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1章

10話目 後編 腐死

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「それじゃあ、暗くなる前に帰った方がいいですね。依頼も済んだことですし、帰りましょうか」
「わかった。それじゃあシルフィ、警戒を頼む」
「わかりました」

 シルフィが了承すると、さっきのウィーシャのように呪文を唱える。

 「《主よ、我らを害する敵を示せ――サーチ》!」

 それが唱えられると、不思議な感覚が体を包む。
 これはさっきもゴブリンを探している時に感じたもので、人や魔物の位置を特定できる奇跡らしい。
 その範囲は使った者から半径約一キロくらいなのだとか。
 ウィーシャは奇跡には回数が限られていると言ったがそれは内容によって違い、サーチは何度でもできるようだ。
 「何度でも」というところで一見デメリットは無いように見えるが、強いて悪い部分を上げるなら研究所にいたリビングデッドなど生命を持たないもの相手には反応しないらしい。
 そしてシルフィはサーチを使った後は決まって俺をチラチラ見てくる。なんなんだろうか……

「ここら辺一帯には私たち以外いないようです」
「そうか、じゃあ帰るか。途中途中でまた頼む」

 シルフィが確認するとべラルさんがそう言う。
 帰路はシルフィとべラルさんが前、俺たち三人は後ろについて行くことにした。
 ただ気になるのが、べラルさんたちが二人が会話している時の視線が時たまこっちに向けられる。
 魔物を警戒しているのかと思ったが、どっちかと言うと俺たちを警戒しているように見えた。
 いや……俺を、か?
 するとしばらくしてべラルさんとシルフィが立ちどまる。

「……魔物、ですか?」

 二人の雰囲気が重いものに変わったのを感じ、思わず固唾を飲んで緊張してしまう。なぜだか嫌な予感が止まらない……

「ああ、多分な……」

 べラルさんが俺の目を見て言う。シルフィも強ばった顔で俺を見ている。
 なんでだ……なんで俺の顔を見るんだよ!?
 そして俺の疑問に答えるようにべラルが剣を抜き、俺に向けてきた。

「お前……本当にヤタという人間か?」
「……は?」

 唐突で突拍子も無い質問に、俺は思わず眉をひそめた。
 何、我慢できなくてとうとう真正面から罵倒しないと気が済まなくなったの?
 しかしべラルさんの表情からは冗談を言うような雰囲気はなく、本気で言っているように見えた。
 辺りが段々暗くなり、いつの間にか空を雲が覆っていた。

「あ……当たり前だろ!俺は人間だ!何言ってるんだ、急に……!?」

 さっきまで使っていた敬語も忘れ、強めの口調で問い正そうとする。
 なんで俺がそんなことを言われなくちゃならないんだ!?
 イジメもここまでくると冗談じゃ済まされないぞ……!
 するとシルフィが思い詰めた表情で説明を始める。

「さっき使ったサーチの内容は話しましたよね……?」
「あ……ああ、自分から周囲一キロにいる生物を探知できるっていうやつだろ?それが一体……」

 俺がそこまで言うと、シルフィは俺を指差した。

「私が近く感じたのは三つ。べラルさん、ララさん、そしてイクナさんの三人だけ……それはつまり――」

 シルフィの言葉に頭が真っ白になりそうだった。
 その先は言われずとも予想ができる。
 嫌だ……やめろ、それを……その先を言わないでくれ……!?

「――あなたは死んでいる、ということになります」

 シルフィがその言葉を放つと同時に雷が鳴る音がし、雨がポツポツと降り始めてくる。
 次第に雨が本格的に降ってきたが、その音も聞こえないくらいに俺は混乱してしまっていた。
 俺が……死んでる、だって……?

「……何の冗談だ?」
「冗談でも嘘でもありません。私もあまり信じられませんけど、何度サーチを使ってもあなたの気配が感じられないんです。それ死んでる、もしくは生きていない『何か』ということを指し示します」

 怪訝な表情をしたシルフィも武器である杖を俺に向けてくる。
 状況がいまいち掴めていないララは困惑して俺とシルフィたちを交互に見て、イクナは敵意を向けてきているべラルさんたちに唸って威嚇していた。

「お前らも離れろ。俺たちはそいつを倒さなきゃならない。もしも敵対するってんなら……」

 そう言って目を細めるべラルさん……べラルさんは俺を庇うならララたちも諸共殺す、と言っているのだろう。
 ……いや、もう敬称を付ける必要は無いな。

「あいつの言う通りだ。イクナを連れてべラルたちの方に行け、ララ」
 「……っ!」

 俺がそう言い放つとララは責めるような視線で俺を睨むが、すぐに弱気な表情になって俯く。
 ここで反抗したところで意味が無いことを理解したのだろう。
 ララはゆっくりとべラルたちの方へ歩き出した。

「懸命な判断だ。そっちのは来ない――」

 そう言ってべラルが視線を向けるのはイクナ。
 言葉がわかっていないだろう彼女は四つん這いで威嚇し続ける。

「グルルルルルルッ……!」
「――みたいだな。ウルクさんの言う通り、本当に懐いているようで残念だ……」

 べラルは諦めたような言い方をして抜いた剣を構える。
 来る……!
 ――ズブッ。

「……あ?」

 不思議な感覚だった。
 離れていたべラルの姿が一瞬で目の前まで詰め寄られ、胸に違和感を感じる。
 視線を下にズラすと、べラルが俺の胸に剣を突き刺していた。

「あ……あぁっ……!?」

 そして次の瞬間、俺の視界は空を映していた。
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