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夏休み
自覚と否定
しおりを挟む☆★メア★☆
見た事のある光景がそこにあった。
椅子と机、着慣れた制服、見慣れた学生たち・・・。
・・・なんで俺はこんなとこに・・・。
思い出そうとしても頭に霧が掛かったようで、何も思い出せなかった。
「どうしたの、メア?」
いつの間にか目の前には、後ろ向きに座っている長い黒髪をした少女がいて、ソイツに呼ばれた。
「ああいや、なんでもない。なんかボーッとしちまってよ」
「もー、ほんっとメアったら朝に弱いんだからー!」
そう言って気さくな笑顔で話し掛けられ、慣れない笑顔を返す。
誰だっけ、コイツは?
・・・ああ、そうだ。この学年に入ってすぐに話し掛けて来てくれた奴だった。
思い出そうとする前に、そういうイメージが頭に浮かんだ。
「そんな事よりさぁー、この後体育じゃん?あの冷血先生だよー・・・」
少女は俺の使うスペースを満遍なく使って俯き倒れ項垂れる。
誰だっけ、冷血先生って・・・?
っていうか、体育の先生って誰だっけ・・・。
何かがおかしい。
普通ならすぐに思い出せるような事でも思い出せない。
・・・そういえばアイツらはどこにいるんだ?
「なぁ、アイツらの姿が見えねえんだけど?」
「え?アイツらって?」
「ほら、よくここでバカみたいに喋ってさ・・・」
「えー、何言ってるの?メアがここで話す相手って私くらいじゃない。独りぼっちだった孤独の少女に手を差し伸べた唯一の友人とは私の事なのだよ!」
ムフー!と自信満々に言われる。
そういえばそうだった。
この学園に入ってずっと一人だった俺に話し掛けてくれた奴はコイツだけだったんだった。
再びあらかじめ用意された記憶を出されたかのように頭に浮かぶ。
そこには何の疑問も浮かばない。
すると教室にチャイムが鳴り響いた。
「あ、もうすぐ休み時間終わっちゃうじゃん!早く着替えに行こっ!!」
少女に手を引かれ、流されるままに付いて行った。
ーーーー
「ふーむ・・・栄養不足だね!」
運動場に着くなり少女から胸をガン見され、そう宣告された。
「うっせ!これからだこれから!お前だって俺とそんな変わんねえだろ!」
「ふっふーん、残念!私は既に君を超えているのだよ!さぁ、絶望し羨望せよっ!!」
少女は自分の胸を鷲掴む。
確かに俺よりも・・・いや、そうじゃなくて!!
「おまっ・・・人目があるとこで何してんだよ!?」
「何言ってるのさ、私たち貧民はこうやってアピールするしかないんだよ!」
「まぁ、持つ者と持たざる者の差だね・・・」と言ってどこか遠くを見ながら呟く。
その通りかもしれないが、胸の小さい人たちを貧民というのはやめてほしい。
「ちなみに私のは去年より成長したからね。まだまだこれからも成長の余地があるという事だよ!」
「分かった、分かったからもう揉むな!」
「ほら見てよ、あの男子たちの視線。全て私の胸に釘付けだよ!やはり男というものはエロいものには反応してしまう愚かな生き物よ・・・」
「いや、もう男も女も関係なくこっち見てるんだけど・・・単に変な注目集めちゃってるだけじゃんか」
呆れながらこっちを見る生徒たちに目を向ける。
するとその視線に違和感を覚えた。
全員が全員ただこっちを見てるだけで、喜怒哀楽の感情を表情から読み取れなかったからだ。
なんだアイツら・・・まるで人形じゃねえか。
するとゾッと背筋が凍る。
人々の顔に変化があったからだ。
全員が笑っていた。しかしそれは口だけが釣り上げられただけで、目は笑っていないままだった。
不気味の一言に尽きるその光景に思わず後ずさる。
「なんだよ・・・なんなんだよコレ!?夢、なのか?」
「ーーーーッ」
全員の口が開き、何かを呟き始める。
「あぁ?なんだってーー」
「化け物」
聞き返そうとした俺の言葉を遮り、はっきりとそう聞こえた。
化け物?・・・もしかしてそれって俺の事か?
突然の言葉に戸惑っていると、他の言葉も聞こえてくる。
「人殺しだ」
「快楽のために人を」
「狂ってる」
「怖い」
「助けて」
生徒たちじゃない声、幼い子供や老人の悲鳴や怨嗟が耳に届く。
「メア?」
先程まで聞いていた少女の声。
ホッとするようなその声のした方へ向くと、俺は小さな悲鳴を上げてしまった。
「痛い・・・よ、メア?なんでこんな、事・・・」
今までとは打って変わって今にも消えそうなか細い声を出す血塗れの少女がいた。
体の至る所に切り傷があり、腹には見た事のある刀とソレを持つ俺の手があった。
俺が・・・刺した・・・?
