最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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4巻

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 第1話 飛ばされた先


 気が付くと、真っ白な光に包まれていた。
 目の前にいた仲間たちが次々と光に包まれて消えていく中、俺、小鳥遊たかなし綾人あやとは一番近くにいたメアに手を伸ばし――次の瞬間、視界が暗転した。


 高校生だった俺はある日、神を名乗る少年シトの手により異世界へと連れてこられた。
 その理由は、俺が世界最強だったから。
 俺は元々トラブル体質だったのだが、シトいわく、それは必ず死をもたらす『悪魔あくまのろい』と、寿命以外の死を回避かいひする『かみ加護かご』というものが原因だったらしい。
 そのおかげで何度も生死の境を彷徨さまよう羽目になり、武術一家だったことも相まって、過剰かじょうなほどにきたえられた、というわけだ。
 ともかく、そんな「世界最強」を自分の世界に呼んだらどうなるか気になる、なんて理由で、俺は剣と魔法の世界に招待されたのだった。
 それから俺は、猫の獣人ミーナややんちゃなお姫様のメア、人型に進化した元籠手こてのヘレナといった仲間と出会い、行動を共にするようになった。
 それからも、魔族のフィーナに『災厄さいやく悪魔あくま』と呼ばれるノワール、各属性の精霊王たちに、奴隷どれいとして売られていたのを助けた魔族のウルと亜人ルウ。そして通っていた学園の後輩であるカイトやリナ、元日本人のエリーゼなど、たくさんの仲間が集まり、俺たちはにぎやかな日々を過ごしていた。
 そんな中、俺を勇者だと誤解した魔王グランデウスを倒すため、そしてフィーナの上司で元魔王のペルディアを助けるため、俺たちは夏休み初日から、魔族大陸に乗り込んだ。
 そしてそこで、隣国で勇者召喚されたという地球出身の少年ノクトとその一行、ガーランド、シャード、アーク、セレス、ラピィと出会う。
 魔王打倒のため、行動を共にすることになった俺たちだったが、森の中でギュロスという名前の魔物を倒した直後、謎の光に包まれたのだった――


「『――こうして小鳥遊綾人の冒険は幕を閉じた』……なんてことにならないよな?」

 真っ暗な視界の中、おどけた調子で発した言葉はやけに大きく、どこか反響はんきょうして聞こえた。
 まぶしさに閉じていた目をゆっくり開けて周囲を確認すると、真っ暗な空間に立たされていることが分かった。
 まずは周囲に何があるのかを確認する。
 目をらすことで辛うじて見えたのは、ゴツゴツとした凹凸おうとつのある岩壁。
 それから、身じろぎすることでジャリッと鳴る地面、すぐ近くから聞こえる水滴すいてきの落ちる音……

「あー……」

 一通り近辺の状況を確認したところで、今度はより広い範囲を声を使って調べてみる。
 自分の声をソナー代わりにして、反響から大まかな構造を割り出すのだ。
 その結果分かったのは、どうやらここはどこかの洞窟どうくつの中らしいということ。
 そして今俺がいるのは、前後に続く長い通路の途中だと思われる。
 後ろの方は道が続いているが、俺の正面の方向にこのまま真っ直ぐ進むと、開けた場所に出るようだ。
 しかもそこには、動く何かが複数いるっぽい。
 大きさもそれなりだし、恐らく魔物か何かだろうが……
 というか、他に人の気配がないということは、メアやカイトたちともはぐれたか。
 それに、もう一つ気になることもある。

「ココア? オルドラ?」

 やみと光、それぞれの属性の精霊王二人の名を呼ぶが、返事はなかった。
 他の属性の精霊王であるルマやキース、シリラ、オドにアルズも反応がない……
 ギュロスと戦う前、俺が作った空間である魔空間から出る時は体の中に入っていたはずだが……何かあったのか?
 そうだ、ヘレナとノワールへの念話はどうだ?
 そう思って意識を集中してみるが、こちらも返事はなし……なんか携帯けいたい電話でんわの電波が届いてないみたいな感じだな。
 どちらにしても、今ここにいるのは俺一人だけのようだ。
 さて、このまま前に進むか、振り返って後ろに行くかだが……正面側の先の方、開けた場所が気になるんだよな。

