69 / 196
2章
9話目 後編 喰らう者
しおりを挟む
スコップなど便利なものはないので、素手か大きめの石などで地面を大人が二人入れられる程度に掘り、そこにレチアの両親を入れる。
そこにレチアがフィッカーから石を取り出して、両親に向けて炎を出す。
炎は徐々に二人を着実に燃やし、独特な臭いが広がっていく。
しばらくして燃え切ったところで砂を被せて穴を埋め、ある程度の大きさの石を集めて積み上げ、簡素な墓を作ったところで俺たちは手を合わせて追悼する。
他の人たちは……残念だがそこまでしてやる義理はないので墓は作らないが、最悪燃やすだけはしておこうとレチアが言う。
……あっ、炎と言えば。
「そういや、コレを返すの忘れてたな」
前にレチアとタバコを吸った時に借りっぱなしだった小物灰皿をフィッカーから取り出して差し出す。
「それはもうあげるにゃ。僕は多分、もう吸わないから」
しかしレチアは首を横に振り、苦笑いしながら言う。まるで元々タバコを吸うのは本意じゃなかったみたいに。
「……そうか。じゃあ、まだ『預かって』おく」
「あげるって言ってるのに……律儀にゃ。だったらついでにこれも預かってにゃ」
レチアは再びフィッカーからタバコの入った箱を差し出してくる。
「まだ沢山入ってるから、吸いたかったら持っていって構わないにゃ。もちろん全部使ってもいい」
「そうかい」
俺は素直にそれを受け取り、フィッカーの中に仕舞う。
「……それじゃ、行こっか」
「……お前はこのままでいいのか?」
俺の問いかけの意味がわからないといった風に眉をひそめてこっちを見るレチア。
「何がにゃ?」
「見たんだろ?俺が化け物らしくしてる姿を。ララだってあんな感じなんだ、レチアも俺のことを怖がるか気持ち悪がるかしてるんじゃないのか?」
ララ以外は気にした様子もなく俺の近くにいるが、彼女は相当気持ち悪かったらしく、震えて近くに来ようとしない。
まぁ、アレが普通の反応なんだけどね。
「たしかに腐りかけの死体を食うとか、正直引いたにゃ。しかもあんな巨体を丸々」
レチアはやれやれと呆れ気味に笑って言うが、その後に「でも」と付け加える。
「ヤタは僕を助けてくれたにゃ。だから感謝してるし、そのぐらいじゃヤタから離れる理由にはならないにゃ」
「……おう、ありがとう」
照れ臭くてそっぽを向きながらお礼の言葉を口にする。
レチアは何も言わなかったが、代わりにニヤニヤといやらしい笑みで俺を見てきていた。どうしよう、さっきの感謝を返してほしいくらい腹立つ。
「僕に言われて嬉しいかにゃ?」
「うるせっ」
レチアのあざとい可愛さと図星を突かれた恥ずかしさで俺はそっぽを向く。
俺から離れないと言ってくれたのが嬉しくて否定できないのが悔しい……
「にゃむ……思ってたんだけど、ヤタは僕みたいな亜種を毛嫌いしないのにゃ?」
「ああ?なんで?」
「なんでって……普通、亜種と人種は険悪だから、相手を奴隷にして自分が優位にでも立たない限りまともに話をしようともしないにゃ」
レチアは肩をすくめてやれやれと溜息を吐く。
「でもあの盗賊共とは……」
「アレが『まとも』に見えたかにゃ?」
責めるようなジト目で俺を睨んでくるレチア。
「すまん」
「わかったならいいにゃ。それで理由はなんにゃ?やっぱり……おっぱいかにゃ?」
レチアはさっきとは別のいやらしい笑みを浮かべ、自分の大きな胸を持ち上げて誘うように揺らした。
「……んなわけないだろ」
「あっ、目を逸らしたにゃ!逸らしたってことは――」
「違うわ!男なら……いや、男じゃなくてもそんな大きさしてたら誰でも振り向いて見ちまうから!そうじゃなくて、その……」
俺が言い淀んでいるのを、レチアは変に解釈してニヤけた面で俺の顔を覗き込もうとしてくる。
ここで俺がこの世界の住人じゃないってバラすか?いや、そんなことすれば頭のおかしい奴だと思われて終わりになるだけかもしれない。
ああ、面倒臭い。もういっそレチアの言った通りに頷いておくか?
