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武人祭

二人の決戦

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 テッカ学園との戦い後、二度ほど行った試合はそれほど苦戦することもなく、ついにジスタたちと対峙することとなった俺たち。

 【キタァァァァッ!いくつもの戦いを経て、ついに決勝戦がやってまいりましたぁぁぁぁっ!!】

 今まで以上にハイテンションな司会者に加え、観客席からは熱気すら感じてしまうだった。

 「うぅ……酔い、そう……お腹痛、い……」

 熱気に当てられたからか、リナが戦う前からゲッソリして参ってしまっている様子だった。
 そんなリナの姿を見たリリスが大きく溜息を零す。

 「全く、しっかりしなさいな……こういうところはお変わりのないようでホッするような呆れるような気がしますわね……」
 「つまりみんないつも通り?」

 ちょっとだけ笑いながら首を傾げて言うミーナさん。ああ、たしかに。

 「結局、多少の緊張があった方が、俺たちらしくやれるってことかね?」

 笑ってそう言うと、みんなからの視線が俺に集まっていた。その表情には驚きが見える気がするが……え、何?

 「なんだか……今の言い方、アヤトみたいだった」
 「それは私も思いましたわ。というか、最近のカイトさんの言動が彼に酷似してきた気が……」
 「師匠も『弟子は師に似る』と言っていましたが、カイトはその代表ですな」

 ミーナさんとリリス、サイがそう言ってクスクスと笑う。
 ……まぁ、なんとなく自覚があるから否定はしないんだけどね?でもそんなに似てるかなぁ……?

 「試合直前でも雑談とは、よほど余裕があるらしいな?」

 すると正面にいたジスタが声をかけてくる。
 周囲にいるレチロラさんたちは何も言わないが、俺を睨んできていた。たしかに今から戦う敵同士だけども、彼女たちは絶対それ以上の意味で抱いてるだろうな……もはや目の敵レベル。

 「あんたに言われたくありませんよ。さっきの試合を見ましたけど、ずいぶん余裕そうじゃなかったですか」

 そう言うと、ジスタが不敵に笑う。
 彼らが今まで行ってきた試合は俺たちと同じく完全勝利だった。
 しかも苦労や頑張りといったものすら感じさせないような戦いぶりを見せ付けた上に、さらにジスタだけは傍観しているだけ。手を抜いているのが一目でわかってしまう。

 「ははは、まぁな。これぐらい子供の児戯と思っている……お前たちとの戦い以外はな。試合を延期したとはいえ、よくもこれだけの実力を短期間で身に付けたものだ。もはやレチロラでは相手にならないかもしれないな」
 「お戯れを。このような礼儀も知らない者が私より力があるなど――」
 「負けないですよ」

 レチロラさんの言葉を遮って発した俺の言葉にジスタのチームの彼以外が睨んでくる。やっぱり少し怖いけど、気持ちで負けるわけにはいかない。

 「俺は負けません。負けてやることはできませんよ、あなたたちには」
 「貴、様……!」

 レチロラさんが歯軋りをし、ジスタ以外が武器に手をかける。敵意というか殺意すら感じる彼らの様子に、リナやリリスが気後れして後退りしてしまっていた。
 これ以上、彼女たちが後ろに下がらないように俺も先頭に立って剣を抜き先導する。

 【選手たちの間で早くも火花が散るっ!観客席からも早くしろとブーイングが起きています!……チッ、うるせーよ、ペッ!】

 あからさまに不機嫌に放たれ唾を吐いたであろうその言葉に、煽りの多かった会場が一気に静かになった。ストレス溜まってるのかな?

 【……おっと、これは失礼。個人的に丁度今同時に始まってるSSランクたちの試合が見れなくて少々思うところがありまして……まぁ、それは置いといて、こちらの決勝戦を始めましょう!】

 気を取り直した様子の司会者の声。
 しかしこっちはすでにだいぶやる気が削がれてしまっている。というか、恰好を付けた状態で固まってしまっているのでかなり恥ずかしい。

