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武人祭
新人と変人
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☆★☆★
「はい!? 依頼がない!?」
周りが賑やかしい中、僕はあまりの驚きに叫んでしまった。いくつかの視線がこっちに向いてしまい、僕はその人たちに向けて頭を下げる。
僕の名前はジェイ。白い短髪と赤い瞳がトレードマーク。気が小さく、普通の女の子より背が低いこともあり、故郷では僕のことを臆病兎と呼ぶ人が多い。
そしてその僕の横に立つ人物がもう一人。
「どういうことですか!? Eランクですよ? 私たちが前に登録しに来た時は沢山あったじゃないですか!」
僕と同じくらいの声を荒げて叫ぶ、ブロンドの長髪にエメラルドのように綺麗な目をした女の子。
小さな杖を持ち、綺麗な白く長いローブを身に纏った彼女はマヤ。僕なんかを気にかけてくれる優しく可愛い女の子だ。
僕たちは今、クルトゥという街の冒険者ギルドにやって来ていた。
実を言うと僕たちはドが付くほどの田舎から出て来て、つい数日前にこの街でギルド登録を済ませたばかり。というのも、僕がギルド登録に必要な年齢である十七歳に、先月なったばかりでもあるからだ。
連れのマヤは幼馴染なのだが、彼女はすでに十七を迎えているにも関わらず、僕が同じ年齢になるのを待っていてくれた。
そんな僕たちが今、窮地と言える状況に立たされていた。
たった今、依頼を受けようと二人で来たのだが、なんとEランク依頼が全て達成され、一つもないのだと言う!
「申し訳ございません。ある冒険者様が全て片付けてしまいまして・・・・・・」
そう言って頭を下げたのは受付の綺麗な女の人だった。初めてここに訪れた時、どちらかと言えば仕事ができそうなカッコイイ女の人っていう感じで、都会にはこんな凄い人がいるんだなーなんて思っていたら、マヤに思いっ切り足を踏まれたことは今でも鮮明に覚えている。
「ごめんなさいね、うちの冒険者様が」
そして受付にもう一人、初めて見る少女がやってくる。
背丈は僕と同じくらい低く、女の子らしい女の子というイメージの少女。そんな彼女は自慢するように上機嫌にふてぶてしい笑みを浮かべていた。
「こら、あなたのことじゃないんだから調子に乗らないの。それに彼らだって私たちのことを思ってやってくれたことなんだし・・・・・・」
「わかってますよー。でも全部はやり過ぎなんじゃないですか? 今だってこういう子たちが依頼ができなくて困っちゃってるじゃないですか」
何やら彼女たちは、その冒険者の話をしているようだった。
「あの・・・・・・まさかですけど、あの量の依頼を『彼』が一人で達成させた、ということですか・・・・・・?」
本当にまさかと思いたい。だって貼られていた依頼は二十を超えていたはずなんだから。だけど受付の女の人たちはその問いに頷く。
「凄いでしょ? たった数日でその依頼全部こなしちゃうんだから。だけどこう言ったらあれだけど・・・・・・変わってるのよ、彼」
背の小さい彼女がそう答える。
「悪いけど、私も同意見ね。ああ、でも悪い意味じゃないのよ? 私たちが困ってた依頼を請け負って片付けてくれたし。ただ、普通の人との感覚が違うと言うか・・・・・・やることが明後日の方向どころか、どこか未来に飛んでいきそうな勢いなのよね」
「つまり変人ってことですか?」
容赦なくそう口にしたのはマヤだった。僕もそう思ったけれど、流石に相手に悪いと思って言わなかったのに・・・・・・。
すると僕たちの会話を聞いていたのか、周りにいる冒険者の人たちが一斉に笑い出した。
「確かに、あの人は凄いけど変人だわな!」
「おうよ! 前だってここのギルドに変な難癖付けてきた美人の姉ちゃんを拳骨お見舞いして黙らせてたしな!」
「あれは爽快だったな! ・・・・・・それに変人と言えば、あの人の世間知らずさにも笑ったな。『パーティ名ってなんだ?』ってよ?パーティ名っていやぁ、そのパーティの名前なのにさ!」
慕われてるのかバカにされてるのかわからない会話が飛び交っていた。それを余所目にマヤが受付の人と話す。
「そんなことより、どうにかなりませんか? 本当に簡単なクエストでもいいので受けないと・・・・・・」
マヤが必死に言うにはわけがあった。僕たちは今、金欠だ。
今日、宿を取る分はあるけど、明日からどうすればいいのか・・・・・・という状態だ。
マヤがしっかりものだから、今まで宿から装備まで色々やってくれたけど、今回ばかりは・・・・・・。
「おい、だぁれが変人だ?」
するとギルド内に男の声が響き、さっきまでの喧騒が消える。
今の今まで騒いでいた人たちを見ると、全員がある一点に視線を向けていた。
その方向はギルドの入り口で、そこには五人の男女がいた。
赤と黒が混じった長髪をし、引きつった笑顔をしている男の子。
水色の髪で目が覆い隠された挙動不審な女の子。
獣の耳や尻尾を生やして亜人だとわかる、黒髪の女の子。
長くウェーブのかかった金髪をし、笑いをこらえようとしている女の子。
そしてその人たちをまとめるように真ん中に位置する黒髪黒目で高身長な男の人がそこにいた。
その人たちが現れた瞬間、他の冒険者の皆さんはまるで親に悪戯を見付かった時の子供のように縮こまってしまっていた。
「やっぱり思われてたんですね、変人って」
赤黒の髪をした男の子かそう言うと、金髪の子がブハッと吹き出して、ついに笑い始めてしまった。
「こいつらに言われたくねえよ! 特にそこの世紀末みたいな髪と服装した四人組には!」
黒髪黒目の男の人が一つのテーブル席を指差してそう言った。そこには確かにあまり見ない服や髪型をした人たちをが座っている。
しかしどう見ても・・・・・・こう言っては悪いけれども、悪人面をしているのだ。なので、たとえそう思ったとしても、大抵の人は口をつぐむだろう。
それをこの人は躊躇なく言ってしまっていた。
「凄いなぁ・・・・・・」
「確かに凄い人たちね・・・・・・」
僕の呟きにマヤが苦笑いを浮かべて答える。だけど多分マヤが言った凄いと僕の凄いは意味が違うと思う。
あの人は僕と全部真逆なんだ。
見た目もかっこよくて、堂々とした性格、物怖じしない度胸。
僕の憧れた冒険者を、あの人がまさしく体現しているのだ。
そう、たとえあの人が変人だったとしても・・・・・・ん?
「変人?」
「はい、変人ですけど何か?」
僕がある疑問に首を傾げると、いつの間にか隣にはさっきの五人組がいた。
「んにゃん!?」
つい驚いて変な声が出てしまった。女の子でも出さないような今の声をバカにされるかと思ったけれど・・・・・・。
「なんかミーナみたいな声出したな」
「私、そんな声出さない」
特に気にしたようすもなく、彼の隣にいる猫人族のミーナと呼ばれた少女に話しかけ、ミーナさんは眉をひそめて不機嫌そうに答える。
「前、メアに脇腹突っつかれた時に出てたぞ」
「アヤトのエッチ」
「なんで?」
こっちが恥ずかしくなりそうな会話を当たり前のように淡々と進めていく二人。
受付の人たちはよく見る光景なのか、困ったような笑いを浮かべながら溜め息を吐いていた。まさかとは思うけど、この人たちが・・・・・・?
「あの、もしかして依頼を全部片付けちゃった人って・・・・・・?」
「えぇ、この全身黒い人がそうよ」
「黒い人」と表現された人を隣の人を見る。先程猫人族の少女がアヤトと呼んでいた人だ。
「失敬な。このローブの裏生地とかは赤いぞ」
「そうですね、靴にも白い紐がついてるじゃないですか」
お互い揚げ足を取るような会話を平然としているのが怖かった。するとその会話にマヤが割って入る。
「あの!」
言葉を強調させて自分に意識を向かせるマヤ。するとマヤより先にアヤトさんが申し訳なさそうに口を開いた。
「あー・・・・・・悪い、俺が全部仕事を取っちまったせいで、収入がないんだったな」
「聞いてたんですか?」
「聞こえちまったんだよ。俺って耳がいいから」
冗談目化して笑うアヤトさん。でもこっちは笑い事じゃなくて・・・・・・
「お詫びっていうのもあれだけど、俺たちのパーティと組んで一緒に来るか?」
「「え・・・・・・?」」
アヤトさんの意外な提案に、マヤと僕の疑問の声が重なった。すると受付の女の人が慌てた様子で割り込んでくる。
「ですが、今あるのは最低でもDランク以上のものしかありません。規則としてEランクのこの方たちが受けられる依頼はEのみとなっていますので・・・・・・」
一瞬だけ希望が出てきたと思ったのだが、そうそう上手くいかないらしい。と思ったら、何やらアヤトさんの口角が上がり、何かを企んでいるような笑みになった。
「なぁ、これから俺たちが受ける依頼を特殊ランクへ移行してくれないか? そうすればこいつらも受けられるだろ?」
「あ・・・・・・!」
アヤトさんの言葉に、思い出したかのように手を叩く受付の女の人。するとその表情はすぐにさっきの笑みへと戻る。
「かしこまりました。ではご希望の依頼をあちらからお持ちくださいませ」
アヤトさんは「了~解」と言いながら、依頼の紙が貼られている掲示板へ向かって行った。
僕はまた気になったことを聞くために、受付の女の人に向き直る。
「あの、特殊ランクってなんですか?」
するとカッコイイ方の女の人がキリッとした顔になる。これが仕事モードというやつなのかもしれない。
「特殊ランクとは、受ける者のランクに関係なく発注が可能になる、その名の通り特殊な依頼のことです。ただ緊急時以外では滅多に特殊ランクなどにはしません」
女の人の説明に相槌を打ちながら「なるほど」と口にする。
あれ、でも今アヤトさんが特殊ランクにするよう頼んだのは・・・・・・?
その疑問を僕の代わりにマヤが聞いてくれる。
「今の人は特別な権限でも持っているのですか?」
するとマヤの質問に受付の人が二人とも困った顔をして唸る。
「特別、と言えば特別なんでしょうね・・・・・・」
「ですよねー・・・・・・権限ってわけじゃないんですけど、似たような力と説得力がありますから・・・・・・」
いまいち女の人たちが言いたいことが理解できずにいて、そのままアヤトさんが戻ってきてしまった。十枚近くの依頼を持って。
「・・・・・・え? まさかこれ全部ですか!?」
「ああ・・・・・・あ、今度は心配しなくてもいいぞ? ちゃんと期限の近いものだけを取ってきたから。今度からは他の冒険者のことを考えて依頼を取るようにするよ」
「いえ、そういうことを言ってるんじゃなくてですね・・・・・・」
こんな枚数を持ってきて、ちゃんと達成できるのか? そんな疑問を抱いたまま受付の女の人たちを見る。
「Dランクが六枚、Cランクが四枚、全てディグラム洞穴の依頼ですね。はい、特殊ランクとして受理致しました」
本当に受理しちゃった!? DとCの依頼を全部!? 何の屈託もない笑顔で言えるくらい当たり前なの!?
声も出せないくらいに驚く僕のことなど気にせず、受付の女の人は僕たちを送り出す言葉を口にする。
「では行ってらっしゃいませ、新人さんとーー『自由な傭兵』の皆様」
「はい!? 依頼がない!?」
周りが賑やかしい中、僕はあまりの驚きに叫んでしまった。いくつかの視線がこっちに向いてしまい、僕はその人たちに向けて頭を下げる。
僕の名前はジェイ。白い短髪と赤い瞳がトレードマーク。気が小さく、普通の女の子より背が低いこともあり、故郷では僕のことを臆病兎と呼ぶ人が多い。
そしてその僕の横に立つ人物がもう一人。
「どういうことですか!? Eランクですよ? 私たちが前に登録しに来た時は沢山あったじゃないですか!」
僕と同じくらいの声を荒げて叫ぶ、ブロンドの長髪にエメラルドのように綺麗な目をした女の子。
小さな杖を持ち、綺麗な白く長いローブを身に纏った彼女はマヤ。僕なんかを気にかけてくれる優しく可愛い女の子だ。
僕たちは今、クルトゥという街の冒険者ギルドにやって来ていた。
実を言うと僕たちはドが付くほどの田舎から出て来て、つい数日前にこの街でギルド登録を済ませたばかり。というのも、僕がギルド登録に必要な年齢である十七歳に、先月なったばかりでもあるからだ。
連れのマヤは幼馴染なのだが、彼女はすでに十七を迎えているにも関わらず、僕が同じ年齢になるのを待っていてくれた。
そんな僕たちが今、窮地と言える状況に立たされていた。
たった今、依頼を受けようと二人で来たのだが、なんとEランク依頼が全て達成され、一つもないのだと言う!
「申し訳ございません。ある冒険者様が全て片付けてしまいまして・・・・・・」
そう言って頭を下げたのは受付の綺麗な女の人だった。初めてここに訪れた時、どちらかと言えば仕事ができそうなカッコイイ女の人っていう感じで、都会にはこんな凄い人がいるんだなーなんて思っていたら、マヤに思いっ切り足を踏まれたことは今でも鮮明に覚えている。
「ごめんなさいね、うちの冒険者様が」
そして受付にもう一人、初めて見る少女がやってくる。
背丈は僕と同じくらい低く、女の子らしい女の子というイメージの少女。そんな彼女は自慢するように上機嫌にふてぶてしい笑みを浮かべていた。
「こら、あなたのことじゃないんだから調子に乗らないの。それに彼らだって私たちのことを思ってやってくれたことなんだし・・・・・・」
「わかってますよー。でも全部はやり過ぎなんじゃないですか? 今だってこういう子たちが依頼ができなくて困っちゃってるじゃないですか」
何やら彼女たちは、その冒険者の話をしているようだった。
「あの・・・・・・まさかですけど、あの量の依頼を『彼』が一人で達成させた、ということですか・・・・・・?」
本当にまさかと思いたい。だって貼られていた依頼は二十を超えていたはずなんだから。だけど受付の女の人たちはその問いに頷く。
「凄いでしょ? たった数日でその依頼全部こなしちゃうんだから。だけどこう言ったらあれだけど・・・・・・変わってるのよ、彼」
背の小さい彼女がそう答える。
「悪いけど、私も同意見ね。ああ、でも悪い意味じゃないのよ? 私たちが困ってた依頼を請け負って片付けてくれたし。ただ、普通の人との感覚が違うと言うか・・・・・・やることが明後日の方向どころか、どこか未来に飛んでいきそうな勢いなのよね」
「つまり変人ってことですか?」
容赦なくそう口にしたのはマヤだった。僕もそう思ったけれど、流石に相手に悪いと思って言わなかったのに・・・・・・。
すると僕たちの会話を聞いていたのか、周りにいる冒険者の人たちが一斉に笑い出した。
