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夏休み
着せ替え
しおりを挟む☆★シャード★☆
さて、追い出されるような形で女性たちと隣街に買い物に来たわけだが。
「セレスセレス!コレ可愛くない!?」
「あらあら、お人形さんみたいで可愛いわよぉ」
「ミーナもヒラヒラの着ればいいんじゃね?コレとか」
「むぅ・・・跳んだら下から見えそう・・・」
「跳ばなければ、いいんじゃない、かな・・・?」
「へぇ、この服白くて綺麗ね」
「告。どれも素敵なデザインではありますが、少々小さく着れるのが少ないです」
服を専門で取り扱っている店の前でキャッキャとまるで子供のように姦しくはしゃぐ者たち。
メア君、ミーナ君、レナ君、ラピィ君、セレス君、チユキ君、ヘレナ君、イリーナ君、そして私の九名。
その中で二人、私とイリーナ君が引率の先生のように見守っている。
・・・とその時、メア君とラピィ君が手を引いていた。
「ほらほら、シャード先生たちも早く!そんな格好じゃ目立っちゃうんだから!」
そう言って更にグイグイと引っ張る。
確かに、私は白衣、イリーナ君はメイド服の目立つ格好のままやって来ていたんだ。
理由は二つ。
・楽
・他に服がない
それにだからというわけでもないが、他の服は必要ないと思っている。
アヤト君からも「女らしくしてくればいい」などとも言われても、そんなもの今更ーー
そんな考えをしている内にイリーナ君共々、無理矢理店の中へと引きずり込まれていった。
「二人共素材は良いんだから、可愛い服着ないと!」
ラピィが店内を駆け回り、服をいくつか見繕う。
メアとセレスも何やらこちらをチラチラ見ながら相談している。
ピンクのヒラヒラしたもの、白いワンピース、何かの模様が入った白いシャツに男物のズボンを合わせるなどなど。
まるで次から次へ、着せ替え人形のようだった。
イリーナ君も似たような感じで、しかし能面のような表情は変わらないまま着せ替えられていた。
あれこそ本当の人形のようだな・・・。
そうこうしている内に私たちの意思に関係なくコーディネートを決められてしまったようだった。
私は袖のない黒のワンピース。
イリーナ君は、上はフリルの付いた白、下は水色の短いスカートをしている。
「・・・最近の服装というのは派手なのが多いのだな」
ポツリと呟いた私の言葉に、イリーナ君が小さく頷く。
「ええ、まるで私たちの世界に売っている物に近いです」
「二人共似合ってるよ!」
「だな、雰囲気が一気に変わったぜ?」
「やっぱり白は最高よね~♪」
着ている私たちよりも喜ぶラピィ君たち。
それを見た私の頭にあったのはーー
もう、私は何も考えずこの子たちに身を任せるとしよう。
ーー清々しい程の諦めだった。
ーーーー
結果、それぞれが選んだ服を買い、私を含めた全員が服装を変えて外を歩いていた。
「おい、なんだアレ・・・」
「レベル高えー・・・」
「ママー、私もあのお洋服欲しー!」
「あの服って最近できたあのお店のよね?今度行ってみようかしら・・・」
注目の的だった。
先程も街に来た時も注目はそれなりに浴びていたが、奇異なものを見る目とは打って変わって好奇の視線に晒されている。
慣れない視線にむず痒さを感じる。
「なぁ、やはり白衣を返してくれないか?慣れない格好で歩き難いんだが・・・」
結局私は黒で統一したワンピースと大きな帽子を買い、着させられる事になった。まるでどこかの貴婦人のようだ・・・。
「ダーメ、今日はちゃんと女の子しなきゃ。アヤト君にも言われてるでしょ?クフフ・・・」
チユキ君は私とは逆の白いワンピース。
小さな体に細い腕、そこに白で統一された事で儚さを感じ、この子が悪魔だということを知らなければ心配してしまいそうになるくらいだ。
「ふむ・・・」
「イリーナちゃんもだよ?せっかくアヤト君からお金貰って買ったのに、着ないなんて勿体無いんだからね!」
ラピィ君は赤いTシャツに紺色の短いパンツを組み合わせたボーイッシュとなり、元気の良い彼女自身を表していた。
「かしこまりました」
