最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

風呂での話

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 「う……ん……?」

 俺のベッドで寝ていたメアが唸り出し、薄目を開けたその顔を俺は覗く。
 アリスの一件後、俺は気絶したメアとミーナを抱えて屋敷に戻っていた。
 キリアも気絶はしていたが、回復だけかけて魔城に置いてきた。あとはアイラートやジリアスが看病してくれるだろう。

 「アヤ、ト……」

 まだ寝惚けているのか、少し頬を赤くしてニヤけるメア。しかしついさっきまでの事を思い出したメアはハッと目を大きく開かせ、勢いよく起き上がろうとした。

 「アヤト――っだぁ……!?」

 やはり寝惚けているのだろう、俺の頭が真上にあるにも関わらず急いで起き上がろうとしたせいで、メアの頭が俺の頭へと直撃し、再び床に倒れてしまう。
 ちなみに当てられた俺は微動だにしていない。

 「え……アヤト、なのか?」
 「俺以外の誰に見える?」
 「ドンホーン」
 「ぶっ飛ばすぞ」

 『誰だよ』とツッコむよりも先に、そんな言葉が口から出てしまった。
 いや、ホント誰だよ、ドンホーンって。なんだよ、その草むらから飛び出て来そうな野性味溢れる名前は……
 それが冗談なのか頭が混乱してるだけなのかはさておくとして。

 「体の調子はどうだ?」

 俺の言葉を聞いて、メアは自らの体を探る。

 「俺は……俺は大丈夫。いや、それよりもお前だよ!?あんなに血を流して倒れてたじゃねえか!?」
 「お前らよりはマシだよ」

 チラッと視線をメアの横に移動させる。
 メアも釣られて俺の見てる方を見ると、ミーナとフィーナ、ヘレナが寝ていた。
 フィーナも屋敷に帰って来るなり、その場で倒れてしまったのだ。

 「打撲と骨折が複数箇所、内蔵も恐らくかなりの損傷、破裂が見た限りあった。回復魔術がなかったら死んでたかもしれないだったろうな」
 「おぉ、マジかよ……」

 今になって危機感が蘇ったのか、身震いして顔を真っ青にするメア。俺が大事になる前に治したから感じなかったのだろうが、アリスの一撃はそれだけ強力だったって事だ。

 「ミーナとフィーナも……?」
 「ミーナが一番重症だったが、同じく完治してる。二人共、疲れて眠ってるだけだ」

 二人の安否を伝えると、ホッと胸を撫で下ろすメア。

 「ん……」

 するとフィーナが寝返りを打ち、身動ぎして艶めかしい声を漏らした。
 その時にフィーナが掛け布団を全て持って行いってしまい、布団を取られたミーナが寒さに身震いし、薄目を開けた。
 起きた、のかと思ったらその目をフィーナに向け、自分の分の布団が奪われた事に気付いたミーナは、フィーナが体に巻いた布団に無理矢理もぐりこんだ。
 結果的に背中から抱き着く形となったミーナに、眉を八の字にして違和感を感じてる様子のフィーナ。
 そんなミーナたちを見たメアは、ソワソワと落ち着きがなくなっていた。

 「お、俺も混ざっていいかな……?」
 「俺の許可なんて要らないだろ」

 頬を赤く染めた下心丸出しのメアを見た俺は、勝手にしろという感じにに言う。
 するとメアは、四つん這いになりながらミーナたちに這い寄り、布団に潜り込んでミーナごとフィーナに抱き着く。
 大きく息を吐いて、幸せそうに表情を崩していた。

 「幸せそうだな……」
 「幸せだぜ~……彼氏と言えど、この場所は渡せねえな」

 ドヤ顔で言うメアに、軽く頬をつねってやる。
 それでも笑顔を絶やさずにニヤけているメアが、何を思ったのかいやらしい笑みになる。
 メアは抱き着いている手を移動させ、フィーナの胸に――
 ――むにゅっ
 ……思いっ切り掴むように揉んだ。

