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武人祭
賭け事
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休日二日目。向こうで言うところの日曜日に該当する日。
今日はワークラフト侯爵から迎えが来て招待するとの事だが……
「……ダルいなぁ」
メアたちが戦っている光景を見ながら、思わずそう呟いて溜め息を吐いてしまう。
昨日の精神的な疲れがまだ残っているようだ。風呂でも結局ゆっくりできなかったしな……
メアたちが戦っているのは俺……ではなく、ノクトとユウキ、あーしさんの三人。地元住民VS異世界人という組み合わせにしたのだ。
カイトとリナは、現在実家に帰省中。今日中には帰ってくると言っていた。
それはそうと忘れがちではあるが、異世界人はこの世界において身体能力が向上していたりする。
対してメアたちはこの世界の住人に加え、俺たちと変わらない年齢の学生だ。聞いただけではメアたちが不利に聞こえるが……
「くっ!魔人化とかカッコイイ主人公っぽい力なんて使っちゃって……ちょっとズルいんじゃないか!?」
宙に黒い玉を複数浮かせ、砲弾のように撃つユウキ。
自分に降り注ぐいくつもの攻撃をメアは掻い潜り、ユウキに向かって走り出し続ける。
「ははっ、褒め言葉をありがとうよ!だけど、ズルいっていうならユウキの方こそじゃないか?魔力がある限り、なんでもどれだけでも出せるなんてよ……!」
「『なんでも』というわけじゃないけど、ねっ!」
素早いメアの動きに翻弄されているユウキだが、近付かれても手元に剣を出して応戦している。
あいつも元々運動神経がいいからそれなりに戦えているようだ。
次にあーしさんとミーナ。
ミーナが速さで翻弄しつつ攻撃を加えようとしているのだが、当たる直前にあーしさんが見切り、避けて捕まえようとしていた。恐らく自分の得意分野であるサンボの絡め技に持ち込もうとしているのだろう。
さすが、この世界に来る前まで鍛えていただけはある。速さだけを鍛えていたミーナには、現状だとちょっとキツいかな?
あとはノクトと戦うフィーナ。
こっちもこっちでフィーナが遠慮なく魔術などを多く放っているが、ノクトは当たっても蜘蛛の巣を払うように平然としている。
たまに魔術を仕組んだ拳で殴ったりしようとするが、それも軽く避けていた。
「あの……もっと本気で来ていいですよ?その方が修業になると思いますし……」
そんな余裕たっぷりの発言に、フィーナが青い筋を浮かべる。
「この……ミーナ!あんた、あたしに補助の魔術かけなさい!」
「……マジで?」
フィーナに呼ばれたミーナは、すでにあーしさんからサンボ技を食らって身動きが取れなくなっていた。
自分の状況だけでも手一杯なのに、そんな状態の自分に手伝えという声が上がり、ミーナは思わず俺に似た口調で返答してしまう。
「一回放す?」
絡めているあーしさんが技を緩める提案をするが、ミーナはしばらく考えてから首を横に振る。
「……ん、大丈夫」
ミーナがそう答えると、フィーナの体がほんのり明るくなる。どうやら魔術をかける事に成功したようだ。
それを見たあーしさんが『へー』と感心するように呟く。
「やっぱ魔法とか魔術って便利だし」
「ん、そうかも」
ミーナが苦もなく返答をすると、あーしさんの拘束から抜け出した。
「うわ何っ、うなぎ!?」
そのぬるりとした抜け出し方に、あーしさんが思わず鳥肌を立たせる。状況はふりだしに。
それから十五分ほどが経過した。
「よし、そこまで!」
全員に声が行き届くように大きめに叫ぶと、動きが一斉に止まる。
みんなが揃って溜め息を吐く中で、ユウキが膝に手を突く。あいつの能力は魔力を食うから、ああなっているのだろうが……
「なぁ、ユウキ」
「なん、だ……あんま今の俺にダメ出ししてくれるなよ?今ダメ出しなんかされたら、アレだ……泣くっていうか吐くっていうか……」
本当にいっぱいいっぱいという感じだった。
「いや、ちょっと聞きたい事あるだけだから。ユウキの能力って、持続させてる時や操る時も魔力を使うのか?」
「あ?あー……どうだろうな?出す時以外に減ってる感覚はないんだけど」
ユウキは息を整えてから、再び黒い玉を作り出す。
それを空に打ち上げてそれなりのスピードで動かし、首を傾げる。
「気になるほどでもないか?」
「まーな。数値化したパラメーターでもあればわかりやすいんだがな。ちょっと特訓がてら、このまま続けてみるわ」
ユウキの提案に『わかった』と返事をする。
「俺はこれから用事がある。多分、帰るのは夕方とかになるだろうから、その頃に迎えに来るわ。風呂は露天風呂があるし、食料に関しては村の人から分けてもらってくれ」
「了解」
ユウキが軽い敬礼をすると、首をポキポキ鳴らしているあーしさんの方を向く。
「あーしさんはどうする?」
「あん?そうだねぇ……んじゃ、あーしは帰るし。ちょっと疲れたから寝たいしー」
「あんまグータラしてると、豚……牛になるぞ?」
かなり本気で豚と牛を間違えたのだが、あーしさんが人を殺しそうな勢いで俺を睨み付けてくる。
女に豚とは言っちゃいけませんね、はい。
「あとの奴らはどうする?」
「あっ、じゃあ、僕は少しここに残ってていいですか?その村の人たちの様子を見てみたいし、この場所ってなんだか懐かしい感じがするので、ゆっくり見て回りたいんだ」
懐かしい?
