼差しで見ていた。


 「どうしたの、カイト君?」


 私の呼び掛けにブルリと体を震わせた。


 「あの・・・チユキさん、なんですよね?」

 「そうよ。「変装スキル」を使ってアヤト君になってるの。どう?ちゃんと成り切れてるかしら?」

 「今は完全にアウトです」


 バッサリと切られてしまった。


 「なんと言えばいいか・・・パッと出た感想はおぞましい、ですかね」

 「おぞましい?私が?」


 今までいくらでも言われた事のある言葉。でもその言葉をカイト君の口から聞くと胸の辺りにズキリと鋭い痛みが走る。


 「・・・?」


 胸に手を当てて首を傾げる。
 私たち悪魔は他の生き物のように病気などになる事はない。アヤト君のように稀に魔力の暴走が起きる事はあるけども。
 すると私の様子を見て落ち込んだと勘違いしたのか、カイト君が慌てふためいていた。


 「あああいえ、そうではなくてですね!?チユキさんがではなく、師匠のその姿で鼻歌を歌ったり、女言葉で喋ってたり、ニコニコしながら子供みたいな振る舞いをされると凄く違和感があってですね・・・?」

 「・・・プッ」


 必死に言葉を訂正しようとするカイト君の姿に思わず吹き出してしまった。

 私への言葉としては間違ってないのに、カイト君は違うと言ってくれるなんて・・・。


 「な、なんで笑うんですか?」

 「クククク・・・さぁ、なんででしょうね?心当たりはないの?」


 笑いが止まらないまま聞き返す。


 「・・・あるとしたら今の俺の姿がとても滑稽だったとしか・・・」

 「プハッ!!」


 更に強く吹き出した。


 「アハハハハハ、本当に面白いわね!」

 「ちょっ、そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!?」

 「ここまで無自覚なんて・・・放っておいたらそのうち師匠に似た女ったらしになっちゃうんじゃない?」

 「え?え?女ったらし?なんで急にそんな話に・・・」

 「急じゃないわ、貴方が理解してないだけよ♪」


 変装スキルを解いてアヤト君の姿から元の自分に戻り、カイト君の横に座る。


 「ねえ、私の事どう思う?」


 突然の質問にカイト君は「え?」と驚く。


 「あの、それは・・・」

 「さっきカイト君はおぞましいって言った後、それは私の事じゃないって慌ててたけど、本当にそう思う?アヤト君とは互角・・・とは言えないけど手こずらせる程度はできるし、貴方の事だって一回殺してしまってるのよ?そんな相手をおぞましくないって本当に思ってる?」


 私の言葉にカイト君はしばらく俯いて沈黙、そして笑みを浮かべ、しっかりと見て口を開いた。


 「無いと言えば嘘になりますけど・・・でも今はチユキさんを怖いと感じないです」

 「そう?そう言ってくれると嬉しいわ♪」


 ーーちゅっ。

 不意打ちにカイト君の頬にキスをすると「なっ!?」と驚かれ後ずさられる。


 「なんですか!?」

 「嬉しかったからしただけよ?こういう愛情表現は小まめにしないと心が離れて行っちゃうって書いてあったし」

 「どこの本ですかソレ・・・」

 「えっと確か・・・「旦那に浮気されないための女の心得」だったかしら?」

 「なんだか恋愛とかをすっ飛ばして、ドロドロした内容になってそうなタイトルですね・・・」

 「ちなみに人間の雌が発情するピークは三十だそうよ?」

 「・・・特に知りたくもない情報をありがとうございます・・・」


 そう言ってカイト君は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。

 こういうところも可愛いな♪

 そんなカイト君に我慢できず、スリスリと頬擦りをしてしまう。
 最初は嫌がっていたカイト君も、今では赤くするだけで抵抗しなくなっていた。


 「じゃあもう一つ質問。私の事好きになってくれた?」

 「いえ、それとこれとは別問題です」


 真顔で言われちゃった。
 うーん、怖がられなくなったのはいいけど、心は開いてくれないか・・・。
 いっそ既成事実を作っちゃおっかな?・・・って、そういえば私たち悪魔って普通のやり方じゃ子供できないんだった。
 ・・・行為だけでもしてしまえばゴリ押しでイケるかしら?

 カイト君を落とす考えを模索していると馬車が止まり、扉がノックされる。
 スキルで即座にアヤト君の姿に戻り、その相手を出迎える。
 この馬車を操作していた老人のシスカスだった。


 「アヤト様、カイト様、失礼致します。そろそろ休憩としますがーー」


 そのシスカスの視線が私とカイト君の間に行く。
 視線の先にはカイト君の手に私が手を添えたままになっていた。


 「取り込み中でしたか、失礼致しました・・・。人の趣味はそれぞれ、私は気にしませんのでごゆるりと・・・お食事の用意が整いましたら声をお掛け致しますので」


 ニッコリとした笑顔で頭を深く下げて扉がゆっくりと閉められる。

 あ・・・男の子同士でって誤解されちゃったかな?ある意味誤解じゃないんだけど。


 「あーあ、コレ後で師匠にバレたら怒られるやつだ」


 そう言ってガクリと肩を落として項垂れる。


 「そうねぇ・・・じゃ、一緒に拳骨受けちゃおっか!」

 「やだなぁー・・・」


 あからさまに嫌そうな顔をして大きく溜息を吐くカイト君。

 そんな雑談をしてるうちに食事の用意ができたと声が掛かる。
 簡単なスープとパンを出される。本当なら私にも空間の収納庫があるからその中から食材とか料理器具を取り出す事もできるけど、アヤト君からは「余計な事はなるべくするな」って言われちゃってるし、大人しくそれだけを食べる事にした。
 その間カイト君は気不味そうにしてたけど、私は勿論、老人もさっき言ってた通り気にしてなかった。
 食事を済ませると再び馬車を走らせると言われた。
 アヤト君の言った通り、何か急がせているようにも見えた。
 やっぱりあの手紙の差出人はガーランドって人じゃなく、もっと偉い人からで、この人はその偉い人に急かされてるんだろうなと推察する。

 一緒にいたくてカイト君を連れて来ちゃったけど、もし罠だったらどうしよう・・・?
 ・・・いえ、どうもしないわね。何があっても私がこの子を守ってあげなきゃ。

 そんな事を考えながら、一日中馬車に揺られ続け疲れて眠ってしまったカイト君を、自分の膝の上にコテンと転がし頭を撫でる。


 「・・・おやすみ♪」
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