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2章
6話目 中編 自首
しおりを挟む「そして僕は父と母を人質にされて、ここ1ヶ月くらいいいように使われてたにゃ」
「人質に?……レチアの両親ってもしかして、お前と同じように猫みたいな耳が頭にある奴か?」
「知ってるかにゃ!?父は黒、母は白だったにゃ!お願いにゃ、知ってたら教えてほしいにゃ、そして助け出すのを手伝ってほしいにゃ!」
ああ、やっぱり。
俺はその二人を、恐らく知っている。そしてそれを見つけた俺は彼女に言う義務があるだろう。
「それ」を言葉にするのに躊躇して言い出せずにいたが、一度大きく息を吸って呼吸を整えたところでレチアに向き合う。
「ああ、知ってる。だがそれはできない相談だ」
「っ……なんでっ!?」
レチアは激怒しようと勢い付くが、すぐに冷静になって落ち込む。
「……やっぱり、自分と仲間を売った僕のことは助けられないにゃ?だからそんなことを――」
「違う。どちらにしろ俺の都合の問題じゃないからだ」
「どういう、ことにゃ?」
俺の言い方からすでに察しようとしたのか、レチアは表情に焦燥を浮かべていた。
「俺がお前の姿に似た奴を見たのは、俺が捨てられた場所だった」
「っ……!」
死体を廃棄する小屋で見たことを伝えると、レチアは息苦しそうな表情になる。
もちろん、アレがレチアの両親だと断定するには早いが、「亜種」という種族があからさまによく思われてないのを見ると、あの場所で他にも同じ奴がいる可能性は低いし。
何よりまだ腐り始めたばかりの死体を見つけた時、そこにレチアの面影を見てしまったのだ。
そしてそんな話を聞いたレチアは脱力してその場に座り込んでしまう。
「この一ヶ月、あいつらに従ってたのは無駄無意味だったってわけにゃ……」
「レチア……」
彼女は両親を失ったことを知り、大粒の涙を流し始める。
最初は嗚咽から始まり、そして声を大にして泣き崩れるその姿を見ていると、こっちまで心苦しくなってきてしまう。
何より、そんな彼女にかけてやれる言葉が見つからない自分がもどかしく、腹が立った。
ララはそんな彼女に近付き、そっと抱き寄せて慰めようとする。
いくら自分たちを罠に嵌めた人物とはいえ、あちらさんも被害者の一人。蔑ろにはできないのだろう。
しばらくしてレチアが泣き止んだところで、俺たちは捕まっていた女性たちを連れて町へと戻った。
――――
そして俺は町へ入る前に、門番の人に捕まってしまったとさ……
「なんで?」
「町で行方不明になっていた女性たちの誘拐は貴様だろうが!」
門のところにはフレディはおらず、代わりに他の奴に事情を説明しようと話しかけたところ、即刻御用となった。まぁ、完全に逮捕されたわけじゃないけど。
待って、職質はされたことあるけど、外見で判断されて逮捕されるなんてことは初めてだ。
「おい、少しは事情を聞けよ」
「いいよ、聞かなくてもわかる。どうせ罪悪感に耐えきれなくなって、自主しに来たんだろ?そういう目をしてるもんな、お前」
何一つ合ってない偏見によるものですね。しかもまた目かよ。
どうすんだよ、これ。現代社会だったら普通に名誉毀損並の濡れ衣で逆にこいつを訴えられるレベルなんじゃねえの。
それが門番をしていた奴二人共がだ。
俺の目ってホントなんなの?
人助けしても人殺しって言われたり、さらには誘拐犯と間違えられてるじゃねえか。
……あれ、前者はあながち間違いじゃないのか。悪党とはいえ、相手の命をすでに二人奪ってるんだし……
ヤバい。これはこれで自主した方がいいんじゃないかって考えになりつつある……
ああ、クソ!いくら死ななくなったとはいえ、牢屋に入れられて前科者にはなりたくないぞ!?
「違うにゃ。誘拐したのはこの人じゃない、僕だにゃ」
するとレチアが一歩前に出て、そう言い出した。
語尾も「二」ではなく「にゃ」、隠す気がない。
「それは……本当か?」
「おい、レチア!それは――」
「いいにゃ」
一人の男が確認してくるのを他所に、レチアは俺の言葉を遮って耳を隠すために被っていた帽子を取ってしまった。
「なっ……!?」
「亜種……?」
レチアの耳を見た門番たちが驚きに目を見開く。
「でもそれは……親を人質に取られていたからだろ?」
「それでも僕のやったことに変わりはないにゃ。罪は償わなきゃにゃ」
そう言いながら寂しそうな笑みを浮かべるレチア。
本当にそう思ってるのか?
