最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

それを言葉に

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 勢いが衰えることなく殴り合いをしていたカイトとジスタ。
 ジスタは今までスキルを継承してきた者たちの蓄積してきた身体能力を引き継ぎ、純粋な速さや力で圧倒するスタイル。
 カイトはシトによって植え付けられたアヤトの記憶を継承し、動きを模倣トレースしてステータスの低さをカバー。
 力任せに放つジスタの攻撃をカイトはアヤトの記憶にある技法で受け流し反撃を加え、それぞれ特化した戦い方で攻防を繰り広げていた。

 「フッ!」

 ジスタの素早い拳。それをカイトは腕を掴んで止め、伸びた肘に掌底を加えられミシリと嫌な音が鳴る。

 「っ……!?」
 「折れはしないだろうが、折れるような痛みだろ?」
 「趣味が……悪いなっ!」

 得意げになっていたカイトの太もも付近の場所へ蹴りを入れられる。

 「ぐっ!?」
 「お前の方こそ足が留守になっているではないか……そんな体たらくでは好きな女も奪われるぞっ!」

 蹴られた足は後方へ跳ね、無防備になったもう片方の足も払われ宙に浮く。
 前のめりになった顔面に膝蹴りが飛んでいくが、カイトは直前に手を前に出して防いだ。
 そしてカイトは受け止めた膝を足場代わりに利用し、ジスタに頭突きを食らわせた。

 「「イッ!?」」

 片やカイトは全身鎧を着た相手に頭突きをしたので当然ダメージが返ってくる。
 片やジスタは予想以上の威力に鎧の頭部を守るバイザー部分が大きく凹まされ、継続的な圧迫感に襲われていた。
 そのまま地面に落ちたカイトは額の痛みで転げ回り、ジスタは凹んだバイザーを脱ぎ捨てる。

 「やはり……お前と戦っていると退屈しないな……!」
 「っつう~……ゲーム感覚で言いやがって……俺は何も面白くないっつうの!」

 ふらつきながら立ち上がるカイト。しかし同等以上のダメージを受けていたジスタも足を震わせていた。

 「足が震えてるじゃないか、坊ちゃん……こりゃ、俺の勝ち確定かな?」
 「そう上手くはいかんよ!」

 ジスタは足元に落ちていた剣を拾い直し、カイトに斬りかかる。
 不意を突かれたカイトは籠手で防ごうとするも、受け止めるほどの力が残っていなかったために剣が肩に食い込む。

 「ぐっ……ああぁぁぁぁぁっ!!」

 傷は無くとも相当の痛みを感じて悲鳴をあげるカイト。しかし彼は苦痛で表情を歪ませながらも、ジスタを睨むような目を向ける。

 「お前こそ力が弱くなってるぞ……もう限界が近いんじゃないか?」
 「クソッ……がぁっ!」

 力を込めて押し返そうとするカイト。しかしジスタはその力を受け流し、体勢を崩した彼を斬った。

 「あ……がっ……」
 「カイト!」
 「カイト君っ!」

 カイトが斬られたダメージで膝を突く。その姿を見て心配したリナとミーナがカイトの名を呼ぶ。
 我慢の限界に達した二人が加勢しようとし、リナが矢を射りミーナが神衣を纏い攻撃を仕掛ける。
 だがリナの矢は簡単に弾かれ、ミーナも顔面に打撃と次に腹部へ蹴りを一撃食らいダウンしてしまう。

 「ミーナ……さん……」

 ミーナが倒れる姿を横目で眺めるしかできなかったカイトが呟く。

 「男同士の戦いに横槍は無粋だ。残念だがリナもこの辺りで退場してもらおうか……」

 そう言ってリナの方へゆっくり歩き出す。
 リナはジスタから向けられる威圧に恐怖し、表情を強張らせながら弓を射る。しかし矢は全て難無く弾かれ、ジスタが確実に近付いていく。
 距離を取ろうとリナが後退しようとする……が、ジスタが一瞬で距離を詰めてリナの首を絞めて持ち上げる。

 「うっ、ぐっ……!?カイト……君……!」
 「少しの辛抱だ、リナ。この試合が終わればお前を――」

 リナを締め落とそうとしていたジスタだったが、突然体が硬直してリナから手を離す。

 「な、に……?」

 ジスタが震える体を振り返らせると、そこには異様な雰囲気を纏ったカイトが立っていた。

 ――――

 ☆★☆★
 「カイト……君……」

 朦朧とする意識の中で名前を呼ばれた気がした。次第に黒い感情が腹の底から膨れ上がってくる。

 【「コピープログラム」の深層意識70%を開放します】

 許さない

 【「コピープログラム」の深層意識80%を開放します】

 大事なものを傷付けようとする奴は

 【「コピープログラム」ノ深層意識90%を開放しマす】

 奪おうとする奴は……

 【「コピープログラム」ノ深層意識100%ヲ開放シマス】

 ――殺す!――

 【...異物ノ混入ヲ確認シマシタ】

 膨れ上がる感情に任せて動き出す。
 全ての動きがゆっくりに見える。
 人の動きも、声も、宙に浮いた小石や砂埃ですらスローモーションだった。
 ただ、それを興味本位で眺めるよりも感情が優先され、リナの首を締め上げていたジスタに向かって一直線に走り出す。
 リナから手を離して俺を見るジスタの動きもゆっくりだったから、そのままジスタの首を掴んで壁側まで持っていき叩き付ける。