そんなことしたら確実に変態のレッテルが貼られることになるが。
……あっ、そうだ。
「俺、結構ド田舎で育ってきてな、亜種ってのがよくわからないんだ。みんながよく使う通行証だって、ついこの前に初めて作ってもらったし、グロロとかいう魔物も教えてもらって知ったからな」
「それってマジにゃ?それが本当だったら相当にゃよ?」
疑うレチアに俺は「本当本当」と念押しする。
「なんなら門番やってるフレディに確認取ってもいいぞ?あの機械には嘘を吐けないらしいしな」
「……そこまで言うなら信じるにゃ。でも、それ抜きにしてもヤタは僕のこと何とも思わないにゃ?」
「強いて言えばあざといなと思う」
「にゃんだと?」
サラッと言った言葉が気に触ったのか、レチアの瞳がにゅっと猫目になった。
おおう、これは軽くゾッとするな……
「あ、いや、言い換える。ちゃんと可愛い女の子だ、お前は」
「『ちゃんと』っていうのが凄く気になるけど……まぁ、ヤタの口からその言葉が聞けただけでよしとするにゃ」
不服そうなレチア。
一応奴隷という身のはずなのに俺が下みたいなこのやり取りである。いや、いいんだけど。
「俺からすれば、俺みたいな奴から離れようとしないお前の方が物好きに見えるけどな。嫌われることはあっても好かれることがなかった俺が言うんだから間違いない」
「嫌な説得力にゃ……まぁでも、だったらお互い様ってことにゃ?」
笑って言うレチアの言葉に、今まで周りの奴らからバカにされてきた苦労が、少しだけ報われた気がした。
そこにレチアがフィッカーから石を取り出して、両親に向けて炎を出す。
炎は徐々に二人を着実に燃やし、独特な臭いが広がっていく。
しばらくして燃え切ったところで砂を被せて穴を埋め、ある程度の大きさの石を集めて積み上げ、簡素な墓を作ったところで俺たちは手を合わせて追悼する。
他の人たちは……残念だがそこまでしてやる義理はないので墓は作らないが、最悪燃やすだけはしておこうとレチアが言う。
……あっ、炎と言えば。
「そういや、コレを返すの忘れてたな」
前にレチアとタバコを吸った時に借りっぱなしだった小物灰皿をフィッカーから取り出して差し出す。
「それはもうあげるにゃ。僕は多分、もう吸わないから」
しかしレチアは首を横に振り、苦笑いしながら言う。まるで元々タバコを吸うのは本意じゃなかったみたいに。
「……そうか。じゃあ、まだ『預かって』おく」
「あげるって言ってるのに……律儀にゃ。だったらついでにこれも預かってにゃ」
レチアは再びフィッカーからタバコの入った箱を差し出してくる。
「まだ沢山入ってるから、吸いたかったら持っていって構わないにゃ。もちろん全部使ってもいい」
「そうかい」
俺は素直にそれを受け取り、フィッカーの中に仕舞う。
「……それじゃ、行こっか」
「……お前はこのままでいいのか?」
俺の問いかけの意味がわからないといった風に眉をひそめてこっちを見るレチア。
「何がにゃ?」
「見たんだろ?俺が化け物らしくしてる姿を。ララだってあんな感じなんだ、レチアも俺のことを怖がるか気持ち悪がるかしてるんじゃないのか?」
ララ以外は気にした様子もなく俺の近くにいるが、彼女は相当気持ち悪かったらしく、震えて近くに来ようとしない。
まぁ、アレが普通の反応なんだけどね。
「たしかに腐りかけの死体を食うとか、正直引いたにゃ。しかもあんな巨体を丸々」
レチアはやれやれと呆れ気味に笑って言うが、その後に「でも」と付け加える。
