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4章

4話目 中編 勝てばいいと思います

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☆★☆★

 ……しくじりましたわ。
 今、ワタクシたちのパーティは「怨嗟の沼」という場所で依頼を受けて来ました。
 毒だらけの場所というのは承知しており、だからこそ毒耐性を全員が持つワタクシたちでこなせると思っていました。
 しかし認識が甘かった。
 しくじるなどと生ぬるい言葉で済ませていい状況ではないほど切羽詰まってしまっています。
 毒に耐えきれなかったワタクシの仲間は次々と倒れ、仕方なく近くの小さな洞窟に入って療養することにしました。
 ……こんな空気でさえ毒に侵された場所で「療養」なんてできるはずがないのに……
 自分の判断力さえ著しく低下してしまっているのではないかと心配する始末。
 なによりワタクシの判断ミスのせいで仲間たちの命まで危機に晒してしまった事実が重くのしかかり、気が重くて気分が悪く感じてしまっています。
 ワタクシこそ、この場にいる誰よりも毒耐性が高く行動できるというのに、他の方と共に倒れてしまっていてはこのアリルティア・フランシス、一生の不覚となってしまいます。もう手遅れな感じもしますが……
 この際もう賭けのことなど忘れて生還のことだけを考えましょう。
 せめて皆様を連れてここから脱出できれば……

「……ガフゥ」
「っ……!?」

 気のせいだと思いたかった。
 こんな場所、こんな状況で襲われたら、まともに戦えるのはワタクシしかいない。
 もしワタクシの手に負えない敵が現れたら……
 声のした方へ振り返る。
 ワニの頭に沢山のギョロギョロと目玉が付き、トカゲの体で二足歩行し、背中から触手のようなものが何本も生えて蠢いていた。
 あまりにもグロテスク。あまりにも不気味。
 この怨嗟の沼周辺にはこのような外見をした魔物ばかりが生息している。
 適応しているからこそこの姿をしているのだとか。
 そして何より……この地域に生息している魔物は全て極悪な特性を持っている。
 見たことはありませんが、多分この魔物も……
 周りの子たちも目で魔物を認識しているようですが、指一本動かすことさえままならない様子。
 かくいうワタクシもおぞましい姿の魔物を前に戦意喪失してしまっている。
 あぁ、どうすれば……
 ふと、つい先程話したヤタという冒険者のことを思い出した。
 友人が何たるかを語ってくれた彼のことを。
 それが今、「どう助かるか」ではなく「どう彼女らを助けるか」という考えに変わった瞬間、少しだけ戦える気がしてきた。
 ……不思議な気持ちですわ。自分のためではなく、誰かのために立ち上がれるなんて……
 この気持ちも、彼に問えばそれらしい答えが返ってくるのかしら?
 いつの間にかワタクシは不敵な笑みを浮かべていた。
 えぇ、彼に問うまで死んでたまるものですか!

☆★☆★

「ここが『怨嗟の沼』か……」

 受付の女性に聞いた場所に俺一人で来た。
 レチアたちには夕食分の金を渡してイクナの面倒を見てもらっているから大丈夫だ……と思う。
 帰ったら問い詰められるか文句の一つは言われることを覚悟しといた方がいいだろうな。
 まぁ、後のことは後で考えるとして、今はこの今のことを考えよう。
 目の前に広がるは一面毒々しい沼!
 紫色の霧も相まって幻想的な景色となっております!
 ……いや違うね、これ。幻想的どころか幻滅的な景色だわ。
 本当にマルスの言った通りに想像より酷い場所だ。
 木も草も花も、そこに生息している全てがドロドロで、お世辞にも綺麗なんて口から出せない光景だった。
 っていうか、え?本当にここで合ってる?
 本当にここにアリアたちみたいなキャピキャピした女の子たちが進んで行ったの?
 度胸あり過ぎるだろ……
あ、キャピキャピって言葉は古くね?って意見は受け付けないからな。なんせこちとら中身はおじさんだから。
 ……さて。
 ここでアナさんの出番。ここの毒は俺に効くかな?

【現在の八咫 来瀬に対する致死毒は一切の効力がありません。尚、他に存在する麻痺毒、睡眠毒、衰弱毒など肉体に作用する毒は種類によって効果が表れますのでお気を付けください】

 おぉ、豆知識までくださったアナさんマジ天使。もう俺にとっての神様だよ、この人……人?まぁいいや。
 とりあえず俺がここに入って死ぬことはないらしい。そりゃそうだよな、もう死んでる奴に殺す毒なんて意味が無いなんて誰でもわかるわ。
 しかしアナさんの言った麻痺や眠らせる毒は気を付けなきゃな。
 そう思いながら俺は怨嗟の沼に足を踏み入れた。
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