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互いの因縁
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見知らぬ少女の名はシルフラといい、猫族の獣人だと名乗った。
そんな彼女が名乗ってる間にもゲームの世界からヴェルネたちが突然現れるように戻り、全員が揃ってから事情を聞くことにした。
「他種族との縄張り争い?」
「そう」
「「…………」」
シルフラはただその一言だけ返してそれ以上何か言う気がないようだった。
俺たちが頭を傾げていると、それを見かねたジークが咳払いをして自らが説明をしようとしてくれる。
「シルフラ様は少々口数が少ないようなので私めが補正を……そもそも獣人の種族は家を作っても私たちのような町を作らず、代わりに『縄張り』という形で領地を広げるのですが、もしその先に他種族の縄張りがあったりした場合に部族同士の争いに発展します。つまり『よくあること』とも言えるのですが……」
そこまで説明したジークはそんな当たり前とも言える出来事に他種族を巻き込もうとしている彼女に「なぜ?」という疑問を含んだ視線を向ける。
しかしシルフラはそんなわかりやすい視線にも気付かずに出された水をチビチビ飲んでいた。
「それで、なんで俺の助けが必要なんだ?ジークから聞く限り、俺みたいな部外者に助けを求めるようなことじゃないんじゃないのか?」
そう聞くとシルフラはジト目を俺に向け、飲んでいた水を机に置いて一息入れる。
「本当ならその通り。でも今回はあまりにも理不尽過ぎた。だからみんなと話し合ってあなたに助けを求めることにしたの。強いんでしょ、あなた?」
どういう経緯で俺の助けが必要になったのかはまだ説明されてないのだが、この少女……猫族全員が俺の助けが必要なのだと判断したってことなのか……?
恐らくそれほどの事態が起きてるということなのだろうが……
「なんだろう……もはやただの便利屋みたいな認識になってない、俺?」
「しょうがないわよ。実際下手にギルドに依頼するよりも大体何でも引き受ける上に確実性があるんだから便利屋みたいなもんでしょ、あんた」
まるで今までの俺の行動が否定されるような発言をするヴェルネ。「正直者はバカを見る」ってわけじゃないが、まさか人助けをして少しでも後悔する日が来るとは思わなかったよ……いや、だからってできることをしないで見捨てる選択肢なんてないんだけどさ。
「……ある意味これも自業自得か。ま、いいんだけど……ただもうちょっと詳しい事情を説明してくれるか?それで手伝うかどうか決めるから」
「ん、善処してくれると助かる」
そう言ってあまり変わらないシルフラの表情に少しだけ悲しさが見えた。そこに廊下を小走りで誰かが近付いてくる。
「……普段から争うことが多い獣人の中でも私たち猫族とよく敵対してる部族がいるの。それが――」
「アニキ帰ってきたんですか?だったらあの庭に置いてある物の説明してほしいです……って、あれ?お客さんがいたんですか……」
シルフラの言葉を遮り部屋の入口から顔を出したのはジルだった。
すると互いの姿を見たシルフラとジルの雰囲気が剣呑なものへと変わる。しかもシルフラに至っては殺意を向けていた。
言葉を交わさず行動を始めたのはシルフラ。俺は嫌な予感がしたので、立ち上がってジルの方へ向かおうとするシルフラをその場で即時取り押さえた。
「ぐっ……!なぜ……?」
「むしろ俺の方が聞きたいくらいだ。人んちに押しかけてやることが殺気を纏って住人を襲うことだったのか?ジル、お前もだ。落ち着け」
攻撃をしてきたシルフラと同じように殺気が溢れ、まさにやる気満々になっていたジルにそう言い聞かせる。普段ルルアとはよく険悪だったりして仲が悪い感じはあったりするが、それとは別に本気で嫌っているみたいだ。
