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武人祭
残念、俺でした
しおりを挟む「いいぞ」
「ああ、わかってるさ。人間であるあんたが魔族で、しかも魔王様の住む城に連れて行けるわけがない。興味本位で提案しただけーーえ?」
断られるのを前提に話していた魔族の男がキョトンとした顔になり、他からも少し騒めく声が聞こえてきた。
「魔城な。あ、そうだ。亜人大陸に行きたいって奴ら、すまないが少し時間をくれないか? まだあそこには行ってなくてな・・・・・・」
「ま、待ってくれ!」
話を進めようとする俺にストップをかける魔族の男。
「魔族の大陸に連れて行ってもらうだけではなく、魔城にだぞ?」
「わかってるけど」
「魔城とは魔王様の住む城なんだぞ!? なぜ簡単に承諾できる・・・・・・それに、今の言い方だとすでに魔城に行ったことがあるように聞こえたが・・・・・・?」
「詳細は向こうで話すから落ち着け。とりあえず、魔族の大陸や魔城に行きたいって奴は他にいるか?」
魔族の大陸に帰れるとわかった途端、他の奴らもゾロゾロと十人くらいが出てきた。
「そうそう、遠慮はしなくていい。じゃあ、それ以外は俺の保護下に入るってことでいいな?」
残った奴らが首を縦に振る。魔族大陸に送る奴合わせて総勢四十人くらいになるか。
最初に出てきた帰る当てがあるという五人は、館からいくつか服と金を分け与えて逃がす。
その後、残った奴らと向き合う。
「とりあえず魔族大陸行き希望の奴らは後回しにさせてもらって、先にこっちの数が多い方を片付けるぞ」
俺が空間を大きめに裂いて魔空間と繋げると、元奴隷たちはやはりその光景に驚いてしまっていた。
「ッ!?」
「な、ん・・・・・・!?」
「よし。それじゃあ、魔族大陸行き以外の奴はここに入ってくれ。この先に色々教えてくれる人間の女たちがいると思うから、そいつらの指示に従うように」
そう言って親指で裂け目にGOサインを指すが、全員戸惑ってしまっていて、誰も入ろうとしてくれなかった。
やはり繋がっているとは言え、裂け目の向こうが見えないとなると不安になるか・・・・・・と思ったら、さっきの虎柄の少女が前に出た。
「ここよりマシかはわからないけど、少なくともこの人が悪いようには見えないし、あたしは信じるわ!」
足を震わせたまま強がりで空間の裂け目の中に入って行った少女。この勢いで他の奴らも入ってくれれば助かるんだが・・・・・・と思っていた矢先、裂け目から今入って行った少女が爛々と輝いた目をした顔だけを出して戻ってきた。
「みんな、凄いよ! こんな綺麗なところ滅多にないって!」
それだけ言い残して再び裂け目に戻った少女。その言葉が引き金になって他の奴らも次々と躊躇なく入って行く。
全員が入ったところで裂け目を閉じ、残りの魔族大陸行きの奴ら十六人の方を向く。
「それじゃあ、次はお前らだ」
「あんたは・・・・・・何者だ?」
「何者、ね・・・・・・まぁ、全部は教えられないが、知りたいなら付いて来い」
再び裂け目を作り、今度は魔城に繋げる。そこに俺とウル、ルウが先に入った。イリーナには一応あいつらを監視してもらうために後ろにいる。
裂け目を抜けた先は魔城の書斎。そこに代理で魔王をしてくれているキリアとメイドのアイラート、さらにはジリアスもいる。
キリアは驚いていたが、アイラートやジリアスはあらかじめ知っていたかのように、平然として頭を下げて出迎えてくれた。
「「おかえりなさいませ、魔王様」」
「おかえり。またいきなりだな、アヤト殿は。それに・・・・・・」
椅子に座っているキリアがその姿勢のまま俺の後ろを見ようと体ごと頭を傾ける。
「・・・・・・その人たちは?」
俺に続いて裂け目から入ってくる魔族の男を見てキリアが問いかけてきた。アイラートはそれよりも、さらにその後ろから入ってくるイリーナに目を向けていた。
「人間が奴隷にしてた奴らだ。ほとんどは魔空間に移動させたけど、こいつらはここに来たいって言ったから」
すると魔族たちはキリアの前に行き、全員敬意表するように片膝を突き、その膝に手を置いて跪く。
突然の行動に慌てふためいているキリアの姿を見て、軽く笑ってしまう。
「現代の魔王様、突然の訪問をお許しください。我らは人間に捕まり、今まで奴隷として身を落としていました。ですが何の皮肉か、同じ人間であるこの者に解放されました。挙句、不思議な力により魔王様との謁見がこのような形で叶ってしまいましたが・・・・・・」
キリアがどうすればいいかわからないと言った顔で俺に助けを求めてくるが、面白いのでもう少し見てることにする。
「ですが、私たちの心は変わりません! 新たな魔王様、何卒、今一度私たちをあなたの配下、に・・・・・・?」
勢いよく頭を上げた男がキリアの苦笑いした顔を見て戸惑う。
「魔王、様・・・・・・?」
「私は魔王ではないよ。魔王は・・・・・・お前たちの後ろにいる人だ。なぁ、アヤト殿?」
ようやく言えたいことが言えたからか、スッキリした様子で俺に話を振るキリア。
魔族の男は何を言ってるか理解できてない表情でキリアを見つめてから俺の方を見る。
多少の演出は必要かと思い、キリアの座ってる机に向かう。何をしたいかを理解したキリアはそこを立ち上がり、代わりに俺が座って足を組む。
「ようこそいらっしゃい。俺が今の魔王、アヤトだ」
「・・・・・・は?」
連れて来た魔族たち全員が全員、口を開けてポカンとした表情で俺を見てきていた。
「知りたいなら付いて来いって言ったのはそういうことだ」
「え、いやしかし、あんたは・・・・・・いや、あなたは人間じゃ・・・・・・?」
一応俺が魔王と理解だけはしたからか、態度を改めようとする男。
「他の奴らにも言ったが、魔王になったのは成り行きだ。闇の属性があるのも偶然だし。それにこの地位に執着はないから、他に適性があってやりたい奴がいれば・・・・・・相手にもよるが、そいつに譲るつもりでいるぞ」
「あなたはそれでいいのか? いや、そもそも人間が魔王様になっているという現状がよくわからないのだが・・・・・・」
混乱して頭を抑える魔族たち。
「まぁ、あんま難しく考えるな。『ああ、そうなんだ』程度に考えておけ。どうせ俺が魔王だって事実は変わらないし」
「それはそうだが・・・・・・では、我らはあなたに従うということに?」
「それはどっちでもいい。人間に従いたくないってんなら別に好きにしてもらっていい・・・・・・迷惑にならない範囲なら」
あとで下克上! みたいなことをされても面倒なだけだしな。普通に生活してもらう分には何も言うことはない。
念のため、他にも付け加えておく。
「もしこの城で人手不足なところがあれば手伝ってもらうのもいいし」
「ああ、それはいい考えですね。正直、私とジリアスだけでは時間がかかりますので」
すると今まで黙っていたジリアスが眉をひそめてアイラートを睨む。
「お前は楽をしたいだけだろ」
「違います、忙しいのが嫌なだけですよ」
「「同じ意味じゃねえか」」
俺とジリアスのツッコミが被り、お互い顔を合わせて思わず笑ってしまう。
その後、結局行く当てのない魔族たちは魔城で働くこととなり、その中で代表的だった巨躯な体の魔族は名前がないとのことだったので、ググリアという名を与えた。
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