ここにあるもののほとんどは、どこにでも生えるような草木ばかり……ってああ、そうか。ノクトは他の世界にずっといたから、この景色を見るのは久しぶりなのか。
「わかった。ノクトは風呂の場所をおぼえてるな?」
「はい!あとは村ですけど……」
「ああ、それはあっちな。ほら、ちょっと煙が上がってるのが見えるだろ?」
そう言って、大体村のある方向を指差す。
今は昼時だし、丁度昼食の準備でもしているのだろう。
「ついでに飯を貰いに行ったらどうだ?前に見に行った時には配給制にして飯を配ってたし、数人分くらい余分に余ってるだろ。メアたちはどうする?」
メアとミーナ、フィーナの方を向いて問いかける。
今日のミランダの家への訪問は俺だけにしてくれとの事だったので、こいつらも置いて行くのだが……
「んー……どうしよっかな?ミーナと一緒にギルドにでも行くか?」
メアが横にいるミーナに聞くと、迷った様子で唸った。
「どうせカイトもすぐに帰って来るだろ、アヤトが出かけること知らないんだし。あっ、なんならフィーナもギルドに登録しに行くか?」
「……え?」
突然、話の矛先が自分に向けられた事に戸惑うフィーナ。
「ほら、フィーナって姿を変えるスキルあるだろ?それ使ってとか……」
「使えない」
メアの提案をミーナが否定する。
「冒険者登録する時にレベルを測定するけど、その時にスキルにを使った不正がないように調べられる」
「そんな事したっけ?」
メアが首を傾げる。
俺もそんな検査受けた覚えがないんだけど……?
「二人ともやった。レベル測定自体がそれ」
「「ああ……」」
調べられると言われたので何かされたのかと思ったが、測定自体がスキルを使ってるかどうかも含められるのか。
「というか、思ったんだが……魔族や亜人の大陸にギルドってあるのか?」
フィーナは『あるわ』と答え、ミーナは横に首を振る。
「あるけど……ま、人間のギルドとは別だから、ここで冒険者をしたいなら登録をし直さないといけないわね」
「亜人の大陸はそういうのない。みんな、獣王に招集されるまではそれぞれの種族で好き勝手やってるから。あるとしてもギルド抜きの依頼という形」
「なるほど」
亜人はともかく、魔族にもギルドがあるんだな……ちょっと見てみたいかもしれない。
「しかしギルド登録にスキルの使用は禁止とはな……まぁ、当たり前と言えば当たり前か。んじゃ、やめとくか?」
フィーナはしばらく考え込むと、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。またしょうもない事を考えているようだ。
その笑みのまま俺を見るフィーナ。
「いいわよ、別に。メアやカイトたちをミーナだけで見るってのも心配だしね?」
フィーナが珍しく殊勝な事を言う。
しかし、それは誰が見ても裏があるとわかるので、率直に聞いてみる。
「本当のところは?」
「あたしとあんたに繋がりがあると知れば、あんたの株が下がって周りから敬遠される……つまり、間接的にあんたに迷惑をかけられるって事よ!」
そう言って悪い笑みからしてやったり顔になる。
『どうよ?』とでも言いたげな表情だが、そこには憎めない可愛らしさがある事に本人は気付いていないのだろうか?
