最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

守りたくて

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 ☆★☆★
 「師匠、助けてください!」
 学園が終わって合流した辺りから何か思い詰めた表情をしていたのは知っていたが、屋敷に帰ってから早々に助けを求められた。
 事情を聞いた俺は色々思うところがあって、溜息を吐いてしまう。

 「他力本願するスピード早いな」
 「だって、ここまで来たらもう師匠頼みしかないじゃないですか!?それに師匠が世界で最高って言っちゃいましたし……」

 完全に俺は巻き込まれただけなんだが……だが仮にも弟子がそう言って期待してくれいるのなら、応えたいとは思うけれど。

 「もちろん、カイトさんだけでなく私たちも強くしてくださいませ!」
 「俺もあの人たちが強いのはカイトたちが戦っているのを見ていましたが、少なくとも二人はアルニア先輩と同じか、それ以上の強さです……」

 そして学園から最後まで付いてきたリリスが食い気味に、サイが重く真剣な声色で言う。メルトも含め、俺の修行に参加するべく集まったのだ。

 「少なくとも、カイトたち三人のレベルを上げなきゃならないか……」
 「ちょっと!武人祭に出ないからって、あたしを無視しないでよ!」

 横でギャンギャン騒ぐメルトを横目に、修行内容を考える。
 武人祭までみっちり修行するのはもちろんだが、どれだけ効率的に短期間で伸ばせるか……だよな。たしかに師匠としての有能さが試されるとも取れるわな。

 「……希望があるなら、回復魔術と並行して修行を強引に進めるしかないな。精神が耐えられるギリギリまで……」

 俺の言葉にゴクリと固唾を飲むカイトたち。

 「さらにハードに……ですか?」
 「やめておくか?お前がそのジスタとかいう奴の動きが見えなかったのは、弟子になったのが一か月経って間もないっていうスタートダッシュの問題があるからだ。時間をかければ確実にそいつより強くさせることができると約束できるぞ?」

 試しに甘言に似た言葉で、俺はカイトたちに諦めを促す。これで諦めるようなら……そう思ったが、少なくともカイトだけは諦めないとわかっていた。
 その証拠ってわけじゃないが、カイトが今している目は闘争心を剥き出しにし、そして俺に向けた若干の怒りを含んでいた。
 それほどにこいつはリナを……

 「そんなの、クソ食らえだ……!」

 いつも穏やかで喜怒哀楽の激しくはあったカイトだが、遊びのないハッキリとした怒りを俺に向けてきたのは初めてのことだった。
 それが誰かのためであるというのは……どこか共感してしまえる。

 「あんただってそうだろ?何かを奪われそうになって、『今は諦めて次のチャンスを窺おう』なんて……考えないだろ!?」
 「カイトさん、落ち着いて!」
 「そうよ!らしくないじゃない、あんた!」

 リリスとメルトが興奮して暴れる寸前のカイトを押さえようとする。
 それでももがいて暴れるカイト。まるで鬼の形相のように歪み切っている……俺もカイトが殺された時などはこんな顔をしていたのだろか?

 「らしさ?らしさで守れるもんなんてあるかよ!」
 「本当に……どうしたのですか!?」
 「……」

 カイトの爆発した怒り任せの感情に、俺はつい笑みを浮かんでしまう。
 そうか……ペットは飼い主に似る、というのとは違うが、カイトが俺に似てきていると確実に感じる。そしてその「らしくなさ」が消えた時、こいつはきっと……

 「なぁ、カイト……お前、化け物になる気はあるか?」
 「……何?」

 俺が発した突然の言葉に、困惑の表情を浮かべて動きが止まるカイト。

 「お前は最初、俺に弟子入りする時に『英雄みたいに戦う俺みたいになりたい』って言ってたよな?」
 「……ああ」

 カイトから敬語の抜けたぶっきらぼうな返事が返ってくる。

 「化け物と蔑まれる覚悟はあるか?」
 「……?」

 どういう意味なのかと首を傾げるカイト。
 ああ、わからないだろうな。憧れるだけ憧れて、その後どうなるかなんて気にもしていないだろう。
 体験したこともないことを――

 「……ああ、そういうことか。あるよ、それくらい……強過ぎる力を手に入れれば、人から化け物と呼ばれることも知ってるし、覚悟もある」
 「……!」

 忘れていたことを思い出したかのように、当たり前に言うカイトに俺は驚いていた。
 抱いていた怒りは消え、達観した雰囲気を纏っている。それはかのようで……

 「強過ぎた力は恐れられることなんて、ありきたりでよくある話だ」

 ……そうだ、よくある話だ。
 だが、その「よくある話」というのは俺の体験談であって、カイトは中等部。ずっと学園で学生をしていた中学生くらいの年齢しか生きていないこいつが何を悟る……?
 まるで……そう、まるで俺と同じものを見てきたかのようだ。

