異世界でも目が腐ってるからなんですか?

萩場ぬし

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2章

4話目 中編 賊

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【睡眠効果消失。覚醒します】
「っ……!」

 頭に響くアナウンスで意識が覚醒する。どうやら気を失っていたようだ。
 眠ってからどれだけ時間が経った!?ララは?イクナは!?

【睡眠時間は約三十分程度です】

 問いかけるように頭の中に浮かべた言葉に、アナウンスが反応してくれる。
 三十分?結構眠っちまったな……それよりここはどこだ?
 暗くて何も見えない……っていうかくっさ!?臭過ぎるぞ、なんだこの臭い!
 それになんだかべちゃべちゃするし……いや、ちょっと待て。
 俺は多分、死んだと思われて廃棄されたんだよな?
 まさかここにあるのは……
 ある考えが過ぎった瞬間、どこかの窓から月明かりが入ってくる。
 それに照らされた俺の下には――

「っ……!」

 ――死体。
 死体、死体、死体、死体の山。
 中には白骨や肉が腐り溶けている死んだ人間の成れの果て。
 つい声を漏らしそうになった口を塞ぐ。声を出すよりも先に吐き気が襲ってきたからだ。

【……精神の異常を感知。未知のウイルスにより原因である嗅覚の機能を著しく低下され、脳への負担軽減を開始されます】

 そのアナウンスが流れると不快な臭いは気にならなくなり、気分がスッと落ち着いた。
 ああ、ホントに便利。
 こういっちゃ何だが、一度死んでよかったと思う。おかげでこうやって死に切れずに生き返ったわけだし。
 それにしても……ここにいるやつらはみんな、奴らの被害に遭ったのか?
 しかし、ここで死んでいる奴らの姿を見ると耳の生えてたり、普通の人間とは思えない骨格をしている。
 コスプレ……なわけないよな。
 やっぱ獣人的な感じか?それにどこかで見たことがあるような……
 そんなことを考えていると、頭に再びアナウンスが流れた。

【自己防衛機能として備わっている録音機能を使い、一部を再生しますか?尚、意識が閉じてしまっていたため録画機能は使用できません】
「録音に録画?」

 身近で意外なその言葉を聞き返した。
 自動録音機能とかなんなの俺?人間やめてビデオデッキにでも転生した?なんて、バカなことを考えるのはほどほどにしよう。

「よし、頼む」

 俺はそう言って頷いた。って、別に言葉にしなくてもいいんだっけ……誰もいないとはいえちょっと恥ずかしい。
 するとそこへ横槍を入れるようにノイズが混じりの会話が聞こえてきた。

【なんだったんだ、急に襲いやがってこのガキ……お前ら、その男の死体を片付けておけよ。見つかったら面倒だからな】
【オッケー、ボス。そんじゃ、基地のいつもの場所に捨てときやすね……そん時ゃ、報酬の「一人」でもくださいよ?】
【ああ、そうだな……そういえばお前、こういうガキが好みだったよな?あとで見繕ってやるよ。それにお前も密偵ご苦労だったな、レ――】

 そこで頭の中でブツッと音と共にノイズと会話が消える。
 ……ヤバい。
 ヤバいヤバいヤバい!
 さっきまでは「俺が襲われた」という認識で落ち着いていたが、録音された会話を聞いて鳥肌が立った。
 そして襲ってきた奴らは、会話の内容からして盗賊か何かだろう。そしてそいつらにララとイクナが攫われた……彼女たちも強かったはずなのに、抵抗できなかったのか?
 いや、今はともかく自分のことだ。ここから出なきゃ話にならないしな。
 扉を探してるうちに階段のようなものがあるのに気付き、そこから上がった先にあった扉を開けて、その死体部屋から慎重に出る。
 そして月明かりに照らされ、今の俺の状況が明確になる。
 俺、裸じゃねえか!?
 妙な開放感があると思ったら……実際全裸で開放感されてるんだから、そりゃ当たり前だわな。
 風呂と銭湯以外でこんな姿になったの初めて……はい、こんにちわ、もう一人の俺。
 とまぁ、そんな冗談はさておき……早速一人いた。

「くかー……」

 一応見張りのつもりだろうが、思いっ切り寝てしまっている。
 おーおー、俺が死体塗れになってる時に気持ち良さそうに寝てやがるなー……
 若干方向の違う嫉妬をしつつも、俺はそいつの横に置いてある武器に目を移す。
 普通の剣より少し曲がってる……サーベルみたいな感じのものだ。
 今の俺は武器を奪われて何も持ってない。だからそれを拝借するしかない。
 そしてその武器でこいつを殺す……殺す?人間をか?

「……犯罪者とはいえ、そこまでしなくても……」

 じゃあ、どうする?
 気絶させる?力加減がわからない。
 眠らせる?寝てるだろ馬鹿野郎。
 紐で縛って拘束する?そんなもの、周囲には見当たらない。
 それに殺さずに無力化するってのは簡単なことじゃない。
 ララたちを、そして俺自身の身を守るためにはやっぱり……
 俺は恐る恐る男の武器に手を伸ばす。

「ん……?なんだお前……」
「っ……!」

 眠っていた男が身動ぎをし、目を覚ましてしまった。
 バレる!
 ――ズブ……

「っ――」

 俺は答えを出す前に男の口を押さえ、咄嗟に手に持っていた剣で首を斬ろうとしてしまった。あのシャドウという魔物を相手にした時と同じ容量で……
 しかし相手はやっぱり人間で、思いのほか力を入れてその首を斬ろうとしたのだが、刃は中途半端に半ばで止まってしまう。
 それでも男が死ぬには十分で、彼の口と斬ったところからはグポッと大量の血液が溢れ出す。
 そんな光景を見た俺は自分でも何をしたのか、理解が及ばずに固まってしまう。
 そして……首の皮一枚で繋がった息絶えている男が目に入ってしまった。
 その中途半端な死体の頭を、俺がぞんざいに持ち上げて……

「っ……クソッ」

 自分がしでかしてしまったことを認識し、気分が悪くなる。
 普通なら吐き気があるはずだが……さっきのウイルスがどうとかいうやつで大丈夫らしい。
 じゃなきゃ、絶対今頃ゲロってる。俺の精神はそこまで強くないんだから。
 だけど気分が悪くなることには変わりない。
 俺は人を……殺したのか?人殺しに……なっちまったのか……
 いや、そんなことは後回しでいい。
 元々道徳の欠片も無い連中を相手してるんだ、気にしてたらキリがないこともわかってる。
 それでも俺の頭からは罪悪感が消えない……だから俺は向こうにいた時の技術を使おう。
 なんて、技術と言っていいかもわからない、ただの心構えってだけだけど。
 「これが最善だった」……と。
 たとえ誰かに貶されようとも、結果が最良であればそれでいい。
 そう、今回のように目的がララとイクナを助けるとハッキリしてるなら……そのために俺が敵となる奴らを殺してでも成し遂げてやる!

「……まずはこいつを隠すところから始めるか」

 と言っても、草陰へ雑に隠したり、今から穴を掘って埋めるわけでもない。
 木の葉を隠すなら森の中へって昔から言うだろ?あるじゃないか、死体を隠すのに最適な場所が……
 俺は振り返り、今自分がいたと思われる小屋に目を向ける。
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