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武人祭
カイトの親
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突然ですが、体調により次回の更新を少し遅らせていただきます。
申し訳ございません……
――――
【レディィィィス・エンッ、ジェントルメェェェェン!】
湧き立つ歓声の中、女のマイクで拡張させて発せられた声が周囲に響く。
本来なら耳を塞ぎたくなる騒音に近い大きさだったが、生憎今いるのはビルの闘技場内。学生の戦いを一目見ようと集まった観客たちが常時騒いでいるせいであまり気にならない状態となってしまっている。
【お待たせいたしました……我一番と期待を膨らませている学生君たちと、それを誇らしげに見物に来たその親御さん方!そして素質ある子をぜひうちに引き抜きたいと下心を持つ方々!皆様お待ちかねのこの日がついにやってまいりましたぁぁぁぁっ!!】
「元気いいなぁ……」
すでに気疲れしたようにそう言って軽い溜息を漏らしてしまう。
会場に入って間もない俺たちはカイトたちの戦いを観戦するべく席を探していた。
ちなみに出場するミーナたちはすでに専用の待機室へと向かい別行動をしている。
「この人数が一緒に座るってのは無理そうだな」
現状を見たユウキがそう言う。
今いるのは学園に在籍しているメンバーなのだが、俺の体の中に入っているココアを除いてもそれなりの人数がいるのだ。
「じゃ、私たちは別々に座りましょ。何もそこまで一緒にいなくてもいいんだし」
メルトの提案に数人が頷く。
「一人で見るのも味気ないんだけどな?じゃあ、ま、俺はノクトと行動しようかな!」
ユウキが「な?」と同意を求めると、ノクトが頷く。
「そうだね……ランカちゃんとエリさんはどうします?」
「あーしはクラスの友達んとこ行くし。ここのどっかにはいるみたいだけど……」
話を振られたあーしさんがキョロキョロと辺りを見渡す。
その友達とやらを探してるようだが、さっきから向けられている視線がそうじゃないかと思う。
「さっきからチラチラ見てくるあいつらじゃないか?」
俺が指差しながら言うと、「え?」とその方向を探すあーしさん。その先にはちょっと派手なアクセサリーを付けた少女が二人ほどこっちを見て楽しそうにはしゃいでいた。
「あ、そうそう!あんたのスペックの高さはこういう時だけはホント便利だし!」
棘がありながらも上機嫌にそう言うあーしさんは、その友達のところへと行ってしまった。
「『こういう時だけ』は余計だっつーの」と俺はぼやきつつもメアたちの方に向き直る。正確に言うと、途中で合流してしまったミランダの方を見た。
こいつのせいで、と同じSSランクの俺が言うのもなんだが、知名度的に高いこいつが一緒にいることでかなり目立ってしまっているのだ。多分、さっきのあーささんが向かって行った友達もこいつを見ていたのだろうと思う。
「……まさか俺たちと一緒に見る気か?しかもその格好で?」
最近はあまり気にしてなかった私服のミランダを見て言う。普段、公の場では甲冑しか着ないであろうミランダが綺麗な服を着て男と肩を並べていれば……
「アレってミランダ様じゃないか?いつもワンド王を警護してる……」
「んなバカな。でも見間違いにしては似すぎてるしな……もしかして化粧してるのか?」
「それにメア様もいるじゃない!じゃあ、やっぱりあの方はミランダ様だわ!……でもだとしたら、隣に並んで親密そうにしている男の人や周りの子たちは……?」
こんな感じに、興味や下世話な不信感といった視線と言葉が飛び交うのが聞こえてくるのはよくあることだった。中には「まさか想い人!?」なんて邪推をし始める輩も出てきていて、どうしようかと悩んだりするが……若干間違ってなくて否定し辛いのがなんとも居心地が悪い。
