上 下
189 / 196
5章

10話目 後編 喰らい破壊する

しおりを挟む
☆★☆★

「……あ」

 凄まじい倦怠感の中、声を漏らして目が覚めた。
 だからといって横になっていたわけじゃない。膝を突き体を垂直に立てて空を見上げていた。
 晴天と言える綺麗な青空が視界に入る。
 なんで……俺はこんなことをしていたんだっけな……
 倦怠感と爽快さが混じり、このまま考えることを放棄してもう一度目を閉じて眠ってしまいたくなりそうになる。
 だが、直前の記憶を思い出して意識が覚醒する。

 ――愛してるよ、ヤタ――

「ラ……ラ……」

 ララが消えそうになっていた時に放った言葉が俺を現実へ引き戻した。
 頭がはっきりしてきたところで周囲に目を向けると……

「何もない……?いや……」

 周りは更地と言うような、城や家みたいな建物どころか草木の一本も生えていない状態だった。
 ただ代わりに謎の物体が遠目にあった。
 それは何とも形容し難く、黒く太く長い管のようなものがジェットコースターのレーンみたいに左右上下に宙を走っていた。

「……何これ?」
【宿主の体内にあった不要物です】
「ぬおっ!」

 不意打ちのようにアナさんの声が頭の中で響き、つい驚いてしまった。

【おはようございます、八咫 来瀬】
「あ、はい。おはようございます……って、これってどういう状況――」
「おはようございます」
「ぶっふぉ!?」

 アナさんとは別の男の声が聞こえてきて、思わず心臓が口から飛び出てきそうだった。
 振り向くと知らない二人が立っていた。
 一人は魔術師っぽくフードの付いた外套で体を覆っている骸骨。
 もう一人は狐の尻尾が九本生えた女性。
 ……あれ、そういえば女の人の方はどっかで見たことがある気がする。どこだったか……あっ。

「ダンジョンの主……?」
「半分正解じゃな。マカじゃよ、主様」

 そう言ってからかうような笑みを浮かべるマカと名乗る女性。コイツがマカ?また成長してる……
 まだ混乱気味のまま外套を着た骸骨を見る。

「覚えているでしょうか、リンネスです」
「リンネス……さん?」
「敬称は不要でございます。私はあなたの眷属ですので……」

 謙虚な物言いをしながら目玉の無い目に赤く光が宿る。怖い怖い怖い。

「いや、眷属って……俺そんなの作った覚えないんだけど?」
「いいえ、たしかに私が人間だった頃に直接噛み付かれ、眷属にしていただきました。ここにはいない少女を二人をレチアという亜種が連れ去った時のことです」

 ここにはいない少女……っていうと、ちょうどララとイクナとレチアが人数的にも当てはまる。
 ソイツらが誘拐された時……?
 ……あっ。
 思い出した。レチアが奴隷になる原因となった賊に利用され、ララとイクナが捕まった時のことを。
 そしてたしかにいた、逃げ出そうという時に邪魔してきたリンネスという男が。そういえばその時にアナさんが眷属にするかどうかみたいなことを言っていた。
 すっかり様変わりしてしまっており、面影もクソもない骨のみの姿になってしまっている。
 しかし敵対したあの時よりも威圧感を感じる。

「ああ、今思い出した。暴れだしたお前のボスを倒した時に混ざって死んだんだと思ってたんだがな。だけどなんで……色々とそんなことに?」

 まず人体の白骨化。時間が経ってるとはいえ、そんなにも綺麗になるものなのか?
 それと敬語。いくら上下関係になったとしても殺された恨みはないのか?
 まぁ、色々な意味を含めて聞いてみる。

「眷属となってからしばらくの記憶がないのですが、気が付けば森に一人で立っていました。しかしそこからも意識だけ残し、本能のみで動いていたようです」
「……その時ってゾンビ状態だったよな?その本能って……」
「仲間を……いえ、眷属を増やすことです。正確には私と同じようにウイルスを流し込み、ヤタ様の忠実なる下僕をできるだけ多く作り出すことでした。そして人々を襲っているうちにこのような姿に……どうやら魔物特有の進化をしたようです」

 ……ん?それってつまり……

「無差別殺人?」
「無差別ではありません。人間であればちゃんと罪人を、動物も無闇に殺さず魔物のみを選別しましたので」

 ああ、よかった!俺の知らないところで俺が原因の大量殺人してるかと思った!
 ……いや待て、そういえばここはどこだ?

