最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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3巻

3-1

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 第1話 朝の騒ぎ


「ふぁ~あ……」

 俺、小鳥遊たかなし綾人あやとは、窓の外のくもぞらを見ながら大きく欠伸あくびをした。
 ここは、俺がで、幽霊騒動ゆうれいそうどうを解決した報酬ほうしゅうとして手に入れた屋敷の一室。
 今日は夏休み初日、つまりは魔族大陸に出発する当日なので、少し早めに起きて日課の鍛錬たんれんを行い、部屋に戻ってきたところだ。
『この世界』なんてもったいぶった言い方をしたが、今俺がいるのは、いわゆる異世界ってやつだ。


 俺はある日突然、神様を名乗る少年、シトによってこの異世界に連れてこられた。
 俺が選ばれた理由は二つ。一つは元の世界で一番強いから。もう一つは、『必ず死ぬ』という『悪魔あくまのろい』と、『寿命じゅみょう以外の死を必ず回避かいひする』という『かみ加護かご』の、相反する二つの特性を持っていたからだ。
 そもそも俺の生まれ育った小鳥遊家は、武術一家として表でも裏でも有名な一族だ。そんな一族に生まれれば、必然的に武術の達人となる。
 加えて二つの特性だ。『悪魔の呪い』のせいで命に関わるトラブルが降りかかってきて、『神の加護』のおかげでギリギリで死を回避する。
 そんな特性を持っていることを知らない俺は、日々トラブルに巻き込まれ、乗り越え、そしていつの間にか世界最強になった……とシトから聞いた。
 そんなわけでシトに選ばれて、全魔法適性MAXと『悪魔の呪い』の解除という二つの特典をもらい、この剣と魔法が飛び交う異世界へと降り立ったのである。もっとも、『悪魔の呪い』は完全には解除できなかったようで、トラブル続きの生活は、こちらの世界でも変わらなかったのだが。
 とはいえ最強な俺は大体のトラブルは力で解決できたし、この屋敷が手に入ったのもトラブル体質のおかげだ。その上、身分どころか種族すら違う仲間たちが増え、楽しく異世界生活を過ごすことができている。
 ……まあ、その体質のせいで現魔王であるグランデウスに勇者だと勘違いされて、学園の夏休み初日から、海を越えた先の魔族大陸に向かわないといけなくなっているのだが。


 ともかく、この屋敷に一緒に住んでいる皆と魔族大陸行きの打ち合わせをしないとな。
 そう思ったところで――

「おっはよー、アヤト! 今日もいい天気だよっ!」

 元気のいいどころではない金切かなきごえが響いてきた。あまりの騒がしさに思わず頭を抱えてしまう。
 声のした方に目をやると、赤、青、緑、茶色、黄色と、それぞれの色をした子供が計五人、ふわふわと宙に浮いていた。
 さっきの金切り声の発生源は、その内の赤い一人――アルズだった。
 このカラフルな子供たちは、それぞれが色に合わせた属性を持つ精霊王で、俺が名付け、契約を交わしたやつらだ。赤が火のアルズ、青が水のルマ、緑が風のキース、茶色が土のオド、黄色が雷のシリラである。

「おはよう。朝からやかましいな、お前は」
「元気だけがだからね!」

 意味を分かって言っているのか、そう答えるアルズ。今は朝の五時を過ぎたところ……こんな時間に大声を出したら、普通に近所迷惑になるレベルである。
 俺が契約した精霊王はもう二人いるのだが、こいつらと一緒ではないのだろうか。
 そんなことを考えていると、閉まっている扉をするりと通り抜け、丁度その二人がやってきた。
 俺よりも背が高く体格のいいおっさん、光の精霊王オルドラに続いて、褐色かっしょく肌にあおい髪を垂らし、黒い目に黄色いひとみを持った女、やみの精霊王ココアも入ってくる。