「迷惑でなければ、だが。今日は王の警護も休みで見て回ろうと思っているのだが、どうせどこにいても私は注目の的だ、なら君たちと行動を共にして心労を無くした方がいいと思ってな」
苦笑いで言うミランダ。そう言われてしまうと断り辛いし、メアもどうせ頷くだろう。
「俺は構わないけどな。目立つから一緒にいるなってのはないが……だからって羽目を外すなよ?」
Mっ気な性格のことを指して言うと、ミランダが頬を赤くしてしまう。
「さすがにこんな公の場では……ああでも、君がそれで満足すると言うのなら!」
「やめろバカ!俺を道連れにしようとするな!」
仮にミランダが民衆から変態M認定されたとして、その対極であるイジメる側が俺だと広まったりでもしたら外を歩けなくなっちまう。
「……ごめん、うちの姉さんが」
申し訳なさそうに言うのはアルニア。もうすっかり自分の姉の痴態を認識してしまってからはこんな風に謝ることが多くなってしまっていたのだ。
「気にすんなって。むしろこいつをこうしたのは俺なんだから、俺の方こそ謝らないといけないだろ」
「うーん……でも感謝はしてるんだよ?前みたいな棘のある性格よりは好印象だから。そのおかげか、姉さんのところにお見合いの話がまた来てるんだ」
へぇ、ミランダがお見合いね……
「それはこいつの性格を知った上でなのか……?」
「いや、多分知らない……ただ姉さん、最近妙に色艶というか、以前より増して綺麗になったからだと思う。それに角が取れて雰囲気が柔らかくなったから、近付きやすくなったんじゃないかって……」
俺を含めた周りの奴らが「あ~」と納得したような声を上げる。
その反応にミランダ本人は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「今更迷惑な話だが、悪い気分じゃない……アヤト殿もそう思うか?」
「まぁ……最近は化粧してこうやって出歩くようになったし、その影響もあるだろ。外見だけなら十分綺麗になったとは思うが……」
「そう、か……」
そう言うとミランダは目を逸らしてさらに顔を赤らめてしまう。
自分で聞いといてどんな反応をしてんだ……と思ってると、メアがニヤニヤしながら俺の脇を肘で突っついてきた。
「この女ったらし」
「女ったらしだな」
メアだけじゃなく、同じことを思っていたらしいユウキもニヤニヤして似たようなことを言ってくる。
「じゃあ、俺の代わりに誰か言えよ……ユウキとか」
「可愛いですよ、ミランダさん!」
言葉の最後に☆が付きそうなほどの軽快な言い方でウィンクまでするユウキだったが、さっきまで赤らんでいたミランダの顔は素の状態に戻って困り顔をしていた。
「あ、ありがとう……やっぱり言われる人によって感じるものは違うのだな……」
「泣いていい?」
遠回しに「ときめかない」と言われたユウキは、軽く涙を浮かべていた。
「どうでもいいから、さっさと席見付けようぜ」
「それもそうだな。じゃ、俺たちも行ってくるぜ」
涙を拭き取ったユウキが手を振りながらノクトたちと一緒にどこかへと行ってしまった。
「では私も行ってきますね。同盟者たちとの契約の時が近付いている……」
ランカもそう言い出し、ユウキたちとは別の方向に行く。俺でもなんとなく何が言いたいかわかった。単に友達と待ち合わせしてるだけって話だ。
そんなこんなで残ったのはメア、アルニア、ミランダとなった。ヘレナ、ノワール、ココアの三人は人間の出す屋台にまだ興味があるということで見回っていて、俺の試合が始まる頃にはこっちに来るとのこと。なんだかんだで馴染んでるなーなんて思ったり。
「じゃあ、そこにしようぜ。丁度四人分の席空いてるし」
俺が指差した近くの席へ全員で移動した。
「隣失礼」
座ろうとする席の横にいる男にそれだけ言う。
