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2章
9話目 中編 喰らう者
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☆★☆★
【八咫 来瀬。力が望むか】
俺の頭の中に突然響く声。
周りは薄暗く何も見当たらず、さっきまで何していたかも思い出せない。
言うなれば怪しさしかない状況だった。
俺はしばらくそんな状況確認をしながら考え込み、さっきの声に答える。
「要らない」
【なぜ?】
「理由は明確だ。余計な力は余計な面倒事を引き起こす。できる限り平穏で安寧のある人生を送りたい俺は下手な力は要らない」
【ではその平穏が脅かされた場合は?】
その問いにすぐには答えることができなかった。
【逃げるだけの平穏なら手に入ろう。しかし大事な場所、大事な者が危険に晒されてもなお逃げる勇気があるか?】
「それは……」
よくわからん怪しい声に論破されてしまった。凄く、悔しいです。
【あなたは平穏に暮らしたいと言って責任から逃げたいだけ。だがそれでは守れないものもある。その時、君はどうする――】
――――
「っ!」
眠っていた意識が覚醒すると同時に、俺はバッと上半身を起き上がらせる。
ついさっき俺は巨人と戦っていて……そうだ、ララたちは!?
周囲をを見渡そうとするとイクナが俺の膝を枕にし、寝息を立てて寝ていた。
そして視線を前に移すと大きな人の骨があった。
ゾンビは一匹もいない。
「……何があったんだ?」
どうやら全て事が終わった後のようだが、ララたちだけで倒したってことなのか?
彼女たちを探すと、ララは何やら拾い物をしており、レチアは地面を掘っていた。
「聞きに行く……にしても、この子を起こすわけにも行かないか」
イクナが起きるか、ララたちがこっちに気が付くまで大人しくしてることにした。
「……そういえば、さっきどんな夢を見てたんだっけな?」
不思議な夢だった気もするが、内容が思い出せなかった。
ま、夢なんてそんなもんか。
――――
イクナを膝枕させながらゆったりとした時間を過ごしていると、拾い物をしていたララが手を止めてこっちを向き、俺に気が付いた。
「っ……!」
なぜか俺の顔を見た瞬間に怯えた表情になったのだが……
何、俺の顔に何か付いてる?それともいつもより目の腐り方が酷くなってるの?
どちらにしても女の子からそんな目で見られると悲しくなるからやめてね。
「あぁっ、やっと起きたにゃ!」
すると俺を指差して大声でそう叫ぶレチアの姿があった。
「説明を要求するにゃ、ヤタ!」
何かにご立腹な様子のレチア様。
何かしたか俺?……あ、何もしてないから怒ってるんですね、すいません。
いくら痛みもなく死なないからって、油断し過ぎたもんな……
「えっとですね……あれには深い事情がありましてですね……」
「そんなの見ればわかるにゃ!それでも説明してもらえないと、そんな気持ち悪い主人の近くにいるなんて嫌だにゃ!」
なんということでしょう、正面から気持ち悪いと言われてしまった。
え、そこまで言う?たしかに働かずに寝てたことは謝りますけど。
なんて思っていると、レチアが巨大な骨を指差す。
「あの大きなリビングデッドの肉を食べるってなんにゃ!?ヤタは本当に人間菜乃にゃ!?」
「……はい?」
リビングデッドの肉を食った……?俺がゾンビの肉をか!?
「……な、何言ってんだよ?いくら相手が俺だからって、そんなタチの悪い冗談……」
「……覚えて、ないのにゃ?」
レチアは本気で心配した表情をする。
冗談じゃ……ないのかよ……
「俺が何をしてたか、教えてくれるか?」
「本当に何も覚えてにゃい?急にヤタの動きが良くなって、ララちを格好良く助けたことも?」
覚えてるわけないだろ。
俺が?ララを?格好良く?
