上 下
156 / 196
4章

13話目 後編 本当の化け物は誰か

しおりを挟む
「メリー?」

 いつもの白い研究服ではなく、紫のブカブカなワンピースを着た彼女が大きな胸を揺らしながら走り、俺の目の前に来たと思うと膝に手を突いてえずいていた。

「ヤ、ヤ、ヤタ……ヤ……げほっげほっ、おぇっ……!」
「とりあえず落ち着け。もし吐くならあっちの茂みでな?」
「だ、大丈び……だけどちょっとだけ休ませてもらっていいですか……」

 走るだけで満身創痍。スタイルは良いクセに体力は研究者らしくあまり余裕はないようだ。
 しばらく待ってメリーの息切れが終わったところでここに来るまでの経緯を聞くことにした。

「えっとね……本当は来る予定はなかったんだけど、なんだか変な話を聞いちゃって……」
「変な話?」
「うん。前にパパと言い争ってたおじさんのこと覚えてる?」

 少し考えて思い出そうとする。
 チェスターと言い争ってたおっさん……?
 ……あっ。

「チェスターを勧誘しようとしてた奴のことか?」
「そう。そのおじさんがさっき私たちのところに来て『あのガキはもう来ないぞ』って言ってたから……だからヤタが心配になって来たの」

 どうしよう、こんな状況なのに女の子に心配されちゃうとおじさん、ときめいちゃう!

「って、もしかしてあの指名手配書みたいなの作って貼ったのってまさか……」
「多分、その人……って指名手配?もしかして本当に犯罪者になっちゃったの?」
「本当にって……元から犯罪者の素質があったみたいに言うのやめてね?他意があってもなくても傷付いちゃうから。じゃなくて、国家機密がどうのこうのって書かれてたんだよ」

 適当に犯罪者にするんじゃなく国家レベルの問題を持ち出してきたのには意味があるんじゃないかと考える。
 しかも俺だけじゃなくイクナもだ。

「俺たち二人がそう言われる理由はなんだ……?」
「詳しいのはわからない……でもあなたのことを国で研究していた貴重な実験体なんだって言ってた」

 そこでハッとして思い出す。
 なぜその共通点を思い付かなかったんだろうか。
 俺のウイルスも、イクナの体も、全ては「あの研究所」から始まったんじゃないか。
 一つ前の町の近くで迷って入り込んでしまった場所。
 その時にウルクさんから言われた面倒事ってやつが現実になっちまったってことらしい。

「……ったく、本当に余計なことをしてくれたぜ、ベラルの野郎……まぁ、もういない奴のことを考えても仕方ないけどよ」

 これからのことを考えると、大きな溜め息を漏らしてしまう。
 これが本当の冥土の土産ってやつか?やかましいわ!

「んで、それだけか?」
「え?それだけって……」
「心配してくれたのは嬉しいが、早くチェスターのとこに戻った方がいいぞ。俺たちはもうこの町には居られない。他の町にも手が回るのは時間の問題だろうよ。そんな俺たちと一緒にいたらお前も危ない目に遭っちまうからな。だからこれ以上用事がないなら――」
「私、ヤタたちと一緒に行くよ?」

 当たり前のように言い放ったメリーの言葉に、俺たちは固まる。

「「……え?」」

 しばらくしてようやく声を上げたのは俺とレチアだった。

「だって約束したよね?私にあなたの子供を産ませてくれるって……」
「は?」

 投下された爆弾発言によりレチアから濃度の高い放射能並に危険な雰囲気の威圧を感じた。
 その「は?」の一言で大量の冷や汗が出た気がするんですが。

「こんなべっぴんさんまで口説き落としちまうなんて、流石旦那ですね!」

 やめろ!油に火どころか粉を撒いた空間で着火すんな!
 粉塵爆発で大災害になっちゃうでしょうが……俺が!

「いや、約束してないし。保留って言ったじゃねえか。あともうそんな余裕ないから却下だ、却下」

 「保留」って言葉を出した時のレチアの顔が怖かったので、なるべく早く答えを出した。怖いよぅ……

「そもそもお前に我と共にいる度胸があるか……?」
「え……」

 そこにララが割って入り、メリーの前に立ち塞がる。

「その目……魔族?」
「そうだ。そして我はその王、魔王だ」

 ララさん、自覚してるかわからないんですけど、その目で睨むと凄く怖いですよ……
 あんなんで一緒に行けるなんて言い出すの絶対無理じゃない?
 あの冒険者たちみたいに腰を抜かすか逃げるかの二択だよ。いや、もしかしたらメリーは気弱だから気絶して倒れる三択目があるかも。
 何にせよ、これでメリーが一緒に来る可能性は……

「絶滅したはずの魔族ってだけじゃなく魔王……!?凄い、前代未聞の研究ができそう……!」
「む……?」

 ……ないと思っていたのに、メリーは怯えるどころか目をキラキラさせ、ララの黒目を真っ向から見上げた。
 むしろそれでたじろいだのはララの方だった。

「言っとくが貴様の探究心を満たす茶番に付き合う気はないぞ?」
「だ、大丈夫……あなたたちと一緒に行動させてもらうだけでいいから。それと……」

 メリーはヒヒッとチェスター譲りの薄気味悪い笑み浮かべて俺を見る。

「もし……ヤタと子供を作る機会があったら経過観察させてほしいな……デュフ」
「「「…………」」」

 気まずい静けさが辺りにやってくる。
 なんでコイツは威圧を放ってる相手にそんなアホな発言ができるんだ……
 本日二度目の爆弾発言で辺りが火の海にでもなるんじゃないかと覚悟したが、ララは取り乱すことなく無言で振り向いて歩き始めてしまう。
 すれ違いざまに見たララの顔が赤くなっていたような気がしたが……多分気のせいだろう。きっと肌が褐色になってるからそう見えただけだ。
 さて……俺は今、メリーの妄言やララが魔王がなんだとかいう前に、これから宿無し生活をしなければならないかもしれないのをどうしようかと心配していた。

「……あっ、そういえばグラサン取られたままだった」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

処理中です...