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2巻
2-3
しおりを挟む「いや、ちょ……勘弁してくれないか?」
「俺の、目を、見て、言え」
「……嫌だ。というか無理だ、そんな血走った目を見るのは! ココアの魔術より闇が深そうじゃないか!?」
顔を背けながらこちらをチラ見しつつ、かなり失礼なことを言う光のおっさん。ココアと一緒に闇魔術を放ってやろうか……
話が進まないのでガン見するのをやめると、おっさんが咳払いして話を元に戻す。
「闇の王から、ココアという名を人間に貰ったという話を聞いた時、正直羨ましく思ってな。ほら、光の王や闇の王という呼び方は、名前というよりも称号や種族名に近いだろう? それに今こうして話しておる我らが消えれば、他の精霊の者が王の名を受け継ぎ、我らが存在したという証が何一つ残せない。だから我々は、個としての名が欲しいのだ」
なるほど、おっさんの話は納得できるな。
と、そこで疑問が浮かぶ。
「消えるって、精霊に寿命があるのか?」
「いや、我らに寿命という概念はない。が、不滅でもない。誰かに存在を消されることもあれば、無理に力を使い過ぎて消滅した前例もある……そういえば、王の座に嫌気が差して逃げ出した者もいたな」
光の王は溜息を吐きながら、頭をボリボリと掻く。逃げ出す精霊って……大丈夫か、ここの精霊たちは?
「まぁ、名前くらい別にいいんだけど……」
「無論、タダでなどとケチなことは言わんぞ!」
何を勘違いしたのか、光の王がそう申し出てきた。いや、別に俺は見返りが欲しいわけじゃないんだが……
「ここにいる、名を与えてもらうことになる精霊王全て、お前さんと主従契約を結ぼう」
「ココアみたいにか?」
ココアと出会った時のことを思い出しながらそう聞くと、光の王は頷いた。
「そうだ。闇の王から聞いたが、休眠状態の繭からあやつを孵化させただろう? それぞれの王に、その時と同等の魔力量を注ぎ名を与えることで、契約ができるのだ。それを六人分となると、相当な量の魔力が必要となるのだが……見たところ、全員と契約を結んでも有り余るくらいの魔力があるようだから安心しろ。しかしお前さんの魔力は強大過ぎて、並の者には見えないな……なるほど、これなら多少体をいじられても問題ないというわけだな!」
……あ?
ペラペラと放たれる光の王の話の中に、聞き捨てならない言葉があったことで、俺は思わず眉をひそめる。
「いじられても、ってどういうことだ?」
「うん? どういうも何も、魔法適性をそこまで変えられるのはお前さんの魔力量あってのことだ、ということじゃよ」
「俺の魔力って、魔力適性と一緒にシトから貰ったものだと思ってたけど……違うのか?」
「ああ、それはない。魔力というものは、己を鍛えてその上限を増やすならまだしも、無理に増やそうとして外から与えられれば、体が拒絶反応を起こす。そうなれば細胞が崩壊し、最悪死に繋がるからな」
死って……もともと魔力があってよかった、と喜ぶべきなのか?
とにかく、名前を与えてデメリットになることはなさそうだし、せっかくの機会だから契約することにするか。もともと名前をつけてもいいかとは思ってたしな。
「なるほど、契約のことはわかったよ。特に断る理由もないし、名前をつけてやる」
俺がそう言うと、光の王は嬉しそうに顔を輝かせる。
「そうだな……とりあえず、名前を付けやすいように性格とか把握したいから、自己紹介的なのをしてくれ。光の王のは大体わかったから、他の奴も頼む」
「そうですか、それでしたらまず――」
ココアが誰かを指名しようとすると、赤い少女が真っ先に手を挙げて主張した。
「はいはいはい! あたしあたしあたしー!」
元気良く名乗りを上げたそいつは、激しく動き始めた。
「体を燃やし、魂を燃やし、全てを燃やし尽くす! 火の精霊王!」
火の王が決めポーズをすると、次に青い少女が割り込んできた。
え、何? 何しようとしてるの?