「なら勝負するか?俺に悪評が立つかどうかを。例えサザンドの街じゃなくても、あのギルドの奴らはお前を受け入れてくれる方に俺は賭けるが」
「へぇ……言うじゃない!いいわ、だったらあんたの評判が落ちた時……あたしが勝った暁には、あんたはあたしの奴隷よ!」
まさかちょっとした勝負の賭けが奴隷化になるとは……
「何、フィーナってそんなに俺に恨み辛みが溜まってるの?魔城であんな事をしたのに……あれは遊びだったのか!」
「は……はぁっ!?」
俺がわざとらしい演技でそう言うと、フィーナが少し間を置いて、思い出したように顔を真っ赤にして叫ぶ。
『魔城であんな事を』というのは、もちろんキスの件である。
昨日は結局、なんであんな事をしたのかと問えなかったので、今こうやって意識させようとしたのである。
とはいえ、こんな人が集まってる状態で話す内容でもないので、話を元に戻そうとする。
「まぁ、それは冗談として、賭けを成立させるならフェアに……俺が勝った場合はフィーナ、お前が俺の奴隷になるって事でいいか?」
「え……あっ、ぐぅ……!」
『冗談』と言われて自分が遊ばれた事に気付いたフィーナは、悔しそうに歯軋りをして後ろを振り向く。
「好きにしなさい!絶対あんたの人生を滅茶苦茶にしてやるんだから!……早く転移のやつ出しなさいよ!」
フィーナに言われてどうせならと、クルトゥ近くに繋げた空間の裂け目を作る。
フィーナは真っ先にその裂け目を潜り、その後に続こうとするメアとミーナ。その二人を呼び止める。
「メア、ミーナ。潜った先にフィーナがいたら、そこで待ってるように言っといてくれ。後でカイトたちも合流させるから」
「先に行ってた場合は?」
「ギルドで合流って事で」
メアとミーナから『了解』と軽い敬礼を返され、二人も裂け目を潜る。
そして俺も帰るために一度裂け目を閉じて、屋敷の玄関に繋げた裂け目を再び作る。
さて、これでミランダの実家に行かなきゃいけないわけだが……色んな意味で気が重いな……
今日はワークラフト侯爵から迎えが来て招待するとの事だが……
「……ダルいなぁ」
メアたちが戦っている光景を見ながら、思わずそう呟いて溜め息を吐いてしまう。
昨日の精神的な疲れがまだ残っているようだ。風呂でも結局ゆっくりできなかったしな……
メアたちが戦っているのは俺……ではなく、ノクトとユウキ、あーしさんの三人。地元住民VS異世界人という組み合わせにしたのだ。
カイトとリナは、現在実家に帰省中。今日中には帰ってくると言っていた。
それはそうと忘れがちではあるが、異世界人はこの世界において身体能力が向上していたりする。
対してメアたちはこの世界の住人に加え、俺たちと変わらない年齢の学生だ。聞いただけではメアたちが不利に聞こえるが……
「くっ!魔人化とかカッコイイ主人公っぽい力なんて使っちゃって……ちょっとズルいんじゃないか!?」
宙に黒い玉を複数浮かせ、砲弾のように撃つユウキ。
自分に降り注ぐいくつもの攻撃をメアは掻い潜り、ユウキに向かって走り出し続ける。
「ははっ、褒め言葉をありがとうよ!だけど、ズルいっていうならユウキの方こそじゃないか?魔力がある限り、なんでもどれだけでも出せるなんてよ……!」
「『なんでも』というわけじゃないけど、ねっ!」
素早いメアの動きに翻弄されているユウキだが、近付かれても手元に剣を出して応戦している。
あいつも元々運動神経がいいからそれなりに戦えているようだ。
次にあーしさんとミーナ。
ミーナが速さで翻弄しつつ攻撃を加えようとしているのだが、当たる直前にあーしさんが見切り、避けて捕まえようとしていた。恐らく自分の得意分野であるサンボの絡め技に持ち込もうとしているのだろう。
さすが、この世界に来る前まで鍛えていただけはある。速さだけを鍛えていたミーナには、現状だとちょっとキツいかな?
