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1章

3話目 中編 腐ってるものの使いよう

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「しかし一杯はちょっと少ねぇな……」

 そう言ってニッと笑う男。やっぱ足元を見る気だったか……
 町に入れないならそうまでする気はないし、また別の町を目指そうかな……なんて思いかけた時、男がコインを三枚を差し出してきた。

「ここにある千五百ゼニア。さっきのと合わせれば二千ゼニア……ウィカ四杯分だ」
「あ?これはどういう……」

 意味を聞こうとすると、やれやれと肩をすくめて呆れられる。

「いいか、田舎者?まず俺が貸した金を返してもらうためにはお前に働いてもらわなにゃならん。だがそうにしてもこの時間じゃやや遅い。だからまずは中に入ったら左手に見える『ウィンドウガーデン』って宿屋で世話になれ。千ゼニアなら二日分になる」

 そこで男は言葉を一旦区切り、首に紐でぶら下げている銅色の小さなプレートを見せてきた。

「そんで次は働き場所。無一文のお前さんの場合住み込みでどこかに入ってもいいが、手っ取り早く稼ぐなら冒険者だ」

 男の口から発した「冒険者」という言葉に、年甲斐も無くワクワクとした高揚感を覚えてしまう。
 冒険者と言ったらやっぱり、ギルドとかそういうものを連想するし。

「……何笑ってんだ?気持ち悪い顔してるぞ」
「放っとけ」

 せっかく人がいい気分になってるとこに水を差されて冷める。

「まぁいい、説明を続けるぞ。冒険者になるためには連合本部ってとこに行って登録しないとならないんだが、それはここを入って真っ直ぐ行けばすぐに着く。他より立派な建物だからわかりやすいから大丈夫だろ。あとは登録料として五百ゼニア必要になるってわけだ。ついでにこれから渡す通行パスもな」

 相槌を打って頷く。
 宿屋は入って左に見える「ウィンドウガーデン」、冒険者になるには真っ直ぐ行ったところにある連合本部に行けばいい、と……

「そうか……了解だ、ありがとうな、色々と教えてくれて」
「何、お礼なら酒を余分に奢ってくれればいいさ」

 何気に見返りを要求してきやがった。まぁ、貸しってことで、それくらいなら別にいいけど。

「それではようこそ、心安らぐ町『イグラス』へ!ついでに言っとくと、俺はフレディだ。何か用があれば俺と同じ服装をした奴にこの名を言えば伝わるからな」

 俺は男の紹介と名乗りを引きつった笑いを浮かべて了承した後、自分も名乗っておくことにした。

「ヤタライセ……目だけじゃなく名前も変なんだな。言いにくいヤタでいいか?」

 もはや俺という存在が全否定されてるような気分になりながら、先程の黒い箱を差し出された。
 面倒だったこともあり、「もう好きにしろよ」とやさぐれた言い方をして人差し指を入れる。
――ヴィン!
 すると何か半透明な映像画面が映し出された。
《ヤタ ライセ》《オトコ》《ニホン》
《STR11 VIT8 DEX20 AGI17 MND50 LUC10》
 そこにはカタカタで出てきた名前と性別と出身国、そしてわちゃわちゃと書いてあるウィンドウ画面が出てきた……まるでゲームみたいだな。
 そして俺の記憶が正しければSTRは攻撃力、VITは物理防御力、DEXは器用さ、AGIは俊敏さ、MNDは精神力、そしてLACは幸運値だったはず。
 それらしい画面が出てきてこれまた胸が高鳴っていた。
 というか、MNDの精神力って魔法に関係するんじゃなかったか?まさか俺に魔法使いの素質が……!?
 その後すぐに黒い箱の上にプレートが出てくる。それが若干パンを焼く機械を連想させる感じだったのがちょっと面白かった。

「とまぁ、こんな感じで出てくるんだが……って、なんだ『ニホン』って?聞かない村の名だな……それにまた奇妙な偏り方をしてる。このままだと賊堕ちとかになるんじゃないのか?」

 心配したように言うフレディの言葉に「なぜ?」という疑問が沸いた。

「……はぁ?なんでMNDとか高いのに賊?」

 そう言うとフレディの方も「お前こそ何を言ってるんだ?」とでも言いたげな訝しげな表情をされる。

「たしかにそこは異常に高いと言えるが、MNDはただの根性だ。精神的に凄いというだけで、だからどうしたって話しになる」
「…………」

 出てきたプレートを「ほれ」と俺に差し出してきたフレディの言葉に悲しくなりながらも、少しホッとする。
 よかった、これで「魔法使いになれないのか?」なんて言った日には恥ずかしくて悶えるとこだった……

「それよりもLACが問題なんだよ。普通なら20はあるもんだが、10なんて言ったら自殺もんだぞ?」
「ああ、だろうな。まずこの目に生まれてきたのが運の尽きだ。これを昔からバカにされ続けて生きてきて……だから精神力が高いのも納得なのかもな」

 適当に笑って自虐ネタを言ってやると苦笑いされる。

「……まぁ、ここであったのも縁だ。そうそう重くない話だったら聞いてやるしアドバイスもしてやるから、背負い過ぎるなよ?」

 同情するような悲しそうな表情で言うフレディ。マジか、そこまで言われちゃうくらい俺の運って酷いの?

