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武人祭
和解
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コンコン。
軽く扉をノックし、中からの返事を待つ。
魔空間から帰ってきた俺は、フィーナの部屋の前に立っていた。
しばらくしても中々返事が返ってこないのでもう一度ノックしようとしたが、その直前で声が聞こえてくる。
「・・・・・・誰?」
その声はたしかにフィーナのものだが、明らかにトーンが低く元気がなかった。
本当に泣いていたのか?
「俺だ」
「何の用よ?」
さらに不機嫌な声が返ってくる。なんだ、俺だったのがそんなに嫌だったか?
「っていうか、あんたはあいつらの面倒を見てるはずでしょ?」
「当面の面倒はランカに任せた。俺は魔法を教えるのはからっきしだからな」
「・・・・・・そう」
「「・・・・・・」」
フィーナが短い一言だけ呟くと、しばらく沈黙の雰囲気が流れる。
とはいえ、何か気まずいわけでもないしフィーナが何か話す雰囲気もないので、俺が先に口を開く。
「入っていいか?」
「変態」
「おうよ」
適当な返事をしてガチャリと扉を当たり前のように開ける。
肯定でも否定でもないし、これ以上ここで突っ立ちながら話しててもキリがない。
「入っていいなんて言ってないんだけど」
「ダメとも言わなかったからな。どっちでもない返事をしたお前が悪い」
軽く笑いながら入ると中は夕方にも関わらず、カーテンが閉められているせいで夕日が遮られて薄暗い。
その部屋のベッドの上でフィーナは向こう側を向いたまま寝そべっていた。
「んで何?あたしを慰めにでも来たの?」
「そうだな、頭でも撫でてやろうか?」
冗談のつもりで言って手を伸ばしたのだが、フィーナは反応することなく頭に手を置けてしまった。
そのまま撫で始めてもフィーナはされるがままだったので、本気で落ち込んでいるんじゃないかと心配してしまう。
「大丈夫か?」
「・・・・・・さぁね。正直言うと、自分でもさっぱりよ」
フィーナは抵抗もしないまま話を続けた。
「人間に『魔族だから』なんて言われ慣れてたはずなのに、あんな子供に言われてカッとなって叩いちゃうなんて・・・・・・大人気ないったらありゃしないわ。しかもーー」
何を思ったのか、フィーナは被っている布団を悔しそうにギュッと握り締める。
「『だって気持ち悪いじゃない、肌が青いなんて』・・・・・・そう聞こえたら、自分でも驚くぐらい悲しい気持ちになったわ」
そう言うとフィーナは起き上がる。
あれが聞こえてたのか・・・・・・まぁ、それなりに大声だったしな。
するとその目に涙を溜めたまま、引きつった笑顔で俺を見てきた。
「あんたらのせいよ・・・・・・あんたらがあたしを、魔族に優しくするから・・・・・・」
「だけど間違ってるとは思わない」
頭に乗せたままの手を後頭部に回して引き寄せると、驚いた表情をして俺の胸に寄りかかるフィーナ。
言葉を続ける。
「そもそも耳や尻尾の有無、肌の色の違いだけで争うこと自体馬鹿げてるんだよ。亜人だ魔族だって言っても、結局同じ人間同士でも戦争を起こしてるんだ。なら種族や肌の色なんて関係なく仲良くすりゃあいいと思わねえか?」
「それができないからこんな現状になってるんじゃない」
「たしかにな。なら諦めて、俺たちだけでも仲良くするか」
胸に寄り添わせているフィーナの頭をわしゃわしゃと掻き、髪を滅茶苦茶にする。
本人からは「にゃーっ!?」とミーナのような悲鳴が上がる。
「何すんのよ!?」
「じゃれただけだ、気にすんな」
「髪が乱れるじゃない、バカ!」
怒鳴って俺の手を払い除け、鏡台の前に行って乱れた髪を櫛で直そうとする。
その様子はすでに気分が晴れたように、いつも通りに見える。
「ああ、そうだ、フィーナ」
「何よ、また髪を滅茶苦茶にしようってんなら、本気で怒るからね」
鏡に向き合ったままそう言うフィーナ。髪は女の命ってか。
「お前に謝りたいって奴がいる」
そう言った瞬間フィーナは手を止め、いかにも面倒と言った感じの表情で振り返る。
「まさかさっきの子供?連れて行させたの?」
「それこそまさかだ。ランカからお前が泣き喚いているのを聞いてな」
「あいつ、覚悟おきなさいよ・・・・・・」と憎々しげに呟くフィーナ。
俺がこの話題を出したからか、部屋の扉がゆっくりと開かれ、メルトが入ってくる。
「「・・・・・・」」
途端に気まずくなる空気。
メルトはその気まずさからか自らの腕を掴み、目を斜め下に逸らす。
対照的にフィーナはメルトに対してジト目をしっかりと向ける。まるで母親に叱られている子供の絵面だな。
「あ、あの・・・・・・」
するとメルトがやっと口を開く。しかしーー
「心にもない謝罪なんて要らないわよ」
「っ・・・・・・」
俺と似たようなことを言うフィーナ。
そう言われたメルトは口を閉ざす。
「ずっと会話を聞いてたんでしょ?あんたに言われたことなんて、慣れてるのよ。だから、そんなことを一々気にしなくていいわよ・・・・・・さっき言ったことは撤回はしないけど」
さっき言ったことっていうと・・・・・・『偏見的な価値観を他人に押し付けるな』だったか?
自分が魔族嫌いだからって、他人が自分と同じだと思うな。そしてそれが正常だと思い上がるな。
フィーナはきっと、そういう意味合いでああ言ったのだろう。
「でも、それだと私が納得しないわ。アヤトがあんたと話してる時、魔族とか関係なく仲がよさそうだったし。それがなんか、まるで・・・・・・」
メルトが一旦言葉を止めて、俺の方を一瞥する。年上の先輩なのに呼び捨てにされるとは・・・・・・完全に舐められてるな、俺。
すると顔を赤くしてフィーナの方に視線を戻す。
「まるで恋人みたいだったわ」
「・・・・・・は?」
メルトの放った言葉に、フィーナは硬直する。
そしてその顔が段々と赤く染まっていきーー
「はぁぁぁっ!?」
爆発するように叫んだ。
「何言ってんの!?あたしとこいつが・・・・・・?ありえないわ、絶対!そもそもこいつにはメアとかミーナがいるんだし・・・・・・」
「と、取り乱し過ぎよ・・・・・・っていうかアヤト、あんたあの二人とずいぶん仲がいいと思ってたら付き合ってたのね?」
メルトがジト目の視線と矛先を俺に向けてくる。
「ああ、合意の上でな。だから二股だのは言ってくれるなよ?傷付くから」
「わかった、言わないでおく。だけど軽蔑はするわ」
そう言うと、メルトのジト目が蔑む目に変わる。
あまり変わらない・・・・・・いや、むしろ悪化してない?
すると何やら扉の方から視線を感じる。
見ると、ウルとルウがこっそりと覗いていた。
「どうしたんだ、二人共?」
俺の言葉にフィーナとメルトが反応し、二人もまたウルたちに気が付く。
「亜人と魔族の子供・・・・・・っ!まさかあんたたちそこまで進んで!?」
「「んなわけあるかっ!」」
メルトの爆弾発言に俺とフィーナがシンクロする。
この年で子供はまだ早いだろうに・・・・・・たとえ成人だとしても。
少しフィーナの様子が気になり、視線を向けると目と目が合う。
瞬間、フィーナは顔が真っ赤にした顔を伏せて、「何でこんな奴のを・・・・・・!」と呟く。変に意識しちまってんな、こいつ・・・・・・
俺とフィーナがそんな微妙な空気になってしまった時、ルウとウルがフィーナに駆け寄る。
「フィーナ様、さっき泣いてたけど大丈夫です?」
「どこか痛いならルウたちに言うの。痛いのがどこかに行くようによしよしするの」
心配そうにフィーナを見つめる二人。
そんな視線を向けられたフィーナは大きく溜め息を吐き、二人を抱き寄せた。
そんな事をされたのが初めてだった二人は、驚いて目を丸くしていた。
「あんたたちに心配されるほどヤワじゃないわよ。さっきのはアレよ・・・・・・目にゴミが入っただけ。だけどもう水で洗ったから大丈夫よ」
「本当なの?本当に大丈夫なの?」
フィーナに強くしがみつき、しつこいくらいに聞いてくるウル。
どうやらウルも、見た事のないフィーナの泣き顔に不安を覚えていたようだ。
フィーナは二人を離すと、困ったような笑いを浮かべて答える。
「全くアヤトといい、あんたらといい、しつこいわね。大丈夫ったら大丈夫よ・・・・・・もう、大丈夫」
最後に言い放った『大丈夫』は、本当に大丈夫そうに聞こえた。
俺が茶化したからか、ウルたちを心配させまいと気を取り直したのか・・・・・・どちらにしろ、もう心配する必要はなさそうだ。
するとメルトが唐突に頭を下げる。
「・・・・・・ごめんなさい」
メルトの口から出てきたその言葉は、静かで重く、心の底から零れたものだった。
「さっきは言い過ぎたわ」
「・・・・・・そう」
その短い一言を発したフィーナの表情は、メルトに優しい微笑みを向ける。その言葉が本心だと、なんとなく雰囲気で理解したらしい。
メルトは言葉を続ける。
