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武人祭

報酬は誰に

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 「あっ、私も要らないですね」

 あたしが手を振って受け取りを拒否してランカも同意すると、ジェイを含めた冒険者全員が驚いの声を上げる。
 カイトたちは同じようなことを思っていたようで、あまり驚いてないようだった。

 「まぁ……俺たちは何もしてないからいいですけど……いいんですか、フィーナさん?」
 「そうだぜ、フィーナ。今回、あの大量のカエルを倒したのも、くっせーカエル倒したのもフィーナとランカじゃねえか?」

 カイトとメアが遠慮気味にそう言うが、あたしは気にせずお酒をもう一杯おかわりで頼み、ランカは首を横に振って否定する。

 「お金とか要らないです。居候の身なので衣食住には困ってませんし」
 「あたしも。なら、あんたたちが貰った方が嬉しいでしょ?」
 「でも……」

 中々納得しようとしないジェイたちに苛立ったあたしは、その持っている袋から銀貨を何枚か貰う。

 「だったら……はい、メア」
 「……俺?」

 あたしが差し出した銀貨数枚の意味がわからない様子のメアが、間抜け面で固まっていた。

 「あんた、冒険者らしく魔術を発動してる最中のあたしを守ろうとしてくれてたじゃない。その代金よ」
 「あ、ああ、そっか。そう、だよな……俺、冒険者っぽいことしてるんだよな」
 「『っぽい』じゃなくて、仮とはいえ冒険者でしょ、今のあんたは」

 そう言うと、メアは少し嬉しそうにニヤける。
 その様子を見てあたしはクスリと笑い、ジェイたちの方に顔を向ける。

 「じゃあ、もしあんたたちが本当に報酬を譲っていいって言うんなら、あの魔石をあたしにくれないかしら?」

 あたしが放った発言に、周りが一気にざわめく。
 そりゃあ、そうよね。いくらあたしたちが依頼を達成したようなものだと言っても、金貨が二桁に相当する価値あるものを丸々譲れだなんて、そうそう承諾できるものではない。
 普通の冒険者……いえ、冒険者でなくとも理不尽と感じてしまうだろう。
 しかしジェイたちの返答は――

 「はい、いいですよ!」
 「……はぁ?」

 その返答が理解できず、あたしは思わず眉をひそめて威圧するような声を出してしまった。
 それが怖かったのか、ジェイたち二人の肩が僅かに跳ねる。

 「さっきも聞いたでしょ?あの魔石は、売ればあんたらが今手にしてるものよりも遥かに高い金額になるのよ……それをそんなあっさり手放しちゃ……」
 「いいんです。アヤトさんには凄くお世話になりましたから……この装備だってアヤトさんから貰ったもっと凄い高額の報酬で揃えたんです。だからアヤトさんには恩がありまして……」

 ……そっか、だから雰囲気に似合わず良い装備をしていたのね。
 これで合点がいったと言える。だからこいつらはあっさりと魔石を手放すと言えてしまえるのか。

 「なら、遠慮なく貰っとくわ。ということで、買取は無しね」

 そう言って受付に置いておいた魔石を持ち上げると、サリアがとても残念そうな表情をしていた。

 「あっ……半分だけ買い取らせてもらうことはできませんかね……?」
 「バカ。魔石を無造作に割ったら価値がなくなるでしょうが!」

 サリアの発言に、ミーティアが薄い板を縦にして彼女の頭に振り下ろし、コンッといい音が鳴る。アレはさすがに痛そう……
 だけどミーティアの言う通り、その手の道を極めた職人が手を施さなければ、魔力の宿っていないただの砕けた綺麗な石ころと化してしまう。
 例えば……そう、物作りに精通した亜人のドワーフでもなければ……

 「ですが、本当によろしいですか?今取ってきた新鮮な状態であれば高額の取引ができますが、時間が経過すれば劣化してしまい、最悪取引額が銀貨数枚となってしまいますが……」
 「いいのよ。だって自慢するために持ち帰るんだもの」
 「「えっ……?」」

 あたしはそう言ってニッと笑う。するとなぜか周囲の冒険者が黙り、静まり返る。
 ま、かなり貴重な魔石を、自慢するためだけに持ち帰るなんて普通考えもしないものね。

 「さっきも言ったけど、お金には困ってないの。冒険者登録も済ませたし……」
 「つまりアレですか……師匠に褒められたいと?」

 その発言にあたしは目を見開き、カイトを見て固まる。
 すぐに「違うに決まってる」と否定しようとしたが、その前に周囲の冒険者や受付嬢たちが「あー……」と納得したような声を漏らしていた。

 「なるほど、それなら納得ですね!」
 「旦那へのプレゼントか……粋なことをするねぇ」
 「いやいや、プレゼントが金貨数枚の魔石って……粋ってレベルじゃねぇぞ?」
 「そうだなー、まるで告白するみたいな……」