「だったら、行って確かめるしかねぇわな」

 俺はそうつぶやくと、後頭部をポリポリときながら進んでいく。この短時間で目が暗闇に慣れたので、躊躇ちゅうちょなく歩くことができた。
 数分も経たないうちに、目的地である開けた場所に到着する。
 そこにいたのは、カサカサと音を立ててうごめく大量の何かと、その近くの岩壁にはりつけにされて動かない人らしき影だった。

「んー、あっちの影を確認したいけど、この押さえ付けられてる感じ……まだ魔法も使えないだろうな」

 魔空間から出た際、魔法や魔術が使えなくなる結界が張られている感覚があったのだが、その結界は生きているようだ。
 となると空間魔術が使えないから、収納庫から何か取り出すのは無理。
 ……ま、素手でもなんとかなるか。
 俺は気を取り直して、一歩を踏み出す。
 するとその足音が聞こえたのか、蠢いていたものが動きを止め、ザッと統率の取れた動きでこちらに顔を向けた。
 そして俺がもう一歩踏み出すと、そいつらは一斉に動き出してこちらに向かってくる。
 よく見ればそいつらの姿は、ありに似ていた。
 ただ普通の蟻よりはるかに大きく、体格に見合ったかなりの速度で迫ってきている。
 いつもなら適当に一発目をらわせるところなのだが……もしここが地下深くだったら、下手をすれば俺の攻撃で地盤じばん崩壊ほうかいして、生き埋めになってしまうかもしれない。
 とすると……アレしかないか。
 俺はすかさず、蟻の群れを威嚇いかくする。やり方は単純、魔力を相手にぶつけるだけだ。

「ギ? ギッ……!」

 威圧されて、蟻たちは一気に動きを止めた。
 体も震えているし、やはり魔物と言えど生存本能には逆らえないのだろう。

「……」

 その蟻たちに向かって、俺は威圧を発したまま更に一歩近付く。
 たったそれだけで、蟻の大軍は蜘蛛くもの子を散らすようにして逃げていった。気配も全くなくなったが……俺が来た方向以外、人が通れそうな道はない。どうやら、壁にアリ専用の通路となる穴があるようだ。

「……よし、これで前に進める」

 俺は蟻がいなくなった広場を進み岩壁に向かっていく。
 ある程度近付くと、磔にされていた人影の特徴が暗がりの中でもぼんやりと見えてきた。
 性別は女、かみは白で、肌の色は青……ってことは魔族か。
 目は開いていないが、整った顔立ちをしている。
 四本のくいに手足を貫かれて壁に打ち付けられているようだ。
 ……うん、とりあえず下ろすか。ジロジロと見ているのも失礼だし、磔にされたままってのも可哀想だ。
 そう思って杭に触れた途端、妙な感覚に襲われる。

「この地味に力が抜ける感じ……魔力が吸い取られてるのか?」

 目に魔力を集中させてその流れを確認できるようにすると、たしかに杭に吸われていた。
 そりゃあ、こんなものをぶっ刺されてたら抵抗もできないよな。
 とはいえこの程度の吸収スピードなら、俺には特に問題ないのであっさりと杭を抜き、女を寝かせてやる。

「うぅ……」

 女はうめごえを上げるが、意識が戻る気配はない。
 外傷も、杭に貫かれていた部分以外は蟻にまれたらしきあとがいくつかある程度で、重傷というほどではない。
 しかし放っておくわけにもいかないし、回復魔術を――あっ。
 ここ、魔法、魔術が使えないやんけ……
 完全にうっかりしていた。最近頼りっきりですっかり油断してたな……
 しょうがないので、マントを少し裂いて包帯代わりにして巻く。それから、女は申し訳程度のボロ布を着ているだけだったので、そのままマントを羽織はおらせてやった。
 ここまでしても起きなかった女を背負い、俺は来た道を戻ることにした。
 相変わらず暗く、先のにくい道を走っていく。暗いとはいえ、俺は結構夜目がきく方だし、音の反響でだいたいの道の形や足元に何があるかくらいは分かるので、それなりの速度を出せる。
 途中何度か別れ道があったので、かんでどちらかを選ぶ。
 それを何度か繰り返すうち、どうやらここが迷路になっているらしいことに気付いた。
 行き止まりになっていたり、見覚えのある道に戻っていたりしたのだ。
 何とか先に進んでいくうちに、今度はさっきとは違う大部屋に出た。
 先ほどよりも広い。ドーム型の野球場なんかよりも広いんじゃないだろうか。
 しかもよくよく目を凝らせば、食われかけの魔族っぽい死骸しがいがそこら辺に転がっている。何かの住処すみかのようだが……あまり考えたくないな。
 するとその時、奥の方から二人分の足音が聞こえてきた。