「確かに、あの人は凄いけど変人だわな!」
「おうよ! 前だってここのギルドに変な難癖付けてきた美人の姉ちゃんを拳骨お見舞いして黙らせてたしな!」
「あれは爽快だったな! ・・・・・・それに変人と言えば、あの人の世間知らずさにも笑ったな。『パーティ名ってなんだ?』ってよ?パーティ名っていやぁ、そのパーティの名前なのにさ!」
慕われてるのかバカにされてるのかわからない会話が飛び交っていた。それを余所目にマヤが受付の人と話す。
「そんなことより、どうにかなりませんか? 本当に簡単なクエストでもいいので受けないと・・・・・・」
マヤが必死に言うにはわけがあった。僕たちは今、金欠だ。
今日、宿を取る分はあるけど、明日からどうすればいいのか・・・・・・という状態だ。
マヤがしっかりものだから、今まで宿から装備まで色々やってくれたけど、今回ばかりは・・・・・・。
「おい、だぁれが変人だ?」
するとギルド内に男の声が響き、さっきまでの喧騒が消える。
今の今まで騒いでいた人たちを見ると、全員がある一点に視線を向けていた。
その方向はギルドの入り口で、そこには五人の男女がいた。
赤と黒が混じった長髪をし、引きつった笑顔をしている男の子。
水色の髪で目が覆い隠された挙動不審な女の子。
獣の耳や尻尾を生やして亜人だとわかる、黒髪の女の子。
長くウェーブのかかった金髪をし、笑いをこらえようとしている女の子。
そしてその人たちをまとめるように真ん中に位置する黒髪黒目で高身長な男の人がそこにいた。
その人たちが現れた瞬間、他の冒険者の皆さんはまるで親に悪戯を見付かった時の子供のように縮こまってしまっていた。
「やっぱり思われてたんですね、変人って」
赤黒の髪をした男の子かそう言うと、金髪の子がブハッと吹き出して、ついに笑い始めてしまった。
「こいつらに言われたくねえよ! 特にそこの世紀末みたいな髪と服装した四人組には!」
黒髪黒目の男の人が一つのテーブル席を指差してそう言った。そこには確かにあまり見ない服や髪型をした人たちをが座っている。
しかしどう見ても・・・・・・こう言っては悪いけれども、悪人面をしているのだ。なので、たとえそう思ったとしても、大抵の人は口をつぐむだろう。
それをこの人は躊躇なく言ってしまっていた。
「凄いなぁ・・・・・・」
「確かに凄い人たちね・・・・・・」
僕の呟きにマヤが苦笑いを浮かべて答える。だけど多分マヤが言った凄いと僕の凄いは意味が違うと思う。
あの人は僕と全部真逆なんだ。
見た目もかっこよくて、堂々とした性格、物怖じしない度胸。
僕の憧れた冒険者を、あの人がまさしく体現しているのだ。
そう、たとえあの人が変人だったとしても・・・・・・ん?
「変人?」
「はい、変人ですけど何か?」
僕がある疑問に首を傾げると、いつの間にか隣にはさっきの五人組がいた。
「んにゃん!?」
つい驚いて変な声が出てしまった。女の子でも出さないような今の声をバカにされるかと思ったけれど・・・・・・。
「なんかミーナみたいな声出したな」
「私、そんな声出さない」
特に気にしたようすもなく、彼の隣にいる猫人族のミーナと呼ばれた少女に話しかけ、ミーナさんは眉をひそめて不機嫌そうに答える。
「前、メアに脇腹突っつかれた時に出てたぞ」
「アヤトのエッチ」
「なんで?」
こっちが恥ずかしくなりそうな会話を当たり前のように淡々と進めていく二人。
受付の人たちはよく見る光景なのか、困ったような笑いを浮かべながら溜め息を吐いていた。まさかとは思うけど、この人たちが・・・・・・?
