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5章
11話目 後編 対立
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☆★☆★
「オニイチャドコ!ララモイナイ!ミンナドコ!」
旦那がいなくなってしばらくして、旦那がいなくなったことに勘づいたイクナの嬢ちゃんが騒ぎ始めた。
その場にいたレチアさん、そしてアリアさんにはすでに説明してあるけれどイクナちゃんにはまだ言っていなかった。
こうやって駄々をこねるのがわかっていたからというのもあるけれど、なるべく悲しませたくなかったから。
「ヤタは今少し遠くで大事なお話をしてるにゃよ。だから良い子に待ってるにゃ」
「ヤダ!オニイチャノトコニイク!」
「わがままを言わないでおくんなせぇ……」
嫌々と言って涙まで浮かべ始めてしまうイクナちゃん。
余程あの二人が……特に旦那のことが好きでしょうがないのだと伝わってくる。
本人は目のことを気にして人から嫌われやすいと思っているけれど、それでもちゃんと中身を見てくれる人には好かれるんですよ……?
「だけど僕も納得いかないにゃ。なんで二人だけで行っちゃうかにゃ~?」
駄々をこねるイクナちゃんの横でレチアさんも不満そうに眉をひそめて口を尖らせる。
「……正直に言いますとあっしらがいたところで足でまといになるだけなのは事実ですし、旦那の判断は正しいと思います」
「仲間なのに……」
「仲間だからこそでしょう。大切な守りたい人を危険から遠ざけようという旦那の気遣いですよ」
あっしがそう言うとレチアさんが半目で睨んできた。
「おみゃーは悔しくないのかにゃ?」
単純な疑問にあっしは笑って答えることにした。
「悔しがれるほどの実力はあっしにはありませんから……」
「…………」
あっしがそう言うとレチアさんは黙ってしまった。
そりゃ、あっしだって思いますよ……
「ララさんのように凄い力があれば」「ヤタの旦那のように死なない力があれば」なんてね。
そんな力があればあっしだって旦那のために使いやすよ。
でもそんなものは持ってないのがあっしで、こうやって待ってるしかできない。
もどかしく感じているのはイクナの嬢ちゃんやレチアさんだけじゃないんですよ……
「でもここにいるだけでは何も進展しないのも事実。乗り込むまではいかずとも様子を見に行ってもいいのでは?」
するとそんなことを言い出したのはアリアのお嬢さんだった。
「え?」
「イクナちゃんとレチアさんと一緒に居てくれって言われただけですわよね?」
「でもそれは……」
言葉の穴を突くとはよく言うけれど、それは本人を小馬鹿にする行為だ。
それを旦那に対して行うというのは罪悪感がある。
でも今すぐにでも駆けつけたいという気持ちもあって、それらがせめぎ合う。
「……まぁでも、あなたが行かなくても別に良いですわ。あなた抜きで行きますので」
「……ん?それってどういうことです?」
言っている意味がわからずあっしが聞き返すと、アリア嬢はフッと不敵に笑う。
「あなたが行かずとも!レチアさんが行かずとも!イクナさんが行かずとも!たとえワタクシ一人でも彼の元へ行きますわ!」
アリア嬢は目を子供のようにキラキラと輝かせてそう言い放った。
その気迫?に気圧されてあっしたちは思わず固まってしまう。
アリア嬢はヤタの旦那に惚れ込んでるらしいが、まさかここまでとは……
いや……意味は違ってもあっしも旦那の漢に惚れ込んだんだ、こんなところで燻ってるわけにはいかない!
「いいえ、あっしも行きやす!ここで行かないと言えばこのガカン、一生の恥と後悔を背負ってしまいやすので!」
「イクナモイクー!」
「キヒヒ、みんなが行くなら私も行かない理由はないよね……」
「え?いや、僕も行くけど……みんな何にゃ、このテンション?」
「よく言いましたわ!それでは早速準備に取り掛かりましょう!」
あっしの後に続いてイクナのお嬢ちゃんとメリーさんとレチアさんも同意する。
レチアさんの戸惑いなどお構い無しにアリア嬢が意気揚々とそう言って部屋を飛び出して行く。
お叱りなら後でいくらでも受けましょう。しかし今は自分の気持ちに正直になり、旦那の元へと駆け付けます!