だれかいるのか?」

 試しに声をかけてみる。
 人か魔族か……魔族だったら厄介なことになりそうだと悩む俺に対し、返事がきた。

「だ、誰ですか!?」

 ん? この声はカイトっぽいな。
 それじゃあ、もう一人は?

「落ち着いて、カイト。今の声は多分、アヤト」

 大声をいさめる冷静な声。こっちはミーナか。

師匠ししょうなんですか?」
「ああ、お前らの、みんな大好き師匠様だ」
「うん、アヤトだ」

 カイトの疑問に対する俺のふざけた返答を聞き、ミーナが確信したような声を上げる。
 俺がそちらに向かって歩き出すと同時に、カイトとミーナも走り出したのが分かった。
 途中、カイトの「ひぐぅっ!?」という声と転んだような音が聞こえたが、ミーナは立ち止まらずに走り続け、俺の胸に飛び込んでくる。
 それを受け止めると、ミーナは顔を上げて微笑ほほえみを浮かべた。
 褐色肌かっしょくはだの小柄な体から生えている猫耳に尻尾しっぽ。ああ、たしかにミーナだ。

「さっきぶり。無事に会えてよかった」
「そうだな、まずはミーナとカイトを確保だ……カイトだよな?」

 その問いかけに、顔が分かる距離まで近付いてきていたカイトがうなずく。
 転んだ際に顔でもぶつけたのか、鼻を押さえながらフラフラしている。

「は、はい、師匠もお元気そうで何よりです……」

 鼻声でそう言うカイト。

「他の奴らは?」

 メアや他のメンバーのことを聞くが、二人とも首を横に振った。

「俺もミーナさんも、飛ばされた時は一人だけで、他の人たちは周りにいませんでした」
「そうか」

 二人が一緒だからもしかすると、と思ったが、全員が偶然近くにいるなんて上手い話はないらしい。
 どうしたものかと思っていると、ミーナが首を傾げて聞いてきた。

「アヤトは一人ぼっち?」
「ぼっちって言うな。ちゃんともう一人背負ってるし、ちょっと迷子なだけだ」
「師匠が迷子って言葉を使うと違和感が……って、背負ってる? 誰をですか?」

 カイトの疑問に背中を向けて、魔族の姿を見せる。
 少し問い詰めたいことを言われた気もするが、今は流しておくとしよう。

「魔族……もしかするとその人が、フィーナさんが探してるペルディアさんかもしれないですね」
「だったらいいんだけどな……どちらにしろ酷い状態だったから助ける」

 カイトの楽観的な発言に、俺は溜息ためいききながら答える。
 すると、俺の背の魔族が包帯を巻いていることに気付いたのか、ミーナが首を傾げた。

「まだ魔術は使えない?」

 どうやら回復魔術を使っていないのが疑問だったようだ。

「みたいだ。結界の範囲は魔族大陸全体だって話だから、逆に言えばここはまだ魔族大陸ではあるってことだとは思うんだがな……」

 とはいえ、結局は「大陸」だ。どれだけ広いのかも分からない。
 最悪の場合、フィーナが言っていた「歩いて七日」という距離が、一ヶ月や半年に延びるような場所まで飛ばされている可能性だってあるわけだ。
 まあ仮にそうだとしても、俺が本気で走っていけば、さほど時間がかからずに魔王グランデウスが住む魔城まで辿たどけるはずである。フィーナがいない今、道案内は背負っている魔族に頼むことになるがな。
 俺の速度にミーナとカイトは付いてこられないだろうけど……後で回収すればいいか。
 問題はメアたちだ。
 現状行方ゆくえが分からないのは、メア、リナ、フィーナ、ヘレナ、ノワール、それからノクトたち一行。
 ヘレナとノワール、ノクトは実力的に問題ないだろうし、ガーランドやアークたち……は正直どうでもいい。
 フィーナは魔族だから、元魔王の側近ってことがバレたり、あいつから仕掛けたりしない限り、同じ魔族に襲われるなんてことはそうそうないだろう。
 ただ、メアとリナはかなり心配だ。
 とにかく今は、フィーナには申し訳ないけど、ペルディアよりもメアとリナを優先的に探した方がいいだろう。

