最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

文字の大きさ
上 下
235 / 303
武人祭

王位の譲渡

しおりを挟む
 「ま、まさかこんなに早く来てくれるとは・・・・・・!」

 驚きと感心が混じった声を発する老人、アクア・ルーク・ワンド。
 現在、ラライナの王都、その王であるルークさんの所にメアとミーナを連れて帰ってきていた。
 他の奴らはそのまま子守を続行してもらっている。
 ルークさんが早いと言っているのは、俺がノワールから手紙を受け取り、読み終えてから五分も経たないうちに空間魔術でこの城に直接転移してきたからだろう。
 転移先は書庫。ルークさんの許可を貰った者や、メア以外に立ち入りを禁止されているので、そこが一番都合がいいのだ。
 ちなみに俺とミーナは、ルークさんからはいつでも閲覧していいと許可をもらっている。
 アポ無しで来てしまったが、向こうから呼び出してきたのだからこれくらいは許してほしい。
 という事で、秘書のフウに俺たちの事をルークさんに知らせてもらい、俺たちは先に応接間で待っていた、というのが一連の流れだ。

 「馬車よりも便利な通行手段を持ってるからな。一々、学園からここまでの距離を半日かけるのも面倒だろ?」
 「馬車以上の通行手段がないのが現状なのですが・・・・・・」

 フウが呆れた様子でそう返してくる。

 「『テイム』は?魔物を使役できるスキルがあるんじゃないのか?」
 「テイム、か・・・・・・残念じゃが、そのスキルは今のところ魔族にしか現れていない。故にそれも魔族が嫌われている要因の一つなんじゃが・・・・・・」
 「なんだ、嫉妬か?」

 俺が冗談めかして言うと、ルークさんは真剣な顔で首を横に振る。

 「研究者や学者の間で、魔族の祖先が魔物だった説があるのではという推測が出てきたのじゃ」
 「魔族が・・・・・・魔物?」

 今きっと俺は、何を言ってるんだという顔でこの人を見ているだろう。
 そんな表情を見たルークさんは苦笑いをする。

 「まぁ、研究者の考える突拍子もない考えじゃ。わしは違うと考えておるがな?君が学園内の屋敷で魔族を数人匿っていると知っておるし」

 フィーナや他の魔族の事を知っている?俺は言った覚えがないんだが・・・・・・
 ルークさんの言葉に眉をひそめていると、申し訳そうにする。

 「すまん、実はミラが口を滑らせてのう・・・・・・『この事はどうかご内密に!代わりに私をどうしようと構いませんので』と言っておった」

 なんとなく、その場であいつが頬を赤らめながらそのセリフを口にしているのが容易に想像できた。
 あいつ・・・・・・これでフィーナの身に何かあったら、本当にどうしてくれようか。
 そんな事を考えていると、ルークさんが俺の様子に気付いたらしく、言葉を続ける。

 「安心していい。ミラが口を滑らせた時にはわしとフウしかおらんかったし、誰にも話していない。ミラにも、今後このような事がないよう厳重注意をしておいた。大丈夫じゃろう」
 「ルークさんたちの前で口を滑らせた前科がある時点で、信用ならねえんだけどな・・・・・・家族とかにもポロッと言ってそうで怖い」

 あとついでに言うなら、妹のアルニアもどこかでボロが出るんじゃないかと心配してしまう。
 二人共、「見た目だけは」しっかりしてるのになぁ・・・・・・
 と、ルークさんも魔族の事を気にしてはいないようだし、その話もそこそこに本題へ移させてもらう。

 「んで、この手紙にあった内容・・・・・・詳しく聞かせてもらえるか?」

 そう言ってポケットから一枚の手紙を取り出す。
 それはルークさんから届いたもので、内容は『メアの事で急ぎ相談したい事があるので、王城に来てほしい』と短く書かれていた。

 「ああ、そうじゃったな・・・・・・いや、どこから話そうか・・・・・・」

 顎の髭に手を置いて唸るルークさん。そんなに話す事があるのか?
 すると話す順序が決まったのか、顔を上げた。

 「ではまず、アヤト君たちがこの前来た時の話からしよう」
 「この前、っていうと・・・・・・」

 たしか俺がルークさんにメアを付き合う事になった報告をしに行った時の事か。
 他にもグウェントとかいう大国の王様と喧嘩したりとかあったな・・・・・・おかげでそいつの国と戦争する話に発展しちまったんだが。
 でもそれは半年後という話のはずなのだが・・・・・・まさか?

 「もしかして戦争の期限が早まったとか?」

 俺よりも先に、メアが質問する。俺も同じ事を考えていた。
 だが、ルークさんは首を横に振る。

 「いいや、それはない。いくら準備が整ったからと言っても、宣告した期限を変更する事はできない。もちろん、準備が整っていなくともな」

 ルークさんの言葉にメアがホッとする。
 じゃあ、何の話だ・・・・・・?

