最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

事のあらまし

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 「たのもー!アヤトはいるか!?」

  何気ない会話をしていたノクトたちだったが、そこに屋敷の中にもハッキリと聞こえる声が突如として響く。
 それはもちろんユウキやノクトたちにも聞こえたが……

 「私が出て参ります。皆様はそのまま寛ぎになっていてください」

 動揺した様子もないエリーゼがそう言って出ていく。

 「……なんだか面白そうな予感がしないか?」

 するとチェスをしていたグレイが、向かいに座って小難しそうな顔をしてチェス盤を見つめていたリアナに問いかける。

 「アレを面白そうと言えるお前の神経がわからん。アヤトやエリーゼのように不気味な雰囲気を感じる。この感覚がアヤトと同じ実力を有しているというのなら……」

 リアナが言葉をそこで区切ると、大きく溜息を吐いて近くでリアナたちの様子を見ていたチユキを見る。

 「なんだか、お前に会ってからロクな目に遭ってないのは気のせいか?本当は悪魔なんじゃなく疫病神とさえ最近は思えてくるんだが……なぁ、チユキ?」
 「えー?それは元々あなたの運がなかっただけの話しよ。それを言うなら、あたしに会う前に息子ちゃんを召喚されて取られちゃってたんだから。ねー?」

 チユキは同意を求めながら、チェス盤を覗き込もうとしていたベルの頭を撫でる。
 それを見たリアナは頭に血管を浮かせて「汚い手で触るな!」と叫ぶ。

 「何はともあれ、ちょっとワシも様子を見に行こうかのう!」
 「あっ、貴様!逃げるつもりか!?」

 先を立ち上がって部屋を出て行こうとするグレイの後をリアナが追う。

 「あれ、皆さんどうしたんですか?」
 「みんな、お外に行くの?エリーゼ様もお外に行ったの。お客様なの?」

  そこにノクトと、洗濯物を持ち運んでいたウルとルウが現れる。

 「でもエリーゼ様、怖い顔をしていたです。敵です?」
 「おー、どちらになるか……それを確認しに行くのよ。嬢ちゃんたちも行くか?」

 グレイがウルたちに問いかけると、ウルとルウは首を横に振る。

 「まだお手伝いが残ってるの」
 「お手伝いはしっかり終わらせてからです!」
 「しっかりしとるなぁ……」

 しみじみと言いながら玄関に向かうグレイ。
 ノクトはウルたちの手伝いをしようとするが……

 「僕も手伝おうか?」
 「ダメです」
 「ダメなの」

 遠慮ではなく拒否されたことに驚くノクト。

 「家事はメイドさんのお仕事なの」
 「ノクト様はゆっくりするお客様です。だから手伝っちゃダメです!」

 するとウルとルウは洗濯物を持ったまま、逃げるように走り去ってしまう。

 「……ハハッ、あの歳で「家事は仕事」か。凄いな……将来、エリーゼさんみたいな人になるのかな?」

 苦笑いを浮かべながら玄関の方へ歩き出すノクト。
 ノクトが外へ出ると、すでに緊迫した空気が流れていた。
 原因は玄関から出た先に立っていたアリスとノワールだったようで、ノワールが怒りの表情を浮かべている。
 様子を見ると言って出て行ったはずのエリーゼはノワールの斜め後ろで待機しており、その様子を凛として見守っていた。

 「貴様のような狼藉を働くような虫に会わせる者はいない。即刻帰れ」
 「人間ではない、か……悪いが引く訳にもいかない。その『狼藉』のことを謝らねばならないからな。だからお願いだ、彼に……アヤトに会わせてくれ」

 ノワールの圧にも負けず一歩も引こうとしないアリスに、グレイたちから「ほぉ……」と感心の声が零れる。

 「ノワール相手に一歩も引かんとは、中々やるのぅ、あの人間は?」
 「はっ、どうせそいつの実力も見極められない愚か者だろう。無駄に煽って死ぬだけさ」
 「お前が言うか」
 「あぁん!?」

 グレイとリアナが軽い口論になるのを他所に、ノワールたちの睨み合いは続く。

 「ならばやることは一つ……不法侵入者には死あるのみだ」
 「ノワール様」

 殺意を剥き出しにして一歩を踏み出したノワールに呼びかけるエリーゼ。
 ノワールは不機嫌な顔のままエリーゼの方を向く。

 「アヤト様が敢えてこの方を生かしたのには意味があるのではと……ここは私にお任せしていただけないでしょうか?」
 「……たしかにそうか。安易な行動を取らずに済んだ、礼を言おう」

 ノワールの表情が穏やかになり、黒かった目が白に戻る。
 そんなノワールに会釈で返すエリーゼ。
 そして選手交代という風にノワールが下がり、エリーゼがアリスの前に立つ。

 「アリス・ワラン様、まず最初にアヤト様は現在ここを留守にしております」
 「そう、だったか……だったらアヤトが帰るまで待たせてもらってもいいか?」
 「それは承諾しかねます」

