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2章

10話目 中編 疑惑

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「かもしれないで決め付けてはダメだ」
「ですが……」
「話を遮るようですいませんが、俺『たち』って……ララたちもですか?」

 質問を投げかける際に女性から睨まれたが、俺は挫けない。もうすでに挫けそうになってるけど。

「ああ、そうだ。残念だが、君と一緒にいるというだけで怪しむには十分な理由になる」

 ウルクさんの言い分に、仕方ないか……などとこんな状況で簡単に納得できるはずもなく。

「そこに命の保証はあると?」
「後ろめたいことがなければ問題ない」
「信用できませんね」

 俺がそうハッキリ言うと、レチアもララも、そしてウルクさんも驚いた表情を浮かべていた。

「あなたは優しいです。会って数日でそれはわかります……ですが会って『たった』数日の人を信じるのは無理がある話でしょう?それに多分、後ろの人たちにも事情は説明した上でついて来てもらっているんでしょうし……その人たちが俺たちを攻撃しないという保証がどこにあるんです?」

 ウルクさんが連れて来た冒険者たちからは、今にも斬りかかってきそうなほど、ピリピリとした緊張感が伝わってくる。今からでも泣いて土下座したいほどだ。
 彼らは強い。少なくとも戦闘経験のない俺よりは。
 もし戦闘になれば、俺たちなど簡単に取り押さえられるだろう。
 俺はともかくとして、他の三人がその時に無事でいられるのかがわからない。
 だったら俺の詭弁で少しでも状況を変えるしかない。
 せめて、ララたちの無事が保証されるまでは……

「だが君がついて来ることを拒否すれば、俺はもちろんのこと、彼らも君たちを討伐対象として攻撃を始めることになっている」
「まさかララたちも……?」

 ウルクさんが頷く。
 なんでララたちも……いや、俺のせいか。
 俺がこうなる可能性も考えず、彼女らの同行を許してしまったがゆえの現状だ。
 ここで俺だけが犠牲に……なんて考えても、その後はどうなる?

 「……わかりました、あなたの指示に従います」
「助かる。こちらとしても戦闘は本意ではないからな――」

 ウルクさんがホッと胸を撫で下ろそうとした時、誰かが俺たちに向かって走って来た。

「アアァァァアアァァァッ!」

 それは見たことある男……ベラルだった。

「なんっ……なんにゃ急に!?」

 驚きの声を上げるレチア。俺も驚いて咄嗟にフィッカーの中から武器を取り出そうとしたが、失敗して落としてしまった。
 その間にベラルはもうすでに目の前に迫っていた。

「なぜ……なぜ俺が自分より下の者に怯えながら生きなければならない!?お前が……お前さえいなければぁぁぁぁっ!!」

 彼が振り上げた剣は、すぐにでも振り下ろされる寸前……
 だが結果的に、その攻撃が俺に当たることはなかった。

「そこまでだ」

 ベラルの剣が俺に届くその前にウルクさんが彼を押さえ付け、無力化したからだ。
 俺たちとウルクさんがさっきまでいた場所まではかなり距離があったはずなのに、べラルに追い付いてしまっていた。
 どんな脚力だよ……五十メートル走を二秒くらいの速さなんじゃねえか?
 流石冒険者をまとめる人は違うな。っていうかウルクさんの方がもう人間やめてね?

「ウルクさ――」
「お前らも動くなっ!!」

 心配した冒険者たちがこちらへ駆け寄ろうとすると、ウルクさんの口から空気が震えるほどの怒号が放たれた。
 うおぉ、鼓膜が破れそう……ララたちも耳塞いでるし。

「驚かせてすまない、ヤタ君。私の合図がないうちは攻撃をしないよう言っておいたはずなのだが……」

 ウルクさんが俺の名前を君付けに戻してくれてことに、少しホッと安心する。
 しかし……ベラルは何をそこまで怒ったんだ?
 たしかに脅すようなことを言った覚えはあるけれど……一度こいつに殺された俺が恨むならわかるが、その逆なんてありえるか?
 とはいえ、ここは穏便に済ませておくか。

「いえ、こちらにも事情がありますので……これも含めてお話しますので、彼をあまり責めないでやってください」
「っ……!」

 俺がフォローのつもりでそう言うと、べラルは唇を噛んで悔しそうな表情を浮かべる。あれ、逆効果だった?

「わかった。しかし、とりあえずヤタ君と一緒に拘束させて一緒に来てもらうからな?」

 最後の言葉は、俺でなくべラルに向けられたような気がした。

――――

 俺、ララ、レチア、イクナ、べラルはウルクさんが乗ってきた馬車へと詰め込まれた。
 俺とべラルは下手に動かないように手足を拘束されている。
 特にべラルは前科があるので、紐などでグルグル巻だ。ちなみに俺は両手足共に手錠で済んでいる。
 イクナは逆に刺激しないようにララとレチアがなだめている状態だ。
 それでも若干警戒してべラルを睨んでいるし、べラルもまた俺を睨んでいる。
 何このカオス。

「調子はどうだ、化け物さんよ?」

 茶化すようにそう言ってきたのはグラッツェさんだった。
 一応知っている仲だからと、彼と一緒に乗っている。ウルクさんは別行動だ。
 そしてみんなが俺のことを避ける中、なぜかグラッツェさんは普通に接してくれる。
 むしろ普通より距離が近くて気持ち悪いとも思えてしまう。

「……最低で最悪の気分だ。今までだってそうそう良い扱いはされたことなかったけど、こうも堂々と化け物呼ばわりされるのは初めてだったからな。というか、ここに来てから地獄ばかり見てる気がするんだけど」
「そりゃご愁傷様だな!」

 軽く流して笑うグラッツェさん。
 場を和まそうとしてるのか?
 最初の印象が悪かったけど、意外といい人っぽい……どっちにしても今は鬱陶しいだけだけど。

「あんたは俺が気持ち悪くないのか?みんな俺のことを敵視してるってのに」
「おう。だって今のお前、最初にあった時と変わらねえしな」
「単純な考え方だな……」
「嬉しいだろ?」

 ニッと笑ったグラッツェさんの顔は意外とイケメンだった。
 まぁ、たしかに嬉しいけど……それを認めるのはなんか癪だ。
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