 「っ……」

 フィーナは肩が軽く跳ね、頬を紅潮させる。
 その反応を面白がったメアは、へへへとわざとらしくゲスな笑いをして調子に乗る。

 「お、いい反応するのう、姉ちゃん……ここか?ここがええのかぁ?」

 酔ったオッサンみたいな言い方で、触り方がさらにエスカレートしていき、ついにフィーナの目が一気に開いて覚醒する。

 「――ッ!」

 自分の胸が後ろから揉まれていると気付いたフィーナは、即肘打ちを放つ。
 しかし彼女の後ろにいるのは、犯人であるメアではなくミーナなわけで……

 「ぐぅっ!?」
 「「あっ……」」

 その肘打ちはミーナの顔面に直撃し、それを目撃した俺とメアは声を漏らす。
 その後、技を食らったミーナは渋々起き上がり、犯人がメアだと知ったフィーナは、全力で逃げるメアを素晴らしく綺麗なフォームで屋敷中を追いかけ回した。

 「アヤト、大丈夫?」

 言葉数少なくミーナが、胡座をしている俺の足の上に座って聞いてくる。
 そういえば俺がぶっ飛ばされた時はメアも怒ってくれたが、それ以上にミーナが泣いてくれていたな。
 俺のために……

 「ああ、お前らよりは大丈夫だよ。お前らが思ってるよりは頑丈だからな」

 そう言って後ろから抱き着いてやると、ミーナの耳がピンッと立って耳まで赤くなってしまっていた。
 会った頃など襲うかどうかなんてからかってきたのに、いざ相手からされると恥ずかしがるのか……

 「ん、それならよかった」

 お返しと言わんばかりに、俺の腕にしがみ付くミーナ。ただ、その様子はどちらかというと赤くなった自分の顔を隠そうとしているようにも見えた。
 そして屋敷を一周回って帰ってきたメアが、俺たちの姿を見てダイブして飛び付いてきたりしたり……結局、メアはフィーナからゲンコツを一発食らってしまっていた。
 だがミーナとメアは精神的なダメージがまだ残っていたのか、しばらくするとそのままベッドの上で寝てしまう。どうせ今は深夜だから丁度いいのだけれど。
 すると、それを呆れ顔で溜め息を吐いたフィーナは、その部屋から出て行こうとする。

 「フィーナも寝なくていいのか?」
 「はぁ?何、そいつらと一緒に、あんたのベッドで寝ろとでも言いたいの?あたしは自分の部屋とベッドがあるんだから、そっちで寝るわよ」
 「遠慮しなくていいぞ?最悪、俺はどこでも寝られるし」

 そう言ってやると、フィーナは溜め息を吐いて顔だけ振り返らせる。
 その表情は『そんなの嫌に決まってるでしょ』とでも言わんばかりだ。

 「あのね、いくら同性だからって寝込みを襲う奴と一緒に寝られると思う?」

 それだけ言うとフィーナはふんっと鼻を鳴らして正面に向き直り、部屋から出て行ってしまった。
 扉が閉められた後に残ったのは、ヘレナとミーナの静かな寝息とメアのいびきだけ。
 俺は別段そこまで眠いというわけでもないので、どうしようかと考える。

 「……風呂でも入るか」

 今日は貴族たちやアリスの騒動で、まだ風呂に入っていなかったのを思い出す。
 風呂に入ってさっぱりすれば眠気もくるだろう……そんな感じで脱衣所に来たのだが、どうやら先客がいるようだった。

 「「フハハハハハハハッ!」」

 聞き覚えのある声……恐らくランカ、グレイの二人による豪快な笑い声が風呂中に響き渡っていた。

 「やかましい、今何時だと思ってんだ!」

 そう言って服を脱いだ後に風呂の扉を開けると、湯船に浸かりながら笑うランカとグレイの姿が。
 他にもノクトやシャード、さらにはシトもいた。
 この男女混合でいる中で、唯一ノクトだけが恥ずかしそうに顔を赤くしている。

 「うーん、もうちょっと豪快に行きますか?せーのっ――」
 「「ブハハハハハハハハッ!」」

 注意しても止むどころか、俺を無視してさらに大声で爆笑する二人。そいつらに向けて、近くにあったおけを二つ投げる。
 それは弧を描くように綺麗に飛んでいき、ランカたちの頭に見事当たった。