 冒険者の一人が呟いた言葉にメアたち以外にいる冒険者や受付の女たちの目の色が変わる。

 「キャー、告白!?本当に!?」
 「さっきはあんなこと言ってたけど、実はそういう?」
 「いやー、逆に好きだから突き放しちゃうとかじゃない?照れ隠しよ、照れ隠し!」
 「そんなわけないでしょ、この頭花畑のバカ共!」

 凄まじい勢いで勘違いが始まりそうになっていたので、一喝して流れを止めようとする。
 しかし一度暴走した妄想は止まらないらしく、瞬く間にあたしは十人くらいいた女たちに囲まれてしまっていた。
 一人があたしの両手を掴んで握り、顔を近付けて迫ってくる。

 「私、魔族って好きじゃないけど、恋する女の子なら話は別……あなたのこと応援してるから!」
 「えー、応援しちゃうの?私もあの人いいなーって思ってたのに……」
 「なら誰が成功してあの人の心をモノにできるか、賭けてみる?」
 「あんた、彼氏いるでしょーに?」

 なぜかあたしを蚊帳の外にして勝手に盛り上がる女たち。
 もう……ツッコむのも疲れたわ……

 ――――

 あの後はもう言わせっぱなしで、やっと解放されたあたしはカイトたちと共に帰路へ着いていた。

 「ったく……なんで女ってああもかしましいのかしら?」
 「女の俺たちがそれを言っちゃうか」

 あたしの言葉に二ヒヒと笑いながらふざけ半分で返してくるメア。
 あたしやメア、リナはそういった話題になってもあまり騒がないのよね……ちょっと鬱陶しい返しをしてきたりはするけど。

 「それよりも、少し失敗したな。帰り道は歩きとは……」
 「何がですか?」

 面倒臭そうにボヤくメアに、カイトが反応する。
 面倒臭がり屋なところがあるメアが言いたいことだ。なんとなく予想できる。

 「どうせ、来た時と同じように帰りも空間魔術で帰れたらいいなーなんて思ってんでしょ?」
 「おー、正解!やっぱこっから学園の屋敷までって距離あるじゃん?」
 「まぁ、帰り道の話をしなかったですし……師匠なら『これも修行だ』なんて言いそうですけどね」

 軽く笑ってそう言うカイト。
 ただ、こいつらは忘れてるかもしれないけど、今のあたしたちには精霊王もノワールの影も付いてる。
 精霊王がアヤトに話を通すなりノワールに直接連絡なりできると思うのだけれど、今すぐに屋敷に行ってアヤトがいるわけでもないから特に急な用事もないし、ゆっくり歩いて帰るとしようと思う。
 ……たまにはこういう時間もあっていいんじゃないかと思えてくる辺り、着実にこいつらに毒されてきてるわね、あたしも……
 バカな雑談をしながら学園の敷地近くに着く。
 ここの寮に住んでいる奴らが出入りする正面玄関から堂々と入るわけにもいかないから、少し高い壁を登ることにした。
 風の魔法を使って跳躍力を上げてジャンプして乗り越える。なぜメアも自分もやりたいと言い出したので、どうせだからと全員に風の魔法を出してあげて同じように飛び越えさせる。
 そしてあたしたちが住む屋敷へと着いた……のだが。

 「ああ、もう……なんでこんなことに……」

 その屋敷の前で、ここに立てられているコノハ学園の責任者であるルビアとかいう小柄の少女が腕を組んで立っていた。
 いや、ルビアだけじゃない。ユウキやエリ、他の奴らも見学するかのように外に出て、何かを見守っていた。
 何かに困っているようにも見えるが……

 「あれ、学園長じゃないですか?それにユウキさんや竜の人たちも……」
 「おーい、学園長――」

 カイトがその少女に気付き、メアが呼びかけながら走り出そうとする。
 しかしその前にあたしたち目がけて何かが飛んできて、爆発したかのようにあたしたちの後方の地面へ着弾した。

 「うおっ、危なっ!?」
 「何!?」

 あたしたちはそれに驚いて声を上げてしまう。

 「おや、おかえりなさいませ、皆様」

 飛んできたものを見ようとする前に、誰かが声をかけてくる。ここにメイドとして働いているエリーゼだ。
 こいつがあたしたちを攻撃してきた……?というには敵意を欠片も感じない。

 「いたた……まさかアヤト以外に吹き飛ばされるとはな」

 すると今度は何かが飛んでいった方向から聞いたことのある声がする。
 振り向くとそこには、先程ギルドから出て行ったはずのアリスがボロボロの状態で地面に尻もちを突いていた。
 もう……今度はなんなのよ?

 ――――

 新年号「令和」となりました。
 作品を載せ始めて書籍化をしているうちに年号を跨ぐこととなりましたな……
 まだ軌道に乗り切っていないのですが、この作品を書籍共々これからもよろしくお願いします!
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