上 下
26 / 303
2巻

2-1

しおりを挟む



 第1話 奴隷商人どれいしょうにん


 薄暗い部屋の中、おれの正面にいる男が怪しく笑う。

「ヒヒッ、旦那様だんなさま。どうです、ウチの『商品』は?」

 太った男が片手を広げ示したその先には、くさりつながれた二人の少女が、ボロボロの布切れを身にまとってたたずんでいた。
 目は生気を失っており、肌に傷がつけられて呼吸が荒い。
 二人のうち片方は、赤髪に赤い肌の、角を持つ亜人。もう一人は水色の髪に青い肌の魔族だ。
 そして俺はそんな少女たちを前に、下卑げびた笑みを浮かべる豚野郎……いや、奴隷商人と商談していた。
 ……何故俺が、こんなクソ野郎と商談することになったのか。
 それは数時間前にさかのぼるのだが……まずは俺の紹介をしておこう。


 俺の名前は小鳥遊たかなし綾人あやと。ある日突然この異世界へ、ここの神様であるシトによって連れてこられた高校生だ。
 俺が選ばれた理由だが、まず一つは、元の世界で一番強いから。そしてもう一つは、『必ず死ぬ』という『悪魔あくまのろい』と、『寿命じゅみょう以外の死を必ず回避かいひする』という『かみ加護かご』の、相反する二つの特性を持っていたからだという。
 一つ目の理由については、元々世界一だった俺のじいさん、宗次朗そうじろうを倒せるようになったことで、俺が最強になったとのこと。小鳥遊の家は武術の世界で有名だったとはいえ、流石に爺さんが世界最強とまでは思っていなかったな。
 二つ目の理由は、両方を持っているのがレアというのもあるが、俺が世界最強と言われるまでに強くなった理由の一端いったんでもあるらしい。『呪い』のせいでトラブルに巻き込まれ、『加護』のおかげで死ぬことを回避する、そんな日々を過ごすことで、最強の肉体を手に入れることができたんだそうだ。
 とにかく、『強い人間を自分の世界に招待したい』というシトによって、俺は異世界に招待されることになった。そして、全魔法適性MAXと『悪魔の呪い』の解除という二つの特典をもらい、異世界に降り立ったのだった。
 ……結局『呪い』の方は完全には解除しきれずに、トラブル体質なのは変わらなかったが。
 それから俺はトラブルに巻き込まれるうち、猫耳獣人ねこみみじゅうじんでDランク冒険者のミーナと行動をともにすることになり、男勝りなお姫様メアの護衛も兼ねて、三人でコノハ学園に通うことになった。そして、学園の召喚術の授業で『災厄さいやく悪魔あくま』と呼ばれる悪魔ノワールを召喚したり、街で買った『黒神竜こくしんりゅう籠手こて』が進化して竜人ヘレナになったり、幽霊屋敷でやみ精霊王せいれいおうココアを従えたりと、仲間を増やしながら異世界生活を楽しんでいるのだ。


 そして今日の俺たちは、屋敷の地下にある広大なスペースで、午前中から修業を始めていた。
 この修業は、いずれ魔族大陸へ行くために、ミーナをはじめとした仲間たちをきたえるべく行っているものだ。
 というのもつい先日、代替わりしたばかりの新魔王に、なぜか俺が勇者だと勘違いされてしまったからだ。
 このまま何もしなかったら攻め込んでくるだろうし、丁度来週から学園の夏休みなので、俺は同行を希望した仲間とともに、敵の本拠地である魔城に乗り込む計画を立てた。ただ、今のミーナとメアの実力では、新魔王と対峙たいじするのは危険なため、俺が直々に体術の訓練を行うことになった、というわけである。