「そういや、カイトたちって向こうから来たよな?」

 カイトがやってきた方向を見て、話を切り出す。
 声の反響からすると、その先は真っ直ぐな道が続いているらしい。
 まさか、行き止まりなんてことはないだろうが……

「はい、丁度通路の真ん中に立っていたんですけど、適当な方向に歩いていたらミーナ先輩と師匠に合流したってわけです」

 なるほど、つまりカイトが向かわなかった方向には、道がまだ続いてるはずってことか。
 さすがにどっちに行っても行き止まり……なんてことはないよな?

「とはいえ、本当に閉じ込められてたらどうしようか……」
「何か言いましたか?」
「……いや、なんでもない」

 俺の呟きに、カイトが不思議そうに聞いてくる。
 あくまで推測の域を出ない考えを言って、無駄むだに不安にさせる必要はないだろう。
 とにかく、カイトたちが来たという道に戻ろうとする。しかし――

『グウゥッ……!』

 その道の奥からうなるような声が聞こえ、カイトが「ヒッ!?」と小さく悲鳴を上げる。

「な、なんですか、今の声は……?」

 カイトのおびえた声に応えるように、ミーナが鼻をスンスンと鳴らす。
 犬ほどではないとはいえ、猫の嗅覚きゅうかくは人間より上だ。においで相手を確認しているのだろうか?

「うん、何かいる。おっきな動物が――っ!」

 そこまで言ったミーナは、何かを感じ取ったのか焦った様子で振り返り、俺の後ろを見る。
 それと同時に俺の耳にも、前方からの謎の唸り声とは別に、俺が通ってきた道からカサカサという音が届いた。

「キィィィィッ!」

 そんな鳴き声を上げながら近付いてきているのは、さっきの蟻たちのようだ。まだ遠いからはっきりは見えないが、明らかに数が増えている。

「あれは……まさかGアント……!」

 ミーナが目を見開いて呟く。え、Gがなんだって?
 Gってまさか、あの『一匹見たら三十匹はいると思え』なんてよく言うGのことか? にしても三十匹どころか数百匹いるじゃねえか。
 しかもカイトたちが来た通路の方からも、ドスドスと地面がれるほどの足音が着実に近付いてきていた。
 先に接近したのは蟻の方だった。姿がはっきり見えるほどの距離になり、あまりのおぞましさにミーナとカイトが悲鳴を上げる。
 しかしもうあと数メートルという距離になった時、異変が起きた。
 蟻たちはキシキシと不快な音を発しながらも立ち止まり、それ以上近付いてくる様子がなかったのだ。
 そして直後、今度は地鳴りを発生させている原因も姿を現した。
 くまである。
 しかしそれは熊というにはあまりにも大きすぎた……いや、ホントにデカいな。
 なにせ三階建ての一軒家ほどのサイズなのだ。
 蟻たちが足を止めたのも、恐らくこいつの存在を感じ取ったからだろう。
 蟻どころか、ミーナとカイトもすっかり足がすくんでしまっているようだった。

「ダディ……ベアー……!」

 ミーナが歯をカチカチ鳴らしながら言う。
 ダディベアーっていうのか。ダディって何だ、こんな父さんは嫌だぞ。
 なんてくだらないことを思っていると、ダディベアーがゆっくりと口を開いた。
 咆哮ほうこうでも放つのかと身構えたのだが……

『あんたら……何、勝手に人んちに土足で上がり込んでんのよっ!』

 その言葉と同時に、ダディベアーの口から、まるで台風のような風圧が俺たちに襲いかかってきた。
 カイトとミーナは完全に腰を抜かしてしゃがみ込んでしまい、蟻たちもほとんどが吹き飛ばされて、来た道を引き返していく。
 そんな中、俺は反射的に耳をふさぎながら、あることを思う。
 ……オネエ言葉?



