上 下
83 / 196
3章

1話目 後編 怪しい依頼

しおりを挟む
 近くにいた俺もその余波に襲われ、「はぬべらっ!?」なんて間抜けな悲鳴を上げて後方数メートルを転がるくらいに吹き飛んでしまった。

「あー……ごめんなさいねぇ、領主様?たまたま偶然、今実験してた薬品の分量間違えちゃって爆発しちゃいましたよぉ……ヒヒヒッ!」

 すると爆発した扉の先からフラリと誰かが出てくる。
 頬が痩せこけ、いかにも怪しい雰囲気を醸し出している白衣を着た細い男がそこにいた。
 いや、「ヒヒヒッ」なんて笑い方をリアルにする奴いるのかよ。

「ち、チェスター殿……またおかしな実験でもしていたのですか?」
「『おかしな』とは心外な!魔法学の進歩にはいつも爆発が付き物なんですからねぇ?」

 ねっとした話し方をしながら、またヒヒヒと不気味な笑い方をするチェスターと呼ばれた男。
 すると男が俺を見つけると、さっきよりも酷い、全身の鳥肌が立つ笑みを浮かべた。
 俺も散々人から気持ち悪いだのなんだの言われてきたが、そんな俺でも言う側になりたくなってしまう。こいつの笑い方は気持ち悪い。

「君かい?怖いもの知らずで頑丈で頭のおかしい冒険者というのは」
「一言余計だけど……そうだ」

 なんだかこいつには敬語を使いたくなかったから、砕けた感じで話しかける。というか、こっちの方が冒険者らしくていいのか?

「そうですかそうですか!……では依頼内容がどんなものかを知って?」
「いいや。ただ頑丈で根性があればって聞いただけ。そこに関してはその辺にいる奴よりは自信あるぞ」

 俺の言葉にチェスターは更に口角を上げて不気味な笑みを作る。
 もうあれ口裂けてるレベルじゃない?口裂け男とかいう都市伝説ができそうなんだけど。

「すばらしいぃ!では早速実験台になってもらいましょう!」

 意気揚々としたテンションで部屋に戻っていこうとするチェスター。
 そこに俺は待ったをかける。

「待て、その前に条件がある」
「は?条件ん?」

 チェスターはピタリと歩みを止め、凄まじく不愉快そうな顔でこっちに振り返る。

「依頼の報酬だけでは足りないと?」
「俺が言いたいのは依頼内容と報酬の提示だ。曖昧で詳細が書かれてない依頼内容と報酬じゃ、すぐには受けようとは思わない。もし依頼内容が辛いのに報酬と見合わない、なんてことになりたくないからな」

 そう言うとチェスターは不快そうな表情をやめて、「ふむ」と顎に手を当てて考え始める。

「それもそうでしたねぇ……いいでしょう、ではこちらも今一度条件付きで依頼内容と報酬の話し合いをしましょう!」

 骸骨が笑っているかのような不気味な笑み向けてくる。
 え、条件?

「報酬に関してはご心配なく、高額を差し上げますよぉ?納得いかなければ法外な値段でもない限り上乗せさせましょう。代わりに依頼内容を知った後はその内容を口外禁止、依頼の破棄もダメです。口外、もしくは破棄しようものならそれこそ法外な違約金を請求させていただきますし、逃げようものならそこの男に頼んで指名手配をさせていただきますのであしからず……」
「そ、それは……」

 メリットとデメリットを提示されて戸惑う。
 依頼内容を知れば途中で破棄ができない?ますます怪しいじゃねえか……
 ここは保身を取って受けないという選択をした方が……

「あっ、そうそう。ちゃんとした金額の提示がまだでしたねぇ……このくらいでどうでしょう?」
「いや、残念だけどこの依頼はなかったことに――」

 しかし断ろうとしたところで見せられた金額は、凄まじくら0が沢山ついた数字だった。

「……え?」
「ああ、先に行っておきますが、これは継続した場合の金額です。さすがに一回だけでこの値段を渡すわけにも行きませんがぁ……どうです?」

 ピッタリと密着した状態で耳元で呟かれ、そんな悪魔のような囁きに俺は――

――――

「ヒャア~ッハッハッハッハッハ!冒険者といえば頑丈屈強我慢強い!ようやくそんな都合の良い実験体が手に入りました!」

 そんな風に超ハイテンションになってるチェスターの横で、俺はベッドに寝かされ両手両足を拘束されていた。
 お金の誘惑には勝てないとは、これも人間の性か……
 ちなみにライアンさんは横で立って見守っている。さっきの爆発を食らったせいで、髪型がギャグ漫画みたいに焦げて立ち上がっている。

「って、本当に何するの?いくら高額だからって、腕とか足を切断とかやめろよ?」
「そこまではしませんよぉ……ただ『薬』のテストをするだけなんですから」

 そう言うチェスターの手には注射器が握られていた。
 ……やっぱ判断を間違えたかもしれない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜

黒城白爵
ファンタジー
 とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。  死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。  自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。  黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。  使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。 ※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。 ※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

処理中です...