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3章

3話目 後編 ありえない提案

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 俺の聞き間違い?いや、何と聞き間違えるんだよ。
 待て待て待て……更生させてほしいとかじゃなく?孕ませる……子供を産ませる?えっ、どうやって!?
 若干頭がパンクしそうになっている中、チェスターがさらに追い打ちをかけてくる。

「この子はメリーといって私の娘でね、誰に似たのか研究熱心でして滅多に外には出ません。だから相手もいませんし丁度良いと思いましてねぇ……もう一度はっきり言いましょう、君の子種を娘のしき――」
「だぁぁぁぁっ!!言わなくていい、そんな生々しいことをはっきり言わなくていいから!」

 何の躊躇もなく言葉にしようとするチェスターに待ったをかける。

「なんでそうなるんだよ!?順を追って説明してくれ!」

 なんでそうなるのかをまず理解しようとチェスターに説明を求めようとした。
 しかし彼は面倒臭そうに表情を歪める。

「説明が必要ですかぁ……?」
「ここで説明もされずにその子と結婚できるほど、俺は寛容じゃないんでね」

 するとチェスターが怪訝な顔をし、次に納得したように「ああ」と言って笑った。

「別に夫婦になる必要はないですよ。ただ本当に子供を産ませてほしいだけです」
「…………はい?」

 どうすんだよ、一日に……しかもこんな短時間で同じ聞き返し方を三回もするなんて思わなかったわ。
 もしかして今の状況を理解できないのって俺が悪い?
 いや、悪くないはずだ。だって子を産ませる云々を会って数日の相手に頼むなんて普通じゃないもの。
 ……普通じゃない、か。

「まさかだけど、その子供も研究材料にしようとしてるわけじゃないよな?」

 俺なりに威圧してそう言ってみたが、チェスターは怯むことも悪びれる様子もなく頷いた。

「ヒャハハッ、話が早くて助かりますぅ!そうです、それも一種の研究。あなたとの間に子を儲けた時にどんな個体が産まれるのかぁ……今から楽しみでなりません!」

 言ってることがゲスの極みド畜生なんですけどこの人!?
 なんだよ、個体って……自分の娘の子供だぞ?孫になる子供をそんな言い方ってあるかよ……!

「お前、自分の子供を……人間をなんだと思ってやがる!」

 俺は感情的になってチェスターを怒鳴った。
 チェスターはあまり気にした様子もなく、娘のメリーは驚いて「ひっ!?」と小さく悲鳴を上げてしまっていた。

「あまり道徳的な話は好きではありませんがぁ……そうですね、その質問に答えさせてもらうならば君を含めた全ての生物は研究対象としています」
「研究……対象?まさかそんなことのために好きでもない男の子供を娘に産ませるのか!?」

 叫ぶようにそう言うと、チェスターとメリーはお互い顔を合わせてクスクスと笑う。
 なぜチェスターだけじゃなく、メリーも自分のことなのに笑っていられるんだ?

「君は面白いですね。自分が解剖されることにはあまり躊躇がなかったのに、ほぼ他人の娘のために怒るなんて。まぁ、安心してください、何も無理矢理というわけではないので」

 チェスターの発言にどういう意味なのかよくわからず、メリーの方も見て様子を窺う。
 彼女は笑っているだけで何も言おうとしなかったが、たしかに嫌がってる様子もない。
 どういうことだ?

「『どういうことだ?』とでも言いたげな表情をしてますねぇ」

 「言いたげ」じゃなく、今すぐ言いたい気分だった。

「さっきも言った通り、メリーも研究熱心なんですよ。だから……ね?」

 チェスターが娘のメリーに目配せすると、彼女が頷く。

「わ、私もあなたとの子がどんな性質を持って産まれるのか気になって仕方がないから……ヒヒッ!」

 元々俺が怒っているのは彼女の意思が無視されていたからだと思ったからで、それがむしろ本人も乗り気だった事実を明かされた俺はこの感情をどうしていいのかわからず、ただただ固まるしかなかった。
 凄い複雑な気持ちです。

「さっきは道徳的な話は好きではないと言いましたが、それでも私はこの子を産んだ親である自覚はあります。メリーに子供を産ませるのはあくまで研究の一環のためですが、双方の合意を得ない限りは強行などしませんよ。だから好みかどうか確認したでしょう?」

 ……あれってそういう意味だったのかよ。
 「異性として見れるか」って女性として好きになれるかという話だったらしい。

「わかり難いんだよ。あんたら頭いいんだろ?語彙力を活かせ語彙力を!」
「残念ながら私は研究者であって言語学者ではありません。相手に理解させるために一からチマチマ説明するなど……」
「だから話が拗れそうになってるんじゃねえか!」
「フヒヒ……あ、あなたが猿みたいに単純な思考をしてたらこんなに拗れなかったと思うけどね……?」

 もうやだこの父娘。
 なんか多数決で俺の方が悪いみたいになってるんだけど……俺悪くないよね?

「で、答えは?」

 「はいと言え」と言われているようなら圧を二人から向けられつつ聞かれた俺は、目を逸らしながら答えた。

「ほ、保留で……」

 自分ではNOと言える日本人のつもりだったけど、メリーが中途半端に美人だったせいでそんな答えにしてしまった。
 だってしょうがないじゃない、男の子なんだもの。
 そしてそんな答えを出した俺に対し、チェスターとメリーは同時に溜息を吐いた。
 ヘタレとでも言いたいのか?

「まぁ、これはさすがに契約の範疇を超えているので何も言えないですが、代わりにメリーを君の近くに置いてもらえませんか?」
「「え?」」

 驚きの声を漏らしたのは俺だけでなく、メリーもだった。

「ぱ、パパ……?なんでそうなるの……?」
「そうだよ、なんで俺がこいつの面倒を見ることになるんだ」
「君の気が変わったら、いつでもメリーを相手にしてもらえるようにです。それに娘は放っておけば部屋から出ようとしませんからねぇ……」

 不満を零す俺たちにやれやれといった感じで答えるチェスター。

「パパだって研究室に閉じこもることが多いよ……?」
「私はいいんです。ちゃんと部屋の外に出て邸宅の中を歩いていますから」

 どっちもどっちである。
 何、この不毛な言い合い。というか、このままだと本当に俺が預かることになっちまうんじゃね?

「ちょっと待ってくれ、勝手に話を進めないでくれよ。俺にだって生活があるんだし、もう何人かと一緒に生活してるんだ。そこに入れるっていうのは……」
「ん?君は家族といるのか?」

 怪訝な顔をして聞いてくるチェスターに俺は国を横に振った。

「いや、冒険者仲間だ。それと小さい子一人の面倒を見てる」
「……何やら複雑な事情がありそうですね。わかりました、この件はひとまず保留にしましょう。さて、今日あなたにやってもらうことですが――」

 と何事もなかったかのようにチェスターは話を進め、用が終わったと悟ったメリーはまたいつもの席に座る。
 「ひとまず」ということは、まだ諦めてないんだな?
 一気に疲れた気がして、俺は大きく溜息を吐く。
 なんなんだろうね、この気持ち。さっきまで真剣に騒いでた俺がバカみたいに思えてくる……
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