異世界でも目が腐ってるからなんですか?

萩場ぬし

文字の大きさ
上 下
141 / 196
4章

8話目 後編 予兆

しおりを挟む
 ライアン邸を後にした俺は再びダンジョンの入口へと到着していた。
 ……流石に時間が遅いので周囲も暗く、中を探索しようという冒険者も少ない。
 そのせいかダンジョンの入口もお化け屋敷に見えてくる。やだわー。
 ちょっと躊躇しながらもダンジョンの中に入ろうとすると、入口付近にマルスとルフィスさんが立っていた。
 見ようによっては誰かと待ち合わせしてるようにも見えなくもない。
 ……まぁ、その「誰か」ってのは多分俺のことなんだろうけど。

「よう、そんなとこに立って暇なのか?」

 俺が皮肉を言って声をかけると、それを気にした様子もなく二人とも笑顔で俺を見る。

「思ってたよりも暇ではあったかな。君がいたら退屈しないで済んだかもしれないけど」
「ふふふ、むしろ僕にとって両手に花なこの時間はすぐに終わってしまいそうだね♪︎」

 二人はそんな軽口で返してきた。いや、マルフィスさんのは微妙に違うけど。

「だけどよく来てくれたね」
「よく言うぜ。『直にわかる』なんて勿体ぶりやがって……知りたかったら後で来いって言ってるようなもんじゃねえか」
「ははっ、気付かなかったら僕たちだけで何とかするつもりだったんだけどね。やっぱり君は面白いよ」

 マルスがそう言うと、ルフィスさんと共にダンジョンの中へ振り返って歩き出した。
 その後ろを俺はとりあえずついて行く。

「それより説明しろよ。あの大量の魔物の死骸がなんだってんだ?」
「……まずこのダンジョンというものがどういうものか、君は知ってるかい?」

 質問を質問で返されて少しイラッとしたが、その意味を改めて考える。

「ある日突然出現して見た目の大きさは関係なく広大な迷路になっている謎の空間、ことか?あとは出現する魔物の特徴が全てバラバラで違う地域の素材は金になる」

 短くはあったがダンジョンに入って感じたこと、その前に受付の奴やレチアから聞いた話を思い出して答えた。

「ははっ、確かにみんなにとっては良い稼ぎ時とも言えるね」

 何わろてんねん。こちとら生活がかかってんだぞ。

「それじゃあ、魔物がどうやって生まれてるかは?」
「あ?それは……普通に魔物が生活してるんじゃないのか?」
「迷宮の中で?」

 マルスに指摘されてふと気付く。
 たしかに、どうやって魔物たちは迷宮で生きているんだ?
 ゲームの中だったら「そういう設定」の言葉で片付けられるけど、現実では?

「……全員岩や鉱石を食べてるとかか?」
「おぉ、意外な着眼点……でも残念ながら違う」

 まぁ、俺も突拍子もない考えだったと思う。
 しかしだとしたら、残る可能性があるとしたら……共食い?

「ちなみにみんなが考えるのが共食いだけど、それも違うよ」

 マルスが俺の考えを読んだかのように先手を取って言う。え、違うの?

「だったら迷宮の奴らは何を食ってんだよ?」
「何をって言ったら人間を食べたりするんだけど……彼らはんだ」
「……あん?それマジで言ってんのか?」
「ああ、大マジさ。ほら、丁度生まれるよ」

 そう言うマルスの視線の先で壁に割れ目が現れた。

「……何アレ」

 俺が混乱して言った言葉には二人とも答えず、ただひたすらその裂け目を見つめていた。
 そこからは手のようなものが出て来て、裂け目を無理矢理開こうとしていた。

「グァ……カカカカカカカッ!」

 何とも気色の悪い姿をした魔物が広がった裂け目から這いずり出てくる。
 イグアナみたいな体とその白骨化した骸骨っぽい頭の形、歯と歯をぶつけて鳴き声のようなものを発して目玉のない目で俺たちを見てきていた。
 その姿に俺は少なからずゾッとした。
 今までも色んな姿の魔物を見てきたが、やっぱりああいうB級ホラーにでも出てきそうな姿の魔物には慣れない。
 ……いや待て。さっきマルスはアレが生まれたての魔物だと言ったか?

