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武人祭

思わぬ反撃

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 光景だけを見れば、子供が泣いてしまうような地獄が広がっていた。
 さっきまで多少の木々が生えてるだけの平面だったこの場所は、いくつも陥没してしていまっている。
 そこには死屍累々といった風に、カイトたちが至る所で倒れていた。
 立っているは俺とアリス、ノワールとエリーゼだけ。
 誰かが傷を負っているというわけでもない。ボロボロなのは、倒れているカイトたちが着ている服ぐらいだ。
 不自然な状態ではあるが、回復魔術を一帯に広げて全員を回復し続けた結果である。
 カイトたちにやったことは、最初は走り込みやハードな筋トレ。そしてその後、こいつらが認識できるギリギリのスピードでひたすら攻撃していた。
 カイトたちの目が俺たちの速さに少しでも慣れればまたスピードを上げる……そうやって常にカイトたちの「少し上の実力」で相手するやり方だ。
 それを休憩無しで就寝時間になる直前までやり通した。

 「ふぅ……ふぅ……!」

 息も切れ切れになって倒れているメアたちの中で、カイトが一人だけ立ち上がって据わった目を、まるで獣のように光らせていた。

 「凄まじい気力だな……本当に一か月足らずでただの学生をここまで鍛え上げたのか」

 その様子を見てアリスが感心の声を漏らしていた。しかし肉体面はともかく、精神面を特別何かやって鍛えたわけではない。
 一応、過去にグランデウスから精神干渉というものをされたメアたちが行動不能を教訓に、ココアがカイトを含めた弟子全員に修行の後に精神干渉を加え続けてはいたが……
 カイトだけがこうも続いているのは説明が付かない。

 「俺はまだ……やれます……」

 と言っても体の方が精神に付いていけてないらしく、フラフラしているカイト。
 気合で頑張ってるようだが、そろそろ限界なのだろう。メアたちの開いている目も虚ろとなっているし、今日はここまでとした方がいいか……

 「だがさっきも言ったが、限界ギリギリまでやるだけだ。無理に限界を超えた修行は身にならないからな……」
 「ま……だ……」

 カイトがフラリとよろめく。精神論なんて、結局体が付いていけていなければ意味がない。
 倒れそうになっていたカイトを支えようと近付こうとすると――

 「ぐっ……だぁぁぁぁっ!」
 「っ!?」

 倒れかけていたカイトは体勢を立て直し、貫き手で俺に攻撃してきた。
 限界が近いと思っていた俺の見立てとは逆に、鋭い一撃が放たれる。
 思いの外、速い攻撃に俺は思わず受け流ししながらカウンターを入れてしまう。

 「……がふっ!?」

 貫かないギリギリまで力は抜いたものの、勢い余ってみぞおちに肘打ちをしてしまい、カイトは気を失ってしまった。

 「やりすぎ……じゃないよな?死んでなければ大丈夫だし……」
 「少し強引にでも止めて正解だったのでは?」

 心配する俺にエリーゼがそう言ってくれる。

 「かもな……悪いな、修行に付き合わせちまって。すぐにガーランドのとこに送るから」
 「ありがとうございます……ですがあまり気にしないでくださいませ。人にものを教えるのは嫌いではありませんので」

 エリーゼはそれだけ言って、俺がガーランドのところに繋げて開いた空間の裂け目の中へと消えて行ってしまった。
 そういえばエリーゼにも弟子はいたのだろうか?だとしたら、弟子の良い育成方法などがあれば教えてもらいたいものだが……
 そういえば、アリスたちも弟子を持ったことがあったりするのか?

 「ノワールとアリスは弟子を持ったことがあるか?」

 俺の問いかけに、二人とも首を横に振る。ノワールはカイトたちの体から抜け出た精霊王たちに凹んだ地形を元に戻すよう指示を出しながら、地面に沈んだサイを片手で持ち上げていた。

 「私は弟子は……考えなかったこともなくはないが、今までそれどころじゃなかったからな」
 「人にものを教えたのはアヤト様やユウキ様たちが初めてです。魔法を放つという基本中の基本だったので、特に支障はありませんでしたが……何か弟子の育成でお困りなことでも?」

 察しのいいノワールの言葉に、アリスが「そうなのか?」と首を傾げた。

 「まぁ、違わなくもないが……」
 「力になれずにすまない……だが私も協力を惜しむ気はないから、何か試したい場合遠慮せず使ってくれ」

 優しく微笑む彼女の言葉からは、少しだけ後ろめたさが伝わってくる。
 多分まだ、フィーナたちを傷付けた罪悪感が拭い切れてないのだろう。そう考えると、今の言葉は罪滅ぼしとも捉えられるな。

 「言われなくてもそうするつもりだ。お前が仕事終わりだからって遠慮しないからな」
 「……そう言う言い方をされると、卑猥な感じに聞こえてくるな……」

 そう言って頬を赤くするアリスを見て、もう本当にこいつはミランダと同じようなカテゴリーに当てはめて遠慮も同情もしなくていいんじゃないかと思えてきてしまっていた。

 ――――

 しばらくして気力を回復させたリリスたちと一緒に居間に集まった。

 「魔術師志望なのに、筋力を鍛える意味はあるのでしょうか……?そして明日はまともに学園に行けるか心配ですわ……」

 生まれたての小鹿のように、足をガクブルさせて立っていた。
 リナやサイも似たような感じで立っているのが困難だったためにソファーでくつろいでいる。

 「より強くなりたいなら、最低でも『動ける魔術師』ぐらいにはなっとけ。フィーナを見ただろ?」

 そう言ってフィーナの方を見ると、メルトと並んで座っていた。
 前にいざこざがあって以来、メルトはフィーナを慕うように近くにいるようになっていた。丁度フィーナがぺルディアに付いて回っているのに近い。
 リリスもそんなフィーナたちに目を向ける。

 「それはまぁ……って、それが最低ですか!?」
 「そう、最低。んで次の段階は魔法無しでも十分に戦えること。最後に両立できれば言うこと無しだな」
 「……それって私は……どうなるん、ですか?」

 リナが俺の言葉に疑問を持つ。

 「リナの場合、時間はかかるがその弓一つで色んなことをしてほしい。もうすでにやってるだろうが、弓矢と同時に魔法魔術を放てるようになることに加えて弓自体による物理攻撃。あとはドレスグローブ無しでも魔法による弓と矢の作成ができるようになることだな」
 「い……いっぱいあるんです、ね……?そんなに、できる、かな?」

 「できるかじゃない、やるんだ」とテンプレなことを言いたいが、それはあくまで最終段階でそうなればいいというだけの目安であって、今は順番に目標を提示してやることだろう。

 「弓自体での攻撃はいいとして、まずは弓と魔法を同時発射できるようになることだな。魔法で牽制して動きを止めながら弓矢を射る……相性はいいと思うがな」
 「はい、わかりまし、た……頑張って、みます……!」

 リナは握り締めた拳を、腰で引き絞って小さくガッツポーズを取っていた。

 「俺はまだ大したした魔法を覚えてませんが、どうしましょうか……?」

 次にサイが眉をひそめて聞いてくる。

 「じゃあ、まずは魔法を覚えるのが当面の目標だな。その辺りはノワールたちに任せよう」

 そう言ってノワールを見ると、微笑んで「お任せください」と頭を下げてくる。
 ちなみにこの場にランカはおらず、学園から帰るとシャードに連れていかれてしまった。どうせまた何かの実験にされてるんだろ。

 「メルトは?」
 「あたしはいいわよ、あんたのアドバイスなんて。フィーナさんやミーナさんに色々教えてもらうから!」

 メルトはそう言うと、横にいるフィーナと肩をピッタリくっ付ける。フィーナは視線を彷徨わせながらも、満更でもない様子だった。

 「フィーナはわからなくもないが、なんでミーナなんだ?」

 ちなみにそのミーナ、俺に抱っこされてる状態である。
 後ろにはメアを先におんぶしていたのだが、対抗するかのように前にくっ付いてきたのだ。たまにいるよな、こういう動物の親子。
 すると話を聞いてたミーナが若干眠そうにしてる顔を上げる。抱っこしてる状態なので、顔が凄い近いし息も当たる。

 「武器に属性の宿し方を教えてる。少し難しいけど、メルトならできる……多分」
 「そこは『絶対にできる』って言ってほしいんだけど……」

 メルトが口を尖らせて言うと、ミーナは「必要のない嘘は言わない」とだけ言って俺に顔を近付けてくる。
 まさかここでキスをするのか?と少し身構えたが、ミーナの顔は俺の顔の横に行き、頬擦りをしてきた。
 そしてそのまま力尽きるように俺の肩に顎を乗せて、寝息を漏らし始める。マジか、そういう寝方をするか。
 気付くと、おんぶしていたメアも涎を垂らして眠っている。ホント、すでに二児の父親になった気分だ。

