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3章

8話目 中編 助っ人

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 情けない。
 武器を握り、魔物を倒して強くなった気でいた。
 でも女の子一人すら守れないなんて……
 本当に情けない限りだが、もはや他人任せにするしかない状況だ。
 だけどそんな「都合の良い他人」がそうそう通り過ぎるわけ――

「呼ばれたような気がしたけど、どうやら正解みたいだったね」

 どこからともなくそんなイケメン声が上の方から聞こえてきた。
 一つの黒い影が視界を横切り、今にも落ちそうだったララの姿が消えていた。
 今の聞き覚えのある声……まさか……?
 顔を上げると、予想通りの人物がそこに立っていた。

「やぁ、立派な騎士様。どうやらギリギリ間に合ったようだね」

超が付くほどのイケメン冒険者、マルスがそう言いながらララをお姫様抱っこして俺の目の前に降り立った。

「本当にギリギリだったぜ、ヒーロー様よ……」

 俺は皮肉を口にしながらある程度回復した体で立ち上がる。
 体を再生したところ見られてないよな……?

「なんでここに?」
「偶然だよ。と言っても、こういう状況があるかもしれないから見回ってたんだけどね。そしたら当たったってわけさ」

 それが本当なら運が良かったと言うべきか……いや、こんな場面に出会してる時点で運は悪いと思うが。

「なんならもうちょっと早く来てくれたら何も文句はなかったんだがな」
「そう言わないでくれよ。これでも声が聞こえて君のために走ってきたんだから」
「俺のためとか言うな気持ち悪い!……まぁでも、ありがとよ」

 マルスは苦笑いを浮かべながらもグロロの方へ視線を向けた。

「それより、アレは何か君の友達かい?可愛らしい……とはまた程遠い外見をしているけれど」
「もし今この状況でその質問を本気でしてるのだとしたら、目と脳みそを専門医に診てもらった方がいいぞ」

 もっとも俺の目は眼科に行ったところで治せないがな!
 そう思いながら俺もグロロに視線を戻す。
 さっきまで暴れていたグロロが、マルスを見てから大人しくなった気がする。
 いや、攻めあぐねているのか?

「もしかしてだけど、この一連の騒動は……」
「ああ、こいつの仕業だ。さっきまでここにいたチンピラどもも食っちまった」
「そうか……」

 マルスがポツリと言葉を漏らすと、腰に携えていた剣をゆっくり抜刀する。

「っ!?」

 すると突然、背筋が凍るような圧をマルスの方から感じた。

「君が魔物であり、しかも被害を出している以上、僕は手加減をしないよ」

 重力が増えたみたいに体が重い。
 それどころか震えが止まらない。
 何が起きてるんだ?

【人名マルスによる加護「獅子王の威厳」が発動。効果対象となり重圧が発生します。その影響に伴い異常な恐怖の感情が発生……全てレジストします】

 頭にアナウンスが流れ、次第に体の震えが少しずつ消えて楽になっていく。
 獅子王の威厳?なんだそれ……

【完全なレジストに失敗。代わりに耐性が付きました、効果を軽減します】

 アナさんがレジストできないとは……相当なもんだったのか、獅子王の威厳ってのは?
 まぁ、そもそもアナさんがどれだけのレベルに対抗してくれるのかがまだわかってないんだけどね。
 ……って、ちょっと待て。
 俺が影響を受けてるってことはララは!?
 彼女を見ると明らかに体調が良くないであろう青い顔をしていた。

「おいマルス、少し抑えろ!これじゃあララが……」
「……すまないヤタ君。これは抑えようと思って抑えられるものじゃないんだ。だけど君はどうやら大丈夫なようだ。彼女たちを任せてもいいかい?」

 視線はグロロに向けたまま悲しそうな表情でそう言うマルス。どうやら獅子王の威厳とは勝手のいいものではないようだ。
 ……ん?彼女……「たち」?
 この場にいるララ以外の人物っていうと……
 俺がさっき麻痺らせてまだ動けずにいる男と顔の造形が残念な男だ。

「まさかこのロクデナシ共も助けろと?」
「ああ、そうだ」
「でもこいつらは――」
「ヤタ」

 俺はこいつらのことを死んでも構わない奴らだと思っていた。
 人を騙したり殺そうとするクズ野郎共。そんな奴ら、いっそここに置き去りにして巻き込まれて死なせた方が今後のためになるんじゃないか……それを口にする前にマルスが俺の言葉を遮ってくる。

「彼らは悪事を働いた。ならだからこそ法で裁かれるべきだろ?」
「……」

 ああ、お前の言ってることはこの上なく正論だ。
 罪には罰を?悪には法を?
 それが適切な処置?
 ――バカバカしい。
 こいつらのせいで人生を滅茶苦茶にされた奴は……犠牲になった親族の気持ちはどうなる?
 もし俺の助けが一歩遅く、ララが助からない状況に出会していたら?
 それを衛兵に引き渡して牢屋に入れさせただけで気が晴れるわけがないだろ。
 チンピラを見下ろす俺の顔は今どんな表情をしているだろう。
 
「ひっ、ひぃ……!?」

 俺の顔を見た男が怯える。相当酷いらしいな。
 しかしなんだろうな……この男を見てるとなんだかハラガヘッテキタナ。

【警告。未知のウイルスが著しく弱っており、早急に栄養を摂る必要があります。速やかに「捕食」を行ってください】

 肉……美味そうナ……ニクが……

「……ヤタ君?」

 マルスが俺の異変に気付いて振り向く。しかしグロロが彼に攻撃を仕掛けたためすぐに視線は外れる。
 ああ、ダメだ……何も考えられない。
 ただ目の前の男がご馳走に思えてくる。
 でも「それ」をしたら終わりだろ?
 終わり……何が?
 何がダメナンダッケ……
 視界がブレてぼやける中で、チンピラの男の姿だけがハッキリと映る。
 そしていつの間にか俺は、そいつの目の前に立っていた。

「おい、何してる?なんでそんな目で俺を見る!?や、やめ――」

 男の叫びなど気にせず、俺は開いた口を奴に近付けていき……男の肩に嫌な音を立てながら食らい付く。

「ぐああぁぁぁあああぁぁぁっ!?」

 肉を食い千切られたチンピラ男は悲痛な叫び声をあげた。
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