 【一名を除き中等部で編成されたにも関わらず、ここまで勝ち上がってきてしまうなど誰が予想できようか?コノハ学園チーム!】

 すでにステージ上に立っている俺たちの学園名が叫ばれると、観客席から今までにない歓声が湧き上がり会場が震える。

 【そして対するは、途中参加でありながら圧倒的実力差で打ち勝ち、参加者たちの反論を喉奥に押し込ませ頷かせた強者つわものたち!王下学園チーム!未だジスタチオのみが戦いに参加しておらず、実力が未知数だぁぁぁぁっ!】

 司会者の紹介にレチロラさんが当たり前だと言いたげに「ふんっ!」と鼻を鳴らす。

 【互いに圧勝を見せ付けてきた学園同士、激戦が予想されます!そしてさらに今回は――】

 司会者が言葉を一旦そこで区切ると、カラカラと俺たちとジスタたち、それぞれの近くに色々と乗せられたワゴンが運ばれてくる。
 その中には見慣れた武器や服が入れられていた。

 【――決勝ルールとして特別に、各々がいつも使い慣れたものを用意させていただきました!もちろん分厚い装甲も特殊な武器も解禁!思う存分に戦っていただいて構いません!むしろウェルカムッ!】

 テンションの高い言葉を聞き流しながら、ワゴンの中に丁寧に入れられていた籠手二つと剣二本を取り出して装備する。
 リナとミーナさんはもちろん、リリスやサイも師匠に鍛えられた業物の武具を身に着けた。
 そしてそれは相手も同じで、まるでミランダさんの甲冑のような軽装甲をしたものをジスタ以外が装着している。
 唯一ジスタだけは重装甲を身に着けていた。
 あれで動けるのか疑問を持ちそうになるが、彼の実力はすでに一度体験している。あっちが侮ってるだけならいいが、油断しない方がいいだろう。

 【それじゃあ、選手たちもそうじゃない奴らも心の準備はいいか?今年最初で最後の学園の生徒による戦い、例年に比べ学生とは思えない戦いぶりを見せてくれた二つのチームが今、ぶつかり合うっ!!それでは、レディィィィ――】

 ☆★☆★

 一方その頃、もう一つの試合会場では――

 「ついにこの時が来ちゃいましたね……」
 「なんだ、緊張してんのか?」

 一つの巨大なステージ上に立つ数名の人影。その中でアヤトとコノハが肩を並べて雑談をしていた。

 「剣魔祭……まさか人類最強を決めるために戦うこのメンツのほとんどが顔見知りになるとは、ついこの間までは思っても見なかったぞ。しかもここまで上り詰めてきた彼とアヤト殿が知り合いだったとはな……」
 「ああ、ついにこの時がやってきてしまったな……合法的に君から暴力を振るわれる日が来るなんて!」
 「よし、お前ちょっと黙れ」

 そしてもう一組、和やかな雰囲気で感心するガーランドと妖美な雰囲気を纏いつつアヤトにツッコミを入れられたミランダが会話に入り、アリスもまたその場に立っていた。

 「合法的……そう、合法的だ!民衆の前でどれだけ想い人と触れ合っても咎められることのない至福の一時ひととき……もういっそ、毎日が剣魔祭ならいいのに」
 「なんで俺の周りの奴らってこうも歪んだ奴が多いんだ……」

 頭を抱えて悩む仕草をするアヤトを見て、コノハが軽く笑う。

 「初対面で攻撃を仕掛ける人も中々だと思うよ?多分、類は友を呼ぶ……」
 「おい、それ以上言うな。言ったらアレするぞ?えー……米オンリーで腹一杯にさせるぞ!」
 「なぜ米が拷問道具扱いなんだ……?」

 アヤトの口から出た雑な言葉に、ガーランドが疑問を口にする。
 そこにルビアが驚愕の表情を浮かべてやってくる。

 「コノハ、君……?」

 現れた彼女にコノハは悲哀の表情で見る。

 「お久しぶりです、ルビアさん。お変わりないようで……というより、本当に変わっていませんね?」
 「むぅ……身長はともかくとして、多少は大人びたはずだぞ?髪は伸びたし……ほら、胸だったおっきくなったぞ?男は好きだろう?ほら、これ」

 ルビアは見せ付けるように、自らの片胸を無造作に持ち上げる。
 突然の行動にミランダが戸惑い、アヤトとガーランドが肩をすくめ首を横に振って呆れていた。
 そして見せられたコノハは恥ずかしさで目を逸らす。