「ヤタは僕を助けてくれたにゃ。だから感謝してるし、そのぐらいじゃヤタから離れる理由にはならないにゃ」
「……おう、ありがとう」
照れ臭くてそっぽを向きながらお礼の言葉を口にする。
レチアは何も言わなかったが、代わりにニヤニヤといやらしい笑みで俺を見てきていた。どうしよう、さっきの感謝を返してほしいくらい腹立つ。
「僕に言われて嬉しいかにゃ?」
「うるせっ」
レチアのあざとい可愛さと図星を突かれた恥ずかしさで俺はそっぽを向く。
俺から離れないと言ってくれたのが嬉しくて否定できないのが悔しい……
「にゃむ……思ってたんだけど、ヤタは僕みたいな亜種を毛嫌いしないのにゃ?」
「ああ?なんで?」
「なんでって……普通、亜種と人種は険悪だから、相手を奴隷にして自分が優位にでも立たない限りまともに話をしようともしないにゃ」
レチアは肩をすくめてやれやれと溜息を吐く。
「でもあの盗賊共とは……」
「アレが『まとも』に見えたかにゃ?」
責めるようなジト目で俺を睨んでくるレチア。
「すまん」
「わかったならいいにゃ。それで理由はなんにゃ?やっぱり……おっぱいかにゃ?」
レチアはさっきとは別のいやらしい笑みを浮かべ、自分の大きな胸を持ち上げて誘うように揺らした。
「……んなわけないだろ」
「あっ、目を逸らしたにゃ!逸らしたってことは――」
「違うわ!男なら……いや、男じゃなくてもそんな大きさしてたら誰でも振り向いて見ちまうから!そうじゃなくて、その……」
俺が言い淀んでいるのを、レチアは変に解釈してニヤけた面で俺の顔を覗き込もうとしてくる。
ここで俺がこの世界の住人じゃないってバラすか?いや、そんなことすれば頭のおかしい奴だと思われて終わりになるだけかもしれない。
ああ、面倒臭い。もういっそレチアの言った通りに頷いておくか?
そんなことしたら確実に変態のレッテルが貼られることになるが。
……あっ、そうだ。
「俺、結構ド田舎で育ってきてな、亜種ってのがよくわからないんだ。みんながよく使う通行証だって、ついこの前に初めて作ってもらったし、グロロとかいう魔物も教えてもらって知ったからな」
「それってマジにゃ?それが本当だったら相当にゃよ?」
疑うレチアに俺は「本当本当」と念押しする。
「なんなら門番やってるフレディに確認取ってもいいぞ?あの機械には嘘を吐けないらしいしな」
「……そこまで言うなら信じるにゃ。でも、それ抜きにしてもヤタは僕のこと何とも思わないにゃ?」
「強いて言えばあざといなと思う」
「にゃんだと?」
サラッと言った言葉が気に触ったのか、レチアの瞳がにゅっと猫目になった。
おおう、これは軽くゾッとするな……
「あ、いや、言い換える。ちゃんと可愛い女の子だ、お前は」
「『ちゃんと』っていうのが凄く気になるけど……まぁ、ヤタの口からその言葉が聞けただけでよしとするにゃ」
不服そうなレチア。
一応奴隷という身のはずなのに俺が下みたいなこのやり取りである。いや、いいんだけど。
「俺からすれば、俺みたいな奴から離れようとしないお前の方が物好きに見えるけどな。嫌われることはあっても好かれることがなかった俺が言うんだから間違いない」
「嫌な説得力にゃ……まぁでも、だったらお互い様ってことにゃ?」
笑って言うレチアの言葉に、今まで周りの奴らからバカにされてきた苦労が、少しだけ報われた気がした。
0
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる