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武人祭
コノハという人間
しおりを挟む思い出したようにさっきの話題を出すと、コノハ君は僕から離れ、図星を突かれたという表情になる。それを見て僕は確信した。
あれは架空の物語じゃなく、彼自身の話なんだと。
「そりゃあ、中途半端に終わるよね。君自身の物語はまだこれからなんだもん」
「わかっちゃいましたか?」
コノハ君はそう言って、頭を掻きながら申し訳なさそうにエヘヘと笑う。
わかるさ、あんな表情で語っていれば、ただの先入観じゃないことくらい。
だけどそれよりも気になることをこの人は言っていた。
「それでさ、今の話が全部本当なら、最後に『その世界のために戦うことになってしまった』と君は言ったけれど・・・・・・『その世界』ってどういうことだい?その言い方じゃまるで・・・・・・」
君はこの世界の人間じゃないみたいな・・・・・・
「・・・・・・」
コノハ君は僕の疑問にすぐには答えず、思い耽るように空を見上げた。
「僕は『勇者』って呼ばれた」
すると、コノハ君は唐突にそう告げる。
勇者?それって英雄とかお伽噺に出てくるアレのこと?
疑問はまだあるけど、彼の話を最後まで聞くことにした。
「僕の世界は科学が発展していて、魔法なんて比喩表現として使われるだけで、眉唾物だったんだ。だけどある日突然、足元が光ったと思ったら、全く知らない場所にいた。召喚って言ってたかな?周りには魔術師っぽい人がいたけど、その時の僕はその人たちをただの怪しい人としか認識してなかったよ」
「その怪しいローブを僕も着てるんだけどね?」
「あ、あはは・・・・・・似合っていますよ?」
「この話の流れで、しかも苦笑いで言われても嬉しくないよっ!」
もはや弄ばれてる気分だった。
だけど、それが少しでも空気を軽くしようとしてくれているのがわかる。
「それで、その話が本当だとしたら、君はこれからどうするの?」
「・・・・・・もう、どうしようもないかもしれないね」
「どういうこと?」
「聞いちゃったんだ・・・・・・戦争から帰ってきて、またここに派遣される直前に、『あの勇者はどうせ帰れない。ならここで使い潰してしまおう』・・・・・・って」
その話を聞いた瞬間、どうしようもない怒りが込み上げてきた。
勝手に人を攫ってきて帰せない?しかも使い潰す?
どこの誰だか知らないけど、ずいぶん勝手じゃないか・・・・・・!
「顔、怖いよ、ルビアちゃん」
「え?ああ、すまーーちょっと待て、なんだ、ルビアちゃんって?」
この数日間で彼に初めて名前を呼ばれたのだが、なぜかちゃん付けされていた。
「だって、年齢的にこのグループの中で君が一番下だし、なんかちゃんって感じだから」
「たしかに僕はまだ十三だけど、その分未来に希望はあるよ!子供扱いしないで!」
結局、その夜はかなり遅くまで起きてしまい、歩いている途中で僕は睡魔に負けて力尽きてしまう。
その後はレオンにおんぶされながら馬車のある街に着くという失態を犯してしまった。
そして一時的にさらにそれから数日を経て、三種族が拠点としているラライナの領内に着いて報告を終えた。
その報告で災厄の悪魔の存在が明らかになったことにより世間が賑わったが、それ以降悪魔が姿を現すことはなく、数ヶ月数年と時間が経つにつれていつもの平和な日常に戻っていった。
ーーーー
「ーーというのが、二十年前に僕が体験した話さ」
僕が昔話を話終えると、アヤト君は「ほー」と意味深に漏らす。
「ルビアちゃん、ルビアちゃん」
「言うと思ったけど早速使うなや。で、何?」
「もしかして学園長、そのコノハって奴に惚れてた?」
アヤト君が何の脈略もなくそんなことを言い出し、思わず飲みかけていたお茶の中で吹き出し、自分の顔へ盛大にかかってしまった。
「ブァッツ!?」
「大丈夫か、学園長。水いるか?」
一見優しい言葉だが、手をいやらしくワキワキさせながら突き出している辺り、水魔法を思いっきりぶっかける気満々だ。
「遠慮しとくよ。僕も水は使えるし」
その言って手の平に水の膜を張り、顔に当ててヒヤリとした感触を堪能する。
はぁ~、冷たい。
ある程度冷えたところで顔を上げ、アヤト君を睨む。
「急に何を言い出すんだい?彼に惚れてただなんて・・・・・・」
「だって、そのコノハって名前をこの学園に付けたってことは、未練がましくしがみついてるのかと・・・・・・」