「猫族と敵対してる部族、それが魔狼族。私たちの敵……!」
「……アニキ、どうするんですかソイツ?いくらアニキの言うことでもその猫族を助けるのは……嫌です」
温厚な喋り方のままだが、その敵意はシルフラに向けたままのジル。なんだか話がややこしくなってきたな……
「まぁ……仲が酷く悪いのはよくわかった。でもジルは俺の仲間なんだ、それが気に入らないなら帰ってくれ」
「…………」
シルフラからの敵意が薄れる。
「お前ら獣人の……部族同士に因縁があろうとなかろうと俺には関係ない。もちろんジルにもだ。猫族と魔狼族の間に何があろうと、それを俺たちの中に持ち込もうとするな。俺が依頼として受けるのはあくまで『想定外の対処できないこと』だけ。それを履き違えるなよ」
そう言ってやるとシルフラの敵意は完全に消え、代わりに意気消沈した様子になってしまう。
出会ったばかりの彼女には少し冷たい言い方かもしれないけれど、こっちからしても「猫族だから」とか「魔狼族だから」なんていう個人とは関係ないわけだし。
一応シルフラにだけ言った言葉だが、ジルにも効いたらしく少し落ち込んだようで肩を落としていた。
「……そういや獣魔会議で白狼族ってのと会ったけど、そっちは関係ないのか?」
「いえ、魔狼族っていうのは全ての狼族をまとめて言ってるだけで……他にも赤(せき)狼族や青(せい)狼族、黄(こう)狼族に黒狼族みたいに細かく分かれてるんです。ちなみに俺も白狼族です」
少しややこしいが、つまりいくつか分かれてる狼系統の部族の総称が「魔狼族」ってわけか。
「それで、その上でお前はどうする?」
「……うん、少し頭が冷えた。よく考えたらこの問題はその人にも関係がある話だから」
「俺にも関係がある……?」
殺意や敵意はなくなったが警戒心を互いに持ったままシルフラたちは話を進める。
「魔狼族が猫族に向けて『全面戦争の宣戦布告』をした。その内容はそのまま、猫族を根絶すること」
物騒な内容を告げるシルフラだったが、それに対してジルが理解できないように首を傾げて反応を示していた。
「なんで?」
そんな彼女が名乗ってる間にもゲームの世界からヴェルネたちが突然現れるように戻り、全員が揃ってから事情を聞くことにした。
「他種族との縄張り争い?」
「そう」
「「…………」」
シルフラはただその一言だけ返してそれ以上何か言う気がないようだった。
俺たちが頭を傾げていると、それを見かねたジークが咳払いをして自らが説明をしようとしてくれる。
「シルフラ様は少々口数が少ないようなので私めが補正を……そもそも獣人の種族は家を作っても私たちのような町を作らず、代わりに『縄張り』という形で領地を広げるのですが、もしその先に他種族の縄張りがあったりした場合に部族同士の争いに発展します。つまり『よくあること』とも言えるのですが……」
そこまで説明したジークはそんな当たり前とも言える出来事に他種族を巻き込もうとしている彼女に「なぜ?」という疑問を含んだ視線を向ける。
しかしシルフラはそんなわかりやすい視線にも気付かずに出された水をチビチビ飲んでいた。
「それで、なんで俺の助けが必要なんだ?ジークから聞く限り、俺みたいな部外者に助けを求めるようなことじゃないんじゃないのか?」
そう聞くとシルフラはジト目を俺に向け、飲んでいた水を机に置いて一息入れる。
「本当ならその通り。でも今回はあまりにも理不尽過ぎた。だからみんなと話し合ってあなたに助けを求めることにしたの。強いんでしょ、あなた?」
どういう経緯で俺の助けが必要になったのかはまだ説明されてないのだが、この少女……猫族全員が俺の助けが必要なのだと判断したってことなのか……?
