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2章
6話目 前編 自首
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「好きにしろと言ったんだ。俺たちはここから出る。この誘いを断るんなら強制はしない」
突き放すことを言って立ち上がろうとすると、不服そうな表情をしたララが俺の服の袖を掴んでいた。
その顔から察するに、「見捨てるな」とでも言いたげだった。
だが俺はその手を振り払う。
「いい加減にしろ。救ってほしくない奴のことまで面倒を見るなんてごめんだぞ、俺は」
「っ……」
ララは俺に対する怒りで顔を歪ませる。
「俺もララも、夢物語に出てくるような英雄じゃない。誰かを助ける、助けてやれるなんて思い上がるな。助けが欲しいなら最低限手を伸ばすが、そうじゃないなら切り捨てる。それはララ、お前もだ」
そう言い放った瞬間、ララの顔は怒りのものから間の抜けた素っ頓狂なものへと変わった。
「もしそれ以上、そいつらを説得してでも連れて行きたいって言うんなら、ここでお別れだ」
ララはしばらく固まり、言葉の意味を徐々に理解したのか、悲しみながら怒っているような複雑な顔になっていく。器用だな。
すると今度は強気な女性が俺とララの間に入って、俺にビンタしようとする。寸前で俺に抱っこされていたイクナがそれを受け止めるが。
「あんた……何様のつもりさ!この子はあんたの仲間じゃないの?なのに見捨てるって……どれだけ最低な野郎なのさ!?」
自分が庇われるとは思ってなかったララは目を丸くして彼女を見つめる。
なんだかややこしいことになってきたな……
「一丁前に仲介役のつもりか?そもそもこんな話になってるのは、お前らが頭の悪い妄想癖を全開にしてるからだろ?」
「なっ――」
「いいか、あと一回だけだ!これ以上は言わないぞ?ここから俺たちと逃げるか……もしくはあの魔物と一緒にここへ残るかだ!」
虐げられることには慣れていたが、状況判断すらできずに騒がれたことへの苛立ちを少なからず覚えていた俺は、つい強めに言ってしまっていた。
そのせいか、弱気な少女が肩を跳ねらせて涙目になってしまい、嗚咽を漏らし始める。
これで即答で決断できなければ、今度こそこいつらを置いていく。そのつもりだった。
「……行きます」
そう思っていると、意外にも普通の外見をした女性がそう答えた。
「いくら不遇な状況で憔悴してしまっていたとはいえ、先程の根拠の無い暴言をお許しください」
「あんた……」
強気な女性は面を食らった顔をして彼女を見る。
その人は大人しそうな外見だったため、強気なこの女性が全て決めるのだと思ってたから、俺も少し驚いてしまった。
「許す許さないなんてどうでもいい、行くならさっさと行くぞ。他の奴らまで戻って来たら、もう手に負えなくなる」
そう言いながら俺は、ララ用に蔵で取っておいた女物の服を人数分適当に取り出して差し出した。、
「……ねぇ、それって僕も行っていいのかにゃ?」
ようやく説得が終わったかと思えば、次はレチアがそんなことを言い出した。
「そんなの、言わなくてもわかるだろ」
言葉足らずに言うと、レチアはあからさまに耳を垂らして肩を落とし、落ち込んだ様子になってしまう。え、なんで?
もう一言付け加えないとダメか……
「早く行くぞ」
数秒で考えた一言。
しかしその一言でレチアは耳をピンッと立たせ、目を光らせた。
さっさとここから離れたい一心で歩き始めると、後ろから元気の良い返事が聞こえてきた。
「……うん!」
逃げる際に後ろから「待て、逃げるな!俺を助けろっ!」と必死に訴えかけてくる声が聞こえたりしたが、当然無視。
その悪党の住処から脱出する時、警備などが全くいない状態だったので俺たちは簡単に抜け出せた。
遠目に火の煙が立ち上がっているのが見えたから、まだそっちにかかりっきりだったのだろう。
「はぁ~……」
その場所からだいぶ離れたいところで、大きく一息吐く。
とりあえずは全員無事に脱出できたことにホッとする。
顔を上げて見渡すと、救出した女性たちが泣きながらお互い抱き締め合って喜びを分かち合ってた。
「ありがとうにゃ、ヤタ。おみゃーのおかげで、あいつらから逃げ出すことができたにゃ」
俺の横に立ち、そう言ってくれるレチア。
「そりゃどうも」
「……なんで僕があそこにいたか、聞かないにゃ?あとこの耳とか尻尾のことも……」
彼女には色々聞きたいこともあったけれど、やっとあの場所から命からがら逃げて来れたんだ、もう少し感傷に浸っててもいいだろう。
「もう疲れたから聞く余力がない。話したいなら勝手に話してくれ」
実際、精神的な疲労があったので、俺は近くの木を背もたれにして胡座で座り込んだ。
そして黒猫がやってきて、その胡座に体を丸くして寝てしまった。
こいつも疲れたのか?
猫の頭を優しく撫でてやると、気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らす。
その俺の隣でドサッと音が聞こえ、見るとレチアが肩を並べて座っていた。
「じゃあ、懺悔するから聞いてくれにゃ」
「ここは教会じゃないぞ。俺に言ったらそれはただの愚痴だ」
「僕たち家族は観光中、あの悪党共に捕まったにゃ」
「無視かよ」
俺のツッコミを無視して語り始めるレチア。
突き放すことを言って立ち上がろうとすると、不服そうな表情をしたララが俺の服の袖を掴んでいた。
その顔から察するに、「見捨てるな」とでも言いたげだった。
だが俺はその手を振り払う。
「いい加減にしろ。救ってほしくない奴のことまで面倒を見るなんてごめんだぞ、俺は」
「っ……」
ララは俺に対する怒りで顔を歪ませる。
「俺もララも、夢物語に出てくるような英雄じゃない。誰かを助ける、助けてやれるなんて思い上がるな。助けが欲しいなら最低限手を伸ばすが、そうじゃないなら切り捨てる。それはララ、お前もだ」
そう言い放った瞬間、ララの顔は怒りのものから間の抜けた素っ頓狂なものへと変わった。
「もしそれ以上、そいつらを説得してでも連れて行きたいって言うんなら、ここでお別れだ」
ララはしばらく固まり、言葉の意味を徐々に理解したのか、悲しみながら怒っているような複雑な顔になっていく。器用だな。
すると今度は強気な女性が俺とララの間に入って、俺にビンタしようとする。寸前で俺に抱っこされていたイクナがそれを受け止めるが。
「あんた……何様のつもりさ!この子はあんたの仲間じゃないの?なのに見捨てるって……どれだけ最低な野郎なのさ!?」
自分が庇われるとは思ってなかったララは目を丸くして彼女を見つめる。
なんだかややこしいことになってきたな……
「一丁前に仲介役のつもりか?そもそもこんな話になってるのは、お前らが頭の悪い妄想癖を全開にしてるからだろ?」
「なっ――」
「いいか、あと一回だけだ!これ以上は言わないぞ?ここから俺たちと逃げるか……もしくはあの魔物と一緒にここへ残るかだ!」
虐げられることには慣れていたが、状況判断すらできずに騒がれたことへの苛立ちを少なからず覚えていた俺は、つい強めに言ってしまっていた。
そのせいか、弱気な少女が肩を跳ねらせて涙目になってしまい、嗚咽を漏らし始める。
これで即答で決断できなければ、今度こそこいつらを置いていく。そのつもりだった。
「……行きます」
そう思っていると、意外にも普通の外見をした女性がそう答えた。
「いくら不遇な状況で憔悴してしまっていたとはいえ、先程の根拠の無い暴言をお許しください」
「あんた……」
強気な女性は面を食らった顔をして彼女を見る。
その人は大人しそうな外見だったため、強気なこの女性が全て決めるのだと思ってたから、俺も少し驚いてしまった。
「許す許さないなんてどうでもいい、行くならさっさと行くぞ。他の奴らまで戻って来たら、もう手に負えなくなる」
そう言いながら俺は、ララ用に蔵で取っておいた女物の服を人数分適当に取り出して差し出した。、
「……ねぇ、それって僕も行っていいのかにゃ?」
ようやく説得が終わったかと思えば、次はレチアがそんなことを言い出した。
「そんなの、言わなくてもわかるだろ」
言葉足らずに言うと、レチアはあからさまに耳を垂らして肩を落とし、落ち込んだ様子になってしまう。え、なんで?
もう一言付け加えないとダメか……
「早く行くぞ」
数秒で考えた一言。
しかしその一言でレチアは耳をピンッと立たせ、目を光らせた。
さっさとここから離れたい一心で歩き始めると、後ろから元気の良い返事が聞こえてきた。
「……うん!」
逃げる際に後ろから「待て、逃げるな!俺を助けろっ!」と必死に訴えかけてくる声が聞こえたりしたが、当然無視。
その悪党の住処から脱出する時、警備などが全くいない状態だったので俺たちは簡単に抜け出せた。
遠目に火の煙が立ち上がっているのが見えたから、まだそっちにかかりっきりだったのだろう。
「はぁ~……」
その場所からだいぶ離れたいところで、大きく一息吐く。
とりあえずは全員無事に脱出できたことにホッとする。
顔を上げて見渡すと、救出した女性たちが泣きながらお互い抱き締め合って喜びを分かち合ってた。
「ありがとうにゃ、ヤタ。おみゃーのおかげで、あいつらから逃げ出すことができたにゃ」
俺の横に立ち、そう言ってくれるレチア。
「そりゃどうも」
「……なんで僕があそこにいたか、聞かないにゃ?あとこの耳とか尻尾のことも……」
彼女には色々聞きたいこともあったけれど、やっとあの場所から命からがら逃げて来れたんだ、もう少し感傷に浸っててもいいだろう。
「もう疲れたから聞く余力がない。話したいなら勝手に話してくれ」
実際、精神的な疲労があったので、俺は近くの木を背もたれにして胡座で座り込んだ。
そして黒猫がやってきて、その胡座に体を丸くして寝てしまった。
こいつも疲れたのか?
猫の頭を優しく撫でてやると、気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らす。
その俺の隣でドサッと音が聞こえ、見るとレチアが肩を並べて座っていた。
「じゃあ、懺悔するから聞いてくれにゃ」
「ここは教会じゃないぞ。俺に言ったらそれはただの愚痴だ」
「僕たち家族は観光中、あの悪党共に捕まったにゃ」
「無視かよ」
俺のツッコミを無視して語り始めるレチア。
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