最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

予想外

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 「ふうん!」

 気合いの入った声と共に、俺の身の丈と同じくらいの大剣を俺に向かって振るうサイ。
 俺はそれを竜化した籠手で受け止める。

 「ぬぅ・・・・・・ビクリともしない・・・・・・!」
 「そのまま抑えていてください!」

 遠くからリリスの声。その方向から火の玉が飛んでくる。
 それを蹴りで消す。

 「なっ・・・・・・魔法を蹴って掻き消した!?」
 「魔法の火力上がったか?まぁ、とりあえず倍返しな」

 そう言って、さっき放たれた魔法より一回り大きな火の玉を撃ち放った。
 リリスは驚きつつも回避し、こっちを睨む。

 「なんですか、倍返しって!」
 「いや、俺んとこの風習で、女の子に贈り物をされたら三倍返しをしろってのがあるから・・・・・・」
 「わかりました。今後はあなたには絶対贈り物はしないと誓いますわ」

 ジト目で睨みながら呆れるリリス。
 周囲では苦笑いしてるカイトや、拗ねたまま目を背けているメルトが見学している。相変わらず不機嫌らしい。
 魔空間にこいつらを連れてきて三十分、サイとリリスが夏休みの間に鍛えたという実力を見せてもらっていた。

 「二人共、それなりに上達はしたか」

 俺のそんな何気ない一言で、リリスの眉がピクリと動く。

 「『それなり』・・・・・・?夏休みの間に火の魔法詠唱を短くできたんですのよ!?しかも動きながらと!」
 「え?・・・・・・あー、そっか」

 カイトたちを急ピッチで育てていたから忘れていた。普通の学生が自分のペースで進めていれば、それくらいになるのか・・・・・・そういえば、カイトやレナが無詠唱で魔法を放ったのが驚かれてたくらいだしな。
 ふむ・・・・・・普通の中等部の生徒が、どのくらいの進行状況か確認してみるか。

 「お前らのクラスだと、魔法の会得状況ってどうなってる?」

 カイトに聞いてみると「そうですね」と言って思い出し始める。

 「貴族や家柄にもよりますけど、基本的に俺たちはちょっとした魔法を詠唱して撃てるようになるのがやっとですね」
 「ですわ。私だって高額の家庭教師を雇い、初等部を卒業する頃には魔法を撃てるようになりましたのよ?平民であれば直接、魔術師の親族でもいない限り、独学で習得するというのは難しいですわ。もしくは・・・・・・ギルドに行き、冒険者から無料で教えを請わせていただけるという方に出会えれば、話は別ですが」

 そう言うと、先程までの強気な雰囲気がリリスからなくなり、ブルリと震える。
 何かを怖がってるのか?

 「なら簡単じゃないのか?ギルド行って探せばいいじゃねえか」
 「簡単なわけないじゃないですか!あんな・・・・・・盗賊のような不届き者の溜まり場に行くなど!」
 「おま・・・・・・俺もまとめて不届き者扱いしようとすんじゃねえよ!?」

 たしかに、偏見通りチンピラっぽい奴は冒険者にもいるけど、全てが全てと言われるとな・・・・・・少なくとも俺も冒険者なので、一括りにされると流石に悲しい。
 なのだが・・・・・・

 「「え・・・・・・」」

 カイトとレナが小さく零した声を、俺は聞き逃さなかった。
 お前ら・・・・・・。
 こいつらの俺に対するイメージが大体わかり、思わず溜め息を吐いてしまう。

 「もういい。とりあえず、みんな勘違いしてるだろうから先に言っておくが、俺は魔法魔術を教えるのは苦手だ」
 「・・・・・・はい?」

 リリスが間の抜けた表情をし、サイとメルトが「え?」と予想通り驚いてくれる。

 「だってあなた・・・・・・あれだけ見事な魔術を使っておきながら!?」
 「俺の場合、特殊だからな・・・・・・もし魔法魔術をしっかり学びたいってんなら、専用教師がいるぞ。呼ぶか?」
 「ぜひ!」

 リリスが急に目を輝かせて首を縦に振る。貴族とかってその地位に甘んじてだらけてるイメージがあるけど、結構積極的なのな。
 念話でノワールに呼びかけ、ここにランカを呼んで連れてきてもらった。
 種族間の理解を深めてもらうために、姿は魔族のままにしてもらっている。ちなみに薄着姿のままである。

