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夏休み
師匠たちの
しおりを挟む☆★カイト★☆
「あー・・・」
呻きような声を出して起き上がる。
窓を見るとまだ日が上がってない。
どうやら朝早く起き過ぎたようだった。
もうこうなると中々寝れないのは自分の事なので分かっている。
どうしようかと悩み、一つの結論に至る。
「顔・・・洗うか・・・」
ーーーー
洗面所で軽くササっと洗い、フゥと息を吐きスッキリした頭で考える。
さて、どうしようか。
頭をスッキリさせてもやる事がないのは変わらない事実。
二度寝に挑戦するのも良いが、それだとなんだか時間を無駄にしてしまってる気分になる。
「困ったなぁ・・・師匠に黙って隣街まで行って少しだけ何か食べようかな?・・・いや、マズイよな」
そんな噂をしたせいか、洗面所を出たところの少し向こうに師匠が見えた。
一緒にいるのはメア先輩、イリーナさん、ノワールさん、黒い髭を蓄えた作務衣服の男の人と着物とかいう服を着た女の人、それにシト様まで。
これからどこかに行くのかな・・・?
少し気になり、こっそり付いて行く事にしたーーのだが。
「なんだ、カイトも起きてたのか」
一瞬でバレた。
まぁ、まず師匠にバレずにって言うのが無理な話か。
「なんだか目が冴えちゃいまして。師匠たちはこれからどこか行くんですか?」
「日課だ。いつもはイリーナと二人でやるんだが、今日はたまたまコイツらに見つかっちまったんだ」
師匠は自分の後ろにいるノワールさんたちを親指で差した。
「って事でカイトも付いて来るか?どうせ暇だろ」
「言い返せないのが悔しい・・・ですけど、見に行きます」
ーーーー
師匠たちがイリーナさんの杖を取りに行った後、いつもの魔空間に連れて来られた。
ただ、いつもと違うのは俺たち弟子の修行ではなく、師匠たちの鍛錬だと言う。
師匠とイリーナさん、二人は学園の模擬戦の時のように距離を少し空け、ピリピリとした空気が間に流れる。
しかしどちらかが声を掛ける事もなく、何もしない時間が流れていた。
「・・・・・・フッ」
瞬間、凄まじい殺気が膨れ上がり放たれれた。
イリーナさんの僅かな声と共に姿が消え、呼応するように師匠の姿も消えて砂埃だけが残る。
姿は見えないまま、そこら中から金属がぶつかり合う音がしたり、地面が大きく抉れる、木が同時に数本折れ吹き飛ぶなど、何が何だかという現象が起きていた。
「鍛錬なんですよね、これ?」
俺の呟きにシト様が頷いて答える。
「鍛錬だよ・・・命を賭けたと前に付け加えるけれどもね?」
何か物騒な事を言って呑気に微笑む神様。
メア先輩以外の人たちも驚いたりケラケラ笑ったりしてるだけだった。
「な、なんだ・・・これは・・・」
「クハハハハ、見事に見えん!女の方はたまにチラホラと見えるが、アヤトの姿が全く見えん!手合わせを願おうかとも思ったが、ここまで力量差を見せられてはやる気も失せるな!」
「クフフフフ、流石主人。その相手を私が勤める事ができないのが悔やまれますが・・・」
「・・・・・・」
唯一メア先輩だけが唖然としているようにも見えたが、その頬は紅潮してどこか艶めかしくも見えた。
いつもガサツだけど、こうやって女性らしい一面も最近はちょくちょく目にする。やはりこれが恋する乙女、というやつなのだろうか?
すると師匠たちの戦いに進展があった。
いや、進展というよりも終了なのかもしれない。
イリーナさんが地面に叩き付けられ血反吐を吐き、師匠がフィニッシュと言わんばかりに貫手にした手を突き付けていた。
イリーナさんのその姿は手足が折られ、動けなくされてるようにも見えた。
「また俺の勝ちだな」
「参り・・・ました・・・」
参りましたって・・・あんな状態になるまでやるの!?
