最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

化粧

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 誠に勝手ではございますが、『最強の異世界やりすぎ旅行記』の次回更新をお休みさせていただきます。
 次の更新日は2月1日となります。
 今後もよろしくお願いします。

 ――――

 魔空間から帰って昼食を取っていると、屋敷のチャイムが鳴る。
 タイミング的にミランダのところの遣いかと思ったのだが……

 「お邪魔させてもらうぞ、アヤト殿」

 遣いどころかミランダ本人がやってきた。
 服装は綺麗な私服の方で、心做しか薄く化粧しているようにも見える。

 「ああ……誰かと会う予定でもあるのか?」
 「ん?何を言っている、アヤト殿を迎えに来たに決まっているだろう?」

 そう言って微笑むミランダ。決まってるも何も、ミランダが寄越されるなんて今初めて知ったのだがな。
 その姿はまさに「女性」と呼ぶに相応しい雰囲気を纏っている。

 「俺を迎えに来るだけで化粧をする必要があるか?」
 「あっ、これはっ、その……」

 化粧の事を指摘すると、急に顔を赤くしてあたふたし始めるミランダ。
 本当に、なんで突然乙女化してるの?

 「と、父様が『殿方を迎えに行くのであれば、おめかしくらいしていきなさい』と……へ、変だろうか」

 ミランダはそう言うと、恥ずかしそうに自分の髪を指でクルクルと巻きながら上目遣いで見てくる。
 いつもの変態的な言動がないとは……
 というか、毎回会う度に『この変態がっ!』みたいな事ばかり言ってるせいか、今更感があってお世辞でも褒め難い。
 カイトたちがいれば、あいつらが代わりに褒めてくれるんだが。
 どうしたものか……などと考えていると、俺の様子を窺っていたミランダの表情が乾いた笑いになり、あからさまに落ち込んでしまっていた。

 「ははっ、やはり私には似合わないか……」

 自虐的な発言まで出始める始末のミランダに対し、頭を掻きながら渋々褒めることにした。

 「いいや、似合ってるよ。お前は元々素材はいいんだ、ちゃんとすればそこらの女には負けない美人にだってなるさ」
 「あ、あの、その……すまない、気を遣わせてしまったようだな……アヤト殿の口からそんな世辞の言葉が出るなんて」

 そう言いつつも、気恥しそうに目線を逸らすミランダ。

 「貴族や王様相手にタメ口を使う俺が世事を言うような人間だと思うか?」
 「……君は女を口説くのが上手いな」

 俺は『そんなつもりはない』と常套句で答え、お互いにクスクスと笑う。
 不思議なものだ……昨日の敵は今日の友とはよく言うが、あれだけボロボロにしたされたの相手とこうやって笑い合えるというのは。

 「ところでアルニアは来てないのか?」
 「ああ、あの子は支度に手間取ってしまっていてな。『こんな中途半端な姿で迎えにいけない』と言って、結局来なかったんだ」

 中途半端?まさかアルニアも着飾って来ようとしてたのか?
 なんで俺一人を迎えに来るだけでそんな気合い入れてんだよ。

 「別にスッピンでも十分だろうに……お前ら姉妹は何を考えてるんだ?」
 「女には色々あるんだよ……特に貴族の女は身だしなみに気を付けなければならないからな」

 興味はないが、とりあえず『大変なんだなー』ぐらいは言っておく。
 そこにウルとルウがやってくる。

 「お兄様、カイト様たちが帰ってきたの!……の?」

 そう言ったウルたちがミランダの姿を見ると、二人一緒に首を傾げる。

 「ミランダ様がいつもより綺麗です?」
 「ただいまです、師匠。あれ、お客さんです……ミランダさん?」

 ウルたちの後ろから続いてやってきたカイトとリナ。
 振り向いたミランダの変貌した姿にカイトは唖然とし、リナは両手を頬に当ててはわはわと動揺していた。

 「凄く、お綺麗です……!ご結婚される、んですか?」
 「マジですか、おめでとうございます!」
 「ち、違っ……!?どうしてそうなるんだ!」

 カイトとリナの勘違いに、ミランダが顔を赤くしたまま慌てて否定する。

 「二人とも、帰って早々悪いが、これからクルトゥに行ってくれるか?」
 「いいですけど……何かあったんですか?」

 状況がいまいち掴めてないカイトとリナに、大体の説明をする。

 「賭けですか……っていうか、大丈夫なんですか?」
 「フィーナの事か?まぁ、仮に突っかかられても、フィーナならあそこの冒険者程度ならあしらえるだろ」
 「いやまぁ、それもあるんですけど……」

 少し不安そうな表情をするカイト。

 「ほら、クルトゥの冒険者ギルドの責任者って魔族嫌いって噂があったりしますから、勝負的には師匠が不利なんじゃないかな~って」
 「あー……どうだろうな?あいつとの賭け事には勝ったから、すぐには手を出さないとは思うが……いや、やっぱ心配になってきたな」

 あいつが目を覚ましてフィーナ会ったら、反射的に殴りかかって行きそうな気がする。
 だが、一応こちらにも対抗策がある。

 「カイトにはたしか……オド」
 「ん、いるよ」

 褐色とはまた違った茶色の肌をした少年オドが、カイトの体の中から出てくる。
 対抗策の一つとして、精霊王をカイトたちにそれぞれ宿らせて警護させているのだ。
 ちなみに他にも、ガーランドたちにもやったノワールの魔術を仕組んであったりする。