「まだ青い肌とか抵抗あるけど・・・・・・でも、あんたが・・・・・・フィーナさんが悪い人じゃないっていうのはわかったから」
そしてほぼ初対面で、しかも嫌いだったはずの魔族をさん付けで呼ぶという、この不遇さ・・・・・・俺はこいつに何か恨まれるようなことをしたっけなと思ってしまう。
するとフィーナが呆れた笑いを浮かべて溜め息を吐く。
「わかった、許してあげる。こう言えば、もう気にしないでしょ?いつまでも辛気臭い空気出していないで、さっさと行くわよ」
フィーナはそう言って立ち上がる。
「どっか行くのか?」
俺がそんな何気ない質問をすると、フィーナは「はぁ?」と返してきた。その様子はいつものフィーナだった。
「何言ってんの、あんた?魔空間に戻って修業するんでしょ?」
まるで、さっきまでの暗い雰囲気が嘘のように、明るい笑顔を浮かべるフィーナ。
その後、魔空間へ戻ると一緒に連れてきたフィーナが一番にランカが足へ執拗にローキックをして半泣きにしていたけれど、俺は気にせずサイやカイトたちの相手をした。
軽く扉をノックし、中からの返事を待つ。
魔空間から帰ってきた俺は、フィーナの部屋の前に立っていた。
しばらくしても中々返事が返ってこないのでもう一度ノックしようとしたが、その直前で声が聞こえてくる。
「・・・・・・誰?」
その声はたしかにフィーナのものだが、明らかにトーンが低く元気がなかった。
本当に泣いていたのか?
「俺だ」
「何の用よ?」
さらに不機嫌な声が返ってくる。なんだ、俺だったのがそんなに嫌だったか?
「っていうか、あんたはあいつらの面倒を見てるはずでしょ?」
「当面の面倒はランカに任せた。俺は魔法を教えるのはからっきしだからな」
「・・・・・・そう」
「「・・・・・・」」
フィーナが短い一言だけ呟くと、しばらく沈黙の雰囲気が流れる。
とはいえ、何か気まずいわけでもないしフィーナが何か話す雰囲気もないので、俺が先に口を開く。
「入っていいか?」
「変態」
「おうよ」
適当な返事をしてガチャリと扉を当たり前のように開ける。
肯定でも否定でもないし、これ以上ここで突っ立ちながら話しててもキリがない。
「入っていいなんて言ってないんだけど」
「ダメとも言わなかったからな。どっちでもない返事をしたお前が悪い」
軽く笑いながら入ると中は夕方にも関わらず、カーテンが閉められているせいで夕日が遮られて薄暗い。
その部屋のベッドの上でフィーナは向こう側を向いたまま寝そべっていた。
「んで何?あたしを慰めにでも来たの?」
「そうだな、頭でも撫でてやろうか?」
冗談のつもりで言って手を伸ばしたのだが、フィーナは反応することなく頭に手を置けてしまった。
そのまま撫で始めてもフィーナはされるがままだったので、本気で落ち込んでいるんじゃないかと心配してしまう。
「大丈夫か?」
「・・・・・・さぁね。正直言うと、自分でもさっぱりよ」
フィーナは抵抗もしないまま話を続けた。
「人間に『魔族だから』なんて言われ慣れてたはずなのに、あんな子供に言われてカッとなって叩いちゃうなんて・・・・・・大人気ないったらありゃしないわ。しかもーー」
何を思ったのか、フィーナは被っている布団を悔しそうにギュッと握り締める。
「『だって気持ち悪いじゃない、肌が青いなんて』・・・・・・そう聞こえたら、自分でも驚くぐらい悲しい気持ちになったわ」
そう言うとフィーナは起き上がる。
あれが聞こえてたのか・・・・・・まぁ、それなりに大声だったしな。
するとその目に涙を溜めたまま、引きつった笑顔で俺を見てきた。
「あんたらのせいよ・・・・・・あんたらがあたしを、魔族に優しくするから・・・・・・」
「だけど間違ってるとは思わない」