 「おや、さっきの人たちじゃないですか。なんですか、また増やすんですか?節操ないですねぇ・・・・・・」
 「増やすって弟子をって意味だよな?」
 「私という者がありながら他の女にも手を出すなんて、ケダモノですねー」

 声のトーン的に冗談で言ってるつもりなのだろうが、リリスたちが信じちゃうからやめなさい。
 ほら、自分の身を守るように抱き締めて引いちゃってるじゃねえか。

 「そういう冗談はいいから、こっちの金髪ドリルとリボン頭の魔術教師になってやってくれよ」

 俺がリリスとメルトを指差してそう言うと、二人が怒った様子で「なっ!?」と重なった声が聞こえる。
 そういう特徴をしてるのが悪い。

 「ああ、そういう事でしたか。ノワールさんに『お前に拒否する権利はない』と有無を言わさずに連れてこられたので、何をされるのかと思いましたが・・・・・・」

 ノワールの強引さに呆れつつも、ランカ自身も抵抗した様子がないのは諦めたからだろうか?

 「そういう事だ。こっちのリボン頭は口は悪くて魔族嫌いだが、めげずに教えてやってくれ。最悪見捨ててもいいが」

 俺がそう言うと、さっきのフィーナに対する態度を思い出したのか、「うっ・・・・・・」と唸るメルト。
 その様子を見たランカは「ふむ」と声を零す。

 「なるほど、そういう事でしたか。フィーナさんが泣いていたのにはそういう訳があったのですね」

 ランカのその一言に、俺を含めた全員が驚いてしまっていた。
 あのフィーナが・・・・・・泣いてた?
 普段強気なあいつが泣く、というところを思い浮かべただけで胸が締め付けられるような気がした。

 「・・・・・・ランカ、リリスたちを任せていいか?」
 「えぇ、いいですよ。その間に、この方たちを私の眷属になってしまうかもしれませんけれどね」

 ニヤリといやらしく笑うランカ。
 魔空間と屋敷を繋ぐ裂け目の目の前まで行き、振り返って俺もランカに軽く笑いかける。

 「ならちゃんと面倒見ろよ。部下を導くのが上司の役目だからな」
 「おぉ、本当ですか!ふっふっふ~、いいじゃないですかいいじゃないですか、この子たちを私色に染めて差し上げますよ!」

 そんな意気揚々としたランカの姿を尻目に裂け目入ろうとすると、呼び止められる。

 「待って!」
 「ん?」

 振り返ると、メルトが俺のマントを掴んでいた。やめろ、伸びる。

 「わ・・・・・・私も連れて行って!」
 「何のために?」
 「ーーためよ・・・・・・」

 ボソリとメルトが小さく呟く。
 なんだって?

 「今、なんてーー」
 「あたしも謝りに行くためって言ってんの!」

 俺が言い終える前に、メルトが怒鳴るようにそう言う。
 目にウルウルと涙を溜めて今にも泣きそうな表情をしている。なんでお前も泣きそうなんだよ・・・・・・

 「その・・・・・・言い過ぎたってのはわかってるし、私が泣かせたなんて気分悪いじゃない・・・・・・」
 「言っとくが、上辺だけの謝罪は要らねえぞ。魔族が気に入らないのが変わらねぇってんなら、それで謝っても同情と思われるだけだ」
 「わかってるわよ、そんな事・・・・・・でもしょうがないじゃない、今まで魔族の悪いイメージな話しかしかしたことないんだもの!そう考えてたら、あの青い肌の色も気持ち悪く感じてきて・・・・・・それで急に『魔族はいい奴なんだ』なんて言われても、簡単に信じられないわよ!」

 意識の擦り込みというのは、中々恐ろしいものだな。

 「それでどうする?謝るだけ謝っとくか?」
 「えぇ。あんたは上辺だけの謝罪は要らないって言ったけど、上辺だけでも・・・・・・形だけでも謝らないと先に進めない気がするのよ」
 「・・・・・・わかった」

 メルトなりの考え方があるようだから連れて行くことにした。
 場合によっては強制的に魔空間に戻して、今後一切出禁にするかもしれんが・・・・・・俺としてはサザンドだけじゃなく、他の街でも魔族が自由に出歩けるようになればいいなと思っている。
 だって結局、人は何か理由を付けて争おうとしてるだけで、人間も亜人も魔族も、何も代わりはしないのだから。
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