最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし

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武人祭

小さな配達屋さん

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 「あ・・・・・・んっ・・・・・・!」

 復活したカイトたちにミランダを当ててからまた一時間。
 ミランダが恍惚とした顔で体をビクビクと痙攣はさせて倒れている。事後みたいな絵面になっているのは気にしない。
 ミランダをそんな姿にした本人たちはやり切った顔をして雑談していた。

 「流石ミランダさんですね。中々攻撃が当たらないし、斬っても殴ってもすぐに立ち上がって来ますし・・・・・・本当に回復魔術解いてますよね?」
 「あいつのもだけど、あたしたちの傷も癒えてないじゃない。ただ異常にタフだっただけでしょ?」

 カイトの疑問にフィーナは心の底から疲れた表情をして答える。
 そのカイトの横でレナが珍しく興奮していた。

 「す、凄いよ、カイト、君!わた、私たたち、ミランダさんにか、勝っちゃったよ!」
 「そうだな。結構ジリ貧だったし、袋叩きみたいになってたけど・・・・・・俺たち勝ったんだな!」

 カイトもレナと一緒になって喜ぶが、その中でミーナはあまり嬉しそうにしてなかった。

 「・・・・・・でもあの人、本気じゃなかった。スキルも使ってなかったし。次は本気出させたい」
 「・・・・・・なんかそう言われると釈然としないわね。腹いせにもう少し痛ぶっとこうかしら」

 フィーナの容赦ない発言が聞こえたのか、ミランダが「んっ!」と体を跳ねさせて反応した。

 「こ、これ以上されたら流石に・・・・・・壊れてしまう・・・・・・!流石だアヤト殿。まさか弟子全員に鬼畜属性を付けさせているなんて・・・・・・」

 何故かミランダから羨望の眼差しで見られる。

 「おい、俺の弟子に勝手に変な属性付与を付けんな。フィーナは元々ああいう性格だし、他の奴はちゃんと止めるとこは止めただろ」
 「ああ、そうだな。みんなやり過ぎないギリギリを攻めて来てくれた。特にカイト殿は私が女でも関係なく顔面へ膝蹴りを見事に決めてくれたよ・・・・・・」

 ミランダは恐らくカイトに膝蹴りを受けた頬を撫でながら再び恍惚とした笑みを浮かべてカイトの方へ向き、その視線を感じたのか、カイトの肩がビクッと大きく跳ねた。ミランダの毒電波を受信してしまったのだろう。

 「相手に容赦しないように教育したのは俺だが、あんまお前の趣味に付き合わせて本当にあいつらの性格を変えるなよ?」
 「というと?」
 「お前のマゾ趣味に合わせてあいつらをSに調教するなって話!」
 「そんな・・・・・・私のどこがマゾだというんだっ!?」

 本気で自覚なくこう言ってるんだから殴りたくなる。殴ったら喜ぶからやらんけど。
 するとどこからか「おにーちゃーん!」という声が聞こえ、その声の方を向くと遠くから走って来る少女が見えた。
 それはウルやルウではなく、ましてやランカでもない普通の人間の少女だった。
 そんな小学生くらいの幼女とも言える少女のところへ

 「わぁ!お兄ちゃん速ーい!」

 ニコニコとした無邪気な笑顔で喜ぶ少女。
 悪気がないからどう言えばわからず、苦笑いで「まあな」と返すしかなかった。

 「ここに来ちゃダメだって言わなかったか?」
 「あ、うん・・・・・・でもお母さんがこれ食べてほしいって言ってたもん!」

 一瞬落ち込みを見せた少女だが、清々しいまでに責任転嫁した言い訳で押し通そうとする。理論より感情で行動する子供らしい。
 少女は食べやすいよう八等分に切られたリンゴが乗った皿を差し出して来た。
 三個分か四個分が山のように盛られていた。

 「リンゴか・・・・・・よく落とさなかったな」

 少女が持つには少し大きい皿をフラフラになりながら運んでいる。

 「うん! すっごく甘くて美味しいの! お母さんたちもみんなこんな甘いのなんて食べた事ないって、美味しいって食べてて、お兄ちゃんにも食べてほしいって言ってたよ!」
 「そっかー、言ってたかー。でもな? こっちは危ないから来ちゃダメだ。お母さんや俺に怒られたくなかったら今度からちゃんと言う事を聞きな」
 「・・・・・・ごめんなさい」