 「メアとの婚約についての話じゃが・・・・・・」
 「「ぶっ!?」」

 ルークさんの言動に、思わず俺とメアが吹き出してしまう。
 ミーナも目を丸くし、フウも呆れた様子で頭を抱えていた。

 「王・・・・・・」
 「なんじゃ、全員でどうした?」

 ルークさんはケロッとした表情で聞いてくる。素でそれを言っていたのか・・・・・・?
 横にいるメアも顔を真っ赤にしていた。

 「お、俺たちは婚約とか結婚とか・・・・・・まだそういうのは考えてねぇよ!」

 恥ずかしさから強めに否定するメア。
 たしかに付き合いはしたけど、その話は早い。しかし、しないのかと言われれば、メア次第ではやぶさかでもないのだが・・・・・・
 そんな事を考えながらメアを一瞥すると、向こうも気になっていたらしく、お互い目が合うとメアが伏せてしまう。
 本当、普段ガサツなのにこういうところで乙女だよな、こいつ。
 と、ルークさんが大きな笑い声を上げる。

 「ハッハッハッハ!メアがこんな顔をするなど、夢にも思わなんだわ!なるほどなるほど、好いた者が現れれば、やはり人は変わるものじゃのう!」
 「うっせ、クソジジイ!さっさとくたばれ!」

 からかわらたメアは近くにあったクッションを投げた。
 ルークさんはそれを避け、後ろにいたフウが見事キャッチする。

 「元気がいいのは相変わらずじゃな。まぁ、わしとしては付き合いだけではなく、夫婦になってもらいたいのだがな・・・・・・」
 「夫婦、ね・・・・・・もしかして跡継ぎの話?」
 「ああいや、そうではない。もちろん、そうしてもらった方が嬉しいというのはあるが・・・・・・今からする話は関係はあるが、別件じゃ」

 すると少し深刻、というか、なんだか面倒そうな表情になるルークさん。
 グウェントをメアが殴った時の事を思い出す。
 たしかあの時、他にした話と言えば・・・・・・

 「貴族たちの反発じゃ」
 「ああ」

 そういえばそんな話もあったなと思い出した。

 「結局どうにもできなかったのか?」
 「・・・・・・すまない。王とは言え、ジジイ一人。そして味方も少数・・・・・・頭の堅い奴らばかりで『王族としての責任は?』『国はどうなる?』『ただの平民ごときに』と文句を言う者ばかり・・・・・・挙句には『レギナンとの大きな戦争が近付いているというのに、何を悠長な』などと言いおった者も」
 「・・・・・・まぁ、そもそも王族が追放以外で王族を抜けるとなったら、混乱して騒がしくもなるわな。しかもそれが恋愛沙汰なら尚更だろ」

 しかもルークさんは、本来跡継ぎになるはずの息子夫婦、メアの両親を亡くしている。
 高齢のルークさんが子を産むのは難しい・・・・・・であれば養子を取るか、俺が諦めて婿入りするか、もしくはーー

 「王位を譲る、か・・・・・・?」
 「「ッ!?」」
 「アヤト君?」

 俺の呟きにフウとメアが驚き、ルークさんが興味深そうにする。

 「もしメアが王位を降りると言うなら、信頼できる奴に王位を譲るのがいいかと思ってな。養子を取るにしても、適当に変な奴を選ぶわけにはいかないし」
 「いや、たしかにそれはわかるんじゃが・・・・・・下手に他の者を王に仕立て上げるとしても問題が起きるのではないか?」
 「どの道、何かしらの問題はついてくる」
 「じ、じゃあさ!」

 すると俺とルークさんの会話に、メアが割り込んできた。

 「俺が・・・・・・我慢するってのは、どうかな?」

 らしくないモジモジとした言い回しで、そんな事を言い出した。

 「・・・・・・『我慢する』ってのは、お前がこの人の跡を継いで王妃になり、知らない奴と添い遂げてこの国を支える、そういう事か?」
 「っ!そ、それは・・・・・・そうだ!」

 『知らない奴と添い遂げて』というところでメアの肩が跳ね上がり、何かを言いたそうにしていたが言葉を止め、頷いて肯定した。

 「そうすれば王位を誰のものに、なんて言わなくなるだろうし、相手が決めた奴を旦那にすれば誰も文句を言わなくなるだろ?」

 軽口にそう言って笑うメア。しかしその表情には、明らかに不安が現れていた。 
 『助けてほしい。誰の何を犠牲にしてでも』
 まるでそう訴えかけているようで・・・・・・
 俺は感情は読めても、何を思っているかまではわからない。
 もしかしたら俺の妄想かもしれないし、メアがいつまでも振り向こうとしない俺に愛想を尽かしてそうしようもしているのかもしれない。
 だが、たとえ後者だったとしても、その顔を不安にさせる事はしたくない。

 「言っただろ、どの道問題は付いてくる。メアが王位に就いたとしても、今度は誰がその隣になるか、なんて争いを始めるに決まってるだろうしな。それにお前を犠牲にしなきゃ成り立たない国には、俺は遠慮なく文句を言うし、暴れちまうぞ?」

 俺がそう言っている姿をポカンと見てくるメアの目を、俺は真っ直ぐに見つめ返して微笑む。
 今抱いているこの気持ち・・・・・・これが恋心というやつかはわからないが、思った事をそのまま口にする事にした。

 「お前を誰かに渡すなんて、考えたくねえしな」

 そう言った瞬間、メアがパッと嬉しそうに表情を輝かせ、勢いよく俺に抱き付いてきてミーナ共々後ろに倒れてしまった。
しおりを挟む
感想 254

あなたにおすすめの小説

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

最強超人は異世界にてスマホを使う

萩場ぬし
ファンタジー
主人公、柏木 和(かしわぎ かず)は「武人」と呼ばれる武術を極めんとする者であり、ある日祖父から自分が世界で最強であることを知らされたのだった。 そして次の瞬間、自宅のコタツにいたはずの和は見知らぬ土地で寝転がっていた―― 「……いや草」

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。