「あっ、どーぞどーぞ!」
にこやかに答えるその男は体格がよく、どこかで見たような赤髪をしていた。さらにその隣に座っている桃色髪をした女も、やはり見覚えというか面影があったり……とか思っていると、俺たちに気付いたその女が満面の笑みを浮かべる。
「あっ、もしかしてその制服着てるってことは、あなたたちコノハ学園の生徒?」
「え?ああ、まぁ……」
急に話題を振らたから曖昧な返答をしてしまったが、女は気にせず「やっぱり!」と嬉しそうに手を合わせて早合点してしまっていた。間違いじゃないから別にいいんだけど。
「じゃあ、一年のカイトって子、知ってる?赤い髪が女の子みたいに長い子なんだけど……」
「いや、母さん……いくら同じ学校だからって知ってるわけじゃないだろ」
興奮する女をなだめる男。その呼び方で夫婦なんだなとわかったのと同時に、やっぱりカイトの血筋だったと確信した。
「……もしかして、カイトのお父さんとお母さん?」
メアが俺越しに覗いて見る。メアの性格から「親父」とか「お袋」とでも呼びそうだっただけに意外性を感じながらも、カイトの両親であろう二人に視線を向ける。
「まあ!やっぱりカイトを知ってるのね!?ほら、声をかけて正解だったでしょ?」
カイトの母は息子に似た笑みを浮かべてそう言い、父は両手を挙げて「俺の負けだ」と降参していた。
「あなたたちはカイトのお友達?いつもカイトがお世話になってます♪」
よく親同士がするような挨拶をしてくるカイト母に、メアが首を傾げていた。
「うーん、友達……友達?」
「えーっと……違うのかい?」
メアの反応にカイト父が心配した表情で見つめる。
「違……わないとは思うけど、どっちかというと弟子兄弟に近いな」
「弟子……というと!?」
カイト父が食い気味に俺とメアの顔を交互に見る。話の流れ的に言った方がいいか。
「カイトの師をしています、アヤトです」
「そんで俺がメアだぜ」
「まぁ、あなたが!」
カイト母が興奮した様子で輝かせた目を向けてくる。
終いには立ち上がって俺の腕を掴み立ち上がらせ、握手する形で繋いだ腕を上下にブンブン振る。
「前にあの子が帰ってきた時、見違えるように立派になってたのにびっくりしたの!それが師匠に鍛えられたからだって……それで一度お会いしてお礼を言っておきたかったのよ。アヤトさん、カイトの面倒を見てくれてありがとう……!」
一方的に感謝を伝えて来るカイト母にどう返そうかと悩んでいると、カイト父までも立ち上がって頭を下げてきた。
「君にはカイトのことだけじゃなく、本来俺たちが補うはずの寮費に加えて冒険者の保護者役までもお世話になってしまったようだ。心の底からお礼を言いたい……!」
「あー……ならその気持ちは受け取っとくから、そろそろ座らせてくれないか?俺、目立つの好きじゃないんだよ」
俺の言葉にカイト父が「これは失礼!」と言って、全員で座り直す。
「いやはや、申し訳ない。何せ、うちの家庭はお世辞にも裕福とは言えないもので……アヤトさんが工面してくれなかったら、息子の勇姿を見れなかったでしょう。本当にありがとうございます」
そう言って優しい笑顔を向けてくるカイト父と母。
「何人も住める場所を手に入れたのは偶然だし、あなたたちに渡したのはカイトたちが本来手にするべき報酬だ。あいつが強くなったのだって、あいつ自身が諦めず逃げ出さなかっただけだから、俺がお礼を言われるほどのことはしてない」
そう言うと二人はキョトンとした顔を見合わせてクスリと笑う。
「謙虚なんですね……でも気持ちだけでも受け取ってもらえると嬉しいんだ。それだけ俺たちが感謝してるのだから」
二人の言葉に返しがわからず頭を掻くと、反対方向でメアやミランダたちが見守るような暖かい視線を向けてきていた。
「……なんだよ?」
「アヤト君が困ってる姿って面白いなーって?」
