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5章
9話目 中編 王の集まり
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その光景に俺は息を飲んだ。
ファンタジー世界に来たという実感は前からすでに味わっていたというのに、まるで御伽噺の世界にでも迷い込んだかのような光景が扉の向こうにはあった。
幻想的だとか綺麗という感想ではないが、恐らくそれぞれが高い身分を持つであろう人々が左右に多く並び、さらに奥には階段により高く位置された座が二つ並ぶ。
そこには明らかに手前にいる者たちとは一線を画す服装と雰囲気を纏った二人が座っていた。
言われなくてもわかる。
アレが……彼らがこの国の代表、王と王妃だろう。
男の方は白髪と立派な白髭を生やし、厳格な顔付きで剣呑な雰囲気を纏っている。
彼は外見年齢六、七十代に見えるのに対して、女性の方は長い金髪に緑色の瞳をした二、三十代くらいの若く艶めかしい外見をしていた。
優しく微笑み全てを包み込んでしまえそうな雰囲気から二十代ほど若くないと邪推してしまう。
その圧というか雰囲気に呑まれ気圧されてしまっていると、王国騎士の団長が一人だけ前に出る。
ララも緊張の欠片も見えず、その後に続いて行ってしまう。
「ほら、お前らも行け」
彼の部下に背中を押され、バランスが崩れながらも一足遅れてララたちに続く。
しばらくの間、周囲のお偉いさんたちからの視線が突き刺さり、ちゃんと歩けているかさえ心配になるほど緊張で体が震えていた。
動物園の動物たちっていつもこんな気持ちなのかしら……
少しでも気を紛らわせようとそんなことを考えて現実逃避する。
大体階段より手前くらいで騎士の男が止まり、その場で跪く。
「王国騎士団長ヴァイス、ただいま任務を果たし帰還致しました!」
「……うむ、ご苦労。して、その者らが例の魔族か?」
王様らしき男が鋭い目を俺とララに向け、重く響く声を発する。ヒェ……
「魔族は女性の方のみ。男の方はこの魔族と親しい間柄だったらしく、同行を条件に大人しくついて来てもらいました」
「ほう?魔族と親しいとはまた……いや、そういえばその者も一度指名手配書が作られていたな。どれ、名はなんと言う?」
未だに奇異の目で見られて緊張しているが、ゆっくりと深呼吸をして相手を見据えた。
萎縮するな。相手の話を聞け。自分が何を言うべきか考えろ。
「……元冒険者ヤタ」
「ヤタ、か……面白いな。一応名乗っておこう、私はルド、こっちは妻のエマだ。私たちを前にしてもその堂々とした立ち振る舞いをする者はそうはいないぞ」
言葉通り面白そうにニッと笑うルドと名乗った王様。
周りもざわめき、俺が何かやらかした空気が流れる。なんだ堂々とって……あっ。
王国騎士の男、先程ヴァイスと名乗った彼を見て思い至った。
俺たちも跪いたりした方がよかったか……?
今更な判断に一瞬焦る。
「この……無礼者がっ!」
するとこの大部屋に誰がの怒号が響き渡った。
女性の声だったが様子から見るに王妃のものでもなく、周囲にいる人たちも全員耳を塞いだりしていた。
不意に足音が後ろから聞こえたので振り向くと、そこには頭以外の甲冑を身にまとった金髪の少女がこちらに近付いていた。
金髪は長く鎧の中でまとめているように見え、その鎧も団長であるヴァイスが着ているものよりも上等な物のように見える。
「貴様、今どなたの前に立っていると思っている!? 王の御前だぞ!」
ズンズンと大股で寄ってくる少女は整っている綺麗な顔をお構い無しに近付けてきた。
「いや、そりゃ見ればわかりますけれども……あんた誰?」
俺がそう発言すると周りの人たちがさっきよりも大きくざわめき始める。あ、俺またなんか失言したっぽい。
そして当の本人は額に青筋を浮かべてお怒り限界突破寸前のご様子でした。
さらに少女は腰に携えていた剣を抜き、俺の首辺りに近付ける。
「……お父様、この者の処罰は自分にお任せください」
「エルゼか……今は謁見中で忙しいのだがな」
ヤダこの子物騒!最近の子は短気で怖いわね!……なんて言ってる場合じゃないか。
え、マジで?お父様ってコイツ……王様の娘?王女?