 「教師が何をしてるんですか……ここは公共の場ですよ?」
 「悪いね、今の僕は教師である前に冒険者で女なんだ。それに死んだと聞かされて二十年も音沙汰のなかった君に諭される謂れはないよ」

 笑顔で返すルビアにコノハが「うっ」と声を漏らす。

 「それは……ごめん、なさい。でも下手に顔を出すことができなかったんだ……」

 申し訳なさそうにするコノハに、ルビアが笑顔のまま溜息を零す。

 「……まぁ、わかってるよ。そういうことにしておかなきゃいけない状況だったことくらい。でも僕も有名になったんだから、連絡の一つでも寄こしてもいいだろう?」
 「あー……すいません、事情があってルビアさんのことは耳にしてなくて……」

 コノハの一言にルビアが固まり、次第に悲しそうな笑みへ変わる。

 「え……そ、そうなの?なら仕方ないけど……知られてないってのは予想以上に堪えるな……」
 「案外有名じゃなかったりな?」

 アヤトが会話に割って入りふざけてそう言うと、ルビアが勢いよく膝を突く。

 「あ、アヤト君……」
 「容赦無いな」
 「フフフ、突き刺さるような言葉を公衆の前でも平然と……さすがアヤト殿だ」

 アヤトの発言にコノハは戸惑いガーランドが腕を組み、ミランダが恍惚な笑みを浮かべてそれぞれ思ったことを口にする。
 そんな他愛もない談笑を、これから戦おうとしている相手としているという光景に観客席がざわついていた。

 【こ、これはどういう状況でしょう?これから行われるは史上最強を決する戦い……直前のはずなのですが、例年参加していただいているミランダ選手、ガーランド選手、アリス選手、さらに決勝まで勝ち上がってきたばかりのコノハ選手がこぞって集まり、最近冒険者になったばかりだというのにあっという間にSSランクに駆け上がってしまったと今、巷を騒がせているアヤト選手を囲い談笑しています!友人関係だったのでしょうか……?】
 「ほぼ間違ってないが、一人だけ俺の命狙ってる輩なんだよな……」
 「アヤト殿の命を?それは一体誰のこと……」

 呟きを聞いたガーランドが首を傾げると、アヤトはニッと笑ってコノハの肩に肘を置く。

 「コノハ君がアヤト君の命を……?なんで!?」
 「……俺としては、なぜ自分の命が狙われていて楽しそうなんだと疑問を持つのはおかしいか?しかも本人がそこにいるのに……って、なぜお前たちが目を背ける?」

 困惑するルビアを他所に発されたガーランドの言葉に、ミランダとアリスが明後日の方向を向いて目を逸らす。形は違えど、彼女たちもまたアヤトの命を狙った覚えがあるからである。

 「ま、殺される気はねぇからな。それにこいつも同郷でな、仲良くはしたいと思ってるんだよ」
 「同郷?ということは彼もノクトと同じ……」

 ガーランドが異世界人という言葉を伏せて視線だけを向けると、アヤトが頷く。横でコノハに説明を求めようと、ルビアが騒いでいた。

 「そういうことだ。しかも結構強いぞ?もしかしたらノクトよりも……お前の奥さんに聞いてもきっと同じこと言うだろうぜ?」
 「エリーゼが?それほどか……」
 「奥さん!?ガーランド殿は結婚していたのか!しかもお相手がエリーゼ殿とは……それに今サラッと呼び捨てにして――」
 【あのー……そろそろ始めようと思うのですが、各々の配置に着いてもらってよろしいでしょうか?】

 騒ぎ立てるミランダを遮り、司会者の問いかける声が聞こえるとアヤトが「う~い」とやる気のない返事をして解散する。
 そして他の参加者と均等な距離感のある場所にそれぞれが立つ。

 【と、予想外のやり取りはありましたが、試合を開始させていただきます!もしかすれば最初は協力戦になることが予想され、例年とはまた違った試合になりそうで楽しみです!それでは選手も全員準備ができたようですし、始めさせていたきましょう!剣魔祭、SSランク冒険者たちと勝ち抜いた一名による最終試合……開始です――】

 司会者からの開始の合図が上がると同時に、アヤトへ向けミランダ、ガーランド、アリスが一斉に襲い掛かり、ルビアが無詠唱の魔法を複数放たれた。
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