 「昨日の俺とアリスの戦いを見てたよな?お前たちでどうにかなりそうか?」
 「そだね……『倒せ』って言われたら無理って答えちゃうけど、時間稼ぎならなんとかなりそうだよ」

 精霊の王にそこまで言わせるとはな。
 するとオドが溜め息を吐く。

 「正直言わせてもらうと、彼女とはあまり戦いたくないね。強さの底に関しては、君と似たようなものを感じる……底なし沼だ。昨晩だって、彼女は君の技を凄まじい勢いで吸収していったし」
 「ああ、あれは凄かったな。簡単な技とはいえ、あそこまで完全に……しかも見ただけで一瞬でコピーされるとは思わなかった」

 その言葉にオドが、責めるようにジト目で見てくる。

 「君が最初から本気を出していれば、真似られることもなかったんじゃないかな?」
 「そこはまぁ……油断していたとしか言い訳できないな」

 軽く笑って返した俺に、オドも笑いを浮かべて肩をすくめる。

 「まぁ、僕らからしてもビックリだったからね、少しでも君に抵抗できる人間が存在してたなんて」
 「そうか?でもそういう存在以上にするために、俺はカイトたちを育てているんだがな」

 そう言ってチラッとカイトを見ると、難しい顔でこっちを見ていた。

 「あー……もしかして、俺たちがいない間にまた何かありました?」

 会話からそれっぽい雰囲気を感じたらしいカイト。

 「『また』って言うな、『また』って。まるで人が好きで面倒を起こしてるみたいに言うな」
 「違いましたか?師匠に出会ってからのこの一ヶ月近く、何かあった覚えしかないんですけど」

 苦笑いで言うカイトに、俺も苦笑いで返すしかなかった。
 たしかにこの一ヶ月は、魔王やら王様の呼び出しやらで忙しかったしな。
 横にいるリナも心做しか疲れているように見える。さっきまで元気そうだったのに……思い出し疲れ?

 「とにかく、だ。カイトたちには精霊王たちと一緒にクルトゥのギルドまで行って、フィーナの冒険者登録に付いてやってもらおうと思う」

 そこで一旦区切り、オドを見る。

 「そこでもしアリスと遭遇して戦闘になりそうだった場合、お前らの体の中に入っているココアたちで足止め、兼俺に連絡する役を頼みたい」
 「ああ、わかったよ。仕方ないご主人……いや、親友だね」

 オドは呆れた笑いを浮かべて肩をすくめた後、カイトの体に戻る。
 また視線をカイトに戻す。

 「いいか、お前らは極力逃げることだけを考えろよ。決して戦うなんて考えるな」
 「……もし、それでも戦うことになってしまったら?」

 俺やイリーナとあまり変わらない実力のアリスが、もし本気でカイトたちを潰しに行ったとしたら……?
 試しに俺が本気でカイトを潰すのを予想する。

 「……良くてミンチだな」
 「それ以上悪い状態ってなんですか?」

 意外と取り乱さずにツッコミを入れてくれるカイト。こいつ自身もなんとなく予想できているのだろう。

 「まぁ、本当に最悪の事態を回避できるように、精霊王たちをお前たちに宿しておくんだ。空間魔術だってあるから、少しでもおかしな連絡が入れば数秒で駆け付けてやれる。あとの保険としては……おい、そこの部屋から盗み聞きしてるチビ助!」
 「だぁれがチビ助か!?」

 リビングの部屋から出てきたのはランカだった。
 俺はそれを無視して話を進める。

 「お前も付いて行ってくれ、中にココアがいるだろ?」
 「はい、ここに」

 返事をしたのはランカではなく、その体から出てきたココアだった。
 数少ない闇と光の適性があるランカには、ココアが付いている。

 「精霊王が全員揃えば、さすがに大丈夫だろ。念のためにアリスを見付け次第、俺に念話を繋いでおいてくれ」
 「かしこまりましたわ」
 「あれ、私の意思は?」

 俺たちの会話の流れから、自然と自分が行く流れが決まってしまっているのに疑念を持つランカ。

 「三食昼寝付きを提供してんだ。たまにはその小賢しい命を賭けてくれよ」
 「小賢しい命ってなんですか?それ、良い捉え方してもゴキブリみたいにしつこい生命力って聞こえるんですが」

 その姿で数千年生きているというのが本当なら、あながち間違ってもないよな……なんて考えながら、クルトゥに繋げた裂け目の中ランカを問答無用に放り込んだ。
 カイトとリナにもGOサインを出して送り込む。

 「……っと、とりあえずはこれでいいか」

 そんな俺の一部始終を見ていたミランダが、感心した様子で見ていた。

 「しかし、やはり何度見ても圧巻だな、これは。父様や他の方々が驚くのも無理はないだろう」
 「ん?リンドー……あんたの父親がなんか言ってたのか?」

 そう聞くとミランダは少し頬を赤らめたが、動揺しそうになるのを抑えて咳払いをしていた。

 「あ、ああ、『あの少年には驚かされてばかりだったよ。それに貴族にも臆しないあの胆力、奥様になるメア様が羨ましい限りだ』と言っていた」
 「地味に評価が高いな?自分の娘をボコした本人なのに」
 「ああ、全くだ。なのになんで父様はあんなことを……」

 『あんなこと?』とミランダの呟きを復唱すると、再び顔を真っ赤にして『なんでもない!』と言って何度も首を横に振る。

 「それよりも早く行こう!父様と母様を待たせても悪いしな!」

 強引にでも話題を逸らそうとしているのがバレバレである。
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