「なぁ、ここはどこなんだ?俺はたしか城の中にいたはずなんだけど……」
「ここがそうでございます」
「……え?」

 リンネスの返答が予想外で聞き返した。

「ここが、この何も無い場所がとなります」
「は……どういうことだ?なんでこんな殺風景になってんだよ」
「本当に何も覚えておらんのじゃな」

 退屈そうにしていたマカがそんなことを言う。

「覚えてって……?」
「この現状……いや、惨状と言うべきか。この全てはお前さんがやったことなんじゃぞ?」
「俺……?」

 そんなバカな。何をどうしたらこんなことができる?
 城どころか町が丸々一つ消えるようなこと、俺ができるわけ――

【可能です】

 頭の中でアナさんがあっさり肯定してきた。
 可能って……

【大量の血肉を糧にウイルスによる『アバター』の能力を発動。アバターは捕食すればするほど膨張し、周囲の全てを飲み込もうとします。その結果がこの殺風景と宙に浮くアバターの外皮です】
「これが……全部俺のやったこと……」

 受け入れ難い光景とその現実。
 たしかに俺は人間を憎んだ。特に俺たちを呼び出し、ララを殺した奴らを滅茶苦茶にしてやりたいと願った。
 しかし俺がやったのは罪もない人までも手にかけてしまったかもしれないということ。
 それが夢だったらいいのにと、嘘だったら楽なのにと。現実逃避したくなるほどのほんの少しの罪悪感を感じていた。
 ……ララが死んだことだって受け入れたくないのに、俺が無差別大量殺人をしただとか悪い冗談にもほどがある。

「でも……冗談じゃないんだよな……」
「ま、お前様が良い人なのはわかってるが……さっさと割り切った方が楽になるぞ」
「貴様……主に向かってなんて言い草を!」

 横でリンネスとマカが言い争ってるのを他所に、マカの言葉が頭の中に残る。
 ああ、なんだかんだ言いつつもやっぱり俺は人間に未練があるんだなと。
 だけど彼女の言葉でその僅かな罪悪感や未練も消えてしまっていた。
 ……そういやララが死んだってのに、今は思ったよりもそんなに悲しくないのはなんでだ?
 アナさんの感情制御が働いてるのか……

「それでお前さん、これからどうするんじゃ?」

 考え事をしているとマカがそんなことを聞いてきた。

「これから?」
「そうじゃ。もう数日も固まったままだったから、そろそろ他の人間が来る頃じゃないか?」
「……そういえばさっきも言ってたな。どれくらい経ったんだ?」
「七日くらいかの」

 俺の問いにマカがそう答える。
 一週間?そんなに……

「最初なんて触っただけで崩れてしまいそうなほど脆く見えたくらい酷かったぞ?今では元通りじゃがな」
「誠に。心の臓はとっくに止まっておられますが、温もりを感じられたので回復するのをお待ちしておりました」

 他人事に言うマカとは逆にリンネスは真摯しんしな態度でそう言ってくれる。
 人間だった頃のクズっぷりなど見る影もない。
 だけどすでにそれだけの時間が経っているのが本当なら誰かが来る前にさっさとここから離れた方がいいだろう。
 ただの野次馬ならまだいいが、厄介な連中が現れたら面倒この上ない。

「ともかく今はこの場を離れよう。ガカンたちとも合流しなきゃならんしな」
「……いえ、もう手遅れのようです」

 改めて立ち上がっていると、リンネスがそう言う。
 すると周囲にはいつの間にか多くの人が包囲していた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...