「本を好み……静寂を好み……海を好む水の精霊王。ふぁ……」
ゆったりとした言動の後に、あくびをしながら決めポーズ。
「風が僕を呼びー、空が僕を呼ぶー。呼ばれてもないのに参上、風の精霊王ー」
今度は緑の少年が、ゆっくりと棒読み気味に口上を読み上げ、その口調とは正反対にキレのある動きで決めポーズをした。
そして最後に、茶色の少年と黄色い少女が交互に喋り出す。
「岩を砕き、山をも砕く――」
「空を裂き、地をも裂くッス!」
「二人で一人、土の精霊王と――」
「雷の精霊王ッス!」
そして五人のポーズがいい感じに重なり合う。
「「我ら精霊少女五人衆、見! 参!」」
そんな彼らの後ろで爆発が起き、かつて戦隊モノの番組でよく見た、色付きの煙が上がる。
何気に少年二人が『少女』としてまとめられてるのが何とも……
ふと、こいつらの奇妙な行動は、ココアと光の王も把握しているネタなのかと思い、そちらへ視線を移してみる。だが、二人共呆れている様子だった。
「よく陰でコソコソしてると思ったら、そんなことをしとったのか?」
「貴方たち……」
二人共、こいつらが決めポーズの練習をしていたことを知らなかったらしい。
「あれ……失敗ッスか?」
不安そうに他の奴らの顔色を窺う、後輩っぽい喋り方をする黄色。
「けっこう会心の出来だったと思うよ?」
首を傾げて適当に答える茶色。
「私の気合……足りなかった?」
気合もやる気も、生きる気力すら足りなさそうな青色。
「いやいやー、それ言ったら僕もやる気ゼロだったよー?」
口調以外やる気満々にしか見えない緑色。
「あたしたちは精一杯やった! それでいいじゃないか!」
部活仲間を励ますようなノリの、ムードメーカーっぽい赤色。
それぞれ個性のある奴らが、こちらを気にもせずにあーだこーだと盛り上がっていた。
そんな奴等を見ていたら、なんとなくイメージが固まってきた。
「そうだな……とりあえず名前は決まった」
俺がそう言うと、全員がこっちを向く。
特に赤色と茶色が、期待に目を輝かせて見てきていた。
なんだか、こうも注目されると少し緊張してしまうな。
「火の精霊王アルズ。水の精霊王ルマ。風の精霊王キース。土の精霊王オド。雷の精霊王シリラ。そして光の精霊王オルドラ」
俺が一息に名前を挙げていくと、元々うっすらと光っていたココア以外の全員の体が、さらに発光を始めた。
同時に、何かが体から抜けるような倦怠感にも襲われた。ココアの時以上の感覚だから、魔力がごっそり持っていかれたということだろう。
そして何より眩しい。六人同時となると流石に光が強過ぎて、また目が潰れるかと思えるほどだった。
とにかく目を閉じて腕で顔を覆って眩しさをやりすごして、光が収まった頃に再び目を開くと、ココアを含めた精霊王七人全員が、目の前に跪いていた。
おっさんは元々目鼻立ちがしっかりしていたからかあまり変化がないが、他の奴らはシルエットや顔がはっきり見えるようになり、肌色がそのままの色をしている以外はほとんど人間そのものになっていた。
アルズはショートの赤髪に少年のような顔立ち、ルマは本人の背丈よりも長くもっさりとした水色の髪に半目、キースも同じく半目だが前髪だけが長いショートの緑髪で片目が隠れていた。オドは茶髪のオールバック、シリラは軽く発光してるようにも見える白髪で、ルマ同様に自身の背丈より髪を長くしていた。
そいつらがまるで、騎士が王様に誓いを立てる時のように跪き、こちらに顔を向けていた。
「「「「「「「我ら精霊王一同、御身の剣となり、盾となる事をここに誓う」」」」」」」
精霊王たちが一斉にそう宣言したその時、右手の甲がほんのり熱くなるような違和感を覚えた。
手の甲を確認すると、六芒星のような紋章が浮かび上がっていた。
「これは?」
俺が零した疑問の呟きに、ココアが覗き込んで答えてくれる。
「私たちも初めて見ましたが……おそらく精霊王全員と契約した証でしょう。精霊王全員との契約など前例がありませんから」
するとオルドラも、ニヤニヤしながら近くに寄ってきた。
「それで、我らと契約を結んだ感想はどうだ?」
「どうって?」
「嬉しいとか何かないのか?」
契約したこの時点で、何かが変わったという実感があるわけでもないのに、そんなことを聞かれてもわからない。
「というか確認してなかったんだが、契約して何か特典があるのか? ああ、先に言っとくと、『特殊な力が使えるようになった』なんてのは要らんぞ。そういうのは、もう十分過ぎるほど貰ってるからな」
俺の言葉に、ココア以外の精霊王全員が同時に「え?」と声に出し驚いていた。
「あれだぞ? 使う魔法や魔術が、大幅に強化されるんだぞ?」
オルドラが『これでもか?』と言わんばかりに聞いてくる。
魔法魔術の強化? ってまさかな……
「俺がシトから特典を貰う時、魔法適性をMAXにするって言われたんだぞ? つまり限界まで上がってるって意味じゃないのか?」
「たしかに上限までは上がっている。しかしその上限値をさらに上げるのが、わしらとの契約だ。まぁ、簡単に言ってしまえば限界突破だな! 試しに簡単な魔法を撃ってみてくれ」
ドヤ顔のオルドラに言われるがまま、火の玉を撃ってみる。
以前に練習がてら撃った時は、サッカーボールくらいの大きさだったが、今回の火球は人間の子供一人を容易に包めるほどの大きさとなって、しかも凄まじい勢いで飛んでいってしまった。
……ふむ。
「どうだ? 全体的に威力が上がり、ただの生活に使用する魔法でさえ――」
「力の制御が面倒になっただけじゃねえかぁぁぁっ!」
オルドラの言葉を遮って、アイアンクローを極める。
ミシミシと音を立てて顔面が潰されていき、オルドラが悲鳴を上げた。
その様子がおかしかったのか、ココアが小さく笑う。
「フフフッ、面白いでしょう? 特別な力を手に入れたからといって、無駄に力を振り回すようなお子様ではありませんもの」
まるで自分のことのように、得意気に言うココア。それに対して、やっと俺から解放されたオルドラは、息を切らしながら唖然とした表情を浮かべていた。
「それじゃあ、わしらと契約を結んだ意味は……?」
「むしろ俺が問いたいくらいなんだが……まぁ、友人になった証くらいにでも思っとくよ。それでもいいだろ?」
オルドラは開いた口が塞がらないといった感じだが、新しく契約した他の五人は嬉しそうに話し合っていた。
「友人だってよ! 友達だってよ!」
アルズは腕をブンブン振って、嬉しそうにしていた。
「友達……えへへへへ」
ルマも両手を頬に当て、蕩けるような笑みを浮かべる。そのままスライムみたく溶けてしまいそうだった。
「人間の友達かー、百年しか生きられない人間と親しくなると後が辛いと思うけど、やっぱ嬉しいよねー?」
あまり表情の変化は見られないが、少し嬉しそうに口角が上がって見えるキース。
「そだね。寿命のことはともかく、友達が増えるのはいいことだよね」
うんうんと頷くオド。
「いやー、友達ッスか! まさか主従関係覚悟で契約した不思議な人間さんと仲良くできるとは嬉しいッスね! 幸運ッス!」
幸運とは言いすぎだと思ったが、言葉通り、心の底から嬉しそうに喜んでくれるシリラ。
などと感想は様々で、ここまで喜んでもらえたことに、俺も嬉しさを感じていた。
☆★☆★
ココアとオルドラは、アヤトたちから少し離れ、彼らの様子を窺っていた。
アヤトが精霊王たちと戯れるその姿に、ココアは微笑みを浮かべ、オルドラもどこかほっとしたような表情を浮かべている。
「確かに、聞いていた通り面白い主人だな。契約を結んでも、上下関係を求めないとは」
「あの方は、契約自体に興味なんてないのよ。ただ繋がれれば、それで……」