「さて、今日は『虚実きょじつ』を教える」

 今日の修業のメンバーは、ミーナにメア、そして俺が勇者だと勘違いされる原因を作った、魔族で元魔王の側近のフィーナ。そしてその三人に、俺と戦いたいと言って、昨日わざわざ屋敷まで押しかけてきた学園の先輩、アルニアを加えた四人だ。
 ウォーミングアップがてらに手合わせをした感じ、アルニアの剣術は他の三人よりは秀でているのだが、力と速さに任せた単調な剣で、強みがない印象だ。彼女は魔法適性がないらしく、そのせいでただでさえ戦法に幅を持たせるのが難しいのに、剣術までもが単調になってしまっている。このまま訓練を積んでいっても、近い内に行き詰まるのは目に見えていた。
 なので、メアたちとともに『虚実』の技を教えることにしたのだ。
 本当は他の技も教えたいところだが、こっちを覚えてからでいいだろう。

「何よ、虚実って?」

 怪訝けげんな顔で言うフィーナ。

「ないものとあるもの……うそまことを混ぜた攻撃だ。まぁ、やってみればわかる」
「やるって……誰があんたとやるのよ?」

 私は嫌よとでも言うように、フィーナが一歩後ろに下がる。フィーナだけでなくメアとミーナも沈黙していたが、すぐにアルニアが名乗りを上げた。

「面白そうだから僕が相手になるよ」
「そっか。まぁ、誰も名乗りを上げなかったらお前にしようと思ってたから丁度よかったよ」
「そうなのかい?」

 俺の言葉に不思議そうにしつつも、ストレッチをしながら、すでにやる気満々のアルニア。

「当たり前だろ。あんだけ戦いたい戦いたい言って家に押しかけてきたのに、こういう時だけやりたくないなんて言わせねえからな」
「それもそうだね。それじゃ、早速行くよっ!」

 アルニアは気合を入れた返事と共に斬りかかってきた。
 同時に俺も走り出す。振り下ろされた剣をけ、アルニアの顔に向かってゆっくりとなぐりかかった。
 アルニアでも見える程度に速度を抑えた拳だったので、彼女は当然、剣で防ごうとする。
 振ったばかりの剣をすぐに防御に回せる反応の速さは流石さすがだな。
 しかし俺は激突げきとつの直前、拳を止める。そして瞬時しゅんじにもう片方の手をアルニアのあごに下からえ、衝撃しょうげきを与えた。

「カハッ!?」

 失速せずに突っ込んできていたアルニアは、その速度分のダメージを食らい、回転しつつ俺の後ろへと飛んでいった。
 しばらくしてフラフラと立ち上がりながら、困惑した表情を浮かべるアルニア。

「な、何が――」
「何が起きたかわからなかっただろ?」

 アルニアの言葉をさえぎって、ちょっと得意気に言ってみる。

「ただ馬鹿正直に攻撃を当てようとするんじゃない。相手が予想しているであろう攻撃をおとりとして放って誘い込み、そのすきに別の攻撃を仕掛ける、それが虚実というものだ。特に実力が拮抗きっこうしてる相手、もしくはそれ以上の相手に有効だな」

 そう言って教えてやると、全員が感心したような反応を示した。
 どうもこいつらを見ている限り、この世界の戦闘は魔法魔術やスキルに頼ってばかりで、格闘に関する高等技術がないように思える。
 ミランダの時だってそうだった。剣を使った受け流しができるくらいで、あとはスキルによるゴリ押しで、差を埋めようとしていた。
 だからいざ実践練習をさせてみても全員戸惑っていて、数時間経っても子供が拳を握り始めたようなぎこちない動きしかできていなかった。
 虚実を使えるのと使えないのとでは、戦い方が大きく変わってくるからな、そこは少しずつ覚えてもらうしかない。
 そんなこんなで時間が経ち、今日の修業を終えた。
 今日はただ技術を覚えてもらっただけなので、昨日のように疲れ果ててしかばねのようになっている奴は誰もいなかった。

「さて、今日の分の修業も終わったし、久しぶりに買い物にでも行こうかね」

 俺がポツリとこぼした『買い物』という言葉に、ミーナが尻尾を立て、鼻息を荒くして目を輝かせる。

「買い物? 武器屋? 防具屋?」

 今使ってるので十分なはずなのにこの食い付きよう……こいつはコレクターか何かか?

「そっちもいいけど、とりあえず食料調達だな。学園長から許可を貰って寮から分けてもらってた食料も、そろそろなくなりそうだし」
「ん、付いてく」

 ワクワクした目のままそう言うミーナ。完全に武器防具を見に行く気だ……子供かよ。

「……わかった。街に着いたら別行動でもいいからな?」
「了解」
「冒険者になった時に使う武器防具を見たいから、俺も付いていっていいか?」

 俺たちの会話にメアが入ってくる。

「気が早くないか? 冒険者になれるかもわからないし、なれるとしてもまだまだ先だろう」
「見に行くだけだからいいんだよ」

 そう言って目をキラキラさせる子供がもう一人ここにいた。まぁ、どちらにしろ王様からメアの護衛を頼まれてる以上、メアと離れすぎるのはよくないしな。
 街までは一緒に行くとして、ミーナとメアが武器を見ている間の二人の護衛は、ヘレナに任せれば大丈夫……か?
 フィーナが言うにはヘレナもかなり強いらしいが、俺は実際に見てないからわからないんだよな。
 ただ、メアがじっと見つめてくるので、多少の不安感がぬぐえないままうなずいてしまった。

「まぁ、いいか。アルニアはどうする?」
「僕はこのまま帰るよ。寮に何も言わずに一晩泊まっちゃったから、寮母りょうぼさんも心配してると思うし」

 苦笑いで答えるアルニア。

「わかった。フィーナ……は留守番だな」
「言われなくてもわかってるわよ」

 口をとがらせていじけるフィーナ。ヘレナがコイツと遭遇そうぐうした時、魔族だからとチンピラに絡まれてたそうだから、余計な騒動を避けるためにも留守番してもらったほうがいいだろう。
 しょうがない、帰りに美味いもんでも買ってきてやるか。
 ノワールには食材探しの手伝いで付いてきてもらうとして、街に行くメンバーは五人で決定だな。
 ……そういえばココアを朝から見てないが、どこ行ったんだ?

「なぁ、そういえばココア――」
「「ッ!」」

 ココアの名前を出した瞬間に、メアとミーナの体がビクッと大きく跳ねた。何だ?
 もう一度二人の反応を確かめるため、ココアの名前を出す。

「ココア」

 再び体が跳ねる二人。その顔からは大量の汗が噴き出し、明らかにココアにおびえている様子だった。

「どうしたんだ、お前ら?」
「……あの人、なら一回故郷に帰るって言ってたぞ?」

 メアの言葉に、ミーナも小刻みに震えながら頷く。
 ココアの奴、こいつらに何したんだ?
 魔王の使う精神干渉に耐性をつけるために、ココアが二人を鍛えるって話だったんだが、やり過ぎたんじゃないだろうな?
 俺は不安を抱えながら地上に戻り、準備を整えてから屋敷を出るのだった。


 隣街クルトゥの入り口に到着した俺たちは、俺とノワール、メアとミーナとヘレナのグループに別れて行動を開始した。
 街を眺めながら、使えそうな食材がないか探して歩く。

「しかし……この世界の食べ物って、見慣れたものもあれば初めて見るものも多いな」

 通りに並ぶ出店に並んでいるものを見て思ったことを、ふとつぶやいた。

「そうでしたか。ちなみにアヤト様は、何か食べたいメニューはありますか?」

 ノワールがうれしそうな笑みを浮かべてそう言う。

「うーん、そうだな、一応肉料理が……ていうかノワールって、食事を必要としないって言った割には結構料理するのな? うまいし」
「必要がないというだけで、味覚や食欲自体はありますので。それに少し前に、アヤト様に喜んでいただくために、その手の書本を読み漁りましたし、ある程度のものはご要望に沿えると思います」

 クフフと自慢げに答えるノワール。
 ありがたいね、しかも料理だけじゃなく、掃除や洗濯までやってくれちゃってるし。
 それってもはや執事しつじっていうより家政婦じゃね? とか、女子力の高い男悪魔ってどうよ? と思うけど、やってくれるのはありがたいので何も言わないでおく。
 それからしばらく買い物を続けながら歩いていたのだが、ふとした拍子に目を向けた、人目につかない路地裏の奥に、白と赤の縦じま模様で彩られたテントを見つけた。
 そして同時に、風でテントの端がめくれ、隙間から中の様子が少しだけ見えた。