 アリスの提案をエリーゼは否定する。

 「アリス様はここの方々、そしてアヤト様の他の知人友人傷付けました。そのような方を軽々とお屋敷に上げるわけにはいきませんので……」
 「む……それもそうだな。ならばまたの機会に出直すか……」

 「ふーむ」と悩むアリスに、チユキが近付く。

 「それじゃあ、あなたたちちょっと戦ってみない?」
 「……は?」
 「はい?」

 チユキの提案に眉をひそめるアリスと、首を傾げるエリーゼ。

 「聞いた話だとアリスちゃんって、アヤト君を殴り飛ばしたんでしょ?だったらどっちが強いのかなって気になっちゃうのよね~」

 そう言ってクフフと笑うチユキ。
 その言葉を聞いたアリスとエリーゼは顔を見合わせる。

 「このメイドさんは強いのか……?」
 「強いわよ?アヤト君程じゃないけど、それに近いくらいには、ね……エリーゼも興味あるんじゃない?」
 「……」

 チユキの言葉にエリーゼが表情を変えないまま、しばらく黙り込む。
 そして少ししてから口を開いた。

 「正直申しますと、あります。強者が目の前にいると、どうしても手合わせしていただきたいという『欲』が出てきてしまいます」

 次の瞬間、エリーゼの雰囲気が変わる。
 見た目は変わらないはずのエリーゼの周りに漂うピリピリとした雰囲気に、ノクトが息を飲む。
 アリスもエリーゼの様子を見て、冷や汗を流しながら笑みを浮かべていた。

 「は……はは……これはたしかにアヤトと同じ……」
 「アリス様、に手合わせをしていただいてよろしいでしょうか?」

 エリーゼはそう言うと、裾に隠していた杖を出す。
 手品のようなエリーゼの芸に、グレイたちからどこに隠していたのだろうかという驚きの声が上がる。

 「そうだな、アヤトを待つ暇潰しに丁度良さそうだ。ぜひ相手になろう!」

 アリスはそう言うと、スタートダッシュをしようと片方の足を半歩下げる。
 しかし先に踏み出して攻撃を仕掛けたのはエリーゼだった。
 ほとんどの者が見逃してしまうほどエリーゼの動きは早く、離れていた距離を詰めるのはあっという間で、アリスも度肝を抜かれた表情をする。
 先手を取ったエリーゼは突きと払いの目にも止まらない連撃を行う。
 アリスは当たる前に回避しようと反射的に後方へと跳ぶが、すでに肩へ一撃貰っているのに気付く。

 「っ……!?」
 「ほとんど外してしまいましたか。その反応速度……どうやら旦那様相手に善戦したというのは嘘ではなさそうですね」
 
 エリーゼはさらに追撃しようと前に出る。
 アリスもすぐに体勢を立て直し、迎え撃とうと拳を握り締めた。
 互いが接触し、爆発するような轟音が周囲に何度も鳴り響く。
 実力は僅かにエリーゼが上らしく、アリスが何度も攻撃を受けて吹き飛ばされているのが全員の目に移る。
 そんな音を聞いて、部屋に待機していたユウキやエリも気になって表に出て、エリーゼたちの戦いを目にして驚く。

 「な、何だし、これ……?」
 「うおー……なんか、昔に見たことある光景なんだけど。エリーゼさんと戦ってるのってアヤトじゃないよな?誰だ……?」
 「ちょっと!一体何事だい!?」

 全員が困惑したり楽しそうに観戦している中、学園長のルビアが慌てた様子でやって来る。

 「おぉ、ルビアか!少しお邪魔してるぞ!」
 「えっ?えっ?アリスさん!?」

「どうしてここに!?」や「何してるの!?」と状況が把握できてないルビアが誰よりも混乱してしまっていた――

 ――――

 「というのが、事のあらましじゃな」

 グレイの証言も加えて事情を話してもらい、大体理解した。

 「つまりチユキがまたしょうもない提案をしたせいでこうなってると?」
 「だぁってぇ~、気になったんだもの!」

 さっきまでグレイたちとエリーゼらの戦いを観戦していたチユキが、カイトの背中に虫のように張り付いてそう言い始める。
 カイト本人はチユキの奇行に対して諦めたというより、この壮絶な攻防に目が釘付けになって気にしてないようだった。

 「でも正直、ここまでとは思わなかったわ。アヤト君ほどじゃないと思って油断してたけど、考え直さないといけないわね」

 チユキは笑みを崩さないまま、舌なめずりをしてそう言う。
 それを言うならノワールやチユキ、竜を相手にできるのかも見てみたい気がするがな。
 という前に、この戦いも見る価値はある。
 俺はアリスに対して戸惑って遅れを取ったが、俺以外とはどれだけやり合えるかも知りたい。
 シトがこの世界での最強と言っていたアリスと、俺のように元の世界で達人と呼ばれたエリーゼと……
 などと考えてる内に、彼女らの戦いが終わりそうだった。
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