9 / 196
1章
3話目 中編 腐ってるものの使いよう
しおりを挟む「しかし一杯はちょっと少ねぇな……」
そう言ってニッと笑う男。やっぱ足元を見る気だったか……
町に入れないならそうまでする気はないし、また別の町を目指そうかな……なんて思いかけた時、男がコインを三枚を差し出してきた。
「ここにある千五百ゼニア。さっきのと合わせれば二千ゼニア……ウィカ四杯分だ」
「あ?これはどういう……」
意味を聞こうとすると、やれやれと肩をすくめて呆れられる。
「いいか、田舎者?まず俺が貸した金を返してもらうためにはお前に働いてもらわなにゃならん。だがそうにしてもこの時間じゃやや遅い。だからまずは中に入ったら左手に見える『ウィンドウガーデン』って宿屋で世話になれ。千ゼニアなら二日分になる」
そこで男は言葉を一旦区切り、首に紐でぶら下げている銅色の小さなプレートを見せてきた。
「そんで次は働き場所。無一文のお前さんの場合住み込みでどこかに入ってもいいが、手っ取り早く稼ぐなら冒険者だ」
男の口から発した「冒険者」という言葉に、年甲斐も無くワクワクとした高揚感を覚えてしまう。
冒険者と言ったらやっぱり、ギルドとかそういうものを連想するし。
「……何笑ってんだ?気持ち悪い顔してるぞ」
「放っとけ」
せっかく人がいい気分になってるとこに水を差されて冷める。
「まぁいい、説明を続けるぞ。冒険者になるためには連合本部ってとこに行って登録しないとならないんだが、それはここを入って真っ直ぐ行けばすぐに着く。他より立派な建物だからわかりやすいから大丈夫だろ。あとは登録料として五百ゼニア必要になるってわけだ。ついでにこれから渡す通行パスもな」
相槌を打って頷く。
宿屋は入って左に見える「ウィンドウガーデン」、冒険者になるには真っ直ぐ行ったところにある連合本部に行けばいい、と……
「そうか……了解だ、ありがとうな、色々と教えてくれて」
「何、お礼なら酒を余分に奢ってくれればいいさ」
何気に見返りを要求してきやがった。まぁ、貸しってことで、それくらいなら別にいいけど。
「それではようこそ、心安らぐ町『イグラス』へ!ついでに言っとくと、俺はフレディだ。何か用があれば俺と同じ服装をした奴にこの名を言えば伝わるからな」
俺は男の紹介と名乗りを引きつった笑いを浮かべて了承した後、自分も名乗っておくことにした。
「ヤタライセ……目だけじゃなく名前も変なんだな。言いにくいヤタでいいか?」
もはや俺という存在が全否定されてるような気分になりながら、先程の黒い箱を差し出された。
面倒だったこともあり、「もう好きにしろよ」とやさぐれた言い方をして人差し指を入れる。
――ヴィン!
すると何か半透明な映像画面が映し出された。
《ヤタ ライセ》《オトコ》《ニホン》
《STR11 VIT8 DEX20 AGI17 MND50 LUC10》
そこにはカタカタで出てきた名前と性別と出身国、そしてわちゃわちゃと書いてあるウィンドウ画面が出てきた……まるでゲームみたいだな。
そして俺の記憶が正しければSTRは攻撃力、VITは物理防御力、DEXは器用さ、AGIは俊敏さ、MNDは精神力、そしてLACは幸運値だったはず。
それらしい画面が出てきてこれまた胸が高鳴っていた。
というか、MNDの精神力って魔法に関係するんじゃなかったか?まさか俺に魔法使いの素質が……!?
その後すぐに黒い箱の上にプレートが出てくる。それが若干パンを焼く機械を連想させる感じだったのがちょっと面白かった。
「とまぁ、こんな感じで出てくるんだが……って、なんだ『ニホン』って?聞かない村の名だな……それにまた奇妙な偏り方をしてる。このままだと賊堕ちとかになるんじゃないのか?」
心配したように言うフレディの言葉に「なぜ?」という疑問が沸いた。
「……はぁ?なんでMNDとか高いのに賊?」
そう言うとフレディの方も「お前こそ何を言ってるんだ?」とでも言いたげな訝しげな表情をされる。
「たしかにそこは異常に高いと言えるが、MNDはただの根性だ。精神的に凄いというだけで、だからどうしたって話しになる」
「…………」
出てきたプレートを「ほれ」と俺に差し出してきたフレディの言葉に悲しくなりながらも、少しホッとする。
よかった、これで「魔法使いになれないのか?」なんて言った日には恥ずかしくて悶えるとこだった……
「それよりもLACが問題なんだよ。普通なら20はあるもんだが、10なんて言ったら自殺もんだぞ?」
「ああ、だろうな。まずこの目に生まれてきたのが運の尽きだ。これを昔からバカにされ続けて生きてきて……だから精神力が高いのも納得なのかもな」
適当に笑って自虐ネタを言ってやると苦笑いされる。
「……まぁ、ここであったのも縁だ。そうそう重くない話だったら聞いてやるしアドバイスもしてやるから、背負い過ぎるなよ?」
同情するような悲しそうな表情で言うフレディ。マジか、そこまで言われちゃうくらい俺の運って酷いの?