頭に乗せたままの手を後頭部に回して引き寄せると、驚いた表情をして俺の胸に寄りかかるフィーナ。
言葉を続ける。
「そもそも耳や尻尾の有無、肌の色の違いだけで争うこと自体馬鹿げてるんだよ。亜人だ魔族だって言っても、結局同じ人間同士でも戦争を起こしてるんだ。なら種族や肌の色なんて関係なく仲良くすりゃあいいと思わねえか?」
「それができないからこんな現状になってるんじゃない」
「たしかにな。なら諦めて、俺たちだけでも仲良くするか」
胸に寄り添わせているフィーナの頭をわしゃわしゃと掻き、髪を滅茶苦茶にする。
本人からは「にゃーっ!?」とミーナのような悲鳴が上がる。
「何すんのよ!?」
「じゃれただけだ、気にすんな」
「髪が乱れるじゃない、バカ!」
怒鳴って俺の手を払い除け、鏡台の前に行って乱れた髪を櫛で直そうとする。
その様子はすでに気分が晴れたように、いつも通りに見える。
「ああ、そうだ、フィーナ」
「何よ、また髪を滅茶苦茶にしようってんなら、本気で怒るからね」
鏡に向き合ったままそう言うフィーナ。髪は女の命ってか。
「お前に謝りたいって奴がいる」
そう言った瞬間フィーナは手を止め、いかにも面倒と言った感じの表情で振り返る。
「まさかさっきの子供?連れて行させたの?」
「それこそまさかだ。ランカからお前が泣き喚いているのを聞いてな」
「あいつ、覚悟おきなさいよ・・・・・・」と憎々しげに呟くフィーナ。
俺がこの話題を出したからか、部屋の扉がゆっくりと開かれ、メルトが入ってくる。
「「・・・・・・」」
途端に気まずくなる空気。
メルトはその気まずさからか自らの腕を掴み、目を斜め下に逸らす。
対照的にフィーナはメルトに対してジト目をしっかりと向ける。まるで母親に叱られている子供の絵面だな。
「あ、あの・・・・・・」
するとメルトがやっと口を開く。しかしーー
「心にもない謝罪なんて要らないわよ」
「っ・・・・・・」
俺と似たようなことを言うフィーナ。
そう言われたメルトは口を閉ざす。
「ずっと会話を聞いてたんでしょ?あんたに言われたことなんて、慣れてるのよ。だから、そんなことを一々気にしなくていいわよ・・・・・・さっき言ったことは撤回はしないけど」
さっき言ったことっていうと・・・・・・『偏見的な価値観を他人に押し付けるな』だったか?
自分が魔族嫌いだからって、他人が自分と同じだと思うな。そしてそれが正常だと思い上がるな。
フィーナはきっと、そういう意味合いでああ言ったのだろう。
「でも、それだと私が納得しないわ。アヤトがあんたと話してる時、魔族とか関係なく仲がよさそうだったし。それがなんか、まるで・・・・・・」
メルトが一旦言葉を止めて、俺の方を一瞥する。年上の先輩なのに呼び捨てにされるとは・・・・・・完全に舐められてるな、俺。
すると顔を赤くしてフィーナの方に視線を戻す。
「まるで恋人みたいだったわ」
「・・・・・・は?」
メルトの放った言葉に、フィーナは硬直する。
そしてその顔が段々と赤く染まっていきーー
「はぁぁぁっ!?」
爆発するように叫んだ。
「何言ってんの!?あたしとこいつが・・・・・・?ありえないわ、絶対!そもそもこいつにはメアとかミーナがいるんだし・・・・・・」
「と、取り乱し過ぎよ・・・・・・っていうかアヤト、あんたあの二人とずいぶん仲がいいと思ってたら付き合ってたのね?」
メルトがジト目の視線と矛先を俺に向けてくる。
「ああ、合意の上でな。だから二股だのは言ってくれるなよ?傷付くから」
「わかった、言わないでおく。だけど軽蔑はするわ」
そう言うと、メルトのジト目が蔑む目に変わる。
あまり変わらない・・・・・・いや、むしろ悪化してない?