「おはよう、皆の衆! ワッハッハッハ!」
「おはようございます、アヤト様」

 オルドラはふざけた言い回しをして豪快ごうかいに笑い、ココアは上品に、静かに頭を下げる。
 両極端りょうきょくたんな二人に、俺は挨拶あいさつを返す。

「ああ、おはよう。オルドラはこの中で一番騒がしいな」
「ぬ、ぬぅ……?」

 俺の指摘に一歩引くオルドラ。そんなオルドラのことを指差して、アルズが笑う。

「やーい、言われてやんのー!」
「子供か、お前は……いや、見た目は子供だけどさ」

 こいつらはこんな見た目でも精霊王なのだ。実際にどれだけ生きてるかは知らないが、少なくとも人間の寿命ははるかに超えているだろう。
 一通り騒いで満足したのか、ココア以外の六人が俺の体の中へと入り込む。ココアは朝食の準備をすると言って、再び部屋の外へと出ていった。
 だれもいなくなって落ち着いたところで着替えようとしたのだが、ココアと入れ替わるように扉がノックされ、開かれる。その向こうには、二人の少女が立っていた。

「おはようございますなの、ご主人様!」
「おはようございますです、ご主人様!」

 そう元気よく挨拶してきたのは、メイド服を着ている青い肌の魔族の少女ウルと、巫女服みこふくを着ている赤い肌の鬼族の亜人の少女、ルウだ。
 こいつらは、この世界では不吉の象徴であるオッドアイを持っている。そのせいで奴隷どれいしょうで売られていたのだが、たまたまそれを見つけた俺が買い取ったのだ。
 ちなみにこの二人を買い取った後、奴隷商はつぶしてやった……いや、正確には『消した』と言うべきか。俺の魔術を使って、奴隷商のテントごと跡形もなく消滅させてやったわけだし。
 そんなわけでウルとルウを迎え入れたのだが、二人ともが俺のことを『ご主人様』と呼んでいる。俺たちは家族だ、って伝えたんだけどな……
 二人に「おはよう」と返してから、その話を振ってみた。

「なぁ、できれば俺を『ご主人様』以外の呼び方で呼んでくれないか?」

 そう伝えると、ウルたちは首をかしげる。俺の言っている意味が分からないようだ。

「ご主人様にご主人様じゃダメです?」
「ご主人様じゃないご主人様って何があるの?」

 ご主人様を連呼しすぎて、何を言っているか分からなくなりそうだった。
 混乱している二人に、別の質問をすることにした。

「お前らにとって、俺ってどういう立ち位置だ?」
「「立ち位置?」」

 二人は声をそろえて、不思議そうに返してくる。ちょっと聞き方が難しかったか?

「ほら、例えば兄とか?」

 なんて聞き方をしてみたけど、正直なところ、兄みたいな立ち位置だと言ってほしい。
 俺の言葉を受けて二人はしばらく考え込むような仕草を見せた後、ルウがハッとして顔を上げる。

「……お父様?」

 そんなルウの一言に、彼女の隣にいたウルは、なるほどと言わんばかりに大きくうなずく。
 俺はといえば、唖然あぜんとしてしまった。
 おと、お父様……父!? 俺まだ十八歳なのに……そんなに老けて見えるのか?

「なの。暖かく包み込んでくれるのがお父様っぽいの」
「良く言ってくれるのはうれしいけど、俺はまだそんな歳じゃないからな。せめて兄の方向にしてくれ……!」

 俺が懇願こんがんするようにそう言うと、二人は頷いてくれる。

「それじゃあ、兄様にいさまなの!」
「新しい呼び方、ワクワクです! ……あっ、そういえばノワール様から、お食事の用意ができてるから皆様に伝えてくれって言われてたです」
「そうか、ありがとな」

 俺は礼を言ってウルとルウの頭を同時にでた。
 するとルウが「えへへ」ととろけたような笑顔になり、ウルはくすぐったそうに首を縮める。

「兄様のナデナデ好きです~」
「ウルはちょっとくすぐったいの……」

 ひとしきり撫でてから手を離すと、ルウは寂しそうな表情になり、逆にウルは満足そうにしていた。
 それから二人が他の奴らも起こすと言って部屋から出ていったところで、俺はようやく着替え始める。黒を基調とした、いつもの冒険者装備だ。
 部屋を出てリビングに向かう途中で、メアとミーナの二人と鉢合はちあわせた。

「おっ、アヤト」
「おはー」

 先に声をかけてきたのは、ウェーブのかかった長い金髪と綺麗きれいな青紫色の瞳を持つ少女、メア・ルーク・ワンド。この国の王様の孫娘、つまりはお姫様である。
 そんなメアの隣で短い挨拶をしてきたのが、褐色肌に黒髪と赤い瞳、それから猫耳と尻尾しっぽが特徴的な亜人の少女、ミーナ。
 二人共、可愛らしいパジャマに身を包んでいて、髪がれている。

「おはよう、二人共起きてたか」

 俺が挨拶を返すと、メアが寂しそうに笑いながら答えた。

「おう、ミーナと風呂ふろに入ってきて、ちょうど上がったところだ」

 今上がってきたということは、ウルたちとはすれ違いになったのだろうか?

