上 下
220 / 303
武人祭

休憩

しおりを挟む

 まる一日が経過した。
 ゾンビもどきの数は減ったようで減らないようで、感覚すらおぼろげになってきていた。
 僕たちの体力と魔力はどんどんと減っていき、限界に近い状態となっていた。
 馬車はいつの間にか破壊されており、徒歩で近くの村に行かなくてはならず、ゾンビもどきを迎撃しつつも後退するしかなかった。
 最初はそれぞれで攻撃していたのだが、ジリ貧になると六人が全員で対処するのではなく、自然と交代しながらの攻撃となっていた。
 ただ一つ救いなのは、ナルシャとコノハ君がほぼ休まずに戦い続けてくれていたことだ。なので実質四人のローテーションとなっていたのだ。
 脳筋っぽいナルシャはなんとなくわかるが、まさかコノハ君までもがそんな体力を備えているとは驚いた。
 だって彼はレオンのような体力に自信のある亜人ではなく人間であるはずなのに・・・・・・。
 二人の戦いぶりを見て、レオンとリゲイドが少し自信を無くしかけていたのが可哀想に思えた。

 「ナルシャさん、そっちに数体向かいました!」
 「任せろ! オッラアァァァッ!」

 コノハ君の掛け声に応えたナルシャが力任せに拳を振り回し、一体のゾンビもどきの頭を吹き飛ばして、後続にいた他の奴らが吹き飛ぶ。なんて馬鹿力なんだ・・・・・・。
 そしてコノハ君も、自分の方に飛ばされたゾンビもどきを手に持っている小太刀で切り刻む。
 その芸術のようなあまりにも綺麗な太刀さばきに、つい魅入ってしまいそうになる。
 これで戦ったことがない? 絶対嘘だ。
 冒険者ならSランク、見方によってはSSランクと言っても信じられるだろう。
 そして彼の雰囲気が最初とまるで違っていた。
 鋭い眼光で殺気を纏い、ゾンビもどきを次々と倒していってしまう。

 「なんだ、まともに戦えてるじゃねえか! 何が『戦ったことがない』だよ!」

 レオンが楽しそうに笑いながらゾンビもどきを吹き飛ばす。
 それからも魔王や僕は魔術で、亜人の彼ら二人とナルシャは凄まじい肉体的アドバンテージで、そしてコノハ君はそれらを上回るような驚異的な速さで立ち回る。
 そして食べることも寝ることも許されないこの状態を続けた結果、僕が最後の一体を倒しーー

 「お・・・・・・」
 「「終わったぁぁぁっ!」」

 僕たちは雨が降り始めた曇った空に向かって叫んだ。
 そして叫び終わると同時に、ぬかるんだ地面に全員が倒れ、レオンとナルシャが笑い始める。

 「ガッハハハハハハハハハッ!」
 「アッハハハハハハハハハッ! 今回の戦いは楽しかったぞ! 凄ぇ強ぇ奴とは戦えなかったけど、こんな数相手に休まずってのも面白ぇな!」
 「同じく! まさか他種族と共闘した上に、同族を交えた億の軍勢を相手にする日が来ようとは思いもしなんだぞ! 戦争よりも戦争をしていた気分だ!」

 戦闘狂二人の会話に僕とペルディアの眉間にシワが寄る。ここまで一緒にいて思ったけれど、本当にこの人とは気が合うようだ。

 「あー・・・・・・終わったんですねー・・・・・・」

 そしてコノハ君はのんびりモードに戻っている。うん、こっちの方が喋り方とかも合ってるな。
 それからしばらく僕たちの魔力と体力が戻るまでそのまま寝てることとなり、数時間後に近くにある村へとやっと着いた。
 まぁ、村と言っても「元」村で、戦争が起こる際に住人は全ていなくなってしまっているので、今はただの廃村だ。
 しかし水や食べ物は少しだけ残っているので、腹ごしらえをして泥で汚れた体を綺麗にした。
 なんだかんだやっているうちに、日はすでに沈んでかなり暗くなり、雨は止んでいた。
 
 「夜になったか・・・・・・あまり下手に動かない方がいいな。今日はここを借りて雨風を凌ぐか」
 「一応、形だけでも家はあるしね。馬もない今、とりあえずここで休むしかないね」

 ペルディアの呟きにそう答える。
 休むしかないというか、そろそろ休まないとぶっ倒れそうなのである。
 とりあえず男女に分かれるために、二つの小さめな建物を風と水の魔術で綺麗にして寝床を整える。
 それから腐ってない食べ物を探してみんなと雑談をしながら食事を取り、それぞれ就寝する。
 だけれど、僕はなぜかすぐには眠ることができず、外で夜空を見上げていた。

 「疲れてるのに寝れないなんてあるんだなー・・・・・・」

 なんて独り言を呟きながら、手頃な箱を椅子代わりにして座る。
 しばらく足をプラプラさせながらボーッとしていると、横に誰かが立つ。
 見ると黒い装束を身にまとった男の子だった。

 「隣、いいですか?」

 コノハ君だ。
 隣と言っても、僕が座っているのは長椅子じゃなく人一人しか座れないような箱だ。
 譲る気はないので、地面なりなんなり勝手に座ればいいんじゃないかと思い、適当に「どうぞ」と答えた。

 「眠れないんですか?」
 「なぜかね。丸一日戦い続けてクタクタなはずなのに、横になっても目が冴える・・・・・・多分、あの悪魔の言ってたことが頭から離れないからだと思う」
 「悪魔さんの言ってたこと・・・・・・?」

 コノハ君が首を傾げる。って、まだあいつのことを「さん」付けするのか・・・・・・。
 しかしそれは置いといて、悪魔の言っていたことを思い出す。

 「『六属性以上の適性を持つ者』『空間魔術』・・・・・・あの悪魔の使っているところを見る限り、あれは転移ができる魔術のようだった。罠として仕掛けて一定の範囲にランダムで飛ばすものは知ってるけど、あれが任意に使用できるものだとしたら・・・・・・」
 「・・・・・・プッ」

 僕の様子がおかしかったのか、コノハ君が吹き出す。
 あ、もしかして口に出てた? っていうか、もしかしてこんな幼女が考え込むなんて似合わない、なんて失礼なことを思ってるんじゃないだろうな、こいつ?
 何はともあれ、とりあえず今は別の話題にしておくか。
 僕は一旦考え出すと止まらなくなる癖があるから、このままだと朝を迎えてしまいそうだ。
 あの悪魔が口にした内容は帰ってから研究するとしよう。
 コホンと咳払いしてコノハ君の方に向き直る。

 「このままだと眠れそうにないから、何か眠くなるような話をしてくれないか?」
 「目が覚めるような話じゃなく眠くなる話、ですか・・・・・・では、眠くなるかはわかりませんが、退屈な話を一つだけ」

 そう言ってコノハ君は深呼吸をし、退屈な話をするというにはあまりにも悲しそうな表情をして語り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。