あまりの出来事に状況が飲み込めず混乱し、体が不安定になる。
「あ・・・あぁ・・・」
「どうしたんだい?そんな今にも消えてしまいそうな声で鳴いて」
後ろから男の声がし、その声に鳥肌が立つ。
「あぁ・・・冷血センセー・・・」
少女が俺の後ろを見てにっこりと笑う。
この声には聞き覚えがある。凄まじい嫌悪感を覚える声が。
唾を飲み込んで後ろを振り向くと、予想通りの男がそこに立っていた。
「グラン、デウス・・・!?」
「大正解だ。覚えていてくれて嬉しいよ、お嬢様」
サメのようなギザギザの歯を見せる笑い方。
鋭い眼光を放つ目に魔族の青い肌。
最期は人の形を捨て哀れにも消えていった男が、友人に再開したような気安さでそこに立っていた。
「なんで、てめえが!?」
沸騰するような熱さを覚えながら手に握っていた刀をグランデウスに向ける。
その刀には先程まで貫いていた少女の痕跡は残っていないが、そんな事はどうでもよかった。
「なんで、か・・・なんでだろうな?」
挑発するような言葉といやらしい笑みを浮かべる。
この顔を見る度に胸の内側からドス黒い何かが沸き上がってくる。
「・・・やっぱり夢だな。あんな女俺は知らねえし、この刀はアヤトに没収されたまま。それにお前は暴走した挙句ランカの魔術に負けたんだ。今更しゃしゃり出てくんなよ」
「そんなに邪険にするなよ、「魔人殿」」
その言葉に刀を握る手に力が入る。
「んだよ、魔人って・・・!」
「気付いてないのか?人でありながら「魔」に属する者。・・・ほーらぁ、今の自分の姿を見てみろよ・・・」
グランデウスの横に人一人が映し出せる大きさの鏡が出された。
その中に映っていたのは俺に似た何か。
淡く光る髪に魔族のように黄色い目、黒い邪気のようなものを見に纏い妖しく笑う俺。
「俺が・・・魔人・・・?」
「だから言っただろう?お前には魔王の素質があると・・・まぁ、少し当ては外れたが、間違ってはいまい?そのまま成長させればいずれ魔王の器となる。俺がいなくなった今、そっちの方が楽しみだ・・・」
「黙れよ・・・!俺は魔王にはならねえ。それに今の魔王はアヤトなんだ・・・アイツが俺を魔王になんかにさせねえさ!」
「さぁ、どうなるかな?お前自身はともかく、お前の中のそれが更に力を欲しようとしているんじゃないか?」
「・・・ハ・・・ハハ・・・」
笑い声が聞こえる。
最初は小さな、それが徐々に大きくなっていき、辺りに響き渡る声となる。
それが誰の声かすぐに分かった。
俺だ。
「アッハハハハハハハハハ!」
「そうだ、自覚しろ!お前の中には化け物がいる、俺と同じ借り物の化け物がっ!!それを理解し、自覚し、解放しろッ!そうすれば楽になり楽しくなるぞ?」
黙れッ!!
笑いが止まらないままグランデウスの心臓に刀を突き立てて刺した。
口は笑っていても逆の感情が湧き上がってくる。
ズブリと肉に差し込む感触が手に伝わってきた。
魔物を斬るのとは違う、人を斬った感触。
そしてもっと肉を斬りたいという感情に支配されそうになる。
違う、俺はっ・・・!
そう思っても体は刀を刺したまま動かず、俯く事しかできずにぐりぐりと抉る。
ふと足元を見ると、グランデウスであった筈の服装が見慣れたものに変わっている。
そんな・・・やめろ・・・。
嫌な考えが頭を過る。
それでも違うと思い続け頭を上げると、そこには傷だらけのアヤトの姿があり、胸の中心にはグランデウスのように俺が握った刀が刺さっていた。
「メ、ア・・・それでいい・・・弟子はいずれ、師を越える。それは弟子が死を与える事で証明される、から・・・」
「いや、だ・・・こんな・・・」
「俺はチユキやグランデウスのように、再生する事は・・・ない・・・だからーー」
いやだ・・・その先を聞きたくない・・・!!
アヤトが口をパクパクと開き声が聞こえる前に、俺の意識はそこで途切れた。
ーーーー
「アヤッ・・・!?ぬぐっ!?」
反射的にアヤトの名前を呼びながら勢い良く飛び起きた。
前に魔城で起きた時と同じズキズキとした頭痛に再び苛まれながら、辺りの様子を見回す。
アヤトの部屋に寝ていたようだ。しかも俺を含めて色んな奴が占領するようにベッドの上で寝ている。
・・・いや、これは倒れてる・・・に近いのか?みんな顔色悪いな。
「なんでこんなとこに・・・ッ!アヤ、トは・・・アヤトはどこだ・・・!?」
さっきの夢のせいか、当の本人であるアヤトがいない事に妙に焦ってしまう。
頭痛を抱えたままフラフラとした足取りで部屋を出る。
いつもの廊下が長く感じる。
その気怠さで体が更に重く感じる。
それでもアヤトを探すために足を動かす。
(うぅ・・・嫌だ・・・いなくならないでくれぇ・・・)
目頭が熱くなり、何かが頬を伝う。
早くアヤトに会ってこの心をなんとかしたい。
回復魔術じゃなくて、アヤトの胸に抱き付いて安心したい。
ただその一心で頭がいっぱいになる。
するとその気持ちが通じたのか、玄関近くに差し掛かった頃に空間に亀裂が作られ、そこから疲れた顔をしたアヤトが現れた。
その顔を見た瞬間胸が熱くなり、嗚咽しつつアヤトの名前を呼びながら、少し軽くなった体で駆け寄り飛び込んだ。
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