「あの、もしかして依頼を全部片付けちゃった人って・・・・・・?」
「えぇ、この全身黒い人がそうよ」
「黒い人」と表現された人を隣の人を見る。先程猫人族の少女がアヤトと呼んでいた人だ。
「失敬な。このローブの裏生地とかは赤いぞ」
「そうですね、靴にも白い紐がついてるじゃないですか」
お互い揚げ足を取るような会話を平然としているのが怖かった。するとその会話にマヤが割って入る。
「あの!」
言葉を強調させて自分に意識を向かせるマヤ。するとマヤより先にアヤトさんが申し訳なさそうに口を開いた。
「あー・・・・・・悪い、俺が全部仕事を取っちまったせいで、収入がないんだったな」
「聞いてたんですか?」
「聞こえちまったんだよ。俺って耳がいいから」
冗談目化して笑うアヤトさん。でもこっちは笑い事じゃなくて・・・・・・
「お詫びっていうのもあれだけど、俺たちのパーティと組んで一緒に来るか?」
「「え・・・・・・?」」
アヤトさんの意外な提案に、マヤと僕の疑問の声が重なった。すると受付の女の人が慌てた様子で割り込んでくる。
「ですが、今あるのは最低でもDランク以上のものしかありません。規則としてEランクのこの方たちが受けられる依頼はEのみとなっていますので・・・・・・」
一瞬だけ希望が出てきたと思ったのだが、そうそう上手くいかないらしい。と思ったら、何やらアヤトさんの口角が上がり、何かを企んでいるような笑みになった。
「なぁ、これから俺たちが受ける依頼を特殊ランクへ移行してくれないか? そうすればこいつらも受けられるだろ?」
「あ・・・・・・!」
アヤトさんの言葉に、思い出したかのように手を叩く受付の女の人。するとその表情はすぐにさっきの笑みへと戻る。
「かしこまりました。ではご希望の依頼をあちらからお持ちくださいませ」
アヤトさんは「了~解」と言いながら、依頼の紙が貼られている掲示板へ向かって行った。
僕はまた気になったことを聞くために、受付の女の人に向き直る。
「あの、特殊ランクってなんですか?」
するとカッコイイ方の女の人がキリッとした顔になる。これが仕事モードというやつなのかもしれない。
「特殊ランクとは、受ける者のランクに関係なく発注が可能になる、その名の通り特殊な依頼のことです。ただ緊急時以外では滅多に特殊ランクなどにはしません」
女の人の説明に相槌を打ちながら「なるほど」と口にする。
あれ、でも今アヤトさんが特殊ランクにするよう頼んだのは・・・・・・?
その疑問を僕の代わりにマヤが聞いてくれる。
「今の人は特別な権限でも持っているのですか?」
するとマヤの質問に受付の人が二人とも困った顔をして唸る。
「特別、と言えば特別なんでしょうね・・・・・・」
「ですよねー・・・・・・権限ってわけじゃないんですけど、似たような力と説得力がありますから・・・・・・」
いまいち女の人たちが言いたいことが理解できずにいて、そのままアヤトさんが戻ってきてしまった。十枚近くの依頼を持って。
「・・・・・・え? まさかこれ全部ですか!?」
「ああ・・・・・・あ、今度は心配しなくてもいいぞ? ちゃんと期限の近いものだけを取ってきたから。今度からは他の冒険者のことを考えて依頼を取るようにするよ」
「いえ、そういうことを言ってるんじゃなくてですね・・・・・・」
こんな枚数を持ってきて、ちゃんと達成できるのか? そんな疑問を抱いたまま受付の女の人たちを見る。
「Dランクが六枚、Cランクが四枚、全てディグラム洞穴の依頼ですね。はい、特殊ランクとして受理致しました」
本当に受理しちゃった!? DとCの依頼を全部!? 何の屈託もない笑顔で言えるくらい当たり前なの!?
声も出せないくらいに驚く僕のことなど気にせず、受付の女の人は僕たちを送り出す言葉を口にする。
「では行ってらっしゃいませ、新人さんとーー『自由な傭兵』の皆様」
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