「心配しなくてもそのつもりだ。そう簡単に人生投げ出してたまるかってんだよ」

 そう言って気丈に笑ってみせると、フレディはホッとしたように笑う。

「ならいいんだがな。ああ、それとコレ。これからはこれがお前の通行パスになる。他の町に入る時もこれを見せれば大丈夫だ……あっ――」

 フレディが何か気付いたように言葉を漏らす。

「前科を犯したら入れてもらえなくなる町もあるから気を付けろよ?」
「それは暗に俺が前科持ちになることを指してるんじゃないよな?」

 「まさか」とニヤニヤしながら言うフレディ。あからさまに疑ってんじゃねえか、ちくしょう……

「それじゃあ、せいぜい頑張れよアンラッキーボーイ。せいぜい俺に捕まらないようにな!」

 フレディがそう言いながら肩を軽く殴ってくる。この短い間に不名誉なあだ名を三つも付けられるとはな……

「るせー。お前こそ、そのフレンドリーな性格でセクハラとかして同僚のお世話になんなよ?恩人が捕まるとか笑えねーから」

 肩に当てられた手を払い除けて言った俺の言葉に、フレディが「言ったなこの野郎!」と肩を組んでくる。
 ずいぶん馴れ馴れしいが、こいつは俺の目のこととか気にしてないのか?

「なぁ、あんたって誰に対してもいつもそんな感じの性格なのか?」
「うん?……まぁ、そうだな。おかげでウザがられたりもしてるけどな」

 「はっはっは!」と気にした様子もなく豪快に笑うフレディ。ああ、きっとこいつは「いい奴」なんだな。
 その証拠、ってわけじゃないけど、さっきからもう一人の門番らしき若い男が俺を汚物を見るような目で見てきている。もう見慣れた目だ。
  その後、俺はすぐにフレディに通されて中に入った。

――――

「い、いらっしゃいませ……」

 宿屋より連合本部とやらに着いた俺は、ありがたいおもてなしを受けていた。
 まず扉を開けて入ると、屈強そうな世紀末みたいな男たちがいくつもある丸いテーブルに座っていたのだが、その全員がほぼ同時に俺を睨み付けてきた。うわっ、モヒカンとかリアルに見た……
 悲鳴を上げそうになったのを足を震わせるだけに抑えた俺は、なけなしの勇気を振り絞って前に進む。何となくこのままだと絡まれるだろうなぁ……なんて思いながら。
 突き刺さるような視線を耐えながらもようやく受付をしている女性の前に立つことができたのだが、笑顔にした顔を青くされて出迎えられた。
 整った顔の美人ではあるがゆえに、反応が顔に出てしまっているのが誠に残念でならない。

「フレディって人からここで冒険者になれるって聞いてきたんですが……」
「冒、険……あっ、はい、冒険者の登録ですね!?」

 女性はなぜか放心状態になりかけてた上に、俺のセリフを繰り返し言って勝手に驚いて疑問形で聞き返してきた。そんなに俺の顔が珍しいんですかねぇ……あ、珍しいか、こんな腐った目。

「でで、では、登りょ……んんっ!……登録料として四百八十ゼニアをいただきます」

 噛みまくってテンパってる女性に「はい」と簡単に返事をし、さっきフレディから貰ったコインの一つを差し出す。
 すると受付の女性からホッと胸を撫で下ろし、青さの引いた笑顔で受け取ってもらう。

「五百ゼニア、確認しました。ではお釣りの二十ゼニアです。お仕事内容の確認はご説明しますか?」
「はい、お願いします」

 渡したコインより一回り小さめのものを二枚出てきた女性は、「では」と咳払いをし仕事の顔になる。

「まずあなたの通行パスを見せてください。それを同時に会員証としてこちらで同時に登録しますので」

 素直に従って、首から下げていた小さなプレートを出す。
 それも女性は受け取ると、机の下に隠すように持っていく。
 そこでピピッと機械音が聞こえ、再び映像画面が俺と女性の間に映し出される。
 そこには細々と記載された中に「推奨武器 短剣」大きく書かれてあった。

「ヤタ様ですね。武器は何かお持ちですか?」
「武器……いえ、持ってません」

 映像を見た女性が確認すると、俺のプレートと共に包丁より一回り大きいナイフを机の上に並べた。

「こちらのナイフがひとまず、あなたの使う武器となります。もし折れた場合は弁償代として二百五十ゼニア。同じものを貸し出す場合は加えて四百ゼニアとなりますので、お気を付けください。ご自分の武器をお持ちになって不要になりましたらこちらまでご返却ください」
「わかり、ました……」

 仮とはいえ「俺の武器」と言われて渡されたものに高揚感を覚える。
 異世界、冒険者、武器……これらのワードを聞いてドキドキしない男がいるであろうか?
 いや、いないに決まってる。だって現に俺がこの先やっていけるか不安でドキドキしてるんだもん。
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