「本気で言ってるのか?どう見てももう戦える成体にしか見えんのだが」
「そうだよ、奴らは成長の経緯を飛ばしてすでに戦える状態で生まれてくる。もちろん本能と戦闘技術を携えてね」

 その言葉は、さっき魔物の姿を見た時よりも背筋が凍りそうになった。

「それ……本当に生物って言えるのかよ?」
「言えてるね……」

 マルスは苦笑いを浮かべて言うと、目に見えない速度で魔物の目の前まで移動し、背中に背負った大きな大剣を抜き放って叩き付けた。
 「叩き付けた」と言ったのは間違いではなく、俺から見たその一撃が「斬る」よりも「潰した」という表現の方が正しかったからだ。
 しかも叩き付けられた魔物は切られた様子もなく潰れて死んでしまっていた。
 なんというか……あの魔物も運と相手が悪かったな。

「みんなはそんなこと気にも止めず、『珍しくお金になる素材が出てくる宝物庫』という認識しかしてないけど……さて、長々と話してしまったけどここで本題に入ろうか」

 マルスは話を続け、俺の方へと振り向いた。

「もしこの魔物みたいに即戦力となる魔物が一度に数百体規模で生まれてきたら……どうなると思う?」
「おい、怖いこと言うなよ……なんで例えが数十じゃなくて数百体――」

 そう言って茶化そうとしたが、マルスは至って真面目な表情をしたままだった。

「……本気で言ってるのか?さっき俺たちが相手した魔物の数でさえ二十かそこらだってのに、三桁なんて行ったら……」
「そう、下手すれば町が滅ぶ。しかも周辺の町や村だってタダじゃ済まないだろう。それを僕らは『魔王の進行』と呼んでいるんだ」

 ダンジョンがそんな危険なものだったなんて説明されてないんだが……受付さん、いくら自己責任っていっても説明不足は職務怠慢じゃないですかね?

「ダンジョンがそんな危険な場所だったとはな……」

 というか……魔王?何ですか、その不吉なワードは……

「まぁ、そうは言ってもそんな頻頻に起こるようなことでもないんだけどね。一年に一度、どこかの地域で起きたって聞くだけなんだけどね」
「それがここで起きるってのか?」
「正確にはその予兆があった、くらいだけどね。それが君たちが相手をした魔物さ」

 わざとらしくそう言ったマルスに、俺は自分が失言してしまっていたことにようやく気付いた。
 今更言い訳したところで遅いことを悟り、俺は自分のマヌケ具合に舌打ちをしてそっぽを向いた。
 しかしマルスは俺の態度など気にせず、表情に影を落としていた。

「……僕は何度か経験があってね。だからそれがどれだけ悲惨な光景を生むかも知ってるし、前兆も知ってる」
「その前兆ってのがあの……?」
「そう、大量の魔物の出現。しかもいつもならダンジョンの中を徘徊してるだけの魔物が違う行動を取り始めるんだ」
「いつもと違う行動?」

 聞き返した俺の方をマルスが立ち止まって振り返る。

「……ダンジョンの外への進行さ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

追放された8歳児の魔王討伐

新緑あらた
ファンタジー
異世界に転生した僕――アルフィ・ホープスは、孤児院で育つことになった。 この異世界の住民の多くが持つ天与と呼ばれる神から授かる特別な力。僕には最低ランクの〈解読〉と〈複写〉しかなかった。 だけど、前世で家族を失った僕は、自分のことを本当の弟以上に可愛がってくれるルヴィアとティエラという2人の姉のような存在のおかげで幸福だった。 しかし幸福は長くは続かない。勇者の天与を持つルヴィアと聖女の天与を持つティエラは、魔王を倒すため戦争の最前線に赴かなくてはならなくなったのだ。 僕は無能者として孤児院を追放されたのを機に、ルヴィアとティエラを助けるために魔王討伐への道を歩み出す。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

処理中です...