異世界でも目が腐ってるからなんですか?

萩場ぬし

文字の大きさ
上 下
121 / 196
4章

2話目 前編 美女の嫉妬

しおりを挟む
「少なくとも君に友人の何たるかを言われるのは心外だと思うけどな。僕は君とも良い友人関係だと思ってたんだけど……違ったのかな?」
「っ……!」

 うわぁ……マルスの奴、えげつないことを言いやがる。
 ありゃ言い換えれば「あまり言い過ぎるとお前たちとの縁を切るぞ」と言ってるようなもんだ。
 別にマルスと縁を切ったところでここでの居心地が多少悪くなるだけだから、俺としては切ってもらって構わないんだがな。
 ただなぁ……変に庇われても後が面倒なだけだから、どちらにしてもそういう言い方はやめてほしいというのが本当のところだ。
 アリアの方へ視線を向けると、強引に引きつらせた笑みを浮かべている。

「そ、それもそうですわね……ならそこのあなた」

 アリアがそう言うと、彼女の視線が俺へと向けられる。

「ヤタだ」
「そう、ヤタさん。ワタクシはアリルティア・フランシスと申します。一応、貴族に身を置いている者ですが、皆様からはアリアと愛称で呼ばれています。マルスさんのご友人というなら、ワタクシとも良い友人関係を築けるでしょう。これからよろしくお願いしますわ」

 アリアがそう言って握手を求める手を差し出してくる。
 しかし……どう見ても彼女の顔が「良い関係」を築こうとする者の顔じゃない。
 このまま握手したら手を握り潰されるんじゃね?
 それに周囲からは他の男共のやっかみを含んだ視線が突き刺さってくる。
 しかしここで拒否したらしたでやっぱり後が面倒臭そう。
 どうしよう、もうこのまま全力で逃げたい。 
 もしくは穴があったら入りたい。入って一ヶ月くらい引き籠もりたい。
 仕方なくアリアが差し出してきた手を握って握手に応える。
 遠くで羨ましそう、もしくは恨めしそうに男たちがこっちを凝視してるけど、もう気にしないでおこう。

【「チャーム」の対象となりました。レジストします】

 ……え?
 なんだ急に?
 チャーム?ってなんだっけな……

【別名「魅了」とも呼ばれ、相手を誘惑し虜にする加護の一つです。異性を対象とすることにより最大限の効果が発揮されます。また、同性に対しても尊敬や畏怖の念がある場合にも同様の効果が発揮されます】

 ああ、アレか。よく漫画とかに出てくるサキュバスがやってくるようなやつ。
 それを俺がかけられてるって?ハハハッ、誰だよそんな物好き。

【術者は現在接触中の人名「アリルティア・フランシス」です】

 ですよね、タイミング的に見ても。
 まぁでも、ここは普通にあいさつを返しておこう。

「どうもフランシスさん。ま、友人になるかどうかは今後次第ってことにしておいてください」
「……え?」

 わざと彼女の名前をセカンドネームでよそよそしくそう呼んでおく。
 別に表面上そう言わないといけないだけであって、本心から俺と親しくなろうとしてるわけじゃないだろう。
 だったら俺からこう言っておけば、今後無理に友人っぽく接してくることはないだろう。向こうだって嫌々だろうしな。
 しかしなぜか彼女は驚いた表情で固まっていた。
 「え?」って……なんで?俺と友達になんてなりたくないでしょ?
 それともアレか、俺の言葉を違う意味で解釈して親密になりたいとか捉えられちゃったか?なら勘違いのないよう補足を付け加えとくか。

「好きでもない相手と友人になることはありませんからね。たまに会ったら挨拶をしてくれる程度で構いません」
「…………」

 返事がない……ただのお嬢様のようだ……
 じゃなくて、なんか俺の話聞いてなくない?
 というか俺はもう握手を終えたつもりで手の力を抜いてるんだけど、フランシスさんが握ったまま離してくれない。
 むしろ揉まれたりしてどう反応していいか迷うし恥ずかしいんだけど……
 正直、まだ高校や大学に通ってるくらいの女の子がおじさんの手を揉み揉みしちゃいけないと思うの。勝手に勘違いしそうになるから。
 しかし何かを探るように眉をひそめていたフランシスさんは、とうとう俺の手を両手で触り始めた。
 いや、本当にやめよう?周りの目が痛いから……
 男たちの嫉妬の視線が凄いし、レチアとララも何か似た視線で睨んでくるし、マルスとルフィスさんは見守るような暖かい視線を送ってくるし……
 ほら、こいつの仲間だって俺をジト目で見てくる。今にも衛兵を呼んできそうな勢いだよ?

「……なんで」
「あのー……フランシスさん?」

 ポツリと何かを呟いたフランシスさんに、俺は恐る恐る声をかけた。
 するとフランシスさんは一気に顔を上げて俺とマルスを睨む。

「なんであなたにも効かないんですの!?この美貌の前では男は皆、ワタクシの虜になって跪くはず!なのにあなたもマルスさんもルフィスさんも……本当にアレが付いてる殿方なんですか!?」
「……アレ?」
「アレってなんだい?」

 フランシスさんのまくし立てた言葉に、マルスとルフィスさんが首を傾げる。
 俺は何となく言いたいことがわかった。わかってしまった。
 まぁ、女が男を魅了しようとしたんだ、大体何が言いたいかなんて察してしまえるだろう。
 だからこそ、この二人がフランシスさんに詰め寄る姿が面白い。

「あ、アレ、とは……アレのことです……」
「僕にもヤタにもあるもの……どんな共通点があるか非常に気になるね」
「そうたね、僕らに共通するものって言ったらなんだろう?」
「そ、それは……おおおち、おちっ……あうぅ……」

 興味津々に聞こうとするマルスたちに対し、フランシスさんは真っ赤にした顔を俯けてしまい、もう爆発寸前だった。
 やめてやれよお前ら……もう俺から見たらわざとやってるようにしか見えねえぞ。
 フランシスさんもく頑張ったよ、「おち」の部分だけ言おうとしただけで表彰ものだ。
 だからもうやめとけ、それ以上は犯罪っぽくなっちゃうから。

「というか雑談しちまってるけど、お前らは暇なのか?」
「ん?僕らかい?」

 とりあえず話の方向を変えようと適当に言ってみると、ルフィスさんが食い付いた。

「一応この後も依頼を受けようかとは思ってるけど、どうしようか悩んでるところだよ」

 マルスも答えてくれた。この流れを維持し続ければさっきの話題なんてすぐに忘れるだろう。
 チラッとフランシスさんの方へ視線を向ける。

「あっ……で、でしたらワタクシたちと勝負してみませんこと!?」

 俺の意図に気付いたのか、フランシスさんは少し声を裏返しながらも話に乗ってくれた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...