「心配しなくてもそのつもりだ。そう簡単に人生投げ出してたまるかってんだよ」
そう言って気丈に笑ってみせると、フレディはホッとしたように笑う。
「ならいいんだがな。ああ、それとコレ。これからはこれがお前の通行パスになる。他の町に入る時もこれを見せれば大丈夫だ……あっ――」
フレディが何か気付いたように言葉を漏らす。
「前科を犯したら入れてもらえなくなる町もあるから気を付けろよ?」
「それは暗に俺が前科持ちになることを指してるんじゃないよな?」
「まさか」とニヤニヤしながら言うフレディ。あからさまに疑ってんじゃねえか、ちくしょう……
「それじゃあ、せいぜい頑張れよアンラッキーボーイ。せいぜい俺に捕まらないようにな!」
フレディがそう言いながら肩を軽く殴ってくる。この短い間に不名誉なあだ名を三つも付けられるとはな……
「るせー。お前こそ、そのフレンドリーな性格でセクハラとかして同僚のお世話になんなよ?恩人が捕まるとか笑えねーから」
肩に当てられた手を払い除けて言った俺の言葉に、フレディが「言ったなこの野郎!」と肩を組んでくる。
ずいぶん馴れ馴れしいが、こいつは俺の目のこととか気にしてないのか?
「なぁ、あんたって誰に対してもいつもそんな感じの性格なのか?」
「うん?……まぁ、そうだな。おかげでウザがられたりもしてるけどな」
「はっはっは!」と気にした様子もなく豪快に笑うフレディ。ああ、きっとこいつは「いい奴」なんだな。
その証拠、ってわけじゃないけど、さっきからもう一人の門番らしき若い男が俺を汚物を見るような目で見てきている。もう見慣れた目だ。
その後、俺はすぐにフレディに通されて中に入った。
――――
「い、いらっしゃいませ……」
宿屋より連合本部とやらに着いた俺は、ありがたいおもてなしを受けていた。
まず扉を開けて入ると、屈強そうな世紀末みたいな男たちがいくつもある丸いテーブルに座っていたのだが、その全員がほぼ同時に俺を睨み付けてきた。うわっ、モヒカンとかリアルに見た……
悲鳴を上げそうになったのを足を震わせるだけに抑えた俺は、なけなしの勇気を振り絞って前に進む。何となくこのままだと絡まれるだろうなぁ……なんて思いながら。
突き刺さるような視線を耐えながらもようやく受付をしている女性の前に立つことができたのだが、笑顔にした顔を青くされて出迎えられた。
整った顔の美人ではあるがゆえに、反応が顔に出てしまっているのが誠に残念でならない。
「フレディって人からここで冒険者になれるって聞いてきたんですが……」
「冒、険……あっ、はい、冒険者の登録ですね!?」
女性はなぜか放心状態になりかけてた上に、俺のセリフを繰り返し言って勝手に驚いて疑問形で聞き返してきた。そんなに俺の顔が珍しいんですかねぇ……あ、珍しいか、こんな腐った目。
「でで、では、登りょ……んんっ!……登録料として四百八十ゼニアをいただきます」
噛みまくってテンパってる女性に「はい」と簡単に返事をし、さっきフレディから貰ったコインの一つを差し出す。
すると受付の女性からホッと胸を撫で下ろし、青さの引いた笑顔で受け取ってもらう。
「五百ゼニア、確認しました。ではお釣りの二十ゼニアです。お仕事内容の確認はご説明しますか?」
「はい、お願いします」
渡したコインより一回り小さめのものを二枚出てきた女性は、「では」と咳払いをし仕事の顔になる。
「まずあなたの通行パスを見せてください。それを同時に会員証としてこちらで同時に登録しますので」
素直に従って、首から下げていた小さなプレートを出す。
それも女性は受け取ると、机の下に隠すように持っていく。
そこでピピッと機械音が聞こえ、再び映像画面が俺と女性の間に映し出される。
そこには細々と記載された中に「推奨武器 短剣」大きく書かれてあった。
「ヤタ様ですね。武器は何かお持ちですか?」
「武器……いえ、持ってません」
映像を見た女性が確認すると、俺のプレートと共に包丁より一回り大きいナイフを机の上に並べた。
「こちらのナイフがひとまず、あなたの使う武器となります。もし折れた場合は弁償代として二百五十ゼニア。同じものを貸し出す場合は加えて四百ゼニアとなりますので、お気を付けください。ご自分の武器をお持ちになって不要になりましたらこちらまでご返却ください」
「わかり、ました……」
仮とはいえ「俺の武器」と言われて渡されたものに高揚感を覚える。
異世界、冒険者、武器……これらのワードを聞いてドキドキしない男がいるであろうか?
いや、いないに決まってる。だって現に俺がこの先やっていけるか不安でドキドキしてるんだもん。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる