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「あれ、アニキ?」

 カズたちがゲームをしている頃、ジルがカズを探してジークとフウリがいる居間を覗く。

「おや、ジル君。カズ君なら今お取込み中だヨ」

「ってことは今はいないってことですか?」

「うーん……いるけどいない?」

 フウリの要領を得ない返答にジルが眉間にシワを寄せて首を傾げた。

「わかるヨ、心を読まなくても君の気持ちガ。でも彼らはまた説明が難しいことをしててネ……ま、どちらにしてもここにはいないから用があるなら待ってなきゃいけないと思うから気長に待ってなヨ」

「そうですか……」

「カズ様に何か聞きたいことでも?」

 ジークがそう聞くとジルが頷く。

「鍛錬する時に使ってる庭でみたことがない道具が増えてたので何なのか聞こうと」

「「見たことがない道具?」」

 心当たりがない二人はそう聞き返し、彼らが普段鍛錬する庭へ移動する。
 そこにはたしかに何かをするための器具が並べられていた。

「本当ですね。見たことがない道具……魔道具ではないようですが、カズ様がここに置いたということは鍛錬道具では?」

「俺もそれを考えたんですけど使い方がわからなくて……」

「だからカズ君を探してたト。でも適当に触ればわかるんじゃないカ?」

 フウリがそう言って複数ある内の一つを観察し始める。木製の丸い柱にさらに丸い棒が複数側面に生えており、上中下に分かれてそれぞれが回転する仕様になっていた。

「回る仕組みになってるけどどういう使い方をするのカ……」

「下手に触れば怪我をしそうですな。こっちは……なんでしょう、取ってらしきものがあるので直接乗るのでしょうか?」

 ジークが気になったのはランニングマシンのような形状をしたものだった。実際は機械ではなくこちらもほとんどが木製の作りをしており、中央の乗る部分はゴムらしき材質が巻かれている。

「他にも色々……よく見るとこれらのほとんど木でできてる?」

「木製……まさかこれ全て手作りなのでしょうか?」

「ここまで精巧なものガ?それは流石に――」

 否定しようとしたフウリだったが、彼女たちから離れた場所に丸太が積まれていたのを見て唖然としたままその言葉を飲み込んだ。

「……うんまぁ、彼がある程度何してももう驚かないんだけどサ」

「なんだ、また変なのが増えてるな」

 するとそこにユースティックとミミィが合流した。

「おや、お二方。残念ですがカズ様はただいまお留守ですよ」

「そうなんですか?あの人っていつでも忙しそうにしてますね」

「今回は忙しいっていうより子供の我が儘に付き合ってあげてるだけなんだけどネ。不思議な体験をしてると言うならそうなのかもしれないケド」

 このメンバーで唯一カズたちの行方を知っているフウリがそう言って返す。

「でももしそうならどうしようか……ジル、手合わせでもするか?」

「そうしましょう!」

「なら私はヴェルネ様に魔法を教えてもらいに……」

「残念、彼女もカズ君に同行していていないヨ」

 ヴェルネもいないことを知ったミミィは残念そうに肩を落とす。

「あ、そうだ。ここの門の近くで中の様子を窺ってる変な奴がいたんだけど、知り合いか?」

「変な奴、と申しますと?」

「全身を黒いマントとフードで隠しててそれ以外の特徴はわからなくてただただ怪しい奴だったけど」

 ユースティックから怪しい者の情報を聞いたジークは二種類の人物を思い浮かべた。同業者である「裏ギルド」
の関係者か、一度屋敷を襲撃してきた吸血鬼かのどちらかであると。

「では私は少々お客様をお迎えに行ってきます」

 どちらにせよ敵である可能性が高いと感じたジークはそう言ってその場を離れる。

「……おぉ、怖い怖い」

「何が?」

 ジークから漏れる僅かな殺気を感じたユースティックは彼が立ち去る理由を何となく察し、見て見ぬフリをした。

――――
―――
――


「…………」

 ヴェルネの敷地に入る門から少し離れた場所の冊の前で立ち止まり、静かに中の様子を窺う者がいた。
 ユースティックが言った通り全身を隠すローブを着ており、身長はマヤルより少し低いくらい。
 しかし怪しい風貌ではありつつもただ立ち呆けているようにも見える様子だった。
 そこにジークとマヤルが近寄る。

「ヴェルネ様のお屋敷に何かご用でしょうか?」

 警戒と殺意を纏い、そして表面だけを取り繕うように微笑みを浮かべて質問をするジーク。
 マヤルもまた屈託のない笑みを浮かべはしているが、後ろに回している手にはまるで「あやとり」でもしているかのように密かに糸で遊んでいた。

「……ゴメン。確信がなかったから探ってた」

 覇気のない少女らしき声がそのフードの中から発せられる。
 そしてそんな彼女から一切の敵意を感じない二人は自分たちが先走っていたことに恥ずかしさを覚えて咳払いをしたり赤らめた顔を背けたりと誤魔化す。
 すると彼女は被っていたフードを取るとピョコンと獣耳が出現し、ジークたちが目を丸くして驚いた表情になる。

「……猫族の方でしたか」

「どもども。アレフラだよ」

 黒髪ショートをした半目の少女が片手を挙げてフレンドリーな軽い挨拶をして名乗る。
 そんな彼女にマヤルは呆気に取られつつも同じように「どもども」と言って返し、ジークはすぐにいつも通りの冷静さを取り戻して頭を深々と下げた。

「アレフラさんは先程『確証がなかった』とおっしゃりましたが、何を探していたのでしょうか?」

「ここに住んでる人間がいるって本当?」

 ただの興味本位で聞いているわけではなさそうな雰囲気にジークとマヤルが顔を合わせる。

(ど、どうします?正体がこんな可愛い女の子だってわかりましたけど、正直に言っていいものなんですか……?)

「えぇ、本当ですよ。獣魔会議にも出席した彼は私たちと共に過ごしております」

「言っちゃったよ」

 素直に告げ口したジークにマヤルが肩を落とす。

「なら、その人間に助けを乞いたい」

「ふむ……たしか彼は獣魔会議にて連絡用の魔道具を借り、ギルド経由で災害以上の魔物の討伐を依頼することができるはずですが?」

(うわぁ、全部わかってて言うの意地が悪いなぁ、ジークさん……)

 理由を聞くのにそこまで言うかと少し引いた様子のマヤル。

「うん、だから直接会いに来た。魔物の討伐とかじゃないから」

「それはつまり……依頼ではなくただのお願いだと?」

 ジークの問いにアレフラが頷く。そして幼く可憐な少女の口から出たのは意外な一言だった。

「戦争」
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