 「お前は一体……いや、今はそんなことどうでもいいか。その覚悟があるなら話が早い、飯食ったらやるぞ」

 その違和感を気にするのをやめ、アリスが帰ってきた?後にリリスたちを含めて食事を済ませる。
 しばらく時間が経ったからか、カイトはその頃には冷静さを取り戻しており、さっきの態度を悔やんでいる様子で黙り込んでしまい、気まずい空気が流れていた。
 俺としては珍しいカイトの姿を見れたと思ってるだけだから気にしてないんだがな……
 ちなみにアリスは自分の持ち家を貸家として出したそうだ。元々生活のほとんどをギルドで過ごしていたというのもあって、丁度いいからとそう判断したようだ。
 しかもアリスの私物は近いうちに全てこの屋敷に運ばれてくるらしい。たしかに許可を出したとはいえ、行動が早いな、この女は。
 そんなアリスを連れ、俺はカイトたちと一緒に魔空間へと来た。
 修行の前に一応、村とも呼べるくらいに人が増えてきた場所へ顔を出しておく。
 まさか昨日の今日で出来上がってはいないだろうと、ドワーフたちと話した昨日の人物像のことを思い出す。
 そう安易な考えで行ったのだが……なんとまぁ、マッスルポーズをした俺の石像がすでに八割完成していた。
 「おう、来たか旦那!見てくだせぇ、あとは両手を付け加えれば完成で――」とカジが言いかけたところで石像にかかと落としをして粉々に破壊してやった。
 ドワーフ二人の悲痛な叫びが木霊する中、俺は挨拶をしてくるカシアたちに返事を返しながらその場を去る。
 周囲に誰も来ないところまで離れると、俺たちは修行を始めることにした。

 「しかしこう言っては何だが、私もこの場にいていいのか?」

 アリスが前科を科してしまった手前、不安げに聞いてきた。
 俺はそれに対して、首を振って答える。

 「本当ならもう少し時間を空けてから、って考えてたけど、時間がないらしいから色々順序を飛ばして強引に進めようと思ってな。まずは組手だが、お前らには俺とアリスを相手に殺す気でやってもらう。もちろん俺たちも手加減はしない」
 「「っ!?」」

 威圧を加えながら話を始める。こうやって精神を擦り減らすのも修行の内だ。
 カイトたちが疑問の声を出す前に、俺は話をさらに進める。

 「ノワールにも念話でエリーゼと一緒に来るよう呼んでおいた」
 「ただいま参りました、アヤト様」
 「修行の手伝いとお聞きしましたが……すでに剣呑な雰囲気でございますね」

 丁度ノワールが空間を裂いてエリーゼと共にやってきた。
 なぜかミランダもいるが……

 「ほほ、本気で言ってるのですか……?」
 「ぬう……!」

 リリスが声と足を震わせながら弱気に聞いてきて、サイが細い目を僅かに開いて俺を見据える。

 「やりたくないならいい、カイトたちとは別メニューを与えるから。最悪カイトだけで武人祭を勝ち抜けるように鍛えておくからよ」

 挑発的な俺の言葉を聞き、悔しそうにムッとするリリスとメルト。

 「本気で勝ちたいなら死ぬ気でやれ。安心しろ、回復魔術で即死以外では死なないようにしとく」
 「……なるほど、理解しました。もはやなりふり構わっていられないということですね」

 師匠としては未熟。効率的な人の鍛え方など知らない俺はそれを自覚している。
 だからもし元の世界であればできないような強引な手段を取ることにした。
 人間に元から備わっている治癒による体の強化と学習能力を最大限引き出すという手段で。
 回復魔術を周囲の一定エリアに発動し、傷を癒し続ける。

 「回復魔術……!そうか、私の傷が治ったのも、私が生きていたのもこういうことだったのか」

 アリスが自分の腹を見て、納得した声も呟く。俺が回復魔術を拳に込めて打ち込んだところだ。
 魔術が強力な故に、アリスの体に付いている他の古い傷も癒えていっている。
 強力なこの状態で心臓を貫いたり首を切断するような即死の攻撃を食らったらどうなるかはわからないが、死ななければほぼ全ての傷を治すだろう。

 「そんじゃま、せいぜい殺されないよう気張れよ」

 合図……というには少し遅過ぎるくらい言葉と同時にカイトの目の前に移動した俺は足を真上に上げ、そして全員が気付いた頃には、カイトにかかと落としをして沈ませた。
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