王女が鎧を着てるって何なんだよ……てっきりヴァイスと同じ立場かと思って軽口で言っちゃったよ!
「いや、あの――」
少しでも丸く収めようと口を開いた瞬間、俺の頭の横に別の武器が配置される。ララの大剣だ。
「大人しくしていろ、小娘。もしも我らに手を出せばここにいる者はただでは済まなくなるぞ。もちろん貴様も、貴様の親もな」
いや、あのね?多分俺のために怒ってそう言ってくれてるんだろうけど、君にも刃物を突き立てられてることになるんですよ?
ちょっと頬に当たってるから!結構怖いから!
あとララの言葉で王女さんの堪忍袋が爆発する五秒前になってます!もう見ただけで俺が泣きそう!
「貴様ッ……!不敬に侮辱、挙句に今の言葉は反逆の罪になるぞ!」
「ならないさ。我はこの国の民じゃない。それに単純な地位なら貴様より上だから」
「それはどういう意味――」
今にも食ってかかりそうな女性は言葉の途中で膝から崩れてしまう。
えっ、何が起きたの?
少女も何が起きたか理解できず、混乱した様子で自分の体を眺めていた。
「王女様!?」
「王女様が危ない!衛兵、すぐにコイツらを捕らえろッ!」
悲鳴混じりに周りの人たちからそんな声が上がり、ヴァイスが立ち上がると同時に外で待機していた騎士たちが入ってくる。
このまま捕まるのか……
そう思った瞬間、身に覚えのある感覚が体を包み込んだ。
【個体名「ララ」から発生した魔王の覇気です】
頭の中でアナさんから情報がきた。
そうだ、これはララが魔王として覚醒したあの時と同じ感覚だ。
周囲を見渡すとお偉い人たちもほとんどの者が手と膝を突いて四つん這いになり、少し屈強な体の人でさえ膝を突いていた。
「これは……お前は一体……?」
さっきまで剣呑な雰囲気だったルドも驚きで目を丸くしていた。
そしてララはそんなルドさんに向き直り、威圧するような低い声で言い放つ。
「我は魔王。幾度も転生せし魔族の王なり」
カッコイイッス、ララさん。
ファンタジー世界に来たという実感は前からすでに味わっていたというのに、まるで御伽噺の世界にでも迷い込んだかのような光景が扉の向こうにはあった。
幻想的だとか綺麗という感想ではないが、恐らくそれぞれが高い身分を持つであろう人々が左右に多く並び、さらに奥には階段により高く位置された座が二つ並ぶ。
そこには明らかに手前にいる者たちとは一線を画す服装と雰囲気を纏った二人が座っていた。
言われなくてもわかる。
アレが……彼らがこの国の代表、王と王妃だろう。
男の方は白髪と立派な白髭を生やし、厳格な顔付きで剣呑な雰囲気を纏っている。
彼は外見年齢六、七十代に見えるのに対して、女性の方は長い金髪に緑色の瞳をした二、三十代くらいの若く艶めかしい外見をしていた。
優しく微笑み全てを包み込んでしまえそうな雰囲気から二十代ほど若くないと邪推してしまう。
その圧というか雰囲気に呑まれ気圧されてしまっていると、王国騎士の団長が一人だけ前に出る。
ララも緊張の欠片も見えず、その後に続いて行ってしまう。
「ほら、お前らも行け」
彼の部下に背中を押され、バランスが崩れながらも一足遅れてララたちに続く。
しばらくの間、周囲のお偉いさんたちからの視線が突き刺さり、ちゃんと歩けているかさえ心配になるほど緊張で体が震えていた。
動物園の動物たちっていつもこんな気持ちなのかしら……
少しでも気を紛らわせようとそんなことを考えて現実逃避する。
大体階段より手前くらいで騎士の男が止まり、その場で跪く。
「王国騎士団長ヴァイス、ただいま任務を果たし帰還致しました!」
「……うむ、ご苦労。して、その者らが例の魔族か?」
王様らしき男が鋭い目を俺とララに向け、重く響く声を発する。ヒェ……
「魔族は女性の方のみ。男の方はこの魔族と親しい間柄だったらしく、同行を条件に大人しくついて来てもらいました」
「ほう?魔族と親しいとはまた……いや、そういえばその者も一度指名手配書が作られていたな。どれ、名はなんと言う?」
未だに奇異の目で見られて緊張しているが、ゆっくりと深呼吸をして相手を見据えた。
萎縮するな。相手の話を聞け。自分が何を言うべきか考えろ。
「……元冒険者ヤタ」
「ヤタ、か……面白いな。一応名乗っておこう、私はルド、こっちは妻のエマだ。私たちを前にしてもその堂々とした立ち振る舞いをする者はそうはいないぞ」
言葉通り面白そうにニッと笑うルドと名乗った王様。
周りもざわめき、俺が何かやらかした空気が流れる。なんだ堂々とって……あっ。
王国騎士の男、先程ヴァイスと名乗った彼を見て思い至った。
俺たちも跪いたりした方がよかったか……?
