異世界でも目が腐ってるからなんですか?

萩場ぬし

文字の大きさ
上 下
185 / 196
5章

9話目 後編 王の集まり

しおりを挟む
「魔王……?」
「そうだ。貴様ら人間が過去に何度も戦争を仕掛け、一度は屠った者だよ」

 ポツリと漏らしたルドの言葉にララがそう返す。
 しかし殺された話をしているにも関わらず、ララの声からは怒りは感じられなかった。むしろ悲しんでいるように見える。
 いや、もしかしたらそういう大人しい性格ってだけで内心は怒りで爆発しそなのかもしれないな。

「バカな……魔王だと!? 魔族はすでに絶滅させたはずだ!」

 叫ぶようにそう言ったのは周りの人々に紛れて膝を突いている大柄の男だった。
 そんな彼に対してララは冷たい目で見下ろす。

「そうだ。貴様らが受け入れられないという理由だけで絶滅まで追い込んだのだ。その中でも転生の加護を持つ我以外をな……」

 ララは周囲から悲鳴が上がるのを無視して大柄の男のところまで歩いて彼の胸ぐらを掴み、重さなど感じさせないほど簡単に持ち上げる。

「ぐっ……!」
「彼らにも家族はいた。彼女らにも恋人がいた。にも関わらず貴様らは害虫駆除だと言って平然と殺したのだ。仮に我がここでやり返したとして、よもや文句はあるまい?」

 そう言い、視線を大柄の男からルドへと向けるララ。あれが彼女なりの怒りなのだろう。

「私は争いを望んでいない。だから彼を離してくれないだろうか?」

 焦る様子もなく落ち着いた感じで言うルド。
 ララの威圧は連合にいた時と違ってそこまで広範囲にはしていないらしく、彼らはそのままだった。

「それは我らも同じだった。それについての弁明は?」
「…………」

 ララの言葉にルドは黙ってしまう。このままでは本当に殺してしまうんじゃ……?
 ……いや、いっそそれもアリなのかもな。信用して裏切られるくらいなら、最初から敵として見れば裏切るもクソもない。
 俺もララも出会った最初と違って戦う力がある。ならここで暴れてしまっても――

「――ガッ!?」

 そう思った瞬間だった。
 ララの方から短い悲鳴のようなものが聞こえ、目を向けると彼女の体に光り輝く棒状の「何か」が刺さっていた。
 ……何が起きたんだ?
 体に光の棒が刺さったララは大柄の男を離し、膝から崩れ落ちる。

「ッ……ララ!」

 頭の整理がつかないが、ララの身に良くないことが起きたとだけ認識して彼女の名を叫び駆け寄る。
 ララも驚いた様子で自身の胸を貫いている光の棒を見た。

「『コレ』、は……二十年前の……」
「やれやれ、大人しくしてるはずがないと思っていましたが案の定ですか」

 すると落ち着いた声が溜め息混じりに聞こえてきた。
 声のする方を見ると白い修道服を着た人たちが何人も扉の方にいた。

「誰だ、お前ら……ララに何をしやがった!?」
「……陛下、ここは私たちにお任せを」
「……ああ」

 先頭にいた修道服を着た初老の女が俺の言葉を無視してルドと話す。
 ルドもまた憂鬱そうな声で承諾の言葉で返す。
 何なんだよ、コイツらは……まさかララをここに呼んだのはこのためか?
 そう思いながら睨んでいると、ふとその集団の中に見知った顔を見付けた。
 幼く不安そうな表情を浮かべる金髪の少女。名前はたしか……

「……ウィーシャ?」
「……えっ?あっ、あなたはあの時の冒険者さん!」

 なんとなくで覚えていた名前を口にすると、向こうも俺に気付く。
 最初の町で俺とララが迷い込み、イクナと出会った研究所で助けに来てくれた少女である。

「修道院長、あの二人は私の知人です!どうか話す機会をください!」

 ウィーシャが慌てて先頭の女にそう言って止めようとしてくる。
 なぜ彼女がこの場にいるのかはわからないけど、これで場が落ち着いてくれると嬉しいが……

「ウィーシャさん、あなたはその才能を買われて私たちの元へ来ました。そして私たちは悪を打ち正義を掲げる教団『光の導き』……わかりませんか?」

 しかしそんな希望を打ち砕くかのように、修道院長は冷たい目で彼女を見下ろす。

「魔族は悪、その魔族に加担する者もまた悪なのです。穢れきった悪は獣と同じく会話などできません。よって慈悲をかけるに値しない!さぁ、彼らを断罪するため唱えなさい、あの奇跡を!」

 ウィーシャの言葉は聞き届けられず、修道院長は何かを彼女にやらせようとする。

「逃げろ、ヤタ」
「ララ?」

 痛みで顔を歪めてそう言うララ。

「これは前世で死んだ時に食らった技だ……まさかまた食らってしまうとはな。どうやら我を殺すことに特化しているようだが、他の者が食らっても動けなくなってしまうだろう。いくらお前でも……」

 殺された時の……?そんな技を使える奴が最初からこの近くに待機してたってことは……
 じゃあやっぱり罠だったってことかよ!