「こんな朝っぱらからか?」
「魔族の大陸に行くんなら、当分温かい風呂は入れないだろうからな。最後にゆっくりしようと思ったんだよ」
「アヤトもお風呂?」

 俺の質問に対するメアの返事に続いて、ミーナが首を傾げて聞いてきた。
 俺は入る気がない……というか、空間魔術を使って転移すれば、いつでもこの家に帰ってこられるから、特段今入る必要はないんだよな。
 ……そういえば、メアたちには空間魔術で移動できることとか魔空間っていう空間を作れることは説明してなかったか。まあ、必要になった時に説明すればいいか。

「いや、もう飯が用意されてるみたいだから、リビングに行く。お前らも早く来いよ」
「ああ、髪を乾かしたら行くよ」
「ん」

 そう返事したメアとミーナと別れ、リビングへと向かう。
 途中、トイレ付近の手洗い場の前を通りかかったところで、何やらめる声が聞こえてきた。

「ほら、早くしなさいよ」
「ちょ、いたっ……分かってます、分かってますかららないでください!」

 一体何をしているんだろうかとのぞいてみると、洗面台の鏡の前に立って顔を洗っているカイトと、そのふくらはぎを蹴り続けるフィーナがいた。
 カイトは俺の通っているコノハ学園の中等部一年生で、先日行われた学内対抗模擬戦で同じチームだった少年だ。俺の内弟子になって魔族大陸にも付いてきたいとのことだったので、昨晩のうちにこの屋敷に引っ越してきてもらった。元が寮住まいだったから、現時点では正確には退寮手続き中なんだけどな。
 ちなみに今日の服装は制服ではなく、白の半袖はんそでシャツに茶色のズボンと、ラフなものだった。
 そんなカイトの後ろからローキックを打ち込み続けているのが、紫色の長髪に二つの黒い角、そして青い肌が特徴的な、魔族のフィーナ。元魔王ペルディアの側近で、現魔王に俺が勇者だと誤解される原因を作った奴だ。
 どうやら暑がりらしく、へそ出しのタンクトップに股下またしたの短いホットパンツという、かなりきわどい格好をしている。

「……何してんだ、お前ら?」
「この声は……」

 顔についた泡を洗い流すために洗面台に伏しているカイトが声を上げると、フィーナがこちらに振り向く。

「あら、あんたも顔を洗いにきたの?」
「いや、通りかかったら、なんか聞こえてきたから覗いただけ。朝食の準備ができてるらしいから早くしろよ? あとおはよう」
「……ふん!」

 念のために挨拶してみたが、鼻を鳴らしてそっぽを向かれてしまった。れしくする気はない、か。
 そんなフィーナの態度に苦笑していると、顔を洗い終わったカイトも振り向き、笑顔を向けてきた。

「おはようございます、師匠ししょう!」

 声を張ったカイトの挨拶に『元気がいいなー』と思いつつ、その呼び方が引っかかった。昨日までは『先輩』呼びだったのに。

「呼び方、変えたんだな」
「はい、師弟関係になったんならやっぱり、こういうのがいいかと思いまして。でも、いきなりは変でしたか?」
「いや、いいんじゃないか? まずは形からって言うしな」

 色々と一新したことを自覚するのにも効果的かもしれない。
 俺自身、師匠と呼ばれてようやく『俺も弟子を取ったんだな』と実感しているのだし。
 そんな俺たちを見たフィーナは、あきれた様子でため息をく。

「朝から暑苦しいわね。ただでさえ暑いんだから勘弁かんべんしてよ」

 そう言いながら、手をうちわ代わりにして顔をあおぐフィーナ。
 しかし俺からすれば、この世界の夏は日本と違って快適な温度と湿度が保たれているのか、かなり過ごしやすい。シトが言ってた仕事ってのは、こういう気候の調整とかなんだろうな。

「ああ、そういえばご飯あるのよね? じゃあ、先に行ってるわ」

 そう言いながら俺の横を通り過ぎようとするフィーナ。
 あれ、顔洗うんじゃないの?