その言葉と共に、ココアの微笑みに、悲しみの色が混ざる。オルドラもそれを察し、小さく頷いた。
「うむ、契約を通してわしにも伝わってきた。孤独を嫌い、繋がりを求める感情が。そしてそれにもかかわらず、一部の人間に対する凄まじい嫌悪も……」
「えぇ、矛盾していますわね。ですが、その矛盾が今のアヤト様をかたちづくっているのでしょう。それに、心の底に見えた、あの影……」
「アヤト殿の友人か……あの者の存在のおかげで、今アヤト殿は留まっている状態のようだ」
「ですね。けれどもし、その彼と同等かそれ以上に大切な者が現れ、そしてその者が失われれば、きっとアヤト様は……自身を見失うでしょう」
「そうだな。だからこそ、道を違えぬよう、我々が支えなくてはならない。強く、そして脆いあの方を。これからあの方に惹かれ集うであろう者たちも」
オルドラの言葉にココアは強く頷き、まるで我が子を見守るような眼差しをアヤトに向けるのだった。
第4話 懐かしの服
ゆっくりと目を開けると、一面の白が目に飛び込んできた。
どこまでも果てしなく続くのではと思えるほどの、真っ白な世界。
だが、この非常識な光景にはもう慣れた。
起き上がった俺の目の前には、当たり前のようにシトがニコニコして立っている。
「奴隷商人にお金をあげてから店を潰すなんて、相変わらず面白くて変わったことをしてるね、君は」
「お前って結構暇か?」
シトの言葉を無視する形で、思ったことを率直に伝えてみる。
あのあと、精霊界から屋敷に直接戻った俺は、皆にウルとルウ、それから付いてきた精霊王たちを紹介した。
皆、一瞬驚いただけですぐに納得して受け入れてくれたし、ミーナに至っては「凄いね」と真顔で一言だけしか言わなかった。そのせいで、精霊王との契約ってそんなに凄くないんじゃないかと改めて思ったわけだが。
それからはいつものように過ごし、いつものように眠りに就いていた。
それで目を開けたらこれだ。
これまで結構な頻度で会っているから、実はこいつは暇なんじゃないかと思ってしまうのも仕方ないだろう。
「失礼な。確かに最後に会ってから数日しか経ってないけど、あれから仕事をぶっ通しで終わらせたんだからね? 君のために」
「俺のためなんて言うな、気持ち悪い。だいたい、なんでそこまでしてわざわざ俺に会いに来てんだよ? どうせいつも覗いてんだろ?」
自分で言ってから思ったが、常に行動を見られてるってのは気味が悪いな。
しかしそんな俺の内心に気付いていないのか、シトはへらへらしながら答える。
「見守ってるって言ってほしいな。仕事の片手間に君を見てるんだから」
「宿題中に動画を見る学生か、お前は。そろそろ人のプライベートを考えろよ」
「そんな邪険にしないでおくれよ。僕の楽しみといったら、この世界の観察くらいしかないんだから」
ストーカーとかしてる奴って、そういう言い訳しそうだよね。
「だったら俺個人じゃなく世界全体を見てろよ」
「まあまあ、そんなつれないこと言わないで。君が為す事を観察するだけでも、世界を観察してるのと同義なんだから」
シトはそう言うが、なんで俺と世界が並べられてるのか。
「随分と過大評価されたもんだな」
「またまた謙遜を。異世界人というものは、ただでさえ世界に少なからず影響を及ぼすんだよ? 例えば『勇者』とかね?」
シトが発したその単語に、俺は眉をひそめる。
「やっぱり勇者のことを把握してたか。お前、招待に成功したのは俺が初めてとか言ってなかったか?」
そこでシトは苦笑いになる。
「初めてだよ? 実際に僕の招待に応じてくれたのは君だけ。僕の世界に他の異世界人が紛れ込んだのは僕の仕業じゃない」
「どういうことだ? ……まさか、お前の世界の住人が勝手にやったことだと?」
俺がそう言うと、シトは「ビンゴ!」と言って指をパチンと鳴らす。