 「ぐっ……!?なんだ、この力……それ、に……その目は……?カハッ……!」

 ジスタの言葉も気にせずに首を絞める力を強める。
 すると奴の来ている鎧の一部が鏡のように反射し、今の俺の顔が映し出された。
 全ては見えなかったが髪が完全に黒くなり、目もヘレナさんと同じ竜のような瞳になっている。もう元の俺自身の姿など残ってない。
 でもやっぱりそんなことはどうでもよくて。

 「殺す……殺してやる……!」

 ただただ怒りだげが込み上げてきて、握り締めた右拳でジスタの顔面を殴ろうとする。
 それをジスタは避け、後ろの壁に拳が減り込んでしまった。
 隙ができたと思ったのかジスタが俺に蹴りを入れようとするが、首を掴んでいる手で即座に掌底して喉に衝撃を与える。

 「……っ!」
 「オオォォォォッ!!」

 一撃だけじゃ終わらせない。
 ジスタが宙に浮いている間に何撃もの打撃を打ち込む。
 打撃で浮かせ続け、止まない攻撃を与える。

 「……トく……」

 もう止まれない。こいつを殺すまで……

 「カイ……ん……」

 俺は……もう……

 「カイト君!もうやめて!」

 リナの声が聞こえてハッとする。
 攻撃する手を止めると、目の前でジスタが力無く地面に落ちる音が聞こえた。

 「……あ?」

 正気に戻ってようやく周りの状況が見えてきていた。
 目に涙を溜めて俺の体にしがみつくリナと静まり返る観客席。

 「……カハッ!」

 地面に倒れるジスタも吐血し、いつの間にか特別な結界も壊れていたことに気付く。

 【し……試合終了、勝負はコノハ学園チームの勝ち!それよりも早く救護班を!】

 その後、ブツンッ!とマイクが切れる音がして、白衣の人たちが現れてジスタを運んでいった。
 試合が終わったのだと頭で理解すると、次第に自分がしたことを思い出す。

 「お、俺は……」
 「カイト、君、戻った……?」

 リナの言う「戻った」という言葉に、俺は戸惑った。
 さっきまでの俺はリナの目から見たら正常じゃなかったのか?
 そういえば姿も変わってたし、俺に何が起きたんだ……

 「カイト君……行こう……?」

 混乱しているとホッと息を吐いたリナが少し離れて俺の手を引き、そう言ってくれる。
 ステージから降りる時の出入り口にはサイとリリス、ミーナさんが出迎えてくれていた。

 「お疲れ様。なんだか雰囲気が変わったね?」
 「雰囲気が、ではなく、実際に髪など所々が変わり過ぎではありませんか。ま、その姿の方が勇ましくて好みですが」

 ミーナさんが言ったことにリリスが妖しい笑みを浮かべ、舌なめずりをして答える。その獲物を狙うような視線に背筋がゾクリとした悪寒を覚えた。
 するとリナが大胆に俺と腕を組んでくっ付いてくる。

 「だ、ダメ、だよ……?」
 「あらあらあらぁ?アヤトさんたちとは別のお熱いものを感じますわ~♪」

 今度は悪戯っぽい笑みを浮かべたリリスが手を口に当てて「うふふ」と笑う。
 リリスたちがうちで修行するようになってから俺たちの想いはすぐにバレてしまっていて、それからちょくちょく彼女とメルトがからかってくるようになっていた。
 だけどそれは別に悪意があってからかってくるわけじゃなく、祝福してくれているかのようなむずがゆい暖かさを感じた。
 ……そういえば、ちゃんと言葉にしてなかったな。

 「リナ」
 「ん?」
 「好きだ」

 俺の一言に、その場にいる全員が硬直してしまう。
 リリスは笑顔のまま目を丸くし、ミーナさんは「わーお」と驚いた様子も無くおどけたように見せ、サイは感心したように「ほぉ……」と呟く。
 そして告白された本人は顔を真っ赤にして俺の顔を見上げていた。

 「え……え……?」
 「突然ごめん。でもこういうのはやっぱり口にした方がいいって、今回の試合を通して思ったんだ……」

 「好き」という気持ちが溢れて耐え切れなくなり、目の前にいるリナを抱き締めてしまう。
 もう、誰にも渡したくない……!

 「お前を俺のものにしたい!ジスタみたいな奴が次も現れても、「俺の女だから」って堂々と言いたい!だからリナ……俺と付き合ってくれ」

 傲慢とも言えるような告白の言葉。言い切ってから後悔しそうになったけど……でも飾った言葉を並べるより、こうやって後腐れなく言った方がスッキリするだろう。

 「……」

 リナも緊張しているのか沈黙している。
 さっきまで驚いていたリリスが両手を口に当てて乙女っぽい反応をしていた。普段もああならいいのに……
 ……にしても、リナが何の反応も無くて怖いんだけど。

 「リナ?」

 気になって抱き着くのをやめてリナの様子を見ると、顔を真っ赤にして笑ったまま固まっていた。
 隠れている前髪を上げてみる。

 「……気絶してる」

 俺が支えていたからわからなかったが、体も力が抜けてぐったりして気を失ってしまっている。
 もしかして今の恥ずかしい告白をもう一回しなくてはならないのだろうか?と心配になってしまった。
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