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武人祭
ハンターハンティング
しおりを挟む「・・・・・・さて」
深夜の夜、メアたちが寝静まったのを確認して呟く。ベッドに寝ている俺を中心に両側に寝ているメアとヘレナ。そして上にくっ付いているミーナ。まるで俺を逃がすまいとしているような体勢。
その中からこっそり、尚且つ素早くベッドから抜け出す。身代わりとしてミーナを俺のいた場所に寝かせる。
「んー・・・・・・んへへへへぇ、ア~ヤトォ・・・・・・」
メアが嬉しそうに俺の名前を寝言で呟き、ミーナに抱き付く。ミーナも違和感を感じているのか寝苦しそうにしている。
するとヘレナもミーナに抱きつこうと手を伸ばすが、タイミングよくメアがミーナを持ったまま寝返りをうったので、空振りとなった。
ヘレナの力強い抱きつきは下手すれば人を殺す。もしミーナが捕まりそうになるなら俺が移動させようとしてヒヤヒヤしたのだが、必要なかったようだ。・・・・・・念のために、収納庫から要らない布団を取り出し丸めて、抱き枕のように、ヘレナの腕の中に忍ばせておこう。
寝室から音を立てずに出て、廊下を歩いていく。するとちょうど探していたウルとルウに会う。
「あれ?兄様なの」
「こんばんわございますです、兄様」
「こんばんわございますです。・・・・・・すげぇ言葉覚えたな」
ルウの挨拶の仕方を軽く笑いながら返すと、ウルも普通の挨拶で返してくれる。
「こんばんわなの。兄様、お腹が減ったの?」
「いや、ちょっと外にな」
「お出かけです?」
ウルとルウがわずかな期待と羨望を含んだ視線を向けてきた。そういえば魔族の大陸から帰ってきてから、ウルたちを外に出してなかったな。
本当はこれから行くとこにはあまりついて来てほしくないんだがな・・・・・・いや、この二人だからこそ連れて行くべきか?
少し真剣な表情をしてウルたちに向き合う。
「実はな・・・・・・これから行くのは奴隷商のところだ」
「「ッ!?」」
さっきまで子供らしくしていた二人の顔がいっきに青ざめる。奴隷商とはつまり違法である奴隷売買する奴らが経営する闇市のようなものだ。
そんな奴らが活発に行動するのは、やはり警備が薄くなる夜だろう。監視人数も減り、監視カメラなんて便利なものがないのだから尚更だ。
そしてそこはウルとルウが売られていた場所でもあるので、二人にとって辛い記憶を思い出してしまうだろう。
しかしそこにいた二人だからこそ、何か思うところがあったのなら連れて行こうと思うのだ。
「お前らはどうしたい?」
「ウルたちは・・・・・・」
「あそこにいた時、みんな辛そうだったです。ゴホゴホしてるのに叩かれてたです。だからルウも助けに行きたいです」
子供でありながら真剣な表情になる二人。
「それでこそ俺の妹たちだ。んじゃ、助けに行くか」
「です!」
「なの!」
「では私もお供いたします」
ウルたちの気合いの入った掛け声の後に、低く冷静な声のイリーナが混じった。あまりに突然だったので、ウルたちが「ぴゃっ!?」と驚いてしまっていた。
「急に来るなよ。二人が泣いたらどうしてくれる」
「しっかりと『お兄様』をしておられますね。心配には及びません、これくらいでしたらいつものことでございますので」
いつもやってたのかとツッコミたかったが、このままだと話が止まりそうなのでやめとく。
「そんで、あんたも奴隷商に何か恨みでもあるのか?」
「いいえ。ですが人手は少しでも多い方がよいかと」
「確かに」と頷く。
メアやカイトなら少数で済ませたいという気持ちになるが、イリーナのような達人であれば話は別だ。この人手は多いに越したことはない。
「だな。じゃあ、行くか」
三人を支度させ、家から連れて出た。
ーーーー
行き先は王がいなくなった街、ガースト。黒い目立たない服に着替えさせたウルとルウ、メイド服のままのイリーナと共にその入り口に転移して来た。
ウルとルウの服はルナにでも作ってもらった特注なのか、可愛らしいフリルが付いた服だった。ランカの着てる服も確かこんな感じだった気がする。
そしてチユキが派手に凍らせた城が相も変わらずそのままの状態になっているのが、転移したここからでも見えた。
「おっきな氷のお城なの!」
「綺麗です!」
その綺麗な光景に興奮して声を上げてしまったウルとルウに、人差し指を口に当てて静かにするようジェスチャーを取る。俺の動作を見た二人は、お互いに顔を合わせて嬉しそうに真似をしていた。
そんなほっこりしたやり取りを他所に、イリーナが本題に戻した。
「旦那様、奴隷商人が潜んでいる場所の見当はついておられるのですか?」
最近になってようやく「旦那様」という呼ばれ方に慣れてきた。とはいってもまだむず痒いが。
「一応それらしい場所はいくつか見付けた。ただチンピラも奴隷商人も、扱いが違うってだけでやってることは同じだし、どちらにしても潰しておけばいいだろ」
イリーナは「ですね」と言って溜め息を吐く。どこの世界にも似たような人種がいるのに呆れているのだろう。
・・・・・・そういえば、今この街を統治してるのはガーランドだったな。あいつはどうしてるんだろうか?