ただでさえ戦い素人の俺が、他人を格好良く助けることができるわけない。
そしてレチアからは俺が意識を失うまでの経緯を教えてもらった。
俺がレチアと同等かそれ以上の速さで動いてララを助けたことから、イクナと一緒に巨人の肉を食べ始めて全て平らげてしまったこと。
「ちなみに僕は両親の供養をしようとしてたところにゃ。ヤタも穴掘るのを手伝ってくれると嬉しいにゃ」
「……おう」
ララは手伝わないのかと言おうと思ったが、彼女が怯えた目を俺に向けていたのを一瞥して見てしまったので、声をかけるのをやめて頷いた。
【八咫 来瀬。力が望むか】
俺の頭の中に突然響く声。
周りは薄暗く何も見当たらず、さっきまで何していたかも思い出せない。
言うなれば怪しさしかない状況だった。
俺はしばらくそんな状況確認をしながら考え込み、さっきの声に答える。
「要らない」
【なぜ?】
「理由は明確だ。余計な力は余計な面倒事を引き起こす。できる限り平穏で安寧のある人生を送りたい俺は下手な力は要らない」
【ではその平穏が脅かされた場合は?】
その問いにすぐには答えることができなかった。
【逃げるだけの平穏なら手に入ろう。しかし大事な場所、大事な者が危険に晒されてもなお逃げる勇気があるか?】
「それは……」
よくわからん怪しい声に論破されてしまった。凄く、悔しいです。
【あなたは平穏に暮らしたいと言って責任から逃げたいだけ。だがそれでは守れないものもある。その時、君はどうする――】
――――
「っ!」
眠っていた意識が覚醒すると同時に、俺はバッと上半身を起き上がらせる。
ついさっき俺は巨人と戦っていて……そうだ、ララたちは!?
周囲をを見渡そうとするとイクナが俺の膝を枕にし、寝息を立てて寝ていた。
そして視線を前に移すと大きな人の骨があった。
ゾンビは一匹もいない。
「……何があったんだ?」
どうやら全て事が終わった後のようだが、ララたちだけで倒したってことなのか?
彼女たちを探すと、ララは何やら拾い物をしており、レチアは地面を掘っていた。
「聞きに行く……にしても、この子を起こすわけにも行かないか」
イクナが起きるか、ララたちがこっちに気が付くまで大人しくしてることにした。
「……そういえば、さっきどんな夢を見てたんだっけな?」
不思議な夢だった気もするが、内容が思い出せなかった。
ま、夢なんてそんなもんか。
――――
イクナを膝枕させながらゆったりとした時間を過ごしていると、拾い物をしていたララが手を止めてこっちを向き、俺に気が付いた。
「っ……!」
なぜか俺の顔を見た瞬間に怯えた表情になったのだが……
何、俺の顔に何か付いてる?それともいつもより目の腐り方が酷くなってるの?
どちらにしても女の子からそんな目で見られると悲しくなるからやめてね。
「あぁっ、やっと起きたにゃ!」
すると俺を指差して大声でそう叫ぶレチアの姿があった。
「説明を要求するにゃ、ヤタ!」
何かにご立腹な様子のレチア様。
何かしたか俺?……あ、何もしてないから怒ってるんですね、すいません。
いくら痛みもなく死なないからって、油断し過ぎたもんな……
「えっとですね……あれには深い事情がありましてですね……」
「そんなの見ればわかるにゃ!それでも説明してもらえないと、そんな気持ち悪い主人の近くにいるなんて嫌だにゃ!」
なんということでしょう、正面から気持ち悪いと言われてしまった。
え、そこまで言う?たしかに働かずに寝てたことは謝りますけど。
なんて思っていると、レチアが巨大な骨を指差す。
「あの大きなリビングデッドの肉を食べるってなんにゃ!?ヤタは本当に人間菜乃にゃ!?」
「……はい?」
リビングデッドの肉を食った……?俺がゾンビの肉をか!?
「……な、何言ってんだよ?いくら相手が俺だからって、そんなタチの悪い冗談……」
「……覚えて、ないのにゃ?」
レチアは本気で心配した表情をする。
冗談じゃ……ないのかよ……
「俺が何をしてたか、教えてくれるか?」
「本当に何も覚えてにゃい?急にヤタの動きが良くなって、ララちを格好良く助けたことも?」
覚えてるわけないだろ。
俺が?ララを?格好良く?
ただでさえ戦い素人の俺が、他人を格好良く助けることができるわけない。
そしてレチアからは俺が意識を失うまでの経緯を教えてもらった。
俺がレチアと同等かそれ以上の速さで動いてララを助けたことから、イクナと一緒に巨人の肉を食べ始めて全て平らげてしまったこと。
「ちなみに僕は両親の供養をしようとしてたところにゃ。ヤタも穴掘るのを手伝ってくれると嬉しいにゃ」
「……おう」
ララは手伝わないのかと言おうと思ったが、彼女が怯えた目を俺に向けていたのを一瞥して見てしまったので、声をかけるのをやめて頷いた。
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