あとはノクトと戦うフィーナ。
こっちもこっちでフィーナが遠慮なく魔術などを多く放っているが、ノクトは当たっても蜘蛛の巣を払うように平然としている。
たまに魔術を仕組んだ拳で殴ったりしようとするが、それも軽く避けていた。
「あの……もっと本気で来ていいですよ?その方が修業になると思いますし……」
そんな余裕たっぷりの発言に、フィーナが青い筋を浮かべる。
「この……ミーナ!あんた、あたしに補助の魔術かけなさい!」
「……マジで?」
フィーナに呼ばれたミーナは、すでにあーしさんからサンボ技を食らって身動きが取れなくなっていた。
自分の状況だけでも手一杯なのに、そんな状態の自分に手伝えという声が上がり、ミーナは思わず俺に似た口調で返答してしまう。
「一回放す?」
絡めているあーしさんが技を緩める提案をするが、ミーナはしばらく考えてから首を横に振る。
「……ん、大丈夫」
ミーナがそう答えると、フィーナの体がほんのり明るくなる。どうやら魔術をかける事に成功したようだ。
それを見たあーしさんが『へー』と感心するように呟く。
「やっぱ魔法とか魔術って便利だし」
「ん、そうかも」
ミーナが苦もなく返答をすると、あーしさんの拘束から抜け出した。
「うわ何っ、うなぎ!?」
そのぬるりとした抜け出し方に、あーしさんが思わず鳥肌を立たせる。状況はふりだしに。
それから十五分ほどが経過した。
「よし、そこまで!」
全員に声が行き届くように大きめに叫ぶと、動きが一斉に止まる。
みんなが揃って溜め息を吐く中で、ユウキが膝に手を突く。あいつの能力は魔力を食うから、ああなっているのだろうが……
「なぁ、ユウキ」
「なん、だ……あんま今の俺にダメ出ししてくれるなよ?今ダメ出しなんかされたら、アレだ……泣くっていうか吐くっていうか……」
本当にいっぱいいっぱいという感じだった。
「いや、ちょっと聞きたい事あるだけだから。ユウキの能力って、持続させてる時や操る時も魔力を使うのか?」
「あ?あー……どうだろうな?出す時以外に減ってる感覚はないんだけど」
ユウキは息を整えてから、再び黒い玉を作り出す。
それを空に打ち上げてそれなりのスピードで動かし、首を傾げる。
「気になるほどでもないか?」
「まーな。数値化したパラメーターでもあればわかりやすいんだがな。ちょっと特訓がてら、このまま続けてみるわ」
ユウキの提案に『わかった』と返事をする。
「俺はこれから用事がある。多分、帰るのは夕方とかになるだろうから、その頃に迎えに来るわ。風呂は露天風呂があるし、食料に関しては村の人から分けてもらってくれ」
「了解」
ユウキが軽い敬礼をすると、首をポキポキ鳴らしているあーしさんの方を向く。
「あーしさんはどうする?」
「あん?そうだねぇ……んじゃ、あーしは帰るし。ちょっと疲れたから寝たいしー」
「あんまグータラしてると、豚……牛になるぞ?」
かなり本気で豚と牛を間違えたのだが、あーしさんが人を殺しそうな勢いで俺を睨み付けてくる。
女に豚とは言っちゃいけませんね、はい。
「あとの奴らはどうする?」
「あっ、じゃあ、僕は少しここに残ってていいですか?その村の人たちの様子を見てみたいし、この場所ってなんだか懐かしい感じがするので、ゆっくり見て回りたいんだ」
懐かしい?
ここにあるもののほとんどは、どこにでも生えるような草木ばかり……ってああ、そうか。ノクトは他の世界にずっといたから、この景色を見るのは久しぶりなのか。
「わかった。ノクトは風呂の場所をおぼえてるな?」
「はい!あとは村ですけど……」
「ああ、それはあっちな。ほら、ちょっと煙が上がってるのが見えるだろ?」
そう言って、大体村のある方向を指差す。
今は昼時だし、丁度昼食の準備でもしているのだろう。
「ついでに飯を貰いに行ったらどうだ?前に見に行った時には配給制にして飯を配ってたし、数人分くらい余分に余ってるだろ。メアたちはどうする?」
メアとミーナ、フィーナの方を向いて問いかける。
今日のミランダの家への訪問は俺だけにしてくれとの事だったので、こいつらも置いて行くのだが……
「んー……どうしよっかな?ミーナと一緒にギルドにでも行くか?」
メアが横にいるミーナに聞くと、迷った様子で唸った。
「どうせカイトもすぐに帰って来るだろ、アヤトが出かけること知らないんだし。あっ、なんならフィーナもギルドに登録しに行くか?」
「……え?」
突然、話の矛先が自分に向けられた事に戸惑うフィーナ。
「ほら、フィーナって姿を変えるスキルあるだろ?それ使ってとか……」
「使えない」
メアの提案をミーナが否定する。
「冒険者登録する時にレベルを測定するけど、その時にスキルにを使った不正がないように調べられる」
「そんな事したっけ?」
メアが首を傾げる。
俺もそんな検査受けた覚えがないんだけど……?