「ここ使わないんですか、フィーナさん?」

 俺の心中をそのまま代弁してくれたカイトに向かって、フィーナが嬉しそうに笑いかける。
 あ、こいつ……

「私はもうメアたちとお風呂に入った時に洗ってきたわよ」
「え……じゃあ、なんで俺、蹴られ続けてたんですか……?」

 フルフルと肩を震わせるカイトの疑問に、今度はいやらしい笑みになるフィーナ。

反応を見たかったからかっただけよ」

 それだけ言って洗面所から出て行く彼女を、カイトは唖然として見送った。

「師匠……なんだか足と心が痛いです」
「ここに住むんなら今のうちに慣れとけ、その痛み」

 多分フィーナはこれから先もことあるごとにちょっかいを出してくるだろうし、それに少なくとも、修業で心身共にきたえる痛みよりはマシだから。
 と、そこまで考えたところで、ふと疑問が一つ浮かんだ。
『これから先も』だなんて、フィーナとは長い付き合いになると考えているみたいだが、そもそも魔族の大陸に行った後、あいつがどうするかは確認していない。
 もしかしたら、そのまま向こうに残るかもしれないし……一緒に帰ってきてくれたらにぎやかでいいと思うんだがな。
 俺もなんだかんだ文句は言ってるけど、騒がしいのはそんなに嫌いじゃないしな。
 なにせ、この異世界に来るまでの十八年間の俺の人生で、友人と呼べるような相手はただ一人、新谷結城あらやゆうきだけだ。
 昔から俺の周囲は、呪いの余波で危険にさらされるのが常だったため、近付いてくる人間は皆無かいむだった。
 結城だけは、俺の不幸体質を面白いと言って気さくに絡んできてくれたが、それ以外の連中と大人数で騒ぐなんてことはなかった。
 だからこうやって、一緒に騒ぐ住人が増えてくれると、嬉しくなってしまうのだ。
 しかし結城は今頃、あっちで何してるんだろうな、心配かけてたら申し訳ないな。
 まぁ、この世界にいないあいつのことを考えていてもしょうがないか。
 俺は気持ちを切り替えて、カイトと一緒にリビングへと足を運んだ。




 第2話 にぎやかな食卓


 リビングに着くと、既に四人が食事のったテーブルについていた。
 メアとミーナとフィーナ。そしてもう一人。

「告。おはようございます。今日は卵やパンを使った料理のようです」

 俺の顔を見て一番にそう発言したのはヘレナだった。
 銀色のなまめかしい長髪、射抜くように鋭い瞳、体の所々にある黒いうろこが特徴的だ。
 胸がかなり大きいにもかかわらず、なぜか俺のワイシャツを着ているため、胸元がピッチピチだ。
 他の服も買い与えているのになんでわざわざ俺の服を着ているのか、それには理由がある。
 と、突然ヘレナが席を立ってこちらに近付いてきて、俺の体の匂いをはじめ……

「問。少々濃いいい匂いがするのですが、運動でもしましたか?」

 そんな変態発言をかましてきた。
 ……そう、こいつは匂いフェチなのだ。そのため、ことあるごとに俺の使用済みの服を着ようとするのだ。以前、洗濯せんたくに出そうとした俺の服を奪って、その上その場で着替えようとした時は、さすがに頭をはたいてやった。
 そんな変態であるヘレナは、見た目は普通の人間や亜人に近いが、竜人りゅうじんという種族らしい。竜人というのは竜が人化した姿を指すので、正確には竜なんだそうだ。正直半信半疑だったのだが、昨日、自らの片腕を竜の腕そのものに変化させる姿を見せられたので信じるほかない。
 まあ、こいつが本物の竜だからといって、俺の態度が変わるわけではない。

「当たりだ、おめでとう。くだらないこと言ってないで早く席に戻れ、変態」
「告。アヤトに関しては変態になれる自信があります」

 何の自慢なのか、思いっ切り胸を張るヘレナ。
 しかしただでさえ大きい胸をそんなパツパツのシャツで突き出したら……
 ――ブチッ!
 そんな音を立ててヘレナの着ているワイシャツのボタンが千切れ、俺の顔へ向かって飛んできた。