 ――――

 「で、なんでこんな時間にあんな奇声というか、奇笑してたんだよ」

 シャワーを頭に被りながら、ようやく落ち着いて湯船に浸かっているランカたちに聞く。
 どうせ男女関係なくいるのだからと、俺も遠慮なく入る事にした。

 「なんか、いつの間にかそういうノリになってました」

 額にたんこぶを作りながらも、詫びれた様子もなくあっけらかんと答えるランカ。もう一度当ててやろうかとかも考えたりもしたが、諦めて頭を洗うことに専念することにした。

 「何、私たちも眠れなくてな。薬品の臭いを落とすついでに丁度いいかと思って来たわけなんだが……」

 シャードが足を組んで堂々としながらそう言い、ノクトはなるべくそっちを見ないように目を逸らしながら口を開く。

 「その脱衣所の前で僕とシャードさんが鉢合わせしちゃって……最初は僕の方から遠慮したんですけど、ランカさんとグレイさんもそこに来て……」
 「ああ、なんとなくわかった。ノクト以外、男女気にせずみんなで入ろう的な流れになって流されたな?」

 わしゃわしゃと頭を洗う音に掻き消されそうになるくらいの『はい……』という小さい返事が、ノクトから返ってきた。

 「僕は寝る必要がないから、こうやって時間関係なくのんびりしてるってわけさ」

 シトもシトで、ゆったりとした声でそう言う。

 「……まぁ、神様も風呂には入らないってイメージがあるけど、本当に入らなかったらそれはそれで汚い感じがあるしな」
 「実際はノワール君と同じように、入る必要がないんだけどね……あっ、たまに彼と一緒に入ってたりするよ?」
 「マジで!?」

 今までノワールと風呂に入った記憶がなくて、なんとなく避けられてる感があって落ち込む。ノワールがそんなことするとは思ってないけれど。
 すると誰かが湯船から上がり、こっちに近付いてくる。
 この足音はランカか。

 「せっかくなんで、お背中をお流ししますよ」

 タオルの一枚も巻かず、恥ずかしげもなく裸体を晒しながら殊勝なことを言い出した。
 まぁ、少し前に隠すようなものなど持ち合わせていないので、恥ずかしがるだけ無駄だと言っていた事があるので、それが原因で羞恥心を捨て去ってしまったようだ。

 「マジでか。シャードに毒キノコでも食わされたか?」
 「どういう意味ですかそれ?」

 少し頬を膨らませつつも、俺が渡したスポンジに石鹸を泡立てて背中を擦ってくる。
 あれ、これって傍から見たら……

 「まるで親子だな」

 考えていた事を、シャードにそのまま口に出されてしまった。
 嫌だよ、こんな中二病の娘なんて……

 「嫌ですねー、こんな厄介事ばかり拾ってくる父親なんて……」
 「奇遇だな、俺も似たような事を考えてたところだ。変な性格の塊みたいな娘とか勘弁」
 「そうなんですねー」
 「「ハッハッハッハ!」」

 ひとしきり笑った後、心做しかランカの擦る力が強くなった気がした。

 「しかし厄介事と言えば、また何かやらかしてきたらしいな?魔王の件といい、ガーストの王殺害といい、そしてこれから大国レギナンとの戦争があるというのに、また喧嘩して怪我を負って帰ってくるとは……」

 シャードが呆れというよりも、面白半分にほくそ笑む。クソ、こいつ自分が安全圏内にいるからって他人事みたいに……!
 あ、そうそう。
 アリスにやられた傷をそのままにして帰ってきたら、それを見たノワールが目を真っ赤……いや、真っ黒にして激怒したのを思い出す。
 怒りのあまりか、目を黒くしたまま一周回って冷静な真顔に戻り、「とりあえずアヤト様に傷を付けられそうな輩を全て排除して参ります」などと言って空間に裂け目を作ったので、その肩を強めに掴んで止めた。

 「シャードはアリス・ワランって奴の事は知ってたか?」
 「ああ、知ってるさ。むしろ彼女を知らない奴は相当な田舎者かはたまた魔物か、もしくは異世界から召喚された勇者くらいだろうな」

 微妙な皮肉を混ぜつつ答えるシャード。

 「アリス・ワラン……彼女の家系は元々は貴族だったが、二十年前の戦争でこちらの大陸に紛れ込んだ魔族の襲撃に遭い、何もかもを奪われてしまった被害者だ。そして同時に、最後はその魔族を彼女が全員皆殺しにして生き残っている」
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