「二人ともやった。レベル測定自体がそれ」
「「ああ……」」
調べられると言われたので何かされたのかと思ったが、測定自体がスキルを使ってるかどうかも含められるのか。
「というか、思ったんだが……魔族や亜人の大陸にギルドってあるのか?」
フィーナは『あるわ』と答え、ミーナは横に首を振る。
「あるけど……ま、人間のギルドとは別だから、ここで冒険者をしたいなら登録をし直さないといけないわね」
「亜人の大陸はそういうのない。みんな、獣王に招集されるまではそれぞれの種族で好き勝手やってるから。あるとしてもギルド抜きの依頼という形」
「なるほど」
亜人はともかく、魔族にもギルドがあるんだな……ちょっと見てみたいかもしれない。
「しかしギルド登録にスキルの使用は禁止とはな……まぁ、当たり前と言えば当たり前か。んじゃ、やめとくか?」
フィーナはしばらく考え込むと、ニヤリと悪い笑みを浮かべる。またしょうもない事を考えているようだ。
その笑みのまま俺を見るフィーナ。
「いいわよ、別に。メアやカイトたちをミーナだけで見るってのも心配だしね?」
フィーナが珍しく殊勝な事を言う。
しかし、それは誰が見ても裏があるとわかるので、率直に聞いてみる。
「本当のところは?」
「あたしとあんたに繋がりがあると知れば、あんたの株が下がって周りから敬遠される……つまり、間接的にあんたに迷惑をかけられるって事よ!」
そう言って悪い笑みからしてやったり顔になる。
『どうよ?』とでも言いたげな表情だが、そこには憎めない可愛らしさがある事に本人は気付いていないのだろうか?
「なら勝負するか?俺に悪評が立つかどうかを。例えサザンドの街じゃなくても、あのギルドの奴らはお前を受け入れてくれる方に俺は賭けるが」
「へぇ……言うじゃない!いいわ、だったらあんたの評判が落ちた時……あたしが勝った暁には、あんたはあたしの奴隷よ!」
まさかちょっとした勝負の賭けが奴隷化になるとは……
「何、フィーナってそんなに俺に恨み辛みが溜まってるの?魔城であんな事をしたのに……あれは遊びだったのか!」
「は……はぁっ!?」
俺がわざとらしい演技でそう言うと、フィーナが少し間を置いて、思い出したように顔を真っ赤にして叫ぶ。
『魔城であんな事を』というのは、もちろんキスの件である。
昨日は結局、なんであんな事をしたのかと問えなかったので、今こうやって意識させようとしたのである。
とはいえ、こんな人が集まってる状態で話す内容でもないので、話を元に戻そうとする。
「まぁ、それは冗談として、賭けを成立させるならフェアに……俺が勝った場合はフィーナ、お前が俺の奴隷になるって事でいいか?」
「え……あっ、ぐぅ……!」
『冗談』と言われて自分が遊ばれた事に気付いたフィーナは、悔しそうに歯軋りをして後ろを振り向く。
「好きにしなさい!絶対あんたの人生を滅茶苦茶にしてやるんだから!……早く転移のやつ出しなさいよ!」
フィーナに言われてどうせならと、クルトゥ近くに繋げた空間の裂け目を作る。
フィーナは真っ先にその裂け目を潜り、その後に続こうとするメアとミーナ。その二人を呼び止める。
「メア、ミーナ。潜った先にフィーナがいたら、そこで待ってるように言っといてくれ。後でカイトたちも合流させるから」
「先に行ってた場合は?」
「ギルドで合流って事で」
メアとミーナから『了解』と軽い敬礼を返され、二人も裂け目を潜る。
そして俺も帰るために一度裂け目を閉じて、屋敷の玄関に繋げた裂け目を再び作る。
さて、これでミランダの実家に行かなきゃいけないわけだが……色んな意味で気が重いな……
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