恐らくそれほどの事態が起きてるということなのだろうが……
「なんだろう……もはやただの便利屋みたいな認識になってない、俺?」
「しょうがないわよ。実際下手にギルドに依頼するよりも大体何でも引き受ける上に確実性があるんだから便利屋みたいなもんでしょ、あんた」
まるで今までの俺の行動が否定されるような発言をするヴェルネ。「正直者はバカを見る」ってわけじゃないが、まさか人助けをして少しでも後悔する日が来るとは思わなかったよ……いや、だからってできることをしないで見捨てる選択肢なんてないんだけどさ。
「……ある意味これも自業自得か。ま、いいんだけど……ただもうちょっと詳しい事情を説明してくれるか?それで手伝うかどうか決めるから」
「ん、善処してくれると助かる」
そう言ってあまり変わらないシルフラの表情に少しだけ悲しさが見えた。そこに廊下を小走りで誰かが近付いてくる。
「……普段から争うことが多い獣人の中でも私たち猫族とよく敵対してる部族がいるの。それが――」
「アニキ帰ってきたんですか?だったらあの庭に置いてある物の説明してほしいです……って、あれ?お客さんがいたんですか……」
シルフラの言葉を遮り部屋の入口から顔を出したのはジルだった。
すると互いの姿を見たシルフラとジルの雰囲気が剣呑なものへと変わる。しかもシルフラに至っては殺意を向けていた。
言葉を交わさず行動を始めたのはシルフラ。俺は嫌な予感がしたので、立ち上がってジルの方へ向かおうとするシルフラをその場で即時取り押さえた。
「ぐっ……!なぜ……?」
「むしろ俺の方が聞きたいくらいだ。人んちに押しかけてやることが殺気を纏って住人を襲うことだったのか?ジル、お前もだ。落ち着け」
攻撃をしてきたシルフラと同じように殺気が溢れ、まさにやる気満々になっていたジルにそう言い聞かせる。普段ルルアとはよく険悪だったりして仲が悪い感じはあったりするが、それとは別に本気で嫌っているみたいだ。
「猫族と敵対してる部族、それが魔狼族。私たちの敵……!」
「……アニキ、どうするんですかソイツ?いくらアニキの言うことでもその猫族を助けるのは……嫌です」
温厚な喋り方のままだが、その敵意はシルフラに向けたままのジル。なんだか話がややこしくなってきたな……
「まぁ……仲が酷く悪いのはよくわかった。でもジルは俺の仲間なんだ、それが気に入らないなら帰ってくれ」
「…………」
シルフラからの敵意が薄れる。
「お前ら獣人の……部族同士に因縁があろうとなかろうと俺には関係ない。もちろんジルにもだ。猫族と魔狼族の間に何があろうと、それを俺たちの中に持ち込もうとするな。俺が依頼として受けるのはあくまで『想定外の対処できないこと』だけ。それを履き違えるなよ」
そう言ってやるとシルフラの敵意は完全に消え、代わりに意気消沈した様子になってしまう。
出会ったばかりの彼女には少し冷たい言い方かもしれないけれど、こっちからしても「猫族だから」とか「魔狼族だから」なんていう個人とは関係ないわけだし。
一応シルフラにだけ言った言葉だが、ジルにも効いたらしく少し落ち込んだようで肩を落としていた。
「……そういや獣魔会議で白狼族ってのと会ったけど、そっちは関係ないのか?」
「いえ、魔狼族っていうのは全ての狼族をまとめて言ってるだけで……他にも赤(せき)狼族や青(せい)狼族、黄(こう)狼族に黒狼族みたいに細かく分かれてるんです。ちなみに俺も白狼族です」
少しややこしいが、つまりいくつか分かれてる狼系統の部族の総称が「魔狼族」ってわけか。
「それで、その上でお前はどうする?」
「……うん、少し頭が冷えた。よく考えたらこの問題はその人にも関係がある話だから」
「俺にも関係がある……?」
殺意や敵意はなくなったが警戒心を互いに持ったままシルフラたちは話を進める。
「魔狼族が猫族に向けて『全面戦争の宣戦布告』をした。その内容はそのまま、猫族を根絶すること」
物騒な内容を告げるシルフラだったが、それに対してジルが理解できないように首を傾げて反応を示していた。
「なんで?」
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