「未練がましいって・・・・・・でも、たしかにそうかもね」
少し思い当たる節があって、苦笑いしてしまう。
すると彼は少しだけ真剣な表情に戻る。
「そのコノハはその後どうなったんだ?」
その質問はきっと、コノハ君がどうなったか、なんとなく想像が付いてしまっているからしたのだ。
アヤト君も彼と同じ異世界から来たというのなら、伝えた方がいいのだろう。
「彼は・・・・・・死んだ、んだと思う。コノハ君と別れてから何ヶ月か経ったある日、彼が逆賊として捕えられたと耳にしたことがあったんだ。もちろん、彼がそんなことするはずないと、僕は思ってる。あんな優しく気弱な彼がそんなことできるはずないし・・・・・・」
「・・・・・・どうだろうな」
アヤト君は肯定するでも否定するでもない返答をしてきた。それに僕は少しムッと腹を立ててしまう。
「彼が貴族や王様に反乱を起こすと?」
「ああ・・・・・・だってコノハは知っちまったんだろ?帰ることもできず、その上味方だと思ってた奴らからは使い潰されようとしてたなんて、気が狂ってもおかしくないと思わないか?」
「・・・・・・」
反論できるような言葉が出てこなかった。
十分、ありえる。そう思ってしまったからだ。
「ところで学園長」
「なんだい、アヤト君?」
「もう・・・・・・放課後なんだが」
「・・・・・・え?」
時計を見ると、たしかにもうすぐ下校時間になろうとしている時間だった。
「あー・・・・・・やっちゃったか」
「本当、学園長って長話が好きなおばちゃんだよな」
「おばちゃん言うな!」
「・・・・・・とかツッコミつつ、ちょっと嬉しそうじゃねえか」
アヤト君に指摘されて鏡を見ると、少しニヤけてる自分が写ってた。
子供にばかり見られてる僕が年上っぽいって言われれば、ちょっと嬉しいのかもしれない。
その後はカイト君の話に戻し、彼には魔術の取り扱いに関する注意し、前に言っていた彼の友人たちが編入したがっているという話になった。
そしてもう一人追加で、とアヤト君からその子のサイズの書かれた紙を預かったりなどをして、彼らを帰した。。
そして、自分の椅子に思いっきり寄りかかり、大きく溜め息を吐いてしまう。疲れたなぁ・・・・・・。
すると、ふとあることに気付いた。
「そういえば・・・・・・捕えられたとは聞いたけど、処刑されたとは聞いたことないな。もしかしたら生きてたりして・・・・・・なんてのは希望を持ち過ぎかな?」
そんな考えは「ありえないか」と切り捨て、仕事へと戻った。
☆★☆★
「師匠・・・・・・すいません」
学園長室を出て少し経った辺りで、カイトが俺に向かって呟いた。
「いつまでも辛気臭ぇ顔してんじゃねえよ。結果的に誰も怪我をしてないし、学園長にもたっぷり叱られたんだ。次をどうするかを考えようぜ」
「師匠に泥を塗るような真似を・・・・・・しかも俺のせいなのに学園長からも叩かれてしまって・・・・・・!」
悔しそうに唇を噛み締めるカイト。
「気にすんなよ、顔どころか俺の人生そのものが汚泥塗れだから・・・・・・今更なんだよ。それに見ただろ? 叩いた側であるはずの学園長が痛がってたのを。あれくらい、いくら受けても痛くねえから」
精神的なダメージは結構キツかったがな。まぁ、それは置いといて。
カイトのフォローをしながらその頭をペシッと叩く。
「いたっ!?」
「どうせ気にするくらいだったら次に活かせよ。メアもだが、うちには厄介なもの抱えてる奴ばっかなんだ。その中にお前も入ったってだけなんだから、『原因は何か』『それをどうすればいいか』、それを俺と一緒に考えてくれ。何よりお前の問題なんだから、お前自身が何とかしなきゃいけないんだし・・・・・・」
そう言いながらカイトの額を人差し指で突っつく。
「たしかに俺は師匠だし、お前らからすれば色々できるかもしれねえけど、だからって問題丸投げなんてするなよ?」
「わかって、ます。こんな身に付けた覚えのない力を、誰彼構わず向けないように・・・・・・俺をもっと鍛えてください!」
「もっと・・・・・・もっとか。んじゃ、死ぬ気というか、一回死んどくか?」
「あー・・・・・・すいません、やっぱ適切な鍛え方でお願いします」
やはり、カイトはヘタレである。
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