「まさにご明察。君の世界の物語でもよくある話なんだけど、召喚術を使って他の世界から人を……まぁ、相手の都合を考えずに連れてくるんだから、一種の拉致になるのかな?」
「酷いもんだな」
思わず溜息を吐いてしまう。しかもアルニアから聞いた話では、召喚された『勇者』たちは皆この世界で殺されている。つまり元の世界に帰れていない、ということだ。
元の世界に未練があっただろうに……
「でしょ? しかもその子たちは捨て駒としてしか見られてないんだ」
「だろうな」
「おや? あんまり驚かないんだね」
拍子抜けした様子のシトに、首を横に振ってみせる。
「勇者たちが殺されたってのは、アルニアに聞いてたからな。目的を達成して生き残っていれば、自分たちの手で殺す。うまく情報を操作して同士討ちしてもらえればラッキー。その程度にしか思ってないんだろ」
俺が怒りを滲ませながらそう言うと、シトは「そっか」と短く答えて苦笑する。
「そうそう、アヤト君たち、魔族の大陸に行くんでしょ?」
勇者の件についてはこれ以上言うことはないのか、シトは突然話題を変えた。
そして当然のように俺が魔族の大陸へ行くことを知っていた。覗いていたのだから知っていておかしくないのだが、当たり前のように言われるとなんかな……
「ああ、あと少しで学園が夏休みに入るから、そん時にな」
「うん、知ってる。そこで僕からお願いがあるんだ。フィーナちゃんにも言われたと思うけど、元魔王ペルディアの救出……僕からも頼みたいんだ」
そう言ってシトは申し訳無さそうに微笑む。
「意外だな。お前から頼み事とは。しかも元魔王の救出ねぇ?」
「実はあの子も、ルーク君と一緒で話し相手としてお気に入りなんだ」
神と魔王が対立してる、なんて話はよくあるが、この世界ではそんなことはないらしい。
「生きてるのか?」
シトは軽く頷く。
「それは保証するよ。彼女は生きてる」
「りょーかい。はぁ、お使いが増えたか」
俺の言葉にシトが笑う。
「そう言わないでよ。魔王から人を奪還するなんてハードなお願いを、お使い感覚で頼める相手は君だけなんだから。さぁ、そろそろお別れだ」
「今回はやけに早いな」
そう言うと、シトはいやらしい笑みを浮かべる。しまった、失言だった。
「仕事がまだ残ってるしね。君が別れを惜しんでくれるのは嬉しいけど、まだ僕にもやらなきゃいけないことが――」
「よし帰れ」
この場合帰るのは俺だが。
世界が滅びでもしない限り、こいつとの別れを悔やむことはないだろうと思った。
シトの夢から覚めた俺は、学園に行く準備を整えてから、自室で本を読んでいた。
ゆっくりとした時間を過ごしていると、扉を開け二人の子供が入ってくる。
「おはようございますなの。ご主人様」
「おはようございますです。ご主人様」
ウルとルウ。昨日奴隷商人から買い取った、魔族と鬼の少女だ。
二人とも相変わらず髪がかなり長いが、昨日とは違ってきれいに纏められていた。ウルはサイドテール風に、ルウはポニーテール風だな。
多分女性陣の誰かががやってあげたんだろうが、よく似合ってる。
前髪も散髪してもらったらしく、昨日は隠れて見えづらかった表情がよくわかる。緊張した面持ちだ。
しかしこうして見ると、やはり瓜二つだな。これで双子じゃないっつうんだから驚いてしまう。
『世界には同じ顔をした人間が三人いる』なんてよく言ったが、この世界でも当てはまるらしい。
そして他に気になることがもう一つ。
「おはよう、ウル、ルウ。その服どうした?」
それは二人の服装。
魔族のウルはメイド服。鬼のルウは……巫女服? メイド服はわからなくもないが、巫女服は完全に意味がわからない。
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