 「大丈夫?どっちかあーしが運ぼっか?」

 たまたま近くを通りかかったあーしさんが、俺の状態を見て察してくれたようだ。もう見慣れたようで変にいじってくることは少なくなったが、こうやって優しくされたのは初めてな気がする。

 「任せたいが、どっちも力強いんだよな……しかもほれ」

 あーしさんに見えるように向き直って、ミーナの腰部分を指差す。
 そこには反対側で眠ってるメアの足がミーナ共々ホールドしていた。

 「……無理っぽいし。本当にそいつらは、あんたのことが好きなんだね」

 あーしさんは呆れたように笑うと、どこかへ行ってしまった。方向的に風呂か。

 「たっだいま~!あー、ちかれた……エリちゃんこれからお風呂?」

 今度はラピィの声と三人分の足音が聞こえてきた。他はアークとセレスだろう。
 こんな時間までギルドの依頼をこなしてたのか?
 時間を見ると、すでに十一時を回っている。ギルドの閉まる一時間前までとはご苦労なこったな。
 そんなラピィたちが俺たちのいる居間にやってきた。

 「おやおや?皆さん夜更かしですかな?」

 最初に顔を出したラピィがニヤニヤとした笑みを浮かべてからかってきた。だが相当疲れているのかその目に疲労が見え、セレスやアークもゲッソリしていた。

 「そりゃあ、お前らも同じだろ。夜更かしは健康どころか肌の美容にも悪いんだからな」
 「何気にそういうところ気遣ってくれるよね、アヤト君って」
 「ですよねぇ……大丈夫です、これから寝ますんでぇ……」

 頭に両手を回してニヒヒと笑うラピィと、セレスは若干やつれた顔をしている。
 アークは相変わらず飄々としているが。

 「いやねぇ、まさかこの時期にディープフロッグとかいうカエルがあんなに大量発生してるとは思わなくてね……おかげで目的の魔物を見付けるのに苦労したよ!」
 「だよなぁ?あいつらが活発に行動するのって春なはずなんだが……どっかのバカが爆薬でも使って全員起こしたのか?」

 ラピィとアークの言動に、フィーナがビクッと肩を震わせる。そういえば、先日フィーナが持ってきた魔石もたしかディープフロッグとかいう魔物から取れたって言ってたな。
 それが原因かはわからないが……いや、わからないからこそ、そのことは言わない方がいいだろう。

 「それは災難だったな。ほら、とりあえず回復してやるから、その後ラピィとセレスは先に風呂に入っとけ」

 俺の言葉にラピィが「はーい!」と元気よく返事をして、セレスと一緒に風呂場へと向かった。
 それをアークが不満げに見送る。

 「俺は後回しかよ?」
 「さっきあーしさんが風呂に行くのを見ただろ?これから生きていく上で、女性陣に蔑まれながら生きていきたいならどうぞご勝手に」
 「クソゥ、お前だけいい思いしやがって……」

 アークが言ってるのは、俺がちょくちょく女性陣と風呂で鉢合わせてることだろう。
 そのことは口の軽いラピィから漏れてしまっていたのだ。ちなみにユウキもそのことを知って「ズルい!」などと抜かしていたが、いざ実際に風呂場で鉢合わせてしまった時には女たちの堂々とした佇まいに負けて逃げてしまっていた。
 アークがいた時にも脱衣所に何人か来た時があったが、その時にいたラピィが「うわっ、アークもいんじゃん!また後にしよう?」という会話が聞こえてきたのを覚えている。幸い声が小さかったためか、アークにはそのことに気付いてなかったが。
 つまりそれぞれ、根性が足りなかったのと日頃の行いが悪いのが原因であって俺のせいじゃないと言える。

 「いい思いをしたいなら、普段の行いをなんとかしろってことだろ。ノクトを見習えよ、見た目が可愛いだけじゃなく謙虚で流されやすいあいつを。俺が一緒にいた時だけで何回遭遇してることやら……」
 「「えっ……?」」

 ユウキとアークの声が重なる。
 どうやらそっちはまだ知らなかったらしい……俺も口が軽いなんて他人のこと言えねえな。

――――

 突然ですが、「腐ってるからですか?」という別作品をお試しで投稿させていただきました!

 「小説になろう」「ノベルバ」などでも同じ内容のものを投稿してありますので、見易い方でご覧になってください!
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