すると何やら扉の方から視線を感じる。
見ると、ウルとルウがこっそりと覗いていた。
「どうしたんだ、二人共?」
俺の言葉にフィーナとメルトが反応し、二人もまたウルたちに気が付く。
「亜人と魔族の子供・・・・・・っ!まさかあんたたちそこまで進んで!?」
「「んなわけあるかっ!」」
メルトの爆弾発言に俺とフィーナがシンクロする。
この年で子供はまだ早いだろうに・・・・・・たとえ成人だとしても。
少しフィーナの様子が気になり、視線を向けると目と目が合う。
瞬間、フィーナは顔が真っ赤にした顔を伏せて、「何でこんな奴のを・・・・・・!」と呟く。変に意識しちまってんな、こいつ・・・・・・
俺とフィーナがそんな微妙な空気になってしまった時、ルウとウルがフィーナに駆け寄る。
「フィーナ様、さっき泣いてたけど大丈夫です?」
「どこか痛いならルウたちに言うの。痛いのがどこかに行くようによしよしするの」
心配そうにフィーナを見つめる二人。
そんな視線を向けられたフィーナは大きく溜め息を吐き、二人を抱き寄せた。
そんな事をされたのが初めてだった二人は、驚いて目を丸くしていた。
「あんたたちに心配されるほどヤワじゃないわよ。さっきのはアレよ・・・・・・目にゴミが入っただけ。だけどもう水で洗ったから大丈夫よ」
「本当なの?本当に大丈夫なの?」
フィーナに強くしがみつき、しつこいくらいに聞いてくるウル。
どうやらウルも、見た事のないフィーナの泣き顔に不安を覚えていたようだ。
フィーナは二人を離すと、困ったような笑いを浮かべて答える。
「全くアヤトといい、あんたらといい、しつこいわね。大丈夫ったら大丈夫よ・・・・・・もう、大丈夫」
最後に言い放った『大丈夫』は、本当に大丈夫そうに聞こえた。
俺が茶化したからか、ウルたちを心配させまいと気を取り直したのか・・・・・・どちらにしろ、もう心配する必要はなさそうだ。
するとメルトが唐突に頭を下げる。
「・・・・・・ごめんなさい」
メルトの口から出てきたその言葉は、静かで重く、心の底から零れたものだった。
「さっきは言い過ぎたわ」
「・・・・・・そう」
その短い一言を発したフィーナの表情は、メルトに優しい微笑みを向ける。その言葉が本心だと、なんとなく雰囲気で理解したらしい。
メルトは言葉を続ける。
「まだ青い肌とか抵抗あるけど・・・・・・でも、あんたが・・・・・・フィーナさんが悪い人じゃないっていうのはわかったから」
そしてほぼ初対面で、しかも嫌いだったはずの魔族をさん付けで呼ぶという、この不遇さ・・・・・・俺はこいつに何か恨まれるようなことをしたっけなと思ってしまう。
するとフィーナが呆れた笑いを浮かべて溜め息を吐く。
「わかった、許してあげる。こう言えば、もう気にしないでしょ?いつまでも辛気臭い空気出していないで、さっさと行くわよ」
フィーナはそう言って立ち上がる。
「どっか行くのか?」
俺がそんな何気ない質問をすると、フィーナは「はぁ?」と返してきた。その様子はいつものフィーナだった。
「何言ってんの、あんた?魔空間に戻って修業するんでしょ?」
まるで、さっきまでの暗い雰囲気が嘘のように、明るい笑顔を浮かべるフィーナ。
その後、魔空間へ戻ると一緒に連れてきたフィーナが一番にランカが足へ執拗にローキックをして半泣きにしていたけれど、俺は気にせずサイやカイトたちの相手をした。
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