……そういえばマカとかいうお嬢ちゃんの姿がないけど、どこへ行ってしまったんでやすかね?
――――
「許すわけがないだろう!」
「いいえ、行きます!行かせていただきます!」
……と勢いで行動しようとしたはいいでやすが、提案したアリア嬢が彼女の父親と口論し始めてしまっていた。
「冒険者になると言って出て行き、ようやく帰ってきたかと思えばヤタ君を追いかけて王都へ行く?何を言ってるのかわかっているのか!?」
「えぇ、わかっています……私の心を奪った殿方を悪から救い出しにいくのですわ!」
アリア嬢がハッキリとそう宣言すると、その場にいた彼女の両親が頭を抱えてしまう。
たしかに彼女の発言は色々と……酷いでさぁ。
さっきは乗り込むつもりはないと言っていたけれど、あの調子だと正面突破で喧嘩を売りに行きそうなんじゃないかとヒヤヒヤしてしまう。
「お前がそれだけ彼を好いているのはわかった……しかし相手を『悪』というのはやめてくれ!あくまで相手は王族、国そのものと言って過言ではない!」
「ねぇ、考え直してくれない?ほら、ヤタ君の外見が好きなら似た人を見つければいいから……あなたなら選り取りみどりで相手を選べるのよ?」
「お父様、お母様……恋の前では邪魔する全てが障害物になりうるのですわ。それに外見だけが良くても中身だけが良くてもダメなのです……ワタクシはあの方に運命を感じてしまったのですから!」
必死に説得しようとするアリア嬢の両親に対し、彼女は悟ったような表情で我が道をゆく発言をする。
終いには母親が泣き崩れ、その方を父親が支えて悲しそうな顔をする。まるで娘を失ったお通夜の空気。
アリア嬢は逆にウキウキした様子で荷造りを始める。
旦那……何をしたらあんな好かれ方をするんで?
あっしらがアリア嬢と出会い関わった期間は短いものだったはず。
そして当初は目の敵にされていたはずが、いつの間にかこれほどまでに愛されてしまっている。
言い方はあまり良くないかもしれないですが、旦那の手回しの速さには改めて感心しますぜ……
「オニイチャドコ!ララモイナイ!ミンナドコ!」
旦那がいなくなってしばらくして、旦那がいなくなったことに勘づいたイクナの嬢ちゃんが騒ぎ始めた。
その場にいたレチアさん、そしてアリアさんにはすでに説明してあるけれどイクナちゃんにはまだ言っていなかった。
こうやって駄々をこねるのがわかっていたからというのもあるけれど、なるべく悲しませたくなかったから。
「ヤタは今少し遠くで大事なお話をしてるにゃよ。だから良い子に待ってるにゃ」
「ヤダ!オニイチャノトコニイク!」
「わがままを言わないでおくんなせぇ……」
嫌々と言って涙まで浮かべ始めてしまうイクナちゃん。
余程あの二人が……特に旦那のことが好きでしょうがないのだと伝わってくる。
本人は目のことを気にして人から嫌われやすいと思っているけれど、それでもちゃんと中身を見てくれる人には好かれるんですよ……?
「だけど僕も納得いかないにゃ。なんで二人だけで行っちゃうかにゃ~?」
駄々をこねるイクナちゃんの横でレチアさんも不満そうに眉をひそめて口を尖らせる。
「……正直に言いますとあっしらがいたところで足でまといになるだけなのは事実ですし、旦那の判断は正しいと思います」
「仲間なのに……」
「仲間だからこそでしょう。大切な守りたい人を危険から遠ざけようという旦那の気遣いですよ」
あっしがそう言うとレチアさんが半目で睨んできた。
「おみゃーは悔しくないのかにゃ?」
単純な疑問にあっしは笑って答えることにした。
「悔しがれるほどの実力はあっしにはありませんから……」
「…………」
あっしがそう言うとレチアさんは黙ってしまった。
そりゃ、あっしだって思いますよ……
「ララさんのように凄い力があれば」「ヤタの旦那のように死なない力があれば」なんてね。
そんな力があればあっしだって旦那のために使いやすよ。
でもそんなものは持ってないのがあっしで、こうやって待ってるしかできない。
もどかしく感じているのはイクナの嬢ちゃんやレチアさんだけじゃないんですよ……
「でもここにいるだけでは何も進展しないのも事実。乗り込むまではいかずとも様子を見に行ってもいいのでは?」
するとそんなことを言い出したのはアリアのお嬢さんだった。
「え?」
「イクナちゃんとレチアさんと一緒に居てくれって言われただけですわよね?」
「でもそれは……」
言葉の穴を突くとはよく言うけれど、それは本人を小馬鹿にする行為だ。
それを旦那に対して行うというのは罪悪感がある。
でも今すぐにでも駆けつけたいという気持ちもあって、それらがせめぎ合う。
「……まぁでも、あなたが行かなくても別に良いですわ。あなた抜きで行きますので」
「……ん?それってどういうことです?」
言っている意味がわからずあっしが聞き返すと、アリア嬢はフッと不敵に笑う。
「あなたが行かずとも!レチアさんが行かずとも!イクナさんが行かずとも!たとえワタクシ一人でも彼の元へ行きますわ!」
アリア嬢は目を子供のようにキラキラと輝かせてそう言い放った。
その気迫?に気圧されてあっしたちは思わず固まってしまう。
アリア嬢はヤタの旦那に惚れ込んでるらしいが、まさかここまでとは……
いや……意味は違ってもあっしも旦那の漢に惚れ込んだんだ、こんなところで燻ってるわけにはいかない!
「いいえ、あっしも行きやす!ここで行かないと言えばこのガカン、一生の恥と後悔を背負ってしまいやすので!」
「イクナモイクー!」
「キヒヒ、みんなが行くなら私も行かない理由はないよね……」
「え?いや、僕も行くけど……みんな何にゃ、このテンション?」
「よく言いましたわ!それでは早速準備に取り掛かりましょう!」
あっしの後に続いてイクナのお嬢ちゃんとメリーさんとレチアさんも同意する。
レチアさんの戸惑いなどお構い無しにアリア嬢が意気揚々とそう言って部屋を飛び出して行く。
お叱りなら後でいくらでも受けましょう。しかし今は自分の気持ちに正直になり、旦那の元へと駆け付けます!
……そういえばマカとかいうお嬢ちゃんの姿がないけど、どこへ行ってしまったんでやすかね?
――――
「許すわけがないだろう!」
「いいえ、行きます!行かせていただきます!」
……と勢いで行動しようとしたはいいでやすが、提案したアリア嬢が彼女の父親と口論し始めてしまっていた。
「冒険者になると言って出て行き、ようやく帰ってきたかと思えばヤタ君を追いかけて王都へ行く?何を言ってるのかわかっているのか!?」
「えぇ、わかっています……私の心を奪った殿方を悪から救い出しにいくのですわ!」
アリア嬢がハッキリとそう宣言すると、その場にいた彼女の両親が頭を抱えてしまう。
たしかに彼女の発言は色々と……酷いでさぁ。
さっきは乗り込むつもりはないと言っていたけれど、あの調子だと正面突破で喧嘩を売りに行きそうなんじゃないかとヒヤヒヤしてしまう。
「お前がそれだけ彼を好いているのはわかった……しかし相手を『悪』というのはやめてくれ!あくまで相手は王族、国そのものと言って過言ではない!」
「ねぇ、考え直してくれない?ほら、ヤタ君の外見が好きなら似た人を見つければいいから……あなたなら選り取りみどりで相手を選べるのよ?」
「お父様、お母様……恋の前では邪魔する全てが障害物になりうるのですわ。それに外見だけが良くても中身だけが良くてもダメなのです……ワタクシはあの方に運命を感じてしまったのですから!」
必死に説得しようとするアリア嬢の両親に対し、彼女は悟ったような表情で我が道をゆく発言をする。
終いには母親が泣き崩れ、その方を父親が支えて悲しそうな顔をする。まるで娘を失ったお通夜の空気。
アリア嬢は逆にウキウキした様子で荷造りを始める。
旦那……何をしたらあんな好かれ方をするんで?
あっしらがアリア嬢と出会い関わった期間は短いものだったはず。
そして当初は目の敵にされていたはずが、いつの間にかこれほどまでに愛されてしまっている。
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