って、そういえば師匠にはかなり凄い回復魔術があるんだった。
でも、だとしてもあそこまで痛め付けてしまえるのがなぁ・・・。
イリーナさんの降参の声が上がると、師匠は突き付けていた手をそのままかざして回復魔術を掛けた。
「ーーッ!!」
ボキボキと折れた骨が再び元に戻る生々しい音が鳴り、ゾッとして鳥肌が立つ。
しかし何事も無かったかのようにイリーナさんは軽く息を吐いて立ち上がり、深々と頭を下げた。
「お相手していただきありがとうございました」
「こちらこそ。やっぱ達人相手だと色々捗って助かる。こっちだと相手自体が少ないから鈍りそうでな」
「いえ、それを言うのであれば旦那様の回復魔術のおかげで毎日支障無くお相手させてもらえるのですから、これ以上の喜びはありません」
そう言って今度は軽く頭を下げるイリーナさんの表情は、少しだけ微笑んだように見えた。
「まぁ、鍛錬できるってのはお互いありがたい事だよな」
「はい」
セリフだけは良いのに、二人の歪んだ笑顔が全てを台無しにしていた。
ーーーー
「おかえりなさいませ、皆様の朝食の準備はできておりますわ!」
帰って来た瞬間、出て来る場所を知っていたのかココアさんが出迎えてくれてそう言った。
「ちなみに今日は何を作ったんだ?」
「トーストを焼いたものと、以前アヤト様が作ってくださったシチューというものを。アヤト様には及びませんが、出来が良く仕上がったと自負できますわ!」
「そっか、それは楽しみだ」
師匠がそう言ってニッと笑うと、ココアさんは顔を赤くしながら両手で口を隠してウフフと笑っていた。
「さ、皆様も!」
「人間の食い物は調理というもので美味くなるから不思議なものだ」
ふむと首を傾げる着物姿の女性に作務衣服の男とシト様がニヤニヤと笑っている。
「なんだかんだ言って、お前もこの生活を気に入り始めたのでないか?」
「・・・寝言は寝てから言え」
「おやおや~?今の間は何かな~?」
「う、うるさいっ!!」
ガヤガヤと騒ぎながら食事の用意されてる部屋に行く。
その騒がしさに気付いたのか、ミーナ先輩やレナ、チユキさんが起きて来た。
「・・・お祭り?」
「いいえ、お食事ですわ。フィーナさんはまだ眠っていらっしゃるのかしら?」
「皆さん、お早い、ですね・・・」
「おはよ、カイト君♪」
「あ、おはようございます・・・あれ、まだ髪縛ってないんですか?」
腕に絡み付いて来たチユキさんを見ると、前より露出の少ない服を着て、髪も解いてる状態だった。
「んー・・・縛ってないっていうよりやめたの。だってこうすればカイト君とお揃いじゃない?クフフッ!」
そう言って俺の髪を梳かすように触る。
確かに長髪というところではそうかもしれないけど・・・。
髪をイジられるくすぐったさを感じながら、朝食の並べられた部屋に行くと、すでにランカさんとペルディアさんが座って食べ始めていた。
「早いなお前・・・」
「丁度お腹が減って起きてしまいましたからね」
「私も似たようなものだ」
俺たちも同様に朝食の並ぶテーブルに着く。
いつもながらに美味しそうなに並べられてる。
するとラピィさんたちも続けて起きて来た。
「おっはー!おっ、今日も美味しそうですな!」
「おはようございますぅ。あらあら、本当に」
「ウーッス、今日も美人揃いでよりどりみどりだな!」
「おう、おはようお前ら。セレス以外ハイテンションだな」
「本当にもう子供なんですからぁ」
セレスさんがゆったりした口調でそう言いつつ、パンにバターを塗って口にする。
他の人たちもシチューに漬けたりと色んな食べ方をし始める。
そして俺も食べるためにジャムに手を伸ばしながら、さっきの事を思い出して話の種にする。
「そういえば師匠でも鍛錬とかするんですね?」
「お前、俺をなんだと思ってんだ?俺だって人間なんだから、自主的に鍛錬しなきゃ、その分のツケが回ってくるに決まってるだろ」
「え?・・・あ、はい、そうですね?」
「おい、今の「え?」はなんだ?地味に傷付いたぞ」
そう言ってる割には気にする様子もなくムシャムシャとパンとシチューを交互に食べる師匠。
「何心にも無い事言ってんのよ。それにあんたが鍛錬とかしないで弱くなるイメージなんて微塵も湧かないに決まってるじゃない・・・」
相変わらず師匠に悪態をつくような事を言いながらやって来たフィーナさん。
その顔はどこか赤く、目も虚ろに見えた。
「随分な言い草だ・・・って、お前変じゃないか?」
師匠も同じ事を思ったらしく、席に着こうとしたフィーナさんに声を掛けた。
「・・・何がよ?私は別に・・・何とも・・・」
しかし席に着く前にフラフラと後ろの壁に寄り掛かって尻もちをついてしまう。
「フィーナ?」
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