「あれは……」

 俺が小さく呟くと、ノワールも俺の視線の先に目を向ける。

「あれ、とおっしゃいますと……あの妙に派手なデザインをした、布の建物……たしかテントといいましたか、あれのことですか?」
「ああ、少し気になるものが見えた」

 ノワールは「ふむ」と呟いて軽く考え込む様子を見せ、言葉を続けた。

「色々と混ざったこの臭い……おそらくあそこは、奴隷商でしょう」

 ノワールの答えに、俺は思わず溜息ためいきを零してしまう。
 奴隷となれば、人間としての権利が剥奪はくだつされ、道具のように扱われてしまう。そんな奴隷を売買する連中の店、か。
 そういえば初めて会った時、ミーナは人攫ひとさらいに襲われて、奴隷商に売られかけてたんだっけ。

目障めざわりでしたら、今すぐにでもあのテントごと吹き飛ばしますが?」

 ノワールが手の指をパキパキ鳴らしながら言う。奴隷商より物騒な奴が俺の隣にいた。

「ああいう奴らはどんなに暴力でおどそうともゴキブリみたいにいてくるから、一つ二つ潰したとこで意味がない。それにあそこが奴隷商だって確信もないまま、そんなことを白昼堂々はくちゅうどうどうやったら、俺たちが悪者になっちまうよ」
「それもそうですね」

 俺の言葉に、ノワールは納得した様子を見せる。

「だけど気になりはする。一応中を見させてもらおう。それで気に入らなければ――」

 俺とノワールは悪い笑みを浮かべ、奴隷商のテントへ歩き始めた。


 近付きながら改めて思ったが、赤と白のストライプ模様のせいか、まるでサーカスでもしていそうな雰囲気だな。
 テントに近付くと、出入口のところに『閉展』の札がかけられているのに気付いた。丁度そこに、いかにもサーカスっぽい道化の衣装を着て丸メガネをかけた、太っている男が出てくる。
 その男はニヤリといやらしく笑い、金歯を見せつけてきた。

「これはこれはこれは! 『ルーカスサーカス団』へようこそ! ただいま休業中ですが……どうかなされましたか?」

 どうやら、サーカス団ということで誤魔化ごまかしているらしい。まぁ、この男の風貌ふうぼうを見れば確かに疑う奴は少ないだろう。

「へぇ、表向きはサーカスをしているのか?」

 俺の言った「表向きは」という言葉に反応を示す男。

「……何のことでございましょう?」

 その笑みに警戒の色が見え始めた。

「あんたら、奴隷を扱ってるんだろう? 見せてもらおうかと思ってな」
「ヒヒッ、そちらのお客様でしたか! ですが今はほとんど品切れでして……余りものでよろしければ」

 俺の言葉に雰囲気がまた変わり、さっきよりも上機嫌じょうきげんな態度になる男。やはり奴隷商売が本業のようだ。

「構わない」
「はい。では、こちらへ」

 男にいざなわれ、俺とノワールは、裏路地にあるもう一つのテントの中へと入っていった。



 第2話 売れ残り


 そして今、笑みを絶やさず維持し続ける男にテントの奥に案内され、ボロ服に包まれた二人の少女を紹介された――というわけだ。
 どちらも逃げられないように、鉄球の付いた足枷あしかせ手錠てじょうがされている。
 髪が足を隠すほどに長く、体中が汚れているのを見るに、あまり清潔せいけつには管理されていないようだ。
 いかにも奴隷という扱いだな。
 そんな二人の容姿は、髪と肌の色以外にも特徴が多かった。
 どちらの少女も、それぞれ左右の色が違う瞳、いわゆるオッドアイを持っていたのだ。
 燃えるように赤く輝く髪に赤い肌の少女の方は、ひたいから親指程度の大きさの一本の角が生えていることから、亜人だと判断できる。彼女は右の瞳が緑色に、左の瞳が赤色になっていた。
 透き通った水のように綺麗きれいな水色の髪に青い肌の魔族の少女の方は、右側頭部に黒い小さな角が生えている。こちらは赤い方の少女とは対照的に、右目が赤、左目が緑になっていた。
 俺にまじまじと見られて恐ろしく感じたのか、二人とも震えている。