そう言って楽しそうに微笑むアルニアたちに、俺は引きつった笑いを浮かべた。
申し訳ございません……
――――
【レディィィィス・エンッ、ジェントルメェェェェン!】
湧き立つ歓声の中、女のマイクで拡張させて発せられた声が周囲に響く。
本来なら耳を塞ぎたくなる騒音に近い大きさだったが、生憎今いるのはビルの闘技場内。学生の戦いを一目見ようと集まった観客たちが常時騒いでいるせいであまり気にならない状態となってしまっている。
【お待たせいたしました……我一番と期待を膨らませている学生君たちと、それを誇らしげに見物に来たその親御さん方!そして素質ある子をぜひうちに引き抜きたいと下心を持つ方々!皆様お待ちかねのこの日がついにやってまいりましたぁぁぁぁっ!!】
「元気いいなぁ……」
すでに気疲れしたようにそう言って軽い溜息を漏らしてしまう。
会場に入って間もない俺たちはカイトたちの戦いを観戦するべく席を探していた。
ちなみに出場するミーナたちはすでに専用の待機室へと向かい別行動をしている。
「この人数が一緒に座るってのは無理そうだな」
現状を見たユウキがそう言う。
今いるのは学園に在籍しているメンバーなのだが、俺の体の中に入っているココアを除いてもそれなりの人数がいるのだ。
「じゃ、私たちは別々に座りましょ。何もそこまで一緒にいなくてもいいんだし」
メルトの提案に数人が頷く。
「一人で見るのも味気ないんだけどな?じゃあ、ま、俺はノクトと行動しようかな!」
ユウキが「な?」と同意を求めると、ノクトが頷く。
「そうだね……ランカちゃんとエリさんはどうします?」
「あーしはクラスの友達んとこ行くし。ここのどっかにはいるみたいだけど……」
話を振られたあーしさんがキョロキョロと辺りを見渡す。
その友達とやらを探してるようだが、さっきから向けられている視線がそうじゃないかと思う。
「さっきからチラチラ見てくるあいつらじゃないか?」
俺が指差しながら言うと、「え?」とその方向を探すあーしさん。その先にはちょっと派手なアクセサリーを付けた少女が二人ほどこっちを見て楽しそうにはしゃいでいた。
「あ、そうそう!あんたのスペックの高さはこういう時だけはホント便利だし!」
棘がありながらも上機嫌にそう言うあーしさんは、その友達のところへと行ってしまった。
「『こういう時だけ』は余計だっつーの」と俺はぼやきつつもメアたちの方に向き直る。正確に言うと、途中で合流してしまったミランダの方を見た。
こいつのせいで、と同じSSランクの俺が言うのもなんだが、知名度的に高いこいつが一緒にいることでかなり目立ってしまっているのだ。多分、さっきのあーささんが向かって行った友達もこいつを見ていたのだろうと思う。
「……まさか俺たちと一緒に見る気か?しかもその格好で?」
最近はあまり気にしてなかった私服のミランダを見て言う。普段、公の場では甲冑しか着ないであろうミランダが綺麗な服を着て男と肩を並べていれば……
「アレってミランダ様じゃないか?いつもワンド王を警護してる……」
「んなバカな。でも見間違いにしては似すぎてるしな……もしかして化粧してるのか?」
「それにメア様もいるじゃない!じゃあ、やっぱりあの方はミランダ様だわ!……でもだとしたら、隣に並んで親密そうにしている男の人や周りの子たちは……?」
こんな感じに、興味や下世話な不信感といった視線と言葉が飛び交うのが聞こえてくるのはよくあることだった。中には「まさか想い人!?」なんて邪推をし始める輩も出てきていて、どうしようかと悩んだりするが……若干間違ってなくて否定し辛いのがなんとも居心地が悪い。
「迷惑でなければ、だが。今日は王の警護も休みで見て回ろうと思っているのだが、どうせどこにいても私は注目の的だ、なら君たちと行動を共にして心労を無くした方がいいと思ってな」