……いや、もしかしたら彼女はヤケになってるのかもしれない。
彼女は加害者と同時に被害者でもある。
なのにレチアは、自分にはもう守るものがないと思っている。
このままじゃダメだ。
だがどうする?
レチアがすでに自白を公言してしまっているこの状況で俺が取れる最善の策は?
「彼女の……罪人の引渡しはどうするんだ?」
一先ず、レチアがどうなるかを先に聞いてみることにした。
「え?あ、ああ……本来なら俺たちが引き取るんだが、亜種が相手なら奴隷商人に引き渡すことになってる」
奴隷……嫌な単語が出てきたな。
この世界じゃ奴隷制度は普通にあるのか?
「その場合、罪の重さは関係してくるか?」
「まぁな。窃盗、強盗、放火、殺人、誘拐……内容によって奴隷の種類も異なってくる。中には借金奴隷なんかもあって、強制的に労働をさせられるやつもある」
「そうか、わかった」
「俺たちが連れてくか?」
門番の人が提案してくれるが、俺は首を横に振る。
「いや、俺が連れてくから大丈夫だ。それよりも彼女らの保護を優先してくれ」
そう言って誘拐されていた女性たちを指し示すと、すぐに了承してくれた。
そして彼女たちを引き渡したあと、門番に通行証を見せて通ろうとする。
「ただ、このままだと犯罪者を素通りさせることになるから通すことができない。だから少し待っててくれないか?今手が空いてるやつを呼んできて同行させるから」
「まぁ、そりゃあそうか……あっ、だったらフレディって人を頼めないか?」
――――
「で、なんで俺なんだ?」
俺が名指しし、呼び出されたフレディは不機嫌そうだった。
「知らない奴に偏見持たれるより、多少は知った仲で信用できる奴にいてもらった方がいいと思ってな」
「信用?おい、まさかこれからヤベーことにでも手を出すんじゃないだろうな?そんなことしようもんなら衛兵呼ぶぞ」
「俺を何だと思ってんだお前は。あとそれ、お前の役目だろうが」
どいつもこいつも俺を犯罪者予備軍みたく言いやがって……
――――
「い~らっしゃいませいらっしゃいませ!よ~こそおいでくださいました!ワタクシ当館の責任者をしております、プライナと申します!以後、お見知りおきを……」
フレディに道すがら事情を説明しながら、その案内の元に奴隷商人のいる館へと着いた。
そこにいたのはゴマを擦って頭を低くしている筋肉ゴリラの男だった。
筋肉ゴリラと言っても冒険者にいるような巨体ではないけれど、服の上からでもわかるほど筋肉が付いた体格。
頭を下げ中腰でにこやかにしているにも関わらず、なぜか覇気を感じざるを得ない威圧感……
間違いない、この人の機嫌を損ねれば、この場にいる全員殺される!そう感じる何かが彼にはあった。
「彼も副業ではあるが、冒険者だ。しかもそれなりに名の通るくらいに実力もある」
フレディがプライナという男の簡単な紹介をしてくれる。
マジかよ。絶対「それなり」じゃ済まないくらい強いだろ、この人……
「それで今回はどういったご用件でしょう?ご存知かと思われますが、ワタクシたちは奴隷の取り扱いを行っております。貸し出しから売買まで、戦闘に特化した者から家事洗濯を得意とする者まで幅広くおりますゆえ……ああ、そうそう」
親切に説明してくれていたプライナさんが何かを思い出したように言うと一気に詰め寄ってきて、俺以外に聞こえないよう耳打ちしてきた。
「……夜のもあらゆるジャンルの娘を取り揃えていますので、もしご所望でしたら後でワタクシがこっそりご用意いたしますので、ぜひ仰ってください……」
ねっとりするような言い方に背筋がゾッとし、さらに加えて彼の言葉に意味深な意味が含まれてることに数秒後気付いてしまった俺は、どう答えていいかわからないまま固まってしまった。
そしてプライナさんは優しく微笑んで囁く。
「お待ちしております」
余計なお世話だ!と言いたいけれど、口には出さず心の中にしまっておく。気を取りな取り直そう。
「今回は彼女を引き渡したい」
俺がそう言ってレチアを示すと、プライナさんは表情を引き締めて彼女の耳や尻尾に視線を移す。
「なるほど、亜人……では手続きを始めましょう」
何かを察したのか、理由も聞く前にいきなり話を始めようとするプライナ。
「あ……ちょっと待ってくれないか?」
「安心してください。ここですと他のお客様の邪魔になってしまうので、細かい話は別室で、というだけです」
……本当に、どこまで察してるんだろうか。
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