 俯いて今にも泣きそうな顔をして落ち込む少女の頭を撫でる。

 「おう、その『ごめんなさい』がちゃんと言えれば十分だ。もう怒ってない」

 それだけ言って少女が持っていた皿からリンゴを一切れ取って食べる。
 すると少女はパッと明るくなり、笑顔に戻った。

 「ほら、怒られる前にお母さんのとこに戻りな」
 「ここにいちゃダメ?」
 「ダメだ。言っただろ? 危ないって」

 そう言ってやると不貞腐れるように口を尖らせた。

 「わかったー」

 しかしなんだかんだ言いながらも素直に返事をしてくれる。
 まぁ、ダメと言ってもまた来てしまうかもしれないが、その時はまた言えばいい。

 「それじゃあリンゴだけ貰っとくよ。お母さんたちには俺が持ってったってだけ言ってくれるか?」
 「うん、わかった!」

 リンゴの乗った皿だけ受け取り、少女を帰した。
 その後すぐにミランダや他の奴らがタイミングを見計らったように集まって来た。
 その中でメアが一番に俺の持ってる皿からリンゴを一摘みして食べてしまう。俺もさっきやったから人の事を言えないが行儀が悪い。

 「今の子は? 見たところ普通の子供のようだったが・・・・・・」

 ミランダが心配そうな表情で今の子供の背中を見つめながら聞いて来た。
 何を心配してるかはわからんが、少なくとも俺に対して失礼な事を考えている事は間違いない。

 「メアたちには言ったが、今何人かを保護してるという状態なんだ」
 「保護? ここにか?」

 ミランダの疑問もわかる。
 この魔空間はずっと修行の場として使っていたのに、そこに一般人を置くという事に違和感を感じるのだろう。

 「ここは初めと違い、色んな動植物が育ってきている。食うもんにも困らないし、住む所だって俺が建てた。魔物すら出ない平和そのものと言えるんだぞ、ここは」
 「それはわかるが・・・・・・いいのか? そんな事をして。もしあの子やその者たちが外でそんな事を洩らしてしまったら・・・・・・」
 「ああ・・・・・・だからあいつらはもう外に出さない」

 俺の言葉を聞いたミランダは怒ったような、そして悲しんでもいるような表情をする。

 「・・・・・・本気で言っているのか?」
 「そんな顔するなよ。あらかじめ聞いて承諾させてからここに連れて来たんだ。そんな詐欺だのなんだのと悪徳商法じみた事は一切してないから安心しろ」
 「そうか・・・・・・ならいいんだが」

 未だに納得していなさそうな返事をする。
 まぁ、ここでミランダが納得しようがしまいが、ここにいる事を決めたのはそいつらなんだから関係ないがな。

 「誰にでも事情ってやつはある。それを知らずにそいつらを説得しようなんて考えるなよ? それこそただの偽善になる」
 「わかっているさ。ただ・・・・・・念のためにその者らを見ても良いか?」
 「心配性だな。まぁ、邪魔にならない程度にな。・・・・・・あ、リンゴ食うか?」

 メアが次から次へと食うので、全部食われる前にミランダに勧める。
 ミランダも「なんだこれは?」と呟きながら一摘み取り、シャクッと良い音を立てながら食べた。

 「ッ!? う、美味い!? なんだこの甘菓子は・・・・・・?」
 「リンゴって果物だよ。いつの間にか実ってたもんだが、下手に作られたものよりも甘いんだよな」

 俺も釣られて一口食べる。
 シャキシャキとした食感にジュースのように出てくる甘み・・・・・・やはり美味い。
 こっちの世界に来てから食ってなかったが、まさか魔空間に実っていようとは・・・・・・まさに嬉しい誤算というやつだ。
 そしてそれが気になりもする。
 ここは魔物も出ないどころか日本と似た環境。異世界であるこっちにあるものが存在せず、向こうのものが勝手に実ったり現れたりする。共通のものも出てきている。
 まるでここが日本のどこかだとでも言うかのように。

 「そのうちバナナやカカオが実った木が出てきたりしてな」

 誰にも聞こえないように小さく呟く。
 そうなったら日本じゃないが、地球のものがここに作られる事になる。
 イノシシのような動物もそうだが、ここは本当に不思議な場所である。
 ・・・・・・うん、もう面倒だから「不思議」の一言で片付けてしまおう。俺は研究者でもなければ探求者でもないのだから。
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