苦笑いで言うミランダ。そう言われてしまうと断り辛いし、メアもどうせ頷くだろう。
「俺は構わないけどな。目立つから一緒にいるなってのはないが……だからって羽目を外すなよ?」
Mっ気な性格のことを指して言うと、ミランダが頬を赤くしてしまう。
「さすがにこんな公の場では……ああでも、君がそれで満足すると言うのなら!」
「やめろバカ!俺を道連れにしようとするな!」
仮にミランダが民衆から変態M認定されたとして、その対極であるイジメる側が俺だと広まったりでもしたら外を歩けなくなっちまう。
「……ごめん、うちの姉さんが」
申し訳なさそうに言うのはアルニア。もうすっかり自分の姉の痴態を認識してしまってからはこんな風に謝ることが多くなってしまっていたのだ。
「気にすんなって。むしろこいつをこうしたのは俺なんだから、俺の方こそ謝らないといけないだろ」
「うーん……でも感謝はしてるんだよ?前みたいな棘のある性格よりは好印象だから。そのおかげか、姉さんのところにお見合いの話がまた来てるんだ」
へぇ、ミランダがお見合いね……
「それはこいつの性格を知った上でなのか……?」
「いや、多分知らない……ただ姉さん、最近妙に色艶というか、以前より増して綺麗になったからだと思う。それに角が取れて雰囲気が柔らかくなったから、近付きやすくなったんじゃないかって……」
俺を含めた周りの奴らが「あ~」と納得したような声を上げる。
その反応にミランダ本人は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「今更迷惑な話だが、悪い気分じゃない……アヤト殿もそう思うか?」
「まぁ……最近は化粧してこうやって出歩くようになったし、その影響もあるだろ。外見だけなら十分綺麗になったとは思うが……」
「そう、か……」
そう言うとミランダは目を逸らしてさらに顔を赤らめてしまう。
自分で聞いといてどんな反応をしてんだ……と思ってると、メアがニヤニヤしながら俺の脇を肘で突っついてきた。
「この女ったらし」
「女ったらしだな」
メアだけじゃなく、同じことを思っていたらしいユウキもニヤニヤして似たようなことを言ってくる。
「じゃあ、俺の代わりに誰か言えよ……ユウキとか」
「可愛いですよ、ミランダさん!」
言葉の最後に☆が付きそうなほどの軽快な言い方でウィンクまでするユウキだったが、さっきまで赤らんでいたミランダの顔は素の状態に戻って困り顔をしていた。
「あ、ありがとう……やっぱり言われる人によって感じるものは違うのだな……」
「泣いていい?」
遠回しに「ときめかない」と言われたユウキは、軽く涙を浮かべていた。
「どうでもいいから、さっさと席見付けようぜ」
「それもそうだな。じゃ、俺たちも行ってくるぜ」
涙を拭き取ったユウキが手を振りながらノクトたちと一緒にどこかへと行ってしまった。
「では私も行ってきますね。同盟者たちとの契約の時が近付いている……」
ランカもそう言い出し、ユウキたちとは別の方向に行く。俺でもなんとなく何が言いたいかわかった。単に友達と待ち合わせしてるだけって話だ。
そんなこんなで残ったのはメア、アルニア、ミランダとなった。ヘレナ、ノワール、ココアの三人は人間の出す屋台にまだ興味があるということで見回っていて、俺の試合が始まる頃にはこっちに来るとのこと。なんだかんだで馴染んでるなーなんて思ったり。
「じゃあ、そこにしようぜ。丁度四人分の席空いてるし」
俺が指差した近くの席へ全員で移動した。
「隣失礼」
座ろうとする席の横にいる男にそれだけ言う。
「あっ、どーぞどーぞ!」
にこやかに答えるその男は体格がよく、どこかで見たような赤髪をしていた。さらにその隣に座っている桃色髪をした女も、やはり見覚えというか面影があったり……とか思っていると、俺たちに気付いたその女が満面の笑みを浮かべる。