「だから逃げろってのかよ!? そんなの――」
「《光よ》」

 言葉の途中で突然視界がブレる。
 気が付くと壁に張り付けにされ、俺の横腹にも光の棒が突き刺さっていた。
 ララと同じ……!クソ、なんでこんなに早いんだ!? 詠唱無しってアリかよ……
 ウィーシャがいるところを見ると、あからさまに技を放ったと言いたげに手の平をこちらへ向けている修道院長。
 そしてウィーシャも呪文を唱え始め、彼女の体が神々しく光り始める。

「《神の代行者が命じる。穢れし魔の者を打ち払う断罪の光を――シャイニングブレス》」

 そう唱えるとララの足元から黄金の炎が凄まじい勢いで噴き出た。

「――アアァァァァァァッ!」

 その炎に包まれたララが悲痛な叫びを上げ、褐色の肌には焦げ跡が目に見えて表れ、口から吐血する。
 相当なダメージを受け、圧倒的な力を持ち無敵とも思えたララがその場に倒れる。

 ――ダメだ

「まだ消滅はしないか……ウィーシャさん、もう一度です。もうは抵抗する力を持っていませんから当てられるはずですよ」

 修道院長がここに来て一番の笑顔を見せながら言う。
 ウィーシャさんも彼女の言葉に従ってもう一度呪文を唱え始めた。

 ――ダメだ

「や、やめろ……ララァァァァッ!!」

 光の棒が刺さりっぱなしの体からブチブチと嫌な音が出ても気にせず抜け出し、ララの元へと駆け付ける。

「アレも化け物の類か……」
「し、修道院長……?」
「構いません、彼を知っていると言いましたが、もうあなたの知っている人ではありません。悪魔に魅入られた悪しき者、遠慮してはいけませんよ」

 修道院長に促され、頷いて中断した呪文を最初から唱えるウィーシャさん。

「ララ……」

 駆け寄り抱き締めた彼女は体中が焼けただれ、力無く俺に寄りかかりすでに満身創痍だった。
 俺の呼び声にララは僅かな反応を見せ、目を細く開いた。

「……情けないな。あれだけの力を見せ、お前たちに頼られていたというのに……やはり転生したばかりは全ての力を取り戻せていないな」
「そんなことどうでもいい、ここから逃げるぞ!」

 そう言ってララの腕を持つが、ララは首を横に振るう。

「もう無駄だ。我には逃げる力すら残っていない……魔を滅する力とはよく言ったものだ、根こそぎ奪われたようだよ……」

 掠れた声で言い、そして俺の目を真っ直ぐに見るララ。すると彼女の体が少しずつ塵となって消えていた。

「なんで……なんでだよ!?」
「ヤタ……」

 焦る俺に対して消えていくララは不思議なくらい落ち着いていた。

「我を食え」
「……は?」

 ララの口から発された予想外の言葉に俺は戸惑った。

「お前のあの力は相手を食らって強くなる。ならば我の力を吸収すれば、この場で奴らを蹴散らすことも逃げ出すことも容易になる」

 反論したかった。だが時間が無く焦らされているのも事実で――
 そんな俺の顔に、頬へ優しく手を置くララ。

「――――」
「えっ……」

 ララからその場に似つかわしくない言葉を受け、彼女の優しい微笑みを見てしばらく惚けるように固まっていた。

「ようやく言えたな。これは『ララ』の気持ちではあるが、我の心でもある。連合で我が魔王として覚醒した時、迷わず声をかけてもらえて……実は結構嬉しかったぞ」

 まるで今生の別れを前にするように言葉を紡がれる。
 そんな言葉なんて聞きたくない!……のに……

「もう一度言うぞ、ヤタ。我を食え」
「……わかった」

 再び勧められ、俺は頷いた。
 その時、今までの人生の中で一番と言えるくらいの悲しみと、憎悪が溢れていた。

【不必要な感情を確認。レジストを行います……失敗。感情の昂りが一定値を超え、条件を満たしました。『オートシステム』を発動します――おやすみなさい、八咫 来瀬】
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

処理中です...