ーーーー
そこから移動し、まずは近くにあった一つ目の場所へ到着。
様子を見た限り奴隷商人ではない盗賊の風貌をした奴らが、一軒家を出入りしていて、その様子を俺たちは近くの家の屋根から見下ろしていた。
「ハズレでございますね」
「一応な。だけど中に捕まってる奴もいるかもしんねえし、お邪魔させてもらおう」
「御意」
了解の返事とともにイリーナが屋根の上から飛び降り、盗賊たちの目の前に音もなく着地したイリーナ。ウルとルウも「おぉ~」と感嘆の声を漏らしながら拍手していた。
「・・・・・・なんだ、メイド服の女、か? 今どこから出てきやがった?」
そこにいたのは男女一人ずつだけで、残りは部屋の中にいるようだ。
「どうしたんだ、あんた? こんな真夜中に・・・・・・そんな格好でこんな場所にいると、悪い兄ちゃんに攫われちまうぜ?」
男の言動を見て聞いてる限り、普通に心配してくれているような言葉だった。しかしその男からは、まるで哀れむような視線がイリーナに向けられている。恐らく何もさせてもらえない下っ端なのだろう。
するとその盗賊の警告を無視して一歩前に出るイリーナ。
「いいえ、あなた方に少々お聞きしたいことがありまして。ここに捕えられている者たちはいますか?」
イリーナの発言に目を見開く二人。わかりやすい反応、ビンゴだ。
「・・・・・・誰かの依頼か? それとも家族や友人にそういう奴がいたのか? どちらにしろここにはーー」
「かしこまりました、ここにいるのですね。ではお邪魔させていただきます」
男が全て話す前にイリーナが遮り、また前に踏み出す。
根拠がないはずのその迷いがなく力強い言葉に盗賊たちはたじろぎ怯んでしまう。
「ま、待て!あんた本当にここがどこだかわかってて言ってるのか!? あんたみたいなヒョロい女がこんなとこに入りでもしたらーー」
「ギャーギャーうるせぇぞ、新入りども! 静かに見張りもできねえのか!?」
そのギャーギャーうるせぇ声より大きな声で叫びながら出てきた男がいた。その他にも二人ほどが後ろから付いて来ており、結局その場に五人が集まってしまった。
このまま騒ぎも大きくなれば他の奴らも集まってくるだろうし、あとはイリーナに任せてその場を後にすることにした。
とりあえず盗賊たちが住む家の裏に回ると、裏口・・・・・・と言えば裏口なのだが、地下に続いていそうな扉が地面に付いていた。
特に鍵も付いておらず、魔力を見てもトラップらしき魔術は仕掛けられていないのを確認し、扉を開けた。しかしーー
ーーカチッ
何かの仕掛けが作動する音とともに、俺の顔面に向かって凄まじい速度の矢が飛んできた。
ーーーー
書籍化のお知らせ
現在投稿しているこの作品、「最強の異世界旅行記」の書籍化が決定いたしました。
書籍化に伴い、タイトルと著者名を変更させていただきます。
著者名「ぬし」→「萩場ぬし」
タイトル「最強の異世界旅行記」→「最強の異世界やりすぎ旅行記」
これからもこの作品をよろしくお願いします。
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