「ご存知とは思いますが、こやつらの持つオッドアイは不吉の象徴と言われておりまして、それが余ってしまった理由でございます」

 不吉……この世界ではオッドアイにそういう意味があるのか。
 いやー、呪いのことといいオッドアイのことといい、本当に不幸や不吉に縁があるな、俺は!
 それにしても……

「ずいぶん似てるが……双子か?」
「いいえ、二人共それぞれ、純粋な鬼族の亜人と魔族でございます。この者たちは別々に引き取ったので、オッドアイなのは偶然となります」

 不吉の象徴が集まるなんて、ここの奴らも中々不運じゃないか? 親近感がわきそうだ。
 それで、と奴隷商人が言葉を続ける。

「なにぶん時期が時期でして、この二人以外に商品がなく、新商品の入荷予定は数日先になっています。今ご購入されるのでしたら、このような粗悪品になってしまいますが……」

 少女二人に対しての「粗悪品」という言葉に思わずイラついてしまうが、ここは我慢しておとなしく客として振る舞う。

「構わない、この二人を買おう」
「おお! お買い上げありがとうございます! それでは特別に通常価格より値下げさせてもらい、一人銀貨五十枚、二人で金貨一枚をいただきます」

 ポケットから金貨一枚を取り出して渡すと、男が変な笑い声を上げて喜ぶ。

「おっほほぅ! 金貨を迷いなく懐からお出しになるとは……では今から奴隷の証として焼印を入れ、首輪をつけてまいりますので、少々お待ちください」

 男はそう言って立ち上がり、部屋の奥に行こうとする。
 焼印? 肌に直接焼いて刻むあれのことか? それはマズい。

「それはナシにしてもらえるか?」

 部屋を出る直前にそう言われて振り返った男は、変なものでも見るような目で俺の顔を凝視ぎょうしする。

「焼印には奴隷として言うことを聞かせるための魔法がこめられているので、それがなければ命令に従わない者になってしまいますよ?」

 なるほど、そんな厄介やっかいな魔法があるのか。だったらなおさらだな。

「構わないさ、その方がいい」
「では首輪も?」
「ああ、要らない」
「ヒヒッ、旦那様は相当いいご趣味をお持ちのようですね……かしこまりました、ではそのように」

 何か勘違いしているのか、男は意味深な笑みを浮かべた後、少女二人の手錠と足枷を外した。
 特に書類を書く必要もないとのことだったので、俺たちはそのまま奴隷少女たちを連れてさっさとテントを出た。
 短時間しかいなかったが、外の空気が美味く感じられる。俺は思いっ切り息を吸いながら、背伸びをした。

「さて、これで心置きなくな」

 あの商人いわく、今いる奴隷はこの二人だけとのことだから、テントの中にいるのは奴隷商の連中だけだろう。
 つまり、罪のない者を巻き込む心配はないということだ。

「アヤト様が手を下すまでもないでしょう。ここは私にお任せを」

 俺の言葉に応じたノワールの右手に、黒い炎がともる。完全に吹き飛ばす気満々である。

「いいよ、ちょっと試したい技があるから。少し下がっててくれ」

 ノワールは一礼して、少女二人と一緒に数歩下がる。
 それを確認した俺は、テントに手をかざし、短く詠唱した。
 するとじわじわとわき上がる感情とともに、俺の体から黒いものが溢れ始め、テントを一瞬で包み込む。

「「ッ!」」
「これ、は……」

 その異様な光景を見た少女たちは目を見開いて言葉を失い、ノワールは小さく言葉を零す。
 そして黒いものが消える頃には、まるで最初から何もなかったかのように、目の前にあった巨大なテントが跡形もなく綺麗に消失していたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。