「おっと、危ね」

 かなりの勢いで飛んできたそれを、俺はヒョイッと避けたが、後ろにいたカイトは避けきれずに額にクリティカルヒットさせていた。

「あああ痛あぁぁぁっ!?」

 カイトはあまりの痛みに、額を押さえながらひざを突き上を向いて叫んだ。
 その姿はまるで、大切な者を失ってなげかなしむ人のようだった。

「あぁ、カイトが悲惨ひさんなことに……っていうか昨日の乳に吹っ飛ばされたアレといい、ヘレナに攻撃されてばっかだな、お前? なんかバチが当たることでもしたか?」
「告。種族によっては逆にご褒美ほうびとなるのではないでしょうか?」

 首を傾げてそんなことを言うヘレナ。やめろ、Mっ気があるからって別種族扱いするのは。
 失礼なことを言うヘレナの頭を鷲掴わしづかみにして席の方に向かせ、座るように促す。
 口をとがらせながらヘレナが座り直したところで、真っ黒なタキシードに身を包んだノワールがやってきた。黒髪黒目に黒タキシード、黒手袋と、この真夏に黒ずくめなんだが暑くないんだろうか。悪魔だから大丈夫なのか。

「おはようございます、アヤト様。ここ最近、睡眠をあまり取られていないようですが、お身体にさわりはございませんか?」

 そう言って俺の顔を覗き込み、心配してくれるノワール。二十年前の世界大戦で世界を恐慌きょうこうおとしいれ『災厄さいやく悪魔あくま』と恐れられているこいつだが、掃除そうじや洗濯は完璧かんぺき美味うまい食事だって用意してくれる。もはや悪魔というより家政婦である。

「ああ、問題ない。ちゃんと寝てる時は寝てるからな。それよりウルとルウを呼びに言ってくれないか? 皆を起こして回るって言ってたけど、もう必要ないみたいだから」

 ノワールは俺の言葉に「かしこまりました」と答え、廊下ろうかに出る。
 テーブルの方に視線を戻すと、メアとミーナが並んでいる食事に手を付けていた。

「よっ! 先に食ってるぜ」
「ん、お先」

 メアの後ろには、よろいを着た黒い骸骨がいこつ――スケルトンナイトのクロが静かにたたずんでいる。こいつはメアが召喚術の授業で召喚した魔物なのだが、その微動だにしない姿は、学校の理科室にあった人体模型を想起させた。朝っぱらから不気味すぎるだろ。
 さらにテーブルの奥側、ミーナの足元近くでは、彼女が召喚した白竜の子供、ベルが床に置かれた皿から飯を食っていた。子竜ながらに俺とそう変わらない大きさを誇るベルだが、こうやって見ていると犬と大して変わらないな。
 カイトがメアとミーナに「おはようございます」と元気に挨拶しているのを見ていると、ノワールがウルたちを連れて帰ってきた。
 そのままノワールとココア以外の全員が席に着き、雑談をしながら食事を取り始める。

「そういえば、リナとエリーゼさんって、もうすぐ来ますかね?」

 しばらく食事を進めたところで、カイトがそんな声を上げた。
 リナというのはカイトと同じ中等部の一年生で、模擬戦で同じチームだった女の子だ。これまたカイトと同様、俺の内弟子になって魔族大陸に行くと言うので、身支度を整えてこの屋敷に来てもらうことになっている。
 一方、日本からの召喚者で高等部三年生のエリーゼは、特に俺の内弟子になるというわけではないのだが、この屋敷に住まわせてほしいと言ってきたので許可した。俺は神の招待、エリーゼは人間による召喚と、微妙に境遇は違うが、同じ日本出身が家にいるってのは悪くないしな。
 リナは学園近くの実家から、エリーゼは拠点にしている隣街の宿屋から学園に通っていたため、話のまとまった昨晩のうちに、荷物を取りに帰っていた。

「昨日はエリーゼがリナを送って帰るって言ってただろ。多分今日も迎えに行ってくれてるだろうし、そろそろ来るんじゃないか?」

 俺がカイトにそう答えたところで丁度、玄関の方からチャイムの音が聞こえてきた。
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