 第2話 また勇者


 頭がガンガンと痛む。
 俺、メア・ルーク・ワンドは、茂みを掻き分けながら森の中を進んでいた。
 ギュロスとかいう魔物をぶっ倒してそのまま意識を失い、気付いたら一切見覚えのない、しかも誰もいない森の中だった。
 全く状況は分からなかったが、アヤトもミーナも他の連中も、俺一人残してどこかへ行ってしまうような薄情な奴らじゃない。
 ということは、アヤトたちか、あるいは俺自身に何かがあったんだろうが……ともかく、じっとしていてもしょうがないから、その場から動くことにした。
 太陽はそれなりに高い位置にあるが、東西南北が分からないから午前か午後かも判断できない。
 アヤトの魔空間から出たのは朝方で、それからすぐにギュロスと戦ったわけだけど、その疲れが取れてないってことは、翌日にはなっていないはずだ。
 しかしまぁ、頭の痛みと汚れが酷い。
 頭痛の原因はハッキリしている。


 ギュロスと戦っている時に、攻撃が当たった? 違う。
 結界のせいで魔法や魔術が使えない状態なのに、不思議な技で炎を出したから? 違う。
 つい先程、寝返りを打った時に木に頭をぶつけたのだ……目覚ましになったからいいけど。
 今着ているのは、どうでもいい服であるとはいえ、泥塗どろまみれな上に所々破れている。王女という身分なのにこんな格好は……なんて言うつもりはないけど、気分としては最悪だ。

「はぁ……風呂ふろに入りたい」

 ガサツだガサツだとは言われるが、綺麗きれいにしていたいという女の子らしさはある。
 歳の近い男がいれば尚更だし……いや、理由はそれだけじゃないけど。
 その「理由」に顔が火照ほてるのを感じつつ、俺は前に進む。
 腰にはアヤトからもらった刀をげている。
 抜けないようにさやつかしばっていたひもは既に千切れ、いつでも抜ける状態になっている。だけど、それを抜くのは躊躇してしまう。
 ギュロスとの戦いの最後に放った、刀を使ったあの一撃……やろうと思ってやったわけじゃない。
 アヤトから貰った大事なものが奪われると思ったら、何かが胸の底からあふてくるような感じがした。
 それに流されるまま、感情を爆発ばくはつさせた結果がアレだ。
 結界が張ってあるのにもかかわらず出せたってことは、魔法とか魔術じゃないのか?
 ……俺が考えても結論が出そうにないことは分かってんだけど、やっぱモヤモヤするよな。
 アレが自分の意志で使えたなら、こんな一人の状況でもあんま不安にならずに済むんだけど……ま、考えてたってしょうがないか。
 そう思った時、近くの茂みからガサガサと何かが動く音が聞こえ、思わず悲鳴を上げてしまう。

「ひっ!?」

 魔物? 魔族?
 どちらにしても、俺一人で戦うしかないか……?
 心臓をバクバクさせながら刀に手をかけ、その音の発生源が茂みから出てくるのを待つ。
 しかし、姿を現したのは意外な人物だった。

「……あ、れ……? メア、さん?」

 つたない言葉遣いの少女……リナだ。

「よか、った、やっと知ってる人、に、出会え――」
「リナアァァァァッ!」

 俺は仲間に出会えたうれしさを我慢がまんできず、リナが再会の言葉を必死につむいでいるのを無視して、思わず飛び付いて抱き締めてしまった。
 俺の唐突な行動にリナが「きゃっ!」と小さく悲鳴を上げるが、そんなことはお構い無しにほおを擦り合わせる。

「リナ、リナ……リナァ……」

 気付けば俺は、笑いながら涙を流していた。
 目が覚めたら一人ぼっちで、仲間も誰もいない。
 できるだけ考えないようにしていたが、やはり寂しく心細かったのだ。
 このまま誰にも会えなかったらどうしよう、と不安だったからこそ、リナと出会えたことで安堵あんどが溢れ出してしまったのだった。
 するとリナは、嗚咽おえつする俺の頭に手を置く。

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