今更な判断に一瞬焦る。
「この……無礼者がっ!」
するとこの大部屋に誰がの怒号が響き渡った。
女性の声だったが様子から見るに王妃のものでもなく、周囲にいる人たちも全員耳を塞いだりしていた。
不意に足音が後ろから聞こえたので振り向くと、そこには頭以外の甲冑を身にまとった金髪の少女がこちらに近付いていた。
金髪は長く鎧の中でまとめているように見え、その鎧も団長であるヴァイスが着ているものよりも上等な物のように見える。
「貴様、今どなたの前に立っていると思っている!? 王の御前だぞ!」
ズンズンと大股で寄ってくる少女は整っている綺麗な顔をお構い無しに近付けてきた。
「いや、そりゃ見ればわかりますけれども……あんた誰?」
俺がそう発言すると周りの人たちがさっきよりも大きくざわめき始める。あ、俺またなんか失言したっぽい。
そして当の本人は額に青筋を浮かべてお怒り限界突破寸前のご様子でした。
さらに少女は腰に携えていた剣を抜き、俺の首辺りに近付ける。
「……お父様、この者の処罰は自分にお任せください」
「エルゼか……今は謁見中で忙しいのだがな」
ヤダこの子物騒!最近の子は短気で怖いわね!……なんて言ってる場合じゃないか。
え、マジで?お父様ってコイツ……王様の娘?王女?
王女が鎧を着てるって何なんだよ……てっきりヴァイスと同じ立場かと思って軽口で言っちゃったよ!
「いや、あの――」
少しでも丸く収めようと口を開いた瞬間、俺の頭の横に別の武器が配置される。ララの大剣だ。
「大人しくしていろ、小娘。もしも我らに手を出せばここにいる者はただでは済まなくなるぞ。もちろん貴様も、貴様の親もな」
いや、あのね?多分俺のために怒ってそう言ってくれてるんだろうけど、君にも刃物を突き立てられてることになるんですよ?
ちょっと頬に当たってるから!結構怖いから!
あとララの言葉で王女さんの堪忍袋が爆発する五秒前になってます!もう見ただけで俺が泣きそう!
「貴様ッ……!不敬に侮辱、挙句に今の言葉は反逆の罪になるぞ!」
「ならないさ。我はこの国の民じゃない。それに単純な地位なら貴様より上だから」
「それはどういう意味――」
今にも食ってかかりそうな女性は言葉の途中で膝から崩れてしまう。
えっ、何が起きたの?
少女も何が起きたか理解できず、混乱した様子で自分の体を眺めていた。
「王女様!?」
「王女様が危ない!衛兵、すぐにコイツらを捕らえろッ!」
悲鳴混じりに周りの人たちからそんな声が上がり、ヴァイスが立ち上がると同時に外で待機していた騎士たちが入ってくる。
このまま捕まるのか……
そう思った瞬間、身に覚えのある感覚が体を包み込んだ。
【個体名「ララ」から発生した魔王の覇気です】
頭の中でアナさんから情報がきた。
そうだ、これはララが魔王として覚醒したあの時と同じ感覚だ。
周囲を見渡すとお偉い人たちもほとんどの者が手と膝を突いて四つん這いになり、少し屈強な体の人でさえ膝を突いていた。
「これは……お前は一体……?」
さっきまで剣呑な雰囲気だったルドも驚きで目を丸くしていた。
そしてララはそんなルドさんに向き直り、威圧するような低い声で言い放つ。
「我は魔王。幾度も転生せし魔族の王なり」
カッコイイッス、ララさん。
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