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3章
9話目 中編 強くなるには
しおりを挟む「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね。あっしはガカンと申します!」
「お、おう。俺はヤタ……だ?」
勢いに押されて名乗ってしまったためか疑問形になってしまった。
しかしガカンは気にせず話を続ける。
「ヤタの旦那ですね!お願いしますヤタの旦那!あっしを……このガカンを雇ってくだせぇ!」
「雇う?……っていきなり言われてもな……」
俺が悩んでいるとガカンが神妙な表情をして俯く。
「……あっしは見た通り醜い怪物のような見た目をしています」
急に自虐的に語り始めるガカン。
「そのせいで敬遠され、細菌扱いや化け物扱いは日常茶飯事でさぁ……だけどヤタさんは違った!あっしにちゃんとお金を渡して人間扱いしてくださった!」
金を渡したって……さっきのことか?
そりゃたしかに見た目は気にしなかったけどさ……
「そんな人、旦那が初めてだったんでさぁ!だからお願いします、あっしをあんたの下で働かせてくだせぇ!荷物持ちでも何でもします、だから――」
「待て待て待て!だからそんな急に言われても困るから!せめてうちの奴らと話して決めないと……」
「ヤタ君!」
ガカンと話しているところにマルスの叫びが聞こえた。
振り返るとグロロの触手が凄まじい勢いでガカンの方へ向かって来ていたのだ。
「ひっ!?」
「チッ!」
俺は思わず舌打ちをし、ガカンの前に出た。
【戦闘状態への移行を確認。戦闘状態に移行しまため《不明なウイルスLv.3》が発動されました】
頭に流れるアナウンス。と同時に俺たちへ向けられたグロロの触手の動きが妙にゆっくりになった。
完全にスローモーションというわけじゃないが、俺の目にも捉えられるくらいの速さだ。
そういえばウイルスレベルってのが上がったみたいだが、それと関係あるのだろうか?
そんな疑問をとりあえず頭の隅に置き、自分に向かってくる触手を短剣で弾いた。
さすがに全部は防げなかったが、後ろにいるガカンには当たらずに済んだ。
「戦えないなんて言っておきながら、ちゃんと見えてるみたいじゃないか?」
俺の様子を見ていたマルスが少し離れた場所で剣を振るいながらそう言う。
「偶然に決まってるだろ?いいからとっととそいつを倒せよイケメンこの野郎!」
「おっとそれは……お褒め言葉をありがとう!」
グロロの攻撃を掻い潜り反撃しながらもこっちの会話に付き合う余裕のあるマルス。
あいつは本当に俺と同じ人間なのかと疑ってしまうくらいだ。
いやむしろ人間じゃなくなった俺より身体能力高いとかどんだけだよ。
俺の中でその強さは驚きを通り越してもはや呆れてしまっていた。
しかし、今俺はたしかにグロロの攻撃が多少は見えていた。
もし俺の仮説が正しければ、そのウイルスレベルを上げていけばいつかマルスのように強くなれるのだろうか?
もしそうなのだとしたらレベルを上げたいのだが、その条件は恐らく……「生物を食べること」。
相手を食べることによって経験値を獲得できるのだろう。
だとしたら本格的にゲームみたいなことになるな。
問題はそれが魔物でも人間でもいいって点か。
今まではその食べる相手が「敵」だったから良かったものの、もしさっきみたいに勝手に食べようとする対象が味方になったらと思うと……ゾッとするよな。
ララ……はもうあの様子だとさすがに俺とは一緒になろうとは思わないだろうからいいとして、問題発言イクナとレチアだな。
いきなりここで見捨てるわけにもいかないし、あの衝動を二人に向けないためにも取るべき手段は……
そう思い、ふとガカンの方に視線を向けた。
それが生物であればレベルが上がる……もし今よりもっとレベルが上がればマルスのようにグロロに対抗できるかもしれない……?
俺は無意識のうちに手を伸ばしていた。
簡単に力が手に入るのなら俺だって欲しい。
だがそれをしてしまったら人間として……今までこうなってしまっても人間としてあり続けようとした俺の何かが終わってしまう気がする。
……今更だな。もうすでに二人も殺して食ってるんだから。
そう考え、止めかけていた手をまた伸ばす。
「ヤタの旦那……?まさかあっしを助けてくれたんですかい?」
ガカンは自分が無事であることと俺が手を差し伸べているのを見てそう判断したようだ。
「人間扱いしてくれただけでなく命を救ってくださるなんて……まるで聖人様だぁ」
なんてガカンは感動して涙を流すが気にせず手を伸ばし、地面に落ちているグロロの一部を拾い上げた。
とりあえず一口食べる。
……うん、ところてんみたいな食感で無味無臭。
喜んで食うかと聞かれれば絶対食べたくないと答えるのだが、これがレベルアップに繋がるというのであれば甘んじて食べよう……
【グロロの一部を取り込みました。本体から切り離されたものであるため能力取得失敗。僅かな経験値のみを獲得します】
……くそう、せっかく砂が入ってジャリジャリしてるスライムを我慢して食ったのに無駄骨かよ!砂ってだけで汚く思えるから思いっ切り吐きたいぜ……
【受諾。体内の不要物を除外します】
「っ……オロロロロロロロッ!」
たしかにそう思ったが、本人の許可無しに突然吐かせるのはどうかと思う。
目の前にいたガカンに浴びさないようにとちょっと離れたところで俺はゲロった。
もう二度と「吐きたい」だなんて思わないことを誓った……って、この世界に来てから誓ってばかりなのは気のせいだろうか……?
「だ、大丈夫ですかい、旦那!?」
ガカンから見れば、目の前の俺が突然地面に落ちてる物を口に入れて吐き出しただけの理解できない行動だっただろう。
それでも心配してくれたのはちょっと嬉しい。
「ああ、もう大丈夫だ。それよりお前も逃げとけ、あいつの餌食になる前にな」
「いいえ、あっしも手伝って――」
「何ができるんだ?」
この場に留まろうとするガカンの言葉を、俺は遮って睨み付ける。
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