「あっ、もしかしてその制服着てるってことは、あなたたちコノハ学園の生徒?」
「え?ああ、まぁ……」
急に話題を振らたから曖昧な返答をしてしまったが、女は気にせず「やっぱり!」と嬉しそうに手を合わせて早合点してしまっていた。間違いじゃないから別にいいんだけど。
「じゃあ、一年のカイトって子、知ってる?赤い髪が女の子みたいに長い子なんだけど……」
「いや、母さん……いくら同じ学校だからって知ってるわけじゃないだろ」
興奮する女をなだめる男。その呼び方で夫婦なんだなとわかったのと同時に、やっぱりカイトの血筋だったと確信した。
「……もしかして、カイトのお父さんとお母さん?」
メアが俺越しに覗いて見る。メアの性格から「親父」とか「お袋」とでも呼びそうだっただけに意外性を感じながらも、カイトの両親であろう二人に視線を向ける。
「まあ!やっぱりカイトを知ってるのね!?ほら、声をかけて正解だったでしょ?」
カイトの母は息子に似た笑みを浮かべてそう言い、父は両手を挙げて「俺の負けだ」と降参していた。
「あなたたちはカイトのお友達?いつもカイトがお世話になってます♪」
よく親同士がするような挨拶をしてくるカイト母に、メアが首を傾げていた。
「うーん、友達……友達?」
「えーっと……違うのかい?」
メアの反応にカイト父が心配した表情で見つめる。
「違……わないとは思うけど、どっちかというと弟子兄弟に近いな」
「弟子……というと!?」
カイト父が食い気味に俺とメアの顔を交互に見る。話の流れ的に言った方がいいか。
「カイトの師をしています、アヤトです」
「そんで俺がメアだぜ」
「まぁ、あなたが!」
カイト母が興奮した様子で輝かせた目を向けてくる。
終いには立ち上がって俺の腕を掴み立ち上がらせ、握手する形で繋いだ腕を上下にブンブン振る。
「前にあの子が帰ってきた時、見違えるように立派になってたのにびっくりしたの!それが師匠に鍛えられたからだって……それで一度お会いしてお礼を言っておきたかったのよ。アヤトさん、カイトの面倒を見てくれてありがとう……!」
一方的に感謝を伝えて来るカイト母にどう返そうかと悩んでいると、カイト父までも立ち上がって頭を下げてきた。
「君にはカイトのことだけじゃなく、本来俺たちが補うはずの寮費に加えて冒険者の保護者役までもお世話になってしまったようだ。心の底からお礼を言いたい……!」
「あー……ならその気持ちは受け取っとくから、そろそろ座らせてくれないか?俺、目立つの好きじゃないんだよ」
俺の言葉にカイト父が「これは失礼!」と言って、全員で座り直す。
「いやはや、申し訳ない。何せ、うちの家庭はお世辞にも裕福とは言えないもので……アヤトさんが工面してくれなかったら、息子の勇姿を見れなかったでしょう。本当にありがとうございます」
そう言って優しい笑顔を向けてくるカイト父と母。
「何人も住める場所を手に入れたのは偶然だし、あなたたちに渡したのはカイトたちが本来手にするべき報酬だ。あいつが強くなったのだって、あいつ自身が諦めず逃げ出さなかっただけだから、俺がお礼を言われるほどのことはしてない」
そう言うと二人はキョトンとした顔を見合わせてクスリと笑う。
「謙虚なんですね……でも気持ちだけでも受け取ってもらえると嬉しいんだ。それだけ俺たちが感謝してるのだから」
二人の言葉に返しがわからず頭を掻くと、反対方向でメアやミランダたちが見守るような暖かい視線を向けてきていた。
「……なんだよ?」
「アヤト君が困ってる姿って面白いなーって?」
そう言って楽しそうに微笑むアルニアたちに、俺は引きつった笑いを浮かべた。
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