「いや、そういう返事されると、命令して着させてるみたいで嫌なんたけど・・・」
「ウフフ、みんなよく似合ってるわぁ」
セレス君は東雲色をした袖の無いシャツに、緑の短いスカートをしている。
物腰の柔らかい実にセレス君らしい組み合わせだ。
「みんな、綺麗・・・」
「メアちゃんは、なんだか、男の子っぽいね?」
「動き易いからって理由でこっち選んだんだ。・・・って、これじゃシャード先生の事言えねえな」
「メアとラピだけズルい・・・コレ、ヒラヒラして嫌。・・・それに私だけ他と違う・・・気がする」
レナ君は淡い水色の服に白いスカート。
そしてメア君は黒いTシャツに紺のズボン、ミーナ君は人形に着せるような全体的にふんわりした桜色服だった。
名前は確か、なんと言ったか・・・まぁ、いいか。
メア君が男性らしくなった事に関しては何も触れないでおこう。
「でも珍しいデザインだけど本当に動き易い服だよね」
「私たちの観点から言わせていただければ、これらは元々戦闘をしない事を前提に作られています。ラピィ様のように動き回るスタイルであれば問題は少ないですが、防御面に関してはほぼ皆無となっております」
「あー、確かに。木の枝とかに引っ掛けただけで破けそうだよな、コレ」
「・・・ですが素材は向こうの物とは違う物を使用しているようなので、汚れはともかくそうそう簡単に壊れる事はないかと」
「比較的壊れ易く、しかし見た目より丈夫、か」
「ま、戦い以外で着る普段着ってやつだね!」
「告。ヘレナに合うサイズが無いのが唯一の不服です。これでは再びアヤトの私服を貰うしかありません」
「ヘレナ君は全く残念がっているようには見えないのだが・・・実は服が見つからないのを良い事に便乗しようとしていないか?」
「解。何を言ってるかちょっと分かりませんね」
「・・・ふむ、そうだな、私は何も言ってない聞いてない。そういう事にしておこう」
たとえアヤト君の下着が無くなったとしても私は何も知らない。趣味は人それぞれという事だ。
そしてそんな華やかな格好をしていれば、光に集まる虫のように近付く輩も勿論いる。
強面の盗賊のような格好をした者たち数人が、下卑た笑みを浮かべて行く手を阻む。
「ヒヒッ、ちょっと待ちな。ここは通ーー」
だがそれは我らが可愛らしい悪魔の、一瞬だけ出した大鎌によって即座に無慈悲に薙ぎ払われる。
「カイト君に見せる前に汚したくないの。クフフ♪さ、もう変な人たちに絡まれたくないし、帰りましょう?」
そう言ってチユキがくるりと回って、屈託のない笑顔を浮かべていた。
きっとアヤト君が使っていたのと同じ空間転移の魔術を使う気だろう。
「告。それならヘレナの背に乗り、少し遠回りして帰りませんか?」
「え、おんぶ?」
ラピィ君は呑気な事を言っているが、恐らくアッチの姿での空の旅をする事だろうな・・・。
ーーーー
街からかなり離れた場所でヘレナ君が竜の姿になり、その背中に私たちを乗せ空へと飛ぶ。
その結果。
「「あ゛あ゛あ゛ァァァァッッッ!!??」」
「おおぉぉぉおぉおお・・・・・・!?」
メア君とラピィ君が背から生えている大きい棘のようなものに掴まって叫び、ミーナ君も大声までは出さなくとも青ざめた表情をしていた。
「風が気持ち良いわねぇー」
「あらあらぁ~」
セレス君とチユキ君は尚も余裕のようだった。
特にリアクションをしていない私たちも同じかもしれないが。
「この触り心地・・・まるでワニ革のようですね」
「そうだな」と適当な相槌を打って流し、私もタバコに火を点ける。
呑気なものだった。
神話級の竜の背に乗っているというのに、それが顔見知りだからか一切の恐怖を感じない。
飛んでいる速さもかなりのものだというのに、風は緩やかに頬を撫でるだけだ。魔術による特殊な防壁でも張っているのだろうか?
高所恐怖症でもなければ快適な空の旅と言えるだろう。
「・・・美味いな」